Archive for category 真空管アンプ

Date: 11月 14th, 2016
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その12)

真空管アンプは、いま世に溢れている、といっていい。
そうとうに高額で大掛かりな真空管アンプもあれば、
よくこの値段でできるな、
感心するというかあきれるほどの低価格のアンプ(おもに中国製)もある。

自作アンプもある。
技術系雑誌に掲載されているアンプもあれば、
インターネットで検索してヒットするアンプもある。

それこそアンプの数だけのレベルの違いが、見てとれる、ともいえる。

真空管アンプは、半導体アンプよりもトランス類の数が多くなる。
電源トランスはどちらにも共通しているが、
真空管アンプでは出力トランスが、ここでテーマにしている五極管シングルアンプでは不可欠である。

チョークコイルも不可欠とまではいえないものの、あったほうがいい。
それにしてもオーディオ雑誌は、なぜチョークトランスと表記するのだろうか。

少なくともこれだけのトランス類は必要で、
例えば単段アンプならば入力トランスも必要となる。

入力トランスを使わなくとも、
ステレオアンプならば、出力トランスが二つ、電源トランスが一つ、チョークコイルが一つとなる。
鉄芯のコアをもつものが、シャーシー上に四つ乗っている。

これらのトランス類は干渉し合う。
漏れ磁束がある、それに振動も発している。
重量もある。

トランスの影響はトランスだけが受けているわけではなく、
他のパーツも受けている。

メーカー製のアンプでも、雑誌に載っているアンプの中にも、
これらトランス類の配置に無頓着としか思えないモノがある。

トランス自体がシールドされていると、すぐにはコアの向きはわからないが、
シールドなしのトランスであれば、どの向きに配置しているのか、すぐにわかる。

なぜ、こんな配置に? というモノが少なくない。
なにも真空管アンプだけの話ではない。
スピーカーのネットワークのコイルの配置にも同じことがいえる。

高音質パーツを使いました、と謳っていながらも、その配置には無頓着。
そういうモノが少なからずある。

Date: 12月 1st, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その11)

五極管のシングルアンプも、凝った回路でなければ、
つまりアンプの教科書に載っている基本的な回路で製作すれば、
テスターがあれば調整はできる。

自分でシャーシー加工して作るのか、
それとも部品すべて揃っているキットを購入して作るのか、
どちらでもいい、とにかく丁寧にハンダ付けして配線に間違いがなければ、
アースもしっかりととっていれば、ほぼ間違いなく音は出る。

自分で作った真空管アンプから音が出る。
初めての製作であれば、これだけでも嬉しい。
私が中学一年のころ、初めて製作した電子工作は、
初歩のラジオに載っていた、暗くなるとLEDが点灯するというものだった。

部品点数は少なかった。
自分で部品を買いに行く。
いまのようにインターネットで簡単に注文できる時代ではなかった。

ハンダ付けができれば、すぐに完成するものだったけれど、
それでもハンダ付けが終り、配線の間違いがないことを確認して、
電池を入れて、どきどきしながら暗いところに持っていく。
実際にLEDが光ったのを見て、嬉しくなった。

そのころはどういう動作でそうなるのかはよく理解していなかった。
なんとなくの理解でしかなかったけれど、それでも自分で作ったものがきちんと動作するのを見るのは、
やはり喜びがある。

初めて作る真空管アンプが、さほど凝ったモノでなくとも、
そのアンプがきちんと動作してスピーカーを鳴らしてくれれば、作った人にしかわからない喜びはある。
初心者だからこそ味わえる喜びといえよう。

その喜びの次のステップをどうするのか。

Date: 11月 26th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その10)

ここまで書いてきたことをまとめておくと、
五極管シングルアンプ製作を初心者向きとするならば、
ステレオよりもモノーラルで作ることを、まずすすめる。

出力管は、誰もが知っているポピュラーな球であれば、どれを選んでもいいと思っている。
出力管は三極管接続では私は使わない。
五極管接続かUL接続のどちらかで使う。

EL34だったらUL接続にするし、6F6や6V6などは五極管接続で使う。
五極管接続かUL接続かは、選んだ真空管によって違ってくる。

電源は、私は整流管を使う。
それから五極管シングルアンプではチョークコイルも必要と考える。

チョークコイルなしで平滑コンデンサーの容量を相当に増やすことを考える人もいるだろうが、
私はチョークコイルを使った方が、すっきりとまとまると考える。

電圧増幅段はどうするか。
五極管だから増幅段は一段あれば十分なゲインが確保できる。
双三極管を使えば、それぞれのユニットを左右チャンネルに振り分けることで、
電圧増幅段に使う真空管は左右チャンネル合せて一本にできる。

