Archive for category prototype

Date: 9月 5th, 2016
Cate: prototype

prototype(NS1000X・その3)

1984年に登場したNS1000xの末尾のx(小文字)は、
NS1000Xの登場から10年目ということで、ローマ数字で10をあらわすxがついている。

ならば1974年のプロトタイプであるNS1000XのX(大文字)は、何を意味していたのか。

NS1000XからはNS1000Mだけが生れたわけではない。NS1000も登場している。

NS1000は、NS1000Mとは違い、ウーファー前面に金属ネットはない。
かわりにサランネットがついてくる。

NS1000MではNS1000XにはなかったYAMAHAの文字がフロントバッフルに大きくある。
トゥイーターのほぼ真横にある。
NS1000には、スピーカー本体にはYAMAHAの文字はない。
サランネット下中央に、ヤマハのマークとともに小さくあるだけだ。

NS1000XとNS1000はその点で似ているし、
レベルコントロールの位置もほぼ同じといえる(完全に同じではない)。
NS1000Mはロゴがあるため、レベルコントロールはふたつともスコーカーの真横にある。

NS1000Xの外形寸法はW37.5×H67.5×D32.4cm。
NS1000MはW37.5×H67.5×D32.6cmとほぼ同じである。
奥行きのみわずかに違うのは、NS1000Mのウーファーの金属ネットがあるためだろう。
つまりNS1000XとNS1000Mのエンクロージュアの寸法は同じである。

NS1000はW39.5×H71.0×D34.9cmとわずかに大きくなっている。
NS1000は仕上げにこだわったスピーカーでもある。
NS1000XとNS1000Mの黒塗装に対し、黒檀オイルフィニッシュとカタログには書いてある。

それだけでなくサランネットの固定方法も一工夫なされている。

Date: 9月 1st, 2016
Cate: prototype

prototype(NS1000X・その2)

ヤマハのNS1000Mを略して、センモニ、センエムと呼ぶ。
センモニは、1000 Monitorを略したものだ。

このことからわかるようにNS1000Mの正式型番は、NS-1000 MONITORである。
NS1000Mも、ようするに略称である。

NS1000Mはスウェーデンの国営放送局の正式モニターとして採用されたことが、話題になっていた。
ヤマハの広告でも、そのことは大々的に謳われていた。

おそらく型番に”MONITOR”とついていなくとも、
スウェーデンの国営放送局はモニターとして採用したであろう。

けれど日本ではどうだったろうか。
MONITORの名を冠し、サランネットもなくし、ウーファーには保護用の金属ネットといういでたち。
オーディオが男の趣味であることを、強く意識させるNS1000Mの面構えだった。
だからこそベストセラーであり、ロングセラーモデルであったといえよう。

音だけではあそこまで売れただろうか。
ということはNS1000XからNS1000Mへの変身には、
デザインの力があったからこそ、といえるし、
そう捉えていくと、1000Mの「M」が、monitorの頭文字ではなく、
metamorphosis(変身)の「M」のようにも思えてくる。

NS1000Xが載ったステレオサウンド 32号は1974年に出ている。
その10年後の1984年、ヤマハはNS1000xを発表している。

型番はまったく同じではなく、型番末尾が大文字ではなく小文字の「x」に変更されている。
NS1000Mの、いわば後継機といえる。
ウーファーの振動板が紙からカーボンに変更されているものの、
ユニット構成はNS1000Mに近い(ただしインライン配置になっている)。

けれどMONITORとは謳っていない。
ウーファーには金属ネットはもうない。
サランネットもついてくる。

Date: 8月 30th, 2016
Cate: prototype

prototype(NS1000X・その1)

別項「耳はふたつある」で引用するために、
ステレオサウンド 32号をひっぱり出している。
32号の特集はチューナー。あまり売れなかったときいている。

チューナーにあまり関心のない人にとって、
32号はそれほどおもしろい号ではないだろうが、その他ではなかなか興味深いところがある。
それは記事だけでなく、広告においてもだ。

ヤマハの広告。
そこに「自在に、理想の形」というキャッチコピーとともに、
NS-1000Xという型番のスピーカーシステムがある。

誰の目にも明らかなようにNS1000Mである。
けれど型番末尾のMではなくXとなっている違い同様、外観にも違いがある。

サランネットはNS1000Xにも装着できないようになっている。
ウーファーの前面に保護用の金属ネットは、NS1000Xにはない。
エンクロージュアも、色は黒だが仕上げが違うように見える。
YAMAHAのロゴも、ない。

