Archive for category 真空管アンプ

Date: 6月 18th, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(ふたつのEL34プッシュプル)

EL34といえば、ポピュラーな出力管である。
EL34のプッシュプルといえば、
マランツの一連のパワーアンプを真っ先に思い出す人も多い。

私は、伊藤先生のEL34のプッシュプルアンプが、真っ先に浮ぶ。
それからマランツのModel 2、Model 9、Model 8という順番がずっと続いていたけれど、
ある時から、デッカ・デコラのアンプのことが気になりはじめていた。

きっかけは管球王国 Vol.41(2006年夏号)で、
是枝重治氏発表のEL34プッシュプルのKSM41の製作記事である。

KSM41は、デコラのアンプの再現である。
記事最後の音の印象に、
《あでやかで彫りが深く解像度が高い》とあった。

個人的に多極管の三極管接続は好まない。
デコラのパワーアンプはEL34の三極管接続である。
そのことは以前から知っていた。

それでも記事を読んでいて、
そのへんのところが少しだけ変った。

管球王国 Vol.41は買おう、と思ったが、
この記事のためだけに、この値段……、という気持が強くて、買わずにいた。

先日、友人のKさんが記事をコピーしてくれた。
管球王国 Vol.41の記事だけでなく、
その前にラジオ技術(2005年9月号)で発表された記事も一緒に、だった。

EF86が初段、ECC83のムラード型位相反転回路で電圧増幅段は構成されている。
あれっ? この構成、そういえば……と思い出したのが、
ウェストレックス・ロンドンの2192Fである。

サウンドボーイ(1981年8月号〜10月号)で伊藤先生が発表されたEL34のアンプの、
範となっているのが2192Fである。

このアンプもデコラのアンプと同じ構成である。
そればかりか、EF86、ECC83周りの抵抗とコンデンサーの値も同じである。
回路も同じだ。

出力段が2192FはUL接続、デコラは三極管接続という違いと、
電源の違いくらいである。
NFBの抵抗値も違うが、そのくらいの違いしかない。

設計者は同じなのか。

Date: 6月 3rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管バッファーという附録(その5)

「快音!真空管サウンドに癒される」の附録の真空管ハーモナイザーも、
間違いなくカソードフォロワーのはず。
写真からもわかるように、双三極管一本を左右チャンネルに振り分けて使用している。

つまりは増幅度1の真空管バッファーである。
それを音楽之友社は真空管ハーモナイザーと謳っている。

この真空管ハーモナイザーという名称は、音楽之友社によるものなのか、
それともラックスによるものなのか、
そこのところは「快音!真空管サウンドに癒される」を買っていないのではっきりしないが、
とにかく真空管バッファーではなく、今回のキットは真空管ハーモナイザーである。

ハーモナイザー(harmonizer)は、大辞林には載っていない。
ハーモナイゼーション(harmonization)は、調和、調整、協調、とある。
ということは、ハーモナイザーは調和、調整、協調させるもの、となる。

調和にしても協調しても、
あるモノもしくは人と別モノもしくは人とを結びつかせるわけだから、
ハーモナイザーは仲介者でもあるわけだ。

そういう意味での真空管ハーモナイザーなのかどうかは、
くり返すが「快音!真空管サウンドに癒される」は買っていないので確認しようはない。
「快音」ともあるし、「癒される」ともあるから、あたらずとも遠からずか。

バッファー(buffer)とは、緩衝器である。
緩衝とは、二つの物の間に起る衝突や衝撃をやわらげること、もしくはその物、と辞書にはある。

二つの物・人の間にはいるのはハーモナイザーもバッファーも同じだが、
そこでの役割は同じなわけではない。

Date: 5月 31st, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管バッファーという附録(その4)

この時期に、こういうタイトルで新たに書き始めたのは、
察しのよい方ならば気づかれているように、
音楽之友社からムック「快音!真空管サウンドに癒される」が書店に並んでいるからだ。
このムックには、附録としてラックスマン製真空管ハーモナイザー・キットがつく。