ただしそうするにはステレオ仕様で作るしかない。
モノーラルで作るのであれば、片側のユニットをあまらせるか、
並列接続にするか、SRPPにするか、もしくは二段目をカソードフォロワーにするか、などがある。

EF86などの五極管を電圧増幅段に使う手もある。
だが、いま簡単に入手できる電圧増幅用の五極管のクォリティが、どうにも信用できない。

ではどうするのか。
入力にトランスをもってきて電圧増幅段を省略してしまうという、
いわゆる単段アンプ(出力段のみのアンプ)も考えられる。
これが回路構成としてもっとも簡単なのだが、
入力トランスにいいかげんなモノをもってきたら、台無しになる。
いいトランスは、決して安くない。

こんなふうに考えてきて、ここでの初心者は、
いったいどういう初心者なのだろうか、と考えてしまう。

オーディオの初心者で真空管アンプを作るのも初めて、という初心者なのか、
それともオーディオ歴は長いけれど、これまでアンプを自作したことはない、という初心者なのか。

どちらの初心者なのかということもそうだが、
この初心者が、真空管アンプを作ったあとにどうしたいのか、も無視できないことである。

Date: 11月 25th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その9)

オーディオは電気特性だけでは語れない。

井上先生は1980年代なかばごろから、
アンプもCDプレーヤーもメカトロニクスだ、といわれていた。
アンプとしての性能は回路構成だけで決るわけではない、
使用パーツによって決定されるわけではない。

電気的に関すること以外に、機械的要素も音には大きく影響している。
このことについては以前書いているし、
ステレオサウンドに井上先生が何度か書かれていることだから、詳しくはくり返さない。

ただひとつだけ例をあげておきたい。
DATが登場した時に、発売された各メーカーのDATのデッキ八機種を集めた記事が、
83号に載っている。井上先生が記事を担当された。

この試聴ではテープもいくつか用意した。
デッキの試聴が終り、デッキをある機種に固定して(確かにソニーだったはず)に、
テープの比較試聴になった。

このときいくつのテープを聴いたのかは忘れてしまった。
聴き終り、テープの音の印象について雑談していた。
すると井上先生が、「テープを振ってみろ」といわれた。

すぐには、何をいわれているのか理解できなかった。
とにかくテープをひとつずつ手に取って振ってみた。

するとメカニズムに起因するカチャカチャという音がする。
この音に各社ごとに違いがある。
言葉にすれば、どれもカチャカチャというふうになってしまうけれど、
実際に振ってみた時の音は、微妙に違う。

そして井上先生がいわれた。
「振った時の音と実際の音は似ているだろう」と。

たしかにそうだった。
DATはデジタル信号で録音・再生を行う。
そんなことで音が変化することはない──、そう考えがちになるけれど、
実際にはそうでないことは、こうやって試聴してみると、よくわかる。

テープといえども、メカニズムの音が影響してくる。
テープもまたメカトロニクスといえる。

真空管もそうである。
五極管を三極管接続して電気特性だけを三極管的にしてみても、
それはあくまでも電気特性だけである。

内部の機械的構造は五極管は、五極管接続、UL接続、三極管接続、
どれであっても五極管のままである。

Date: 6月 4th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その8)

コンデンサーは振動する部品である。
コンデンサー型スピーカーの原理からもわかるように、
コンデンサーの電極の振動を完全になくすことは無理なのではないだろうか。

そういう部品であるコンデンサーなのだから、同じ品種のコンデンサーであれば、
容量が違えば大きさが違ってくる。
容量が小さければサイズは小さくなるし、容量が大きくなれば直径が太くなり、長さも増す。