これだけの違いなのに、
NS1000MとNS1000Xの印象は、ずいぶんと違う感じとなっている。

NS1000MとNS1000X、
仮にまったく同じ音がしたとしても(実際にはそんなことはありえないのだが)、
NS1000Xのままでは、ベストセラーになっただろうか、と思ってしまう。

NS1000Mのウーファーのネットが、音に影響を与えているのは確認済み。
それでもモノとしての魅力があるのは、NS1000Mの方である。

1000Xから1000Mへの変身は、どういう経緯で行われたのだろうか。

Date: 8月 23rd, 2016
Cate: prototype

prototype(L400とDitton 99)

L400とはJBLのコンシューマー用スピーカーの型番。
Ditoon 99は型番からわかるようにセレッションのスピーカーのことである。

L400? Ditton 99?
そんなスピーカー、あったっけ? となるのが当然である。
どちらもプロトタイプ留りで、市販されることはなかった。

L400については、ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界」’77年で、
岩崎先生が、その存在について語られている。
型番からわかるように、4343をベースにしたコンシューマー板である。
つまり4ウェイのシステムである。

L400については、当時の輸入元だった山水電気の西川さんに訊いたことがある。
プロトタイプは確かにできあがっていた、とのことである。

Ditton 99については「コンポーネントステレオの世界」’78年の巻末、
「新西洋音響事情」でセレッションの社長アルドリッジが語っている。

1978年春に登場予定だったDitton 99は、
38cm口径ウーファーに、20cm口径ミッドバス、上二つのユニットはドーム型が受け持つ、
これも4ウェイのシステムである。

アルドリッジは「我々もこのモデルには大きな期待を寄せています」と語っていた。

Ditton 66は30cm口径のウーファーに同口径のABR(パッシヴラジエーター)付きの3ウェイだった。
Ditton 99はウーファーがひとまわり大きくなる。
ABRは使われないのか、それとも付きなのか。
ABR付きだとしたら、Ditton 66よりも背の高いプロポーションになる。

けれど1978年春になっても出なかった。
代りに出たのはDitton 66の改良版といえるDitton 662だった。

ただDitton 662も、Ditton 66の改良版だったのか、と疑問に思うところもある。
セレッションはDitoon 662のあとに、SL6を1982年に出す。
SL6が話題になり、その陰にかくれるように1983年にひっそりと、
Ditoon 66 SeriesIIが登場しているからだ。Ditton 662 SeriesIIではなく、66に戻っている。

売れないと判断があって、L400もDitton 99も登場しなかったのだろう。
そうだとしたら、なぜ売れないと判断したのだろうか。
もしくは他に理由があったのだろうか。

私はどちらも聴いてみたかった。
特にDitton 99は、聴きたかった。
Ditton 66のことを考えていたら、Ditton99のことを思い出してしまった。

Date: 3月 2nd, 2015
Cate: prototype

prototype(その8)

テクニクスのリニアフォースドライブスピーカーも、ビクターと同じように専用アンプ込みの技術である。

テクニクスは、スピーカーの歪の発生メカニズムを、Bl歪と電流歪の二つにわけられることとして、
この二つの歪の発生原因を専用アンプによる電子制御で除去しようとするものである。

Bl歪とは、ボイスコイルがギャップから離れたり、
ボイスコイル電流がギャップの磁束密度を変調させたりすることに起因する歪とある。

電流歪はボイスコイルが、ヒステリシスをもつ材質、
つまりポールピースや磁気プレートに囲まれているために発生する、
ボイスコイルのインピーダンスの非直線歪とある。

テクニクスの、この二つの歪解消のため、プッシュプル磁気回路を採用。
マグネットの両側にプレートがあり、ボイスコイルは二組ある。
そしてプレート間には制御コイルがあり、
ボイスコイルの両端にある磁気検出コイルからの信号により、
制御コイルに対して専用アンプが磁束フィードバックをかけている。

電流歪に対しては定電流駆動アンプを用いている。
磁束フィードバック用のアンプも定電流アンプである。

テクニクスもビクターも、理想といえるスピーカーシステムの開発には、
スピーカーだけでの技術ではなく、専用アンプ込みの技術をとっている共通点がある。
しかも汎用性の高い定電圧駆動のアンプではなく、定電流アンプを採用していることに注目したい。