少し前から告知されていたから、かなりの人が知ってはいたと思う。
私も出ることは知っていた。

先日書店に行ったら、平積みされていた。
写真で、キットの内部は見ていた。
だから、このくらいの価格かな、と想い、
手にとり値段を確認したら、高い、と思ってしまった。

税込みで一万四千円ほどだ。
内部写真から、私は一万円を切るくらいのモノだと思っていたからだ。

キットといっても、ハンダ付けの必要はまったくない。
ネジを締めるだけで完成する、いわば半完成品なだけに、
キットの感覚で値段を判断してはいけないことだとはわかっていても、やってしまう。

私が、どのくらいと思っていたのかは、
人様の商売の邪魔をしたくはないからふせておくが、
この価格だったら、自作しようと思う。

世の中にはハンダ付けが苦手な人もいるし、
このキットの価格を高いとは思わない人もいる。
それに、私は買っていない、つまり聴いていない。

高いか安いかは、聴いたうえで判断すべきなのはわかっていても、
D38uのラックスならば、今回のキットもラックスである。
おそらくD38uのバッファーとほぼ同じ(電源は違うようだが)であろう。

Date: 5月 30th, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管バッファーという附録(その3)

トータルの位相を正相にしたところで、
真空管のカソードからとプレートからとでは、取り出す信号のレベルが違う。

プレートから取り出せば増幅された信号になる。
それに出力インピーダンスも、カソードフォロワーよりもかなり高くなる。

ならば真空管で一段増幅したあとに、抵抗を直列に挿入する。
たとえばコントロールアンプの入力インピーダンスが10kΩだとしたら、
直列に挿入する抵抗を10kΩにすれば、信号レベルは-6dBになる。

そして真空管から見た負荷は、
コントロールアンプの入力インピーダンスの10kΩ+挿入抵抗の10kΩで、20kΩとなる。

そんな乱暴な……、と思われるかもしれないが、
真空管バッファーをわざわざ挿入するぐらいであれば、
このくらいやってもいいではないか、と割り切ることも必要ではないのか。

もちろんどんな抵抗でもいいというわけではない。
良質な抵抗にかぎる。

真空管バッファーを通ることで、何かが失われ何かが足される。
その結果が、聴き手にとって心地よければそれでいい、という世界なのだから、
抵抗を挿入して、それで心地よい結果が得られれば、私はそれでいいと思う人間だ。

真空管バッファーを一種のトーンコントロールと書いたが、
現実のトーンコントロールでは、バイパスした音と経由した音の差がないのが理想である。
まったく同じにはならないわけだが、それでも極力差は小さい方が、
挿入されるトーンコントロールの性能は優秀ということにもなる。

けれど真空管バッファーは一種のトーンコントロールではあっても、
実際のトーンコントロールなわけではない。
周波数特性を変化させるものではない。
挿入することで帯域バランスは変化することもあるが、
それは周波数特性を変化させての結果ではない。

そういうものであるならば、はっきりとした音の変化があったほうが、
それが好ましい方向に、常にではなくとも、
あるディスク(曲)に関してはそう働くのであれば、切替えスイッチを積極的に使うことになろう。

その意味では、ラックスのD38uのvacuum tubeポジションは、
消極的すぎないか、と思ったりするわけだ。

Date: 5月 29th, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管バッファーという附録(その2)

D38uは、audio wednesdayを行っている喫茶茶会記で使っているCDプレーヤーでもある。
真空管バッファー経由の音も何度も聴いている。
けれどaudio wednesdayでは、鳴らす音量との関係もあって、
パスした状態(solid stateポジション)で鳴らすことが多かった。

時々思い出したようにvacuum tubeポジションにすることもあったし、
搭載されている真空管を、店主の福地さんが別途購入した真空管に交換したこともある。

solid stateポジションとvacuum tubeポジション、
どちらの音がいいのかを判断するよりも、一種のトーンコントロールとして楽しんだ方がいい。

vacuum tubeポジションにすれば、ECC82のカソードフォロワーを一段よけいに、
信号が経由することになる。

余分なものは極力排除すべし、という考えの人からすれば、
そんなよけいなものを挿入するなんて……、ということになろうが、
目くじらをたてることだろうか、と思う。

使う人がいいと感じる方を選べばいいし、
かける曲、かける音量によっては、同じ人でも判断が逆になることだって往々にしてある。
レバースイッチひとつで簡単に切り替えられるものは、楽しんだ方がいい。