つまり電極のサイズが大きくなり、巻いてあるタイプでは巻数が違ってくる。
振動するものだから、電極のサイズと巻数の違いは、共振周波数の違い、モードの違いとなってくる。
そう考えるべきだろう。

小容量のコンデンサーと大容量のコンデンサーでは、機械的共振が違ってくる。
電気的特性の違いに、この機械的共振の違いが関係してくる。

それから電解コンデンサーは、けっこうフラックスを漏らしている。
1980年代にはいってからのパイオニアのオーディオ機器を内部をみると、
電解コンデンサーに銅箔テープを巻いてあった。

電解コンデンサーの周囲をぐるっと一周、
さらに電解コンデンサーの頭の平らなところには丸く切った銅箔テープが貼られていた。

これは自分のアンプやCDプレーヤーでも簡単に実験できることだし、
気にくわなければ銅箔テープを剥すだけで元通りになるのだから、いくつか試してみた。

音ははっきりと変化する。
どう変るのかは、簡単に試せることなので、興味のある方は自分の耳で確認してほしい。

ということはコンデンサーの容量とその使い方によって、
電気特性、機械的共振、フラックスの分布が、それぞれ変化しているわけだ。

だから小容量の点でンサーは応答速度が速い──、
というのは、五極管を三極管接続すれば電気特性が等しくなるから……、
というのと同じことである。

Date: 6月 2nd, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その7)

1990年代にはいってから、
アンプの電源部の応答速度がオーディオ雑誌で活字になることが増えてきた。

たいていは大容量の電解コンデンサーよりも小容量のコンデンサーを使った方が、
応答速度の速い電源部がつくれる、とか、
そのことでアンプの音も、いわゆるハイスピードといわれる音となる、
そんな感じのことがいわれ出してきた。

ゴールドムンドのパワーアンプが話題になるとともに、
このこともよくいわれるようになってきた、と私は記憶している。

そのころラジオ技術で、コンデンサーの充電・放電の速度を測定したデータが載った。
確かに同品種のコンデンサーで測定すると、
大容量よりも小容量のほうが早いことは確かである。

その差はわずかとはいえるけれど、差があることは事実である。
それかどの程度聴感上影響しているのかははっきりとしたことはいえない。

大容量のコンデンサーよりも、小容量のコンデンサーを多数並列接続した方が、
応答速度の速い電源部はつくれるのかもしれない。
けれどリップル率を考えると、ある一定の容量はどうしても必要となり、
小容量ならばその容量を満たすまで並列接続することになる。

並列接続するためには配線が必要となる。
大容量のコンデンサーをひとつ使うのと、
小容量のコンデンサーを並列接続するのとでは、後者の方が配線は長くなる。

配線が長くなれば、それ自体がもつインダクタンス成分により、
電源部の高域インピーダンスはわずかとはいえ上昇することにもなる。

大容量か小容量かは電気特性だけで判断していいのだろうか。
ここにも機械的共振を考える必要がある。

Date: 5月 31st, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その6)

ラックスは他のメーカーが真空管アンプの開発・製造をやめた時代にも、
真空管アンプの新製品を発表していた。

プリメインアンプのSQ38はロングセラーモデルとして、
ラックスの顏ともいえる存在でもある。

SQ38は三極管を使ったプリメインアンプとして登場した。
最初のモデルは6RA8が使われていた。
1968年に登場したSQ38Fから50CA10に変更になり、それ以降使われていた。

SQ38は世界初の三極管使用のプリメインアンプということだった。
確かに6RA8も50CA10も三極管といえばそうなのだが、
構造をみればわかるようにスクリーングリッドが存在し、内部で三極管接続した多極管である。

50CA10と同じようにラックスとNECが共同開発した8045Gがある。
ラックスのパワーアンプにMB3045に使われている。
この8045Gも三極管を謳っているが、内部で三極管接続している。

それぞれの真空管の特性はたしかに三極管といえるわけだが、
内部構造は多極管であり、構造からくる機械的共振は三極管のそれではなく多極管のそれである。

Date: 5月 27th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その5)

三極管と五極管の電気特性の違いは、はっきりとある。
五極管を三極管接続にすることで、その電気特性の違いをまったくなくすことはできないにしても、
ある程度は近づけられる。

