prototype(その6)
ヒートパイプが登場したころは、まだまだアンプの開発において電気的なことが優先されていた。
筐体構造については、まだまだこれからという時期だったともいえる。
ヒートパイプは音があまり芳しくない、ということで、使われなくなっていった。
けれどメリットも大きい。
それで一度井上先生に訊ねたことがある。
ヒートパイプの薄っぺらなヒートシンク部分を、
厚みのある金属板に置き換えたものをあるメーカーが試作したか、
もしくはヒートパイプ製造メーカーに特注で作らせたか、
とにかく市販品のヒートパイプとは比較にならない立派な作りのモノを搭載したところ、
明らかに市販品のヒートパイプでは得られなかった音が出てきたし、
従来のヒートシンクよりも、いい結果が得られた、とのことだった。
ただしその特注のヒートパイプはコスト的に採算ベースにのらず、
搭載は見送られて、そのメーカーも通常のヒートシンクをふたたび使うようになった。
これでヒートパイプの問題がすべて解決したわけではなく、
実はもうひとつヒートパイプには、オーディオ用として使うにも問題があった。
ヒートパイプの銅パイプの中には液体が入っていた。
たしかオイルだったはずだ。
この液体が長時間アンプを使い、パイプの温度が高くなりすぎると、
パイプの中から音がしてくる、ということだった。
これも銅パイプを肉厚をかなり増していけば解消できるように思うのだが、
これもコストが増していくだけである。
ヒートパイプは液体を使っているけれど、熱を放出するヒートシンクを水冷しているわけではない。
あくまでも空冷式ということになる。
あるメーカーの特注ヒートパイプも、プロトタイプのひとつといえなくもないだろう。