Date: 2月 28th, 2015
Cate: prototype

prototype(その7)

ダイヤトーンの水冷式のパワーアンプの次に思い出すのは、
ビクターのスタンダードスピーカーシステムである。

このスピーカーシステムは、ステレオサウンド 50号、
岡先生による「オーディオ一世紀 昨日・今日・明日」で取り上げられている。

エンクロージュアの回折効果の影響をなくすために、卵形をしている。
ユニットはコーン型の円錐状の部分を発泡樹脂で充填した平面型の3ウェイ構成。
ウーファーは21cm、スコーカーは5.7cm、トゥイーターは2.6cm口径。

同じ構造の平面型スピーカーはKEFが1960年代に採用しており、
Lo-DもHA10000で同じ構造のユニットを全面的に採用している。

HS10000は平面バッフルに装着しての使用を前提としているのに対し、
ビクターのプロトタイプは、卵形のエンクロージュアが示すように4π空間での設置前提という違いがある。

それからHS10000はスーカーシステム単体として市販されたが、
ビクターのプロトタイプは専用アンプ内蔵の、いわゆるアクティヴスピーカーである。

3ウェイのマルチアンプ構成で、すべてのアンプは定電流駆動、さらにウーファーに関してはMFBもかけられている。
クロスオーバー周波数は550Hz、2kHzで、
デヴァイディングネットワークの前段でディフラクション補正を行っている。

ビクターの発表資料によると卵形エンクロージュアのディフラクションのグラフをみると、
500Hzあたりからなだらかに低域にかけて減衰していく。
この減衰カーヴと反対の特性の補正をかけることで、システム全体の周波数特性をフラットにしている。

ビクターのプロトタイプが登場したころ、
フィリップスは小型スピーカーにMFBをかけたシリーズを製品化していたし、
テクニクスはリニアフォースドライブスピーカーという技術を発表していた。

Date: 10月 27th, 2014
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prototype(8Kを観て)

オーディオ・ホームシアター展でのNKHの8Kは、プロトタイプといえよう。
NHKのブースに運び込まれていた器材はかなりの数だった。

考えてみれば音声でも22.2チャンネルなのだから、
スピーカーシステムは22本プラスサブウーファーが2本、
それを駆動するパワーアンプも同じ数だけ必要になるし、
それ以外にも信号処理のために必要な器材もあったのだろう。

どの器材が、どういう働きだったのかは、見ただけではほとんどわからなかった。
とにかくすごい数の器材が置いてあり、ほとんどすべてが動いていたように感じていた。

器材の数、消費電力の多さ、発熱量の多さ、その他、家庭におさまるようにするためには、
クリアーしなければならないことが数多くあるはずだ。
それらは2020年の東京オリンピックまでにはクリアーされるはずだ。

とにかく、現時点でやれることをやってみた。まさしくプロトタイプだと思う。
こういうプロトタイプが、オーディオ関連のショウで展示されることが久しくなかった。

プロトタイプのみが味わわせてくれる昂奮が、8Kにはあった。

Date: 11月 26th, 2013
Cate: prototype

prototype(その6)

ヒートパイプが登場したころは、まだまだアンプの開発において電気的なことが優先されていた。
筐体構造については、まだまだこれからという時期だったともいえる。

ヒートパイプは音があまり芳しくない、ということで、使われなくなっていった。
けれどメリットも大きい。
それで一度井上先生に訊ねたことがある。

ヒートパイプの薄っぺらなヒートシンク部分を、
厚みのある金属板に置き換えたものをあるメーカーが試作したか、
もしくはヒートパイプ製造メーカーに特注で作らせたか、
とにかく市販品のヒートパイプとは比較にならない立派な作りのモノを搭載したところ、
明らかに市販品のヒートパイプでは得られなかった音が出てきたし、
従来のヒートシンクよりも、いい結果が得られた、とのことだった。