けれど三極管と五極管の違いは、電気特性だけではない。
三極管、五極管という言葉が表わしているように、真空管の内部構造の違いがある。
三極管よりも五極管の方がエレメント(電極)の数が少なく、構造もその分シンプルといえる。
このことは電気特性に関係するだけでなく、機械的共振の違いにも関係してくる。

真空管パワーアンプの初段管を指で弾くと、
入力信号はゼロであってもスピーカーから音は出る。
初段管のすぐ近くで、あっ、とか、わっ、といった大きな声を出せばそれを拾ってしまう。

真空管は構造上、この性質をなくすことはできない。
ならば内部構造がシンプル、つまりエレメントの数が少ない方が、
その影響は少なくなるという考え方もできる。

この機械的共振の影響は、三極管接続にしてもなくすことはできないし、
この機械的共振を含めて五極管の特質として捉えるのであれば、
五極管は三極管接続にせず、五極管接続、もしくはUL接続としたほうが、
わたしにとってはすっきりした使い方ということになる。

くり返すが三極管接続を否定はしない。
お好きな人はやればいい。
けれど、私は三極管接続は選ばないだけである。

Date: 5月 20th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(余談・KT120のこと・その2)

UL接続でもなく五極管接続を、私はKT120を使うのであれば選ぶ。
UL接続を嫌っているわけではなくて、
KT120という球の形からの印象として、なんとなく五極管接続が合いそうな気がする。
その程度の理由である。

五極管接続でポイントとなるのは、スクリーングリッドの給電である。
20年かもっと以前のことになるが、
無線と実験かラジオ技術で、
スクリーングリッドの給電を専用の電源トランスを設けて、という製作記事があった。

五極管の理屈からいっても、スクリーングリッドにかかる電圧に重要といえるから、
スクリーングリッド専用電源トランスという手法は、非常に有効であると考えられる。

これをやると電源トランスが最低でもふたつ必要になる。
でもスクリーングリッドに必要な電流はわずかである。
電源トランスの容量も大きなものは必要ではない。
もちろん整流回路、平滑回路がまた必要になるけれど、この手法は、ぜひ試してみたい。

専用電源トランスを用意しなくとも、
これまでのような安易な方法ではなく、充分な配慮のうえでスクリーングリッドに給電すべきである。

Date: 5月 19th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(余談・KT120のこと・その1)

「五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか」について書いていると、
いま五極管シングルアンプを作るとなったら、どんなアンプにするかも考えている。

いわゆるラジオ球を使って小さくまとめるのもいいけれど、
もし作るのなあれば、しっかりと使えるアンプとしたい、という気持もある。

となると出力もある程度は欲しい。
300Bシングルアンプが約8Wだから、それよりも大きな出力としたい。
20W程度あれば、私の場合、十分である。

それからいくつかの条件がある。
あまり高価な球、入手がめんどうなモノは避ける。
それから出力管の寿命は長い方がいい。

他にも細かな条件はいくつかあるが、それらを勘案して選ぶとなると、Tung-SolのKT120となる。
マッキントッシュのMC275、マイケルソン&オースチンのTVA1、ジャディスのJA80などに使われたKT88、
それでもいいじゃないかと思うけれど、
あくまでも私個人の印象で裏付けは特にないのだが、どうもKT88という球は寿命が短いような気がする。

いま入手できるKT88はそうではないのかもしれないが、
以前のKT88に対する印象は、私の場合、そうである。

KT120という型番からもわかるように、KT88のプレート損失43Wをこえる60Wのビーム管である。
最大定格での動作時にはA級シングルで25Wの出力が得られる。
KT120の上にKT150という球もあるけれど、こちらは形が気にくわないので、
私にとってはKT120ということになる。

このKT120という球を、私は五極管接続で使う。

Date: 5月 19th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その4)

五極管シングルアンプをステレオ仕様で作ることを考えてみよう。
出力管は、いわゆるラジオ球と呼ばれるモノから、
もう少し出力が欲しければ6L6系列の球でもいい。
入手簡単だし、価格も真空管のブランドにこだわらなければ安価である。

