Archive for category TSD15

Date: 5月 23rd, 2024
Cate: EMT, TSD15, 音の毒

音の毒(TSD15のこと・その1)

昨晩ひさしぶりに聴いたEMTのTSD15。
カートリッジは、ステレオサウンドで働いていたこともあって、
かなりの数を聴いている。

それでも自分のシステムで使ってきたカートリッジとなると、
十本にも満たないし、そのなかでいちばんながい時間聴いてきたのはTSD15だった。

いまもTSD15は持っている(聴いてはいないけれども)。

TSD15の構造は、いまどきのカートリッジということだけでなく、
私が使っていた時代でも、音質優先とは言い難い点がいくつもあった。

カートリッジ下側のカバーもそうだし、
ヘッドシェルとカートリッジ本体の取りつけに関して、そういえる。

TSD15には、トーレンス・ヴァージョンのMCH-Iがあった。
このMCH-I(正確にはSMEコネクターを採用したMCH-II)では、
下側のカバーを外した音を聴いては、やっぱりこのカバーはないほうがいい──、
そんなふうに感じていたけれど、TSD15となると、ずっとカバーをつけたまま使っていた。

一度は外した音を確認している。
もちろん音は変る。
それでも外したままにはせずに、すぐにつけなおした。

TSD15の針先が変更になったSFLタイプを買ってからも、
一度はカバーを外した音を確認して、結局はつけたままだった。

外した方がよくなるところはある。
けれど、ここでのテーマである音の毒、
そういうものをひっくるめての音として受けとめていたような気がする。

昨年のインターナショナルオーディオショウで、あるメーカーのカートリッジを、
数機種、安価なモデルから高価なモデルへという比較試聴があった。

こういう比較試聴をすると、確かに値段があがっていくごとに、
なるほどと感心する音が鳴ってくる。

ダイアモンド・カンチレバー採用の百万円超のモデルとなると、
さすがだな、と思っていたけれど、ここまで聴いて思っていたのは、
このカートリッジを欲しいのか、である。

Date: 12月 1st, 2009
Cate: 930st, EMT, TSD15, 挑発

挑発するディスク(その17)

トーレンスの101limited(930st)には、TSD15以外のカートリッジもとりつけては、
しばらく聴いていたことがある。
ノイマンのDST、DST62がそうだし、トーレンスのMCHIも付属していたので使っていた。

その他にもフィデリティ・リサーチのFR7のEMT仕様モデルを一時期試したこともある。
それに当時オーディオテクニカから発売されていたEMT用のヘッドシェルに、
気になるいくつかのカートリッジをとりつけては試聴していた。
このときイケダのIkeda9も試している(ただしヘッドシェルを加工する必要がある)。

内蔵のイコライザーアンプ155stを通したり、
トーンアームから出力をとりだし別途コントロールアンプを用意して聴いたり、けっこうあれこれやっている。

部分的には、TSD15以上の音を出すカートリッジは少なくない。
それでも、レコードプレーヤーシステムとして、信頼できるかどうかとなると、話は違ってくる。

やってみればわかるのだが、930stで聴くかぎり、TSD15のとき、いちばん信頼できる音が出てくる。
だからTSD15、それも丸針ではなく、新しいディスクを聴くことが多かったこともあり、
SFL針のTSD15が常用カートリッジの座にあった。

一流のプロ用機器であれば、信用はできるだろう。
けれど、優れたプロ用機器のすべてが信頼できるかというと、かならずしもそうではないだろう。

結局、誠実であるからこそ信頼できる。信頼して使える。信頼して心をあずけられる。

Date: 12月 13th, 2008
Cate: 927Dst, BBCモニター, EMT, TSD15

BBCモニター考(余談)

トリオ(現ケンウッド)の会長だった中野英男氏の著書「音楽、オーディオ、人びと」の中に、
「秘蔵のBBC放送局専用のTSD15」なる言葉が出てくる。

このTSD15は「英国でしか手に入らず、佳き往時の香りを今に伝える名品として
識者の間で珍重されているカートリッジ」で、
「河村電気を経て我が国にもたらされるEMTは『今様に』改良された製品で、
F特と解像力には勝れるが、気品と底力では遠くこのモデルに及ばない」と書かれている。

ステレオサウンドにはいって、このことをきいてみた。BBC専用のTSD15のことを知っているひとは、いない。
先輩のTNさん(彼は瀬川先生から譲ってもらった927Dstを使っていた)と、この話で盛り上がったこともあった。

旧型シェルのTSD15のことかと思ったが、違うようにも思える。

サウンドボーイ編集長だったOさんも、プレーヤーは927Dstだ。
彼は、ウェスターン・エレクトリック、シーメンス、EMTなどについて詳しい。
そのOさんも、はじめて聞く話とのこと。
現会長の原田氏も、このころは927Dstだった。

結局、真相はわからずじまい。