ただしその特注のヒートパイプはコスト的に採算ベースにのらず、
搭載は見送られて、そのメーカーも通常のヒートシンクをふたたび使うようになった。

これでヒートパイプの問題がすべて解決したわけではなく、
実はもうひとつヒートパイプには、オーディオ用として使うにも問題があった。

ヒートパイプの銅パイプの中には液体が入っていた。
たしかオイルだったはずだ。
この液体が長時間アンプを使い、パイプの温度が高くなりすぎると、
パイプの中から音がしてくる、ということだった。
これも銅パイプを肉厚をかなり増していけば解消できるように思うのだが、
これもコストが増していくだけである。

ヒートパイプは液体を使っているけれど、熱を放出するヒートシンクを水冷しているわけではない。
あくまでも空冷式ということになる。

あるメーカーの特注ヒートパイプも、プロトタイプのひとつといえなくもないだろう。

Date: 11月 26th, 2013
Cate: prototype

prototype(その5)

ダイヤトーンの水冷式のプロトタイプの展示から、
一、二年後だったか、ヒートパイプを採用したアンプが、国内メーカー数社から登場した。

ヒートパイプとは熱伝導率の高い銅パイプの片側にヒートシンク、
その反対側に出力トランジスターを取り付けられるようになっていた。

出力トランジスターがヒートシンクに直に取り付けられるわけではないので、
複数の出力トランジスターをきわめて接近させて配置することができるようになり、
複数個使用による配線の延長の問題がなくなる。

ヒートパイプが登場する一、二年前から出力トランジスターの広帯域化がはじまっていて、
この手のトランジスターの特徴を発揮するためにも、
ドライバー段から出力トランジスターまでの配線はできるだけ短い方がいい、ということも関係していたはずだ。

ヒートパイプはパワーアンプのコンストラクションをある程度変えるまでのパーツであったけれど、
割と早くにオーディオでは使われなくなっていった。

理由は単純で、ヒートパイプを使うとあまりいい結果の音が得られない、ということからだった。
電気的な配線としての従来の大型ヒートシンクよりも有利にも関わらず、なぜ? と思われる方もいるだろう。

それはヒートパイプの作りにあった。
ヒートシンク部分が、薄い金属で作られていたことが、その原因だといわれた。

Date: 11月 25th, 2013
Cate: prototype

prototype(その4)

大型のヒートシンクは出力トランジスターへの配線が長くなるだけではなく、
ヒートシンクも筐体の一部であり、その材質、形状、取り付け方などにより、音は確実に変化する。

そして、海外製のパワーアンプに多い形態、
ヒートシンクがシャーシーの両サイドに露出して取り付けられている場合、
モノーラルアンプだったりマルチアンプシステムで、複数台のパワーアンプを使用する際には、
隣りあうパワーアンプのヒートシンク同士の干渉も、セッティングでは考慮しなければならない。

大型のヒートシンクがむき出しになっているパワーアンプは、
例えば以前のアンプをあげればマークレビンソンのML2、
これなどは星形のヒートシンクがいわばアイコン的でもあった。
ML2が、ヒートシンクをシャーシー内部におさめたタイプだったら、
そのイメージは多少なりとも変化していたと思う。

こんなことを書いていくと、また話が逸れてしまう。
とにかくヒートシンクは音に大きな影響を与えているわけで、
これが水冷方式になり、自然空冷にくらべてコンパクトにできれば、
それたけでもパワーアンプの音は変っていく。

もっとも水冷にするための機構をどう設計するかによって、
必ずしも音がよくなるとは限らないだろうが、
ダイヤトーンのプロトタイプは、そのへんどうだったのだろうか。

ダイヤトーンの水冷式のプロトタイプが登場したときは、
筐体設計が音に影響を与えることはあまり注意が払われていなかった。
だから、いまあれこれ想像してしまう。

Date: 11月 24th, 2013
Cate: prototype

prototype(その3)

当時のオーディオ雑誌が手元にあれば、あれこれ思い出せるのだが、
ステレオサウンド以外のオーディオ雑誌はほとんどない。

だから、記憶にあるものだけをいくつかあげていくと、
水冷式のパワーアンプを、ダイヤトーンが展示していたはずである。

ファンによる強制空冷のパワーアンプはある。
当時のアメリカのハイパワーアンプにはたいていファンがついていた。
SAEのMark2500、マランツの510Mなどがあったし、
ファンの音を気にしがちな日本においても、パイオニアのExclusive M4はA級動作ということもあって、
かなり静粛性にすぐれるファンを搭載していた。
それでも聴取位置に近いところに置けば、静かな環境・時間帯ではファンの音が気になる。