だからインターネットでみかけた6L6のシングルアンプを初心者にすすめるのはわからないわけではない。
けれど6L6を出力段に使ったとして、どうするのか。

三極管ならば三極管として使う以外の方法はないが、
五極管は五極管接続の他に、UL接続、三極管接続がある。

私の勝手な想像だが、おそらく6L6系列の球でシングルアンプは、
三極管接続のような気がする。
五極管をわざわざ三極管接続にすることによるメリットは、
オーバーオールのNFBなしでも問題が特に生じない、ということだろう。
五極管接続のまま、出力トランスを含めたオーバーオールでのNFBをかけないと、
一般的にダンピングのきかいな低音になりがちである。
伊藤先生もいわれているが、五極管の場合、適切なNFBをかけることが必要となる。

三極管接続であれば、NFBなしでもいける。
同じ球であっても、五極管接続、UL接続、三極管接続では音が違ってくる。
どの接続の音をとるのかは人によって違ってくる。

ただ私は、五極管の三極管接続はやらない。
お好きな人はやればいいし、そのことを否定はしないが、
私自身は五極管を使っているのだから、五極管接続かUL接続ということになる。

初心者だったころから三極管接続に対して、なぜこんなことをするのだろうかという疑問があった。
なにかすっきりしないものを感じていた。
それから数年後、伊藤先生にいわれたことがある。
「三極管接続にはするな」と。

伊藤先生もそうなのか、とすっきりした。

Date: 5月 13th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その3)

真空管アンプにおけるトランスの配置はパズルのようなものである。
トランス(チョークコイルをふくめて)は、相互干渉の大きな部品である。
どんな部品でも周囲の影響を受けない、周囲に影響を与えないものはないけれど、
トランスはその中でもっとも大きな部品だけに頭を悩ます存在である。

いちばん確実で簡単な解決方法は十分な距離をとることである。
だがそれでいいアンプが作れるか、という問題が生れてくる。
音さえ良ければ無様なアンプでもかまわないという人であればそれでいいだろうが、
そんなモノを自分で使いたいとも思わないし、作りたいとも思わない。

そしてそんなバラック的なアンプを、初心者にすすめることだけはやってはいけない。

とにかくトランスの配置を考えていくのは、
重量バランス、振動のことも含めてのことだけに、けっこう楽しい作業といえる。

トランスの配置ということでは、初心者にむいているのはステレオアンプではなく、
モノーラルアンプである。
モノーラルにすることでシャーシがふたついるし、電源トランスもそうなる。
いくつかの部品がステレオアンプよりも余計に要り、その分コストもかかるから、
初心者向きとはいいにくくなってくるけれど、アースの処理も含めて、モノーラルのほうが作りやすい。

けれどインターネットでときおりみかける「五極管シングルアンプは初心者向き」は、
おそらくステレオアンプのことであり、モノーラルで作ることではないように受け取っている。

この点に関しても、「五極管シングルアンプは初心者向き」には何も触れていないのが多い、
というかほとんどである。
それに初心者向き五極管シングルアンプとは、
特定の製作記事のことを指しているのかも、はっきりとしていない。

ただ五極管シングルアンプは初心者に向いている真空管アンプだ、と書かれているのが多過ぎる。

五極管シングルアンプの回路構成はどうするのか。
電圧増幅段は一段なのか二段なのか、
NFBはどうするのか、かけるとしたらどの程度かけるのか、
出力管をどう扱うのか(五極管接続なのか、UL接続なのか、三極管接続なのか)、
これらの基本的なことにふれずに、
「五極管シングルアンプは初心者向き」が増殖していっているような感じを受けている。

Date: 5月 12th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その2)

伊藤先生が晩年、無線と実験に6V6のシングルアンプを発表された。
手持ちのアンプがなくなったため、手持ちの部品で作られたアンプを記事にされていた。

このアンプ、最初はハムが出た、とある。
伊藤先生ほどの真空管アンプのベテランでも、ハムが出てしまう。
しかもあれこれハムを止めるためにやってみたけれどおさまらない。
結局チョークコイルを後付けして止った、とあった。

