新製品(TANNOY Legacy Series・その14)
タンノイのGRF Memoryの外形寸法は、というと、W80.0×H110.048.0×Dcm。
耽能居 S385Aより横幅が10cm広く、奥行きが2cm短い。
けれどGRF Memoryは天板がひさし的である。
けっこう出っ張っている、と写真を見て、そう感じた。
なので、タンノイ的装飾と感じる。
この点は、菅野先生も、
ステレオサウンド 60号「現代に甦るタンノイ・スピリット〝GRF MEMORY〟登場」で述べられている。
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こんなわけで、大金を投じて買った高級スピーカーシステムにふさわしい、所有の充足感とでもいった気分を満してくれるものは今後、ますます少なくなりそうな気配である。こうした背景の中で登場した今回の〝ガイ・R・ファウンテン・メモリー〟は、たしかに目を引く存在感のあるシステムだと思う。かといって、芸術的な工芸品と呼ぶには、いささか、プロポーション、仕上げ感覚に注文をつけたい点もあるし、やや不自然ともいえる意識の出過ぎに、わざとらしさも感じられる。本物はもっと、巧まざる自然の姿勢から生まれなければいけないとは思うのだが、それにしても、現時点でこれだけのものを作り上げたタンイの情熱と力には敬意を表したい。
SRMシリーズやバッキンガムがスタジオモニターとして作られたのに対し、このGRFメモリーは純粋にホームユースの高級システムとして作られたものであることは明白である。しかし、モニターとはいいながら、SRMやバッキンガムのエンクロージュアのつくりも、間違いなく現代第一級のレベルにあることを認めるし、このGRFメモリーには現代版としては、特級の折紙をつけざるを得ない。これだけ手のこんだエンクロージュアは、条件つきとはいえ、その美しさと風格を含めれば、少なくとも80年代の新製品では他にはないものだから。
では、このGRFメモリーについて、少し詳しく述べることにしよう。横幅も充分にある縦型プロポーションのシステムの仕上げはオイルフィニッシュのウォルナットであり、背面などの構造材には25ミリ厚の硬質パーティクルボードが使われている。トップボードがひさしのように張り出しているのが大きな特長といえるが、私の個人的なバランス感覚では、やや出っ張り過ぎのように感じてならない。
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この出っ張りすぎのひさし(天板)がなかったら、
GRF Memoryと耽能居 S385Aの横幅は、ほぼ同じになるであろう。
エンクロージュアの形状といい、プロポーションといい、
あまりにも、このふたつのエンクロージュアは近い、といわざるをえない。
GRF Memoryから装飾的要素を外してみれば、耽能居 S385Aとどれだけ違うだろうか。
バスレフポートは違うといえるが、ここまで同じになってしまったのは、本当に偶然なのだろうか。
GRF Memoryの登場時、
ArdenはArundelに、BerkleyはBalmpralになってしまっていたし、
ユニットも同時にアルニコからフェライトマグネット変更になっていたこともあって、
ものたりなさ、ある種のさびしさのようなものを感じていた。
それだけにGRF Memoryの登場は歓迎すべきことだと思うし、
菅野先生の60号での文章も、そういう意図が感じられる。
でも、耽能居 S385Aの存在を知る者には、素直にそうなれないのだ。