ダイヤトーンのプロトタイプがA級動作だったのかはわからないが、
水冷式はA級動作でハイパワーを実現しようとする際には、有効な手段のひとつになり得たかもしれない。
オーディオ雑誌に載っていた小さなモノクロ写真、
それに写真の解説文も短かく、細かなことはなにひとつわからなかった。

だからこそ想像をかき立てられる。

大出力を得るには出力トランジスターの数を増やすことになる。
部品にはすべてサイズがあり、数が増えればそれだけ配置のためのスペースを必要とし、
電子回路であるから配線距離がその分のびることになる。

発熱量の多いA級アンプではヒートシンクも大型のものとなるから、
出力トランジスターへの配線は、より長くなりがちである。

Date: 2月 19th, 2013
Cate: prototype

prototype(その2)

オーディオフェア、オーディオショウで発表された新製品は、
遅かれ早かれ市場に出てくる。オーディオ雑誌の新製品の紹介のページでも取り上げられる。
だから数ヵ月まてば、よりくわしいことを知ることができる。

その意味では、オーディオフェア、オーディオショウに足を運んでいるのであれば、
新製品をいち早くみて聴くことができるのは楽しみであるけれど、
会場に行けない人にとっては、オーディオ雑誌にフェアやショウの記事が載るころには、
新製品の多くは同じ号、もしくは次号あたりで新製品として取り上げられているのだから、
行けない者(つまり私)の興味は、
オーディオフェアでしかお目にかかれない参考出品という名のプロトタイプにあった。

このプロトタイプは多くの場合、製品化されていない。
もちろんprototypeには試作品、原型という意味があるから、
製品の試作品としてのプロトタイプもあるわけだが、私が強い関心をよせるのはそういうプロトタイプではなく、
原器としてのプロトタイプであったり、実験用としてのプロトタイプであったりする。

この手のプロトタイプで一般的に知られるのは、トーレンスのReferenceである。
Referenceはトーレンスが、実験用・研究用として開発した、製品化のことを考慮していないモノを、
あくまでも参考出品として西ドイツでのデュッセルドルフ・オーディオフェアに展示。

売るつもりなどまったくなかったモノに、多くのディーラー、オーディオマニアが注目し、問合せが殺到し、
製品として世に出ることになったことは、瀬川先生がステレオサウンド 56号に書かれている通りである。

このトーレンスのReferenceに相当するモノが、
日本のオーディオメーカーから毎年のようにオーディオフェアには参考出品されていた。
いまはオーディオ雑誌の、
オーディオフェアの記事に載った小さな写真でしか見ることのできないプロトタイプがいくつもあった。

Date: 2月 17th, 2013
Cate: prototype

prototype(その1)

1970年代後半、まだ中学生、高校生で実家で暮していたとき、
オーディオ雑誌に載るオーディオフェアの記事は、ほんとうに楽しみにしていた。

オーディオフェアに行きたい、とそのころは思っていた。
もちろんオーディオフェアという会場が、音を真剣に聴くにはふさわしい場所ではないことは、
そのころの記事でも書かれていた。
それでも行きたかったのは、オーディオフェアでしか見ることのできないモノがあって、
その「モノ」がオーディオ雑誌で紹介されていると、
ますます「行きたい」という気持は強くなっていっていた。

若い世代の方は驚かれるかもしれないが、
そのころステレオサウンドの別冊として、まるまる一冊オーディオフェアのムックが、
2年続けて出ていたこともある。

定期刊行物のオーディオ雑誌ではページ数がとれないから写真も小さく解説も少なくなるけれど、
別冊というかたちになるとそんな不満はなくなる。
こういう企画は地方に住んでいて、東京になかなか出ていく機会のない(すくない)読者にとっては、
東京、もしくは近郊に住んでいて電車にのればオーディオフェアに行ける人には、
なかなか理解されないであろう、うれしいものであった。

現在開催されているオーディオ関係のフェア、ショウしか知らない世代にとっては、
当時のオーディオフェアの規模はなかなか想像しにくいのではなかろうか。

東京でのインターナショナルオーディオショウ、大阪でのハイエンドオーディオショウ、
2つのショウをあわせても、1冊すべてショウ関係の別冊を出すことは、難しい。