このくらいのアンプならばチョークなしでも大丈夫だろうと横着した結果がこれである、
そんなことを書かれていたと記憶している。

シングルアンプはハムが出やすい、というよりも、チョークコイルなしではほぼ出ると考えた方がいい。
プッシュプルアンプであればチョークコイルなしでもハムが出ることは、
よっぽどまずい設計か、よっぽどまずい配線の引き回しでもないかぎりハムに悩まされることはほとんどない。

シングルアンプもチョークコイルを使えばハムに悩まされることはないわけだが、
チョークコイルを使うのは初心者向きなのかどうかと考える。

チョークコイルを使うと、ステレオアンプだと鉄芯をもつ部品が、
出力トランス(二個)、電源トランス、チョークコイルと四つ使うことになる。
この四つを、どう配置するのか。

左チャンネルと右チャンネルのそれぞれのトランスを、どう配置するのがいいのか。
シャーシの左右両端に離すのか、それとも見映えも考慮して二個並べて配置するのか。
その場合に、トランスの向きはどうするのか。

初心者向きのアンプでは、コアが露出しているタイプのトランスが使われることが多い。
だからこそトランスの配置、向きは最初に押えておかねばならぬポイントであるにもかかわらず、
まったく触れていない記事の多いこと。

Date: 5月 11th, 2015
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その1)

ときおりみかけるのが、五極管シングルアンプ製作は、
真空管アンプを製作したことのない人にいちばんすすめられる、というのがある。
(ここでの五極管とはビーム管をふくめての意味で、便宜上三極管以外の出力管を五極管と書く)

その場合6L6系列の球をすすめられることが多いようだ。
こういうのをみかけると、時代がかわったのかなぁ、と思う。

誰だって最初は初心者だし、初心者向きのモノ・コトがあれば、
そこから始めれば失敗のリスクも低くなる。

私がそういった意味で初心者だったころ、
初心者向きの真空管アンプ製作といえば、プッシュプルアンプだった。

EL84(6BQ5)、6F6、6V6などの出力管のプッシュプルで、
電圧増幅管には五極管と三極管をひとつにまとめた複合管、
ECC82(12AU7)、ECC83(12AX7)などの双三極管を使い、
初段で増幅したあとにP-K分割の位相反転段という構成だった。
いわゆるアルテック回路、ダイナコ回路と呼ばれたものだった。

これだと片チャンネルあたり使用真空管は三本。
出力もそれほど大きくないから出力トランスも大型のモノを必要とはしないから、
アンプ全体もそれほど大きくならずに製作出来る。

真空管もポピュラーなモノだし、電源トランスも容量の大きなモノは必要としないから、
製作コストも高価になることはなかった。

私はいまでも初心者向きの真空管アンプ製作といえば、こういったアンプをすすめる。
私は少なくとも当時、シングルアンプは腕が上達してから挑戦するモノという感覚だった。

それはシングルアンプ・イコール・直熱三極管のシングルアンプというイメージがあったためでもあるが、
そういうイメージを抜きにしても、シングルアンプは初心者向きとは思えない。

いま五極管シングルアンプが初心者向きというのは、
どのあたりからどう変ってきて、そういわれるようになったのだろうか。

Date: 3月 1st, 2015
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その5)

物質の燃焼温度が高くなれば、火の色は変ってくる。
人があたたかみを感じる色は、比較的低い燃焼温度である。

1977年、アルテックは、コンプレッションドライバーの802-8Dのフェイズプラグを、従来の同心円状の形状から、
オレンジを輪切りにしたように、スリットが放射状に並ぶタンジェリン状のものに変更した802-8Gを出した。

このタンジェリン状のフェイズプラグの色はオレンジだった。
タンジェリン(mandarin orange)だから、オレンジ色にしたのであろうが、
この色が、アルテックの音の温度感を表しているともいえる。

フェイズプラグは通常の使い方では目にすることはない。
それでもアルテックは、あえて色をつけている。

アルテックのユニットはトランジスターアンプの普及にあわせて、
インピーダンスをそれまでの16Ωから8Ωへと変更している。
だから604-8G、802-8Gのようにハイフンのあとに続く数時はインピーダンスを表すようになっている。

型番の数字はトランジスターアンプとの組合せを推奨しているようにみえても、
フェイズプラグの色は真空管アンプとの組合せを推しているようでもある。