ECC82は双三極管だから、一本の真空管に二つのユニットが入っている。
カソードフォロワーのみという回路だから、
D38uではそれぞれのユニットを左右チャンネルに振り分けている。

ということは、セパレーション特性は若干劣化しているはずだ。
かといってECC82を二本使い、左右チャンネルで独立させれば、
ユニットひとつ分遊ばせることになる。

並列接続にするという方法もあるし、
一段増幅のカソードフォロワー出力という構成にする方法もある。
ただし後者では位相は反転することになる。

真空管がもう一本増えればコストはアップする。
どちらを選択するのか。
コストの制約のある実際の製品では、私も一本使用を選択するだろう。

ただ私は真空管のカソードフォロワーは好きではない。
やはりプレート側から出力をとりたい。
となると一段増幅では位相が反転する。
ならばvacuum tubeポジションにする際に、
デジタル信号処理で反転させておけば、トータルでは正相になる。

Date: 5月 29th, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管バッファーという附録(その1)

CDプレーヤーが登場してしばらくしたころ、
CDプレーヤーのアナログ出力段は貧弱なものだから、
一般的なライン入力よりも高インピーダンスで受けた方が、好結果が得られる──、
そんなことが一部でいわれるようになり、
実際の製品でもCD入力にバッファーを設け入力インピーダンスを高くしたモノもあった。

さらには高域の周波数特性を1dBか2dBほど下げているアンプも出てきたし、
アマチュアのあいだで流行り出し、メーカーも製品化したモノでは、ライントランスがある。

それらが落ち着いて数年後、ラジオ技術に新忠篤氏が、
おもしろい真空管アンプを発表された。
ウェスターン・エレクトリックの直熱三極管101シリーズを使った単段アンプである。
出力にはトランスがあり、101シリーズの増幅率からすると、
アンプ全体のゲインはあまりない。いわば真空管バッファー的なアンプである。

それ以前にも真空管の音で、CDの音を聴きやすくしようという試みはあった。
けれど新忠篤氏の、この単段アンプはより積極的に真空管、
それもウェスターン・エレクトリックの直熱三極管の持ち味を利用しているところが、
個人的にひじょうにおもしろい、と感じた。

フィラメントの点火方法などいくつか疑問に感じるところはあっても、
全体の構成として、小出力管といえる101シリーズをもってきた点は、
当時の私には思いつかなかったことである。

この新忠篤氏発表の単段アンプのころが、これら手法のひとつのピークだったように、
個人的には感じている。
もっとも個人的関心が強く影響しての、ひとつの感じ方にすぎないのはわかっている。

そんなふうに感じていたから、ラックスからD38uが登場したときは、
まだ続いていたんだ、と驚きと呆れが半分綯交ぜでもあった。

D38uのフロントパネルにはレバースイッチがあり、
これでvacuum tubeとsolid stateが切り替えられる。

vacuum tubeを選択すると、
通常のアナログ出力段のあとに真空管(ECC82)のバッファーが挿入された音を聴くことになる。

Date: 9月 2nd, 2017
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その20)

