Archive for 6月, 2017

Date: 6月 30th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その17)

「タンノイのPrestigeシリーズの鍵は、いわば付加価値でしょ」
こんなことをすぐに言い出す人が少なからずいる。

なにかというと、すぐに「付加価値が」という。
こういう人とはオーディオの話はできない、と思っている。

Prestigeシリーズの鍵と鍵穴は、付加価値といえるのか。
システム全体からすれば、そこにかかっているコストはそれほど高いものではないだろう。
けれど、まったくコストがかかっていないわけではない。
少なからぬコストをかけて、タンノイならではのいぶし銀といえる音を、
大きく疎外している存在を、付加価値といえるのか。

付加価値ならぬ負加価値というのならば、同意する。
何の疑いも持たずに聴ける人にとっては、付加価値なのだろう。

しかも、あの鍵は、共通していたはずだ。
少なくとも同じ型番のPrestigeシリーズならば、鍵の使いまわしができる。
スピーカー本体のシリアルナンバーと鍵が対になって一台一台鍵が違い、
鍵にもナンバーがふられている──、
文字通りの鍵としての機能をもっていたら、付加価値というのもわからぬわけではない。

Prestigeシリーズについて、少々きついことを書いているが、
Prestigeシリーズはまじめにやっていると思っている。

内蔵ネットワークにしても、GRF Memoryもそうだし、
それ以降はしばらくはプリント基板による配線だったのを、
ワイヤー配線に切り替えているし、全機種というわけではないが、
アルニコマグネットも復活させている。

それからユニットフレームのアースをとれるようにしたり、とか、
そう、オーディオマニア心をくすぐっている。

GRF Memoryから始まったPrestigeシリーズは成功を収めている。
これからも手を抜くことがなければ、順調なのだろうに、
今年(2017年)、タンノイはLegacyシリーズを出してきた。

なぜ今年なのか、と、まず考えた。
Ardenらが登場したのは1976年である。
去年(2016年)にLegacyシリーズの復活というのであれば、40年目ということになる。

でも今年なのだ。
41年目なのだ。
何か、別の理由があるのか、と考えた。

40年以上むかし、50年前、60年前……、
70年前の1947年、デュアルコンセントリックが誕生している。

Date: 6月 30th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その16)

いぶし銀という、音の表現がある。

いぶし銀そのもののではないが、
ほぼ同じ意味合いの表現が、五味先生の「西方の音」に出てくる。
     ※
アコースティックにせよ、ハーマン・カードンにせよ、マランツも同様、アメリカの製品だ。刺激的に鳴りすぎる。極言すれば、音楽ではなく音のレンジが鳴っている。それが私にあきたらなかった。英国のはそうではなく音楽がきこえる。音を銀でいぶしたような「教養のある音」とむかしは形容していたが、繊細で、ピアニッシモの時にも楽器の輪郭が一つ一つ鮮明で、フォルテになれば決してどぎつくない、全合奏音がつよく、しかもふうわり無限の空間に広がる……そんな鳴り方をしてきた。わが家ではそうだ。かいつまんでそれを、音のかたちがいいと私はいい、アコースティックにあきたらなかった。トランジスターへの不信よりは、アメリカ好みへの不信のせいかも知れない。
     ※
《音を銀でいぶしたような》、まさしくいぶし銀である。
そして「教養のある音」が、いぶし銀と表現できる音といえるが、
いぶし銀とは、硫黄をいぶして、表面の光沢を消した銀のことである。

おそらく、いぶし銀という表現はだんだんと使われなくなっていくだろうし、
たとえ使われたとしても通用しなくなってもいくであろう。

そのいぶし銀のような音の代表が、タンノイの音でもある。
もちろんうまく鳴らした時のタンノイの音のことである。
ヘタに鳴らしたタンノイの音が、いぶし銀なわけではない。

Prestigeシリーズに共通するサランネットの鍵穴。
実は、この鍵穴がいぶし銀といえる音を大きく疎外している。

ステレオサウンドの試聴室で、井上先生がある指示を出された。
すぐにできることであり、すぐに元に戻せることである。

タンノイのサランネットの鍵穴に、ある細工をした。
井上先生のこの手の指示通りにやった音には、いつも驚かされる。
この時もそうだった。

誇張なしに、「たったこれだけで……」と思う。
これならば丁寧に鳴らして、ながくつきあうことでいぶし銀といえる音が出せるはず、
そう思わせる音の片鱗が鳴ってきた。

別の言い方をすれば、それだけサランネットについている鍵穴が、
ひどく音を濁していることを確認したに過ぎない。

1988年に、Canterburyが出てきた。
ひさびさのアルニコマグネットの同軸型ユニットを搭載したモデルだ。

多少気になる点はあるものの、タンノイ的装飾も受け入れやすくなった。
心が動いた、欲しいと思ったのに買うまでの決心がつかなかったのは、
鍵穴が、このスピーカーにもあったからだ。

