シーメンス Eurodynと真空管OTLアンプ(その4)
黒田先生がフルトヴェングラーについて書かれている。
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今ではもう誰も、「英雄」交響曲の冒頭の変ホ長調の主和音を、あなたのように堂々と威厳をもってひびかせるようなことはしなくなりました。クラシック音楽は、あなたがご存命の頃と較べると、よくもわるくも、スマートになりました。だからといって、あなたの演奏が、押し入れの奥からでてきた祖父の背広のような古さを感じさせるか、というと、そうではありません。あなたの残された演奏をきくひとはすべて、単に過ぎた時代をふりかえるだけではなく、時代の忘れ物に気づき、同時に、この頃ではあまり目にすることも耳にすることもなくなった、尊厳とか、あるいは志とかいったことを考えます。
(「音楽への礼状」より)
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私にとってのシーメンスのEurodynは、まさにフルトヴェングラー的存在である。
少しもスマートなスピーカーではない。
造りも音も、佇まいもそうである。
スピーカー本体としてはそれほど大きくもないし、重くもないが、
この劇場用スピーカーは、平面バッフルとして、2m×2mほどの大きさを要求するし、当然部屋の広さも、それに見合うほどを要求する。
何もかもがスマートではない。
けれど、Eurodynがきちんと鳴った音を聴けば、《時代の忘れ物》に聴き手は気づくはずだ。
気づかない人もいよう。そういう人はフルトヴェングラーの演奏を聴いても、そうなのだろう。
とにかくEurodynは、そういうスピーカーだから、
アンプを選ぶともいえる。
そんなEurodynにアインシュタインのOTLアンプを接いだ音に、
私は違和感を覚えることなく音楽を聴けたし、
この組合せで、クナッパーツブッシュの「パルジファル」、
それもMQAで、さらにはメリディアンのULTRA DACで聴けたらな──、
そんなことまで想っていた。