ステレオサウンド 43号の「真贋物語」、
「(三)貪欲」と見出しがついたところを引用したい。
     *
 これも料理店の主の話であるが、一流の店に奉公して四十歳で独立し、花柳界の中で仕出し専門の店を開業した。永年叩き上げた板前だから、この人の作るものは優れている。私はよくその人に誘われて旅に出たし、料亭を廻って食べ歩かされた。腹が減ると、どんな店へでも入って、この人の口にはとても合うまいと思うものでも全部残らず食べる。
 まずいものでもみんな食ってみないとわからないし、作った人に無礼である、といって、暫くして「まずかった」と笑ってみせる。納得して口に出す。最高の味作りのできる人がこれである。
 だし巻きと伽羅蕗だけの弁当を旅に出た車中で相伴に預ったが何とも美味であったのが忘れられない。前夜親方が店をしめてから独りで作ってくれた逸品である。
 この人も徹底的に吝(けち)であったから、その技まで弟子にも倅にも残さず死んでいってしまった。あれほどの名人であったのに私を連れて食い漁ったのは屹度自分の作ったものより旨いものがあったら、という恐怖と興味が錯綜していたのだろう。
 永年修業して確固として自分の味を既に持っているのだから、おいそれと変えられる筈もないし、またそうあっては困るのだが、若しやという不安にかられる処に私は惹かされる。自信と不安、名人になるほどそれは苛まれる。
 自惚の強いということは他人を蔑むことでは決してない。もっと自惚れたいから他人の仕事を見たいのである。欠点を指摘したいのではなく優れた点を採り入れたい一心である。しかし実行するには相当の努力を必要とする、というのは真似が赦されない立場にあるのが名人であり、自分で自分をその座につかせてしまっているからである。
 個性を喪失させたくないのと、自分の鼻についた個性への嫌悪との葛藤に苦しむことは、この道に限らず名人の業である。
     *
最初に読んだ時はわからなかったが、
ある程度経ってから読みなおしてみると、
伊藤先生自身のことだと気づく。

いまこうやって書き写していても、そう感じる。
だから、この人の作るアンプと同じモノを作れるようになりたいと思ったのだった。

Date: 8月 29th, 2017
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その19)

《他人(ヒト)とは違うのボク。》

岩崎先生が、ステレオサウンド 31号から始まったAUDIO MY HANDICRAFT、
「CWホーン・スピーカーをつくる」の中で二回くり返されているのが、
《他人とは違うのボク。》である。
     *
 オーディオに限ったことではないが、どんな趣味においても、自分の手で創るということでの喜びは大きい。しかし、もっと重要で意義あるのは、その喜びだけでなく、趣味そのものに対しての理解が深まり、非常に広く、深く、熱いものになる。それは物をみる眼、考えるところが深く、徹するところから出てくるものだ。創ろうとするところには、通り一辺の知識ですまなくなり、すみずみまで眼を光らせ、僅かも聴き逃さしと耳をそば立てる。つまり物に接するのに緊張度がまるで違う。
「オリジナルまたは原形」のすべてを知り尽しておこう、という意識が強く働くからだ。
 自作する側の内側には、少なからぬ経済的な理由が内在するのは常だ。良いものは高価だし、そんなに高くては買えない。しかし人並みに、あるいは人以上に良いものが欲しい。それが自作をうながす大きな力となる。
 だがもうひとつの理由、それこそ自作派の大義名分だ。
 他人(ヒト)とは違うのボク。
 これである。みんなと同じものを持つのは味気ない、というところからスタートする。実際にはどうかというと、昨日まで皆と同じものでないと気になって仕方なかったのに。いわく、全段直結OCLからはじまって、DD(ダイレクト・ドライブ)プレーヤー、ソフト・ドーム……。ひと通り判ったが、そのつもりになったときにある限界を感ずる。そしてそこに到達する。
 他人とは違うのボク。
 それからアンプは真空管になり、古典的なアンティック真空管を追いまわし、時代がかった古き良き時代の、といってもステレオ初期ぐらいの高級パーツ、超大型システムを目標と選ぶ。理由は他人の持っていない稀少価値。
 ここらあたりが、自作派と懐古趣味的収集派との分岐点になる。積極的で技術に強い、あるいは強くなりたいと願い、技術志向が強く、労をいとわず少々の冒険も辞さない。それが自作派だ。
     *
他人とは違うのボク。
確かにオーディオの自作の理由、大義名分はこれである。

これは私の裡にもある。
にも関わらず、伊藤アンプを前にすると、
それが写真であっても、そっくり同じもの、同じ佇まいのアンプを作りたい、と思う。

他人とは違うのボクではないわけだ。
伊藤先生のアンプと同じアンプを作れるようになりたい気持が、
そこをうわまわる。

Date: 8月 29th, 2017
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その18)