本気で鳴らそうと思ったタンノイのスピーカーに、
穢く音を濁す鍵穴がついている。
ならばサランネットを外して聴けば……、といわれそうだが、
私にとってタンノイのスピーカーはサランネットをつけた状態で聴くものであり、
この点に関しては絶対に譲れない。

なのに鍵穴が……、なのだ。

Date: 6月 30th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その15)

GRF Memoryが登場するまでのタンノイのイメージは、
オートグラフとABCシリーズ(その中でもArdenとEaton)によってつくられていたからこそ、
GRF Memoryのタンノイ的装飾は、好意的に受け止めることはできなかった。

マニア心をくすぐる──、
そんな表現が使われていた、と記憶している。
けれど、そのマニア心とは、オーディオマニア心なのだろうか、とも疑問に感じることもある。

たとえばサランネットに設けられた鍵穴。
GRF Memoryでは鍵を使ってサランネットを着脱するようになった。

ここに魅力を感じる人もいれば、無関心の人もいるし、
私のように、ないほうがいいのに……、という人もいる。

出っ張りすぎたひさしとうつる天板とサランネットの鍵穴。
私にとって、このふたつはGRF Memoryにおけるタンノイ的装飾の象徴といえる。

オートグラフにもABCシリーズにも、タンノイ的装飾は感じなかった。
なかったところに、いきなりあらわれたものだから、よけいに気になっていた。

タンノイのGRF Memoryにかける意気込みのようなものは頭で理解できても、
心情的にも、直感でも受け入れ難いアピアランスであった。

けれどGRF Memoryは成功した。
続いてEdinbargh、Stirlingが登場する。
いまに続くPrestigeシリーズの始まり、といえるだろう。

でも、ほんとうにタンノイ的装飾のスピーカー、
Prestigeシリーズがタンノイを代表するスピーカーシステムといえるのだろうか。

Date: 6月 29th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その9・補足)

(その9)でA4の上にマンタレーホーンを……、と書いた。
別項を書くためにステレオサウンド 60号を開いていたら、エレクトリの広告に気づいた。

そこにマンタレーホーンをのせたA4の写真があった。
これは見ていた。
にも関わらず、すっかり忘れてしまっていた。

今回改めて見て気づいたのは、
マンタレーホーンの開口部の大きさは、
210エンクロージュアに合せたのかもしれない、ということだ。

A4は210エンクロージュアの両サイドにウイング(サブバッフル)を取り付けたかっこうのモノだ。
A2は210二基にウイングをつけた、さらに大がかりなシステム。

210エンクロージュアはフロントショートホーン付きで、
210の横幅とマンタレーホーンの横幅が、
エレクトリの広告を見るかぎりではぴったり一致している。

ということは、マンタレーホーンはもともと210クラスのエンクロージュアとの組合せを前提していたのか。
ますますマンタレーホーン搭載のA4の音に関心が涌いてきた。

Date: 6月 29th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(OEM・その4)

サカエ工芸のウェブサイトを見ていただくと、
そこにはエレクトロボイスのスピーカーシステムの写真がある。

えっ、と思われたはずだ。
私も驚いた。

そこには《フォスターブランドのエンクロージャー製造を継続する一方、独立系メーカーとして主要オーディオメーカー各社にエンクロージャー供給を開始。パトリシアン他、エレクトロボイス社へのホーム用、PA用各種エンクロージャーを供給。》とある。

1982年に《フォスター電機の主要製造拠点海外移転を機にフォスターグループから独立し、新たに株式会社サカエ工芸として発足》とある。

Patrician 800、Sentry IVB、Interface:D、Georgianの写真が、
サカエ工芸のウェブサイトにある。

Patrician 800もサカエ工芸でつくっていたのか、と驚いた。
Patrician 800の復刻は1981年秋である。

サカエ工芸がフォスターグループから独立したのは1982年、とある。
ということはPatrician 800の復刻モデルの最初のほうは、エレクトロボイスでつくっていたのか、
途中からサカエ工芸製エンクロージュアに変更されたのか。

それともサカエ工芸で最初から復刻モデルを手がけていたのか。
もう一度ステレオサウンド 60号を取り出してきた。
エレクトロボイス訪問記の写真を見た。

Patrician 800の生産ラインとして紹介されている写真は、
エンクロージュアの生産ラインではない。
エンクロージュアはすでにできあがっていて、ユニットを取り付けている写真である。

Date: 6月 29th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(OEM・その3)

エレクトロボイスのPatrician 800復刻のニュースをきいてまず思ったのは、
ティアック製オートグラフと同じで、エンクロージュアは日本製なのかもしれない……だった。

オートグラフや、それ以前のPatricianシリーズほどではないにしろ、
Patrician 800のエンクロージュアは、単なる四角い箱ではない。
コーナーホーン型である。

Sentry IVBもそうである。
30cm口径ウーファーを二基搭載したフロントローディングホーン型である。

だからエンクロージュアは日本製かも……、と思ったわけだ。

ステレオサウンド 60号にエレクトロボイス訪問記が掲載されている。
Patrician 800復刻関連の記事といえる。

Patrician 800の生産ラインの写真もあった。
Patrician 800はアメリカで製造しているのか、
日本製エンクロージュアかも……、というのは私の思い過しだったのか。

今日までそう思っていた。

ここ数日、エレクトロボイスの1828Cを眺めては、
あれこれプランを考えていた。
1828Cは岩崎先生が所有されていたモノだ。

鳴らされていた形跡はない。
岩崎先生は、このホーンドライバーを使って、
何をされようとされたのか──、そんなことも考えながらの自作スピーカーの構想である。

20cm口径ウーファーを、
アルテックの828エンクロージュアの1/2スケールのモノにおさめて、
上に1828Cを置けば、ナロウレンジなシステムではあるがA7のミニチュア版になる。
30cmウーファーと組み合わせて、トゥイーターを加えての3ウェイも考えている。
なのでエンクロージュアに関して、いくつか検索していた。

あるエンクロージュア製造の会社のウェブサイトを見つけた。
サカエ工芸という会社だ。

Date: 6月 29th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(OEM・その2)

スピーカーのエンクロージュアも日本製である例がいくつかある。

よく知られるところでは、タンノイのオートグラフとGRFである。
タンノイが手間がかかりすぎるということでやめてしまったエンクロージュアの製造を、
輸入元のティアックがタンノイの承認を得て、日本で始めた。

イギリス製から日本製へと変ったことであきらかになったのは、
タンノイにはオートグラフの図面は存在しなかった、ということ。

そのためティアックではオリジナルのオートグラフを一台分解している。
木工の専門家が分解することで、
図面だけではわからない構造と材料についてのノウハウがわかる。

結果としては図面がなかったことが、
オリジナルに近いモノを製造できることにつながったはずだ。

図面だけでつくられたモノはコピーなのかもしれない、
こうやってオリジナルを分解して、という作業を経たモノはレプリカなのかもしれない。
このへんのことはステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」タンノイ号に載っている。

ヴァイタヴォックスにも国産エンクロージュアのモノが、
輸入元の今井商事から販売されていたこともある。

オートグラフにしてもヴァイタヴォックスにもしても、
ティアック、今井商事がユニットとネットワークを輸入して、
国産エンクロージュアに組み込む作業を行って出荷していた。

こういう例は、そんなにないものだと、その頃は思っていた。
カートリッジと違い、スピーカー・エンクロージュアはサイズが大きく違うためである。

あるスピーカーに関しては、ある時期から国産エンクロージュアになった、という話をきいた。
エレクトロボイスのSentry IVBである。

ちょうどその頃だったか、
エレクトロボイスが、Patrician 800を復刻した。
Patrician 800だけにとどまらず、Baronet、Aristocrat、Regencyも続けての復刻である。

Date: 6月 29th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(OEM・その1)

オリジナル、オリジナル、何が何でもオリジナル、
とにかくオリジナルであることにこだわる人、
オリジナルであることにしか価値を見いだせない人がいる。

それも趣味といえば、それまでであって、
まわりがとやかくいうことではないとはわかっていても、
あまりにも度が過ぎている発言を、SNSでみかけると、
どうしてこんなふうになってしまった(ゆがんでしまった)のかと嘆息する。

そんな人のなかには、日本製であることを極端に毛嫌いする人がいる。
日本製のパーツがひとつでも使われいてると、
そのオーディオ機器の音楽性が破壊されてしまう……らしい。

ずっと以前から日本製の海外オーディオ機器は存在していた。
代表的なのはカートリッジである。

たとえばメガネのフレームは、
海外のブランドものをふくめて、福井の鯖江で、その大半が製造されていることは知られている。

カートリッジもそういう時代があった。
かなり以前は、海外ブランドのカートリッジを、他の海外ブランドが製造していた。
けれどいつしか日本製にうつっていった。

具体的なブランド名は出さないが、
そうとうな数のブランドのカートリッジが日本で製造されていた。
MM型、MI型カートリッジは大量生産に向く。
しかも日本は品質管理がしっかりしている。

日本製・海外ブランドのカートリッジが増えるのは当然といえよう。

手作業の工程の多いMC型カートリッジも、日本製だったものがけっこうある。
最終調整は、その海外ブランドで行われることもあろうが、日本製であることにはかわりない。

Date: 6月 28th, 2017
Cate: audio wednesday

第78回audio wednesdayのお知らせ

7月のaudio wednesdayは、5日。
音出しの予定ですが、いまのところテーマは決めていません。
ぎりぎりになって決める予定です。

場所はいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 6月 28th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スピーカーとのつきあい(その1)

10代から20代のころまでは、よくスピーカーを擬人化して捉えていた。
この捉え方がいいのか悪いかは別にして、スピーカーにはそういう捉え方ができる面をもつ。

オーディオ機器は、家庭で音楽を聴くための道具だ、という捉え方をすれば、
スピーカーシステムも、家庭で音楽を聴くための道具だ、ということになる。

道具であれば、優れたモノがいい。

スピーカーは、果して道具なのだろうか。
完全にそのことを否定はしないけれども、
オーディオ機器、その中でもスピーカーシステムは、
家庭で音楽を聴くうえで欠かせない友、という捉え方もできる。

スピーカーを友として捉えれば、
他と比較することの無意味さ、愚かさに気づく。

オレの友だちは、アイツの友人よりも優れている(劣っている)──、
そんなことをいう人はいるだろうか。

友だちの顔を、ひとり思い浮べてほしい。
その友だちよりも、もっといい友だちがいるんじゃないか、とか、
その友だちを、家柄、学歴、職業、収入などで判断してつきあっているのかどうか──、
そんなことはないはずだ。

友だちは友だちである。
いつしかそういう仲になっていた。
そこには学歴とか職業とか、そんなことは関係なかった。

スピーカーもそうだろう。

Date: 6月 27th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その14)

タンノイのGRF Memoryの外形寸法は、というと、W80.0×H110.048.0×Dcm。
耽能居 S385Aより横幅が10cm広く、奥行きが2cm短い。

けれどGRF Memoryは天板がひさし的である。
けっこう出っ張っている、と写真を見て、そう感じた。
なので、タンノイ的装飾と感じる。

この点は、菅野先生も、
ステレオサウンド 60号「現代に甦るタンノイ・スピリット〝GRF MEMORY〟登場」で述べられている。
     *
 こんなわけで、大金を投じて買った高級スピーカーシステムにふさわしい、所有の充足感とでもいった気分を満してくれるものは今後、ますます少なくなりそうな気配である。こうした背景の中で登場した今回の〝ガイ・R・ファウンテン・メモリー〟は、たしかに目を引く存在感のあるシステムだと思う。かといって、芸術的な工芸品と呼ぶには、いささか、プロポーション、仕上げ感覚に注文をつけたい点もあるし、やや不自然ともいえる意識の出過ぎに、わざとらしさも感じられる。本物はもっと、巧まざる自然の姿勢から生まれなければいけないとは思うのだが、それにしても、現時点でこれだけのものを作り上げたタンイの情熱と力には敬意を表したい。
 SRMシリーズやバッキンガムがスタジオモニターとして作られたのに対し、このGRFメモリーは純粋にホームユースの高級システムとして作られたものであることは明白である。しかし、モニターとはいいながら、SRMやバッキンガムのエンクロージュアのつくりも、間違いなく現代第一級のレベルにあることを認めるし、このGRFメモリーには現代版としては、特級の折紙をつけざるを得ない。これだけ手のこんだエンクロージュアは、条件つきとはいえ、その美しさと風格を含めれば、少なくとも80年代の新製品では他にはないものだから。
 では、このGRFメモリーについて、少し詳しく述べることにしよう。横幅も充分にある縦型プロポーションのシステムの仕上げはオイルフィニッシュのウォルナットであり、背面などの構造材には25ミリ厚の硬質パーティクルボードが使われている。トップボードがひさしのように張り出しているのが大きな特長といえるが、私の個人的なバランス感覚では、やや出っ張り過ぎのように感じてならない。
     *
この出っ張りすぎのひさし(天板)がなかったら、
GRF Memoryと耽能居 S385Aの横幅は、ほぼ同じになるであろう。

エンクロージュアの形状といい、プロポーションといい、
あまりにも、このふたつのエンクロージュアは近い、といわざるをえない。

GRF Memoryから装飾的要素を外してみれば、耽能居 S385Aとどれだけ違うだろうか。
バスレフポートは違うといえるが、ここまで同じになってしまったのは、本当に偶然なのだろうか。

GRF Memoryの登場時、
ArdenはArundelに、BerkleyはBalmpralになってしまっていたし、
ユニットも同時にアルニコからフェライトマグネット変更になっていたこともあって、
ものたりなさ、ある種のさびしさのようなものを感じていた。
それだけにGRF Memoryの登場は歓迎すべきことだと思うし、
菅野先生の60号での文章も、そういう意図が感じられる。

でも、耽能居 S385Aの存在を知る者には、素直にそうなれないのだ。

Date: 6月 27th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その13)

タンノイだけに限らない。
海外の著名なブランドのエンクロージュアだけを国産にして、
できるだけ安く仕上げよう、という考えた人は昔はけっこういた。

ユニットが単体で販売されていたし、
エンクロージュア専門メーカーもいくつもあった。
関税も高かったころの話だ。

そのころからエンクロージュアはオリジナルに限る、といわれてきた。
「五味オーディオ教室」にもそう書いてあったし、
瀬川先生もそういわれていた。

タンノイのオートグラフは途中から輸入元ティアック製造のエンクロージュアに切り替った。
いまも名器として扱われているのは、イギリスで製造したエンクロージュア、
ようするにオリジナル・エンクロージュアのオートグラフである。

JBLもアルテックもヴァイタヴォックスなどもそうである。
オリジナル・エンクロージュアに限る、といえる。

それでもオリジナル・エンクロージュアだけが最善のモノと考えているわけではない。
タンノイのユニットとネットワークをそのまま使用し、
エンクロージュアを独自の設計としたロックウッド、
12インチ口径のデュアルコンセントリックを、
フロントショートホーン付きコーナー型エンクロージュアにおさめたステレオサウンド企画のコーネッタ、
録音の現場で評価の高いMANLEYのML10など、
成功例はたしかにある。

アルテックでも、UREIという例があるし、
JBLのユニットはウェストレークがそうである。

そのブランドのエンクロージュアをそのままコピーするのではなく、
独自のエンクロージュアを手がけることで成功する。
ならば、そういうブランドが日本から出てきても不思議ではない。

サワダオーディオの耽能居は聴けなかった。
成功例なのかはどうかはなんともいえないが、
ステレオサウンドの広告を見ては、いちど聴いてみたい、と思っていた。

そのサワダオーディ耽能居 S385Aの外形寸法はW70.0×H110.0×D50.0cm、
エンクロージュアの形状は立方体ではなく、
フロントバッフルの両サイドを乞うほうにかけて斜めに切り落としたかっこうで、
真上からみれば、台形の下に長方形を置いたかたちになっている。

単に四角い箱をつくるよりも、手のかかる形状になっていた。

Date: 6月 27th, 2017
Cate: 新製品

新製品(TANNOY Legacy Series・その12)

1981年秋に登場したGRF Memoryは、
ハーマンインターナショナル傘下時代のタンノイのラインナップ、
つまりABCシリーズの不満、もしくはものたりなさをおぼえていた人たちからは、
好意をもって迎えられた、といえる。

でも私は、ある疑問を感じていた。
1970年代後半のステレオサウンドの広告をきちんとみていた人なら、
サワダオーディオの名に記憶があるだろう。

堺市・沢田電機工業所内にあったサワダオーディオは、
ウエスギアンプの代理店でもあったし、サワダオーディオ・ブランドで、
スピーカーシステムを出してもいた。

当時のサワダオーディオの広告には、
「東方の音 地上で聴ける最上の音。」というコピーがあった。

その下にスピーカーの写真があった。
スピーカーの手前には、小さな女の子がLPのダブルジャケットを広げている。

サワダオーディオのスピーカーシステムは、耽能居という。
タンノイの当て字だ。

耽能居は、三種類あった。
耽能居 S295A、耽能居 S315A、耽能居 S385Aである。
エンクロージュアだけも売られていた。

耽能居 S385Aの形状、それに寸法が、
GRF Memoryとほぼ同じなのだ。
耽能居 S385Aが数年前に登場しているのだから、
GRF Memoryが耽能居 S385Aにそっくりといえるわけだ。

耽能居 S385Aにタンノイ的装飾を施したのがGRF Memory、
そういってもいいように感じた。

Date: 6月 26th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その12)

2344は発売になったけれど、
2344と同形状のホーン型トゥイーターはすぐには登場しなかった。

JBL PROFESSIONALには、4300シリーズ、4400シリーズの他に4600シリーズもあった。
SR用としてキャバレーシリーズとも呼ばれていた。

1983年に4612というモデルが登場した。
20cm口径ウーファー二発に、ホーン型トゥイーターを搭載した可搬型モニターで、
この4612のトゥイーターが、2404Hである。

2344を小型にしたトゥイーターで型番も与えられていたにも関わらず、
1983年の時点では2404Hは、すぐには販売されなかったようだ。

STEREO GUIDEの1983年度版に4612は掲載されているが、
2404Hは載っていない。
2402H、2405H、2403Hしか掲載されていない。

4435、4430の登場からやや遅れて、より小型のバイラジアルホーン型トゥイーターの登場である。
2404Hの外形寸法は一辺が13cmである。

CDのプラスチックケースとほぼ同じ寸法で出てきた。
これも単なる偶然なのだろうが、バイラジアルホーンはCDホーンなだけに、
2344と2404をならべると、LPのジャケット、 CDのケースの比較になる。

2404Hが登場して、あることに気づいた。
4435が登場した時に気づくべきだったことだが、
2404Hまでサイズが小さくなったことで気づいたのは、
エレクトロボイスのスピーカーシステムに搭載されていたホーン型トゥイーターに近い、ということだ。

1970年代後半から80年ごろにかけてのエレクトロボイスのスピーカーシステム、
Interface:D、Sentry IVB、Sentry Vのトゥイーター(ST350)と2404、
横向きか縦向きの違いはあるが、実によく似ている。

Date: 6月 25th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その11)

4435、4430搭載のバイラジアルホーンには、登場したばかりのころは、
ホーン単体の型番はなかった。

通常JBLのスピーカーシステムのカタログには使用ユニットの型番が明記されている。
けれど4435、4430にはウーファーとドライバーに関してはあっても、ホーンはなかった。

4435搭載のバイラジアルホーンは、単体で発売されないのか、と思いつつも、
JBLの新型ホーンをみて、私は4343のこのホーンで置き換えたら……、
そんなことを考えてはヘタなスケッチを何枚か描いていた。

2405もそのままではなくは、バイラジアルホーンのより小型なモノを勝手に想像して、
上二つのユニットをバイラジアルホーンにした4343は、
どんな音がするのだろうか、と、4435、4430の音を聴いてもいないのに想像していた。

4343は、その後4344になり、4344MKIIになる。
中高域のホーンはスラントプレート型音響レンズつきは継承したまま、
2405の採用も変更はなかった。

4435搭載のホーンは、一、二年後に型番がついて単体で買えるようになった。
2344という型番は、4400シリーズに搭載されていたからだろう。

4435、4430を見た時から気になっていることがあった。
ホーンの開口部のサイズである。
ウーファーは15インチだから、そこから推測するに一辺が12インチくらいに見える。

2344が登場して、やっと外形寸法もわかった。
一辺は31.8cmだった。

レコードジャケットとほぼ同じ大きさである。

ホーンの大きさはカットオフ周波数などで決ってくるわけで、
レコードジャケットと同じサイズを目差して設計されたものではないのはわかっていても、
CD登場の前年に、別の意味をもつCDホーン(Constant-Directivity Horn)の2344が、
LPのジャケットと同寸法といえるサイズなのは、どこか意図的な感じがしてならない。