伊藤先生は、なにか特別な、アクロバティックな配線を駆使してアンプを作られているわけではない。
オーソドックスなやり方をひとつひとつ丁寧にこなされてのアンプ作りのように感じている。

ならば、サウンドボーイに載っている工程をひとつひとつ丁寧にじっくりとやっていけば、
同じアンプが作れるはずではないか、
そう思われる人は、伊藤アンプのどこを見ているのか、と問いただしたくなる。

同じようなアンプ、似たようなアンプは作れるだろう。
きちんと動作もするアンプは作れる。

けれど、あの佇まいは出せない、とおもう。

サウンドボーイの記事を作った担当者のOさんは、
伊藤先生の300Bシングルアンプを、デッドコピーした人である。
そっくり作るだけの腕を持っていたし、
岡先生のマランツのModel 1を見事にメンテナンスした人でもある。

そのOさんでも、伊藤先生のコントロールアンプは作れない、と悟り、
伊藤先生にお願いして作ってもらった、という話を本人からきいている。

そうだろうな、と思う。

伊藤先生のコントロールアンプも、特別なことは何もされていない。
空中配線などという、特殊なことは何ひとつない。

ひとつひとつの作業をきちんとこなしていけば、これも完成するはずである。
でも、それは理屈にしかすぎない。
理屈だけでは、伊藤先生のアンプはマネできない。

Date: 8月 29th, 2017
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その17)

上杉先生のKT88プッシュプルアンプはモノーラル仕様、
伊藤先生のEL34プッシュプルアンプはステレオ仕様。

まずこの違いがある。
この違いは、製作難度の違いに直結している。

けれど上杉先生のアンプと伊藤先生のアンプの内部をみたときに感じたことの違いは、
そういうことに関係しての違いではなかった。

伊藤先生の真空管アンプは、1977年ごろ、
無線と実験に発表されているEdプッシュプルアンプ(固定バイアスのほう)を見ている。
このアンプに、一目惚れした。

このEdのアンプはモノーラル仕様だった。
佇まいに、それまで見てきた自作の真空管アンプとは別モノなのを、中学生の私でも感じた。
その後に、さらに多くの真空管アンプを見てきたが、いまもこのおもいはかわらないどころか、
より強くなっていくばかりだ。

それでもEdのアンプは、もしかすると十年後、二十年後には、
同じモノが作れるのではないか、そうおもわせてくれるところもあった。

EL34のアンプは、まったくそういうところがなかった。
記事そのものの情報量は、圧倒的にサウンドボーイ掲載のEL34のアンプの方が多い。
無線と実験掲載のEdのアンプのほうは、モノクロの、細部のはっきりしない写真だった。

EL34のアンプは、丹念に読み、写真を見ていけば、学ぶことは実に多い。
気づくこともけっこうある。

記事では、伊藤先生は息をするようにワイアリングしてハンダ付けされているように見える。
日々の営みとして、あのアンプが完成されていく。
その境地に達することができないことを、そのときすでになんとなくわかっていたのかもしれない。

Date: 8月 28th, 2017
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その16)

以前のステレオサウンドには自作記事もときおり載っていた。
私が最初に買った41号には、上杉先生のKT88のプッシュプルアンプの製作記事、
45号には、このKT88のパワーアンプとペアとなるコントロールアンプの記事があった。

43号では、神戸明氏のスピーカーエンクロージュア(エレクトロボイスのBaronet)の製作記事、
その他にもいくつもの自作記事が載っていた。

41号のKT88k パワーアンプの記事は、
「リアルサウンド・パワーアンプをつくる」と題されていた。
43号のコントロールアンプの記事は、
「最新のテクノロジーによる真空管式ディスク中心型プリアンプをつくる」だった。

どちらも実体配線図がついていた。
シャーシー加工は初めての人、道具が揃っていない人にとっては、
けっこうハードルが高いだろうが、シャーシーはステレオサウンドが限定で販売していた。

なので、あとはハンダ付けを丁寧にやっていくのであれば、
ほぼ同じアンプが出来上る、ともいえる。
決して難しい、とは思わせない製作記事だった。

1980年代、ステレオサウンドにはサウンドボーイという弟分の月刊誌があった。
1981年8月号のサウンドボーイに伊藤先生のEL34プッシュプルアンプの記事が載った。

「伊藤流アンプ指南」とついていた。
副題には、
「誰でも作れそうなアンプの、やさしくない作り方」とつけられていた。
そして「心得篇」となっていた。

全ページカラーで、写真の点数も多い。
三号にわたって掲載されていた。
製作中の写真も多かった。これは有難かった。

いままでにない製作記事のつくり方でもあった。
でも、これは副題には「誰でも作れそうな」とあるが、
どうみても、そうではないことは、すぐにわかる。

Date: 8月 12th, 2017
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その15)

ここで書きたいのは、
先日別項『オーディオと「ネットワーク」(post-truth・その2)』で書いたこととかぶってくる。

何を求めて、真空管アンプを自作するのか。
結果という、いわば答だけを求めての自作をやる人が増えているのか。
少なくとも、そういう人は、伊藤先生がいわれたように最初から300Bで、ということになる。

最良の結果(答)のみが欲しいのであれば、
ラジオ球などのプッシュプルアンプを最初に、
それからステップアップしていく過程など、時間と手間と、費用の無駄ということになるだろう。

その過程をいやというほと経験しているからこそ、
300Bの優秀さ、それだけでなく有難味が心底わかるというものである。

昔はお金を出せば300Bが手に入るというわけではなかった。
ウェスターン・エレクトリックの製品、部品を手に入れたくとも、
入手困難というか無理という時代があった。

お金さえ出せば……、というふうになってきたのは、ここ二十年くらいではなかろうか。

なぜ自作をするのか。
その問いが理由といえよう。

問いを求めての行為だと、私はおもう。
もちろんそこには音という結果(答)もついてくる。

ついてくるからこそ、見極めてほしい。

Date: 8月 12th, 2017
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その14)

私がオーディオに興味を持ち始めた1976年よりも、
おもしろいことに、いまの方が真空管アンプを作っているメーカーの数は圧倒的に多い。
当然、真空管アンプ自体の数も増えている。

価格もそうとうに安いモノから、そうとうに高価なモノまではと、
以前よりもその差はそうとうに大きくなっている。

つまりいまの真空管アンプは、それだけ玉石混淆といえるわけで、
安いモノの中には、どうしたらこの値段で売れるのか、と考えてしまうほど安価なモノがある。

自作のメリットのひとつに、よく安く手に入れられる、ということが挙げられる。
これなど本当に疑問で、よくよく考えてみれば、安く手に入れられるわけでもない。

中国製の真空管アンプの安さは、自作の経験のある人からみれば驚きでもある。
秋葉原で売っている部品を、安価な部品だけで揃えたとしても、
あそこまで安く仕上げられるわけではない。

もっとも中国製真空管アンプの中に、真空管は飾り(ヒーターだけ点火している)で、
実際の増幅はOPアンプ、パワーICというモノもある、ときいている。

そんな見せかけだけの真空管アンプは別として、
ただ真空管アンプを安く手に入れたいのであれば、
自作するよりも中国製を買った方がいい、ともいえる。

ここは昔とは違ってきている。
そういう状況の中で、初心者が真空管アンプを自作することの意味を、
6L6を使った五極管シングルアンプ製作は初心者向き、とすすめる人は、
どう考えているのか、それともまったく考えていないのか。

自作するのは、自分だけのモノが手に入る、という人がいる。
確かに設計から製作まで行えば、その人だけのモノといえるが、
ここでテーマにしているのは初心者が初めて製作する真空管アンプである。

Date: 8月 12th, 2017
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その13)

ここまで書いてきても、私は五極管シングルアンプの製作が、
初心者向きとは思えない。
しかも6L6系の五極管を使ってのシングルアンプを、
初心者向きです、とすすめている発言を見ると、
この人は、ほんとうに自分でアンプを作ったことがあるのか、と疑いたくなる。

まさか作った経験もなしで、初心者向きと、初心者に対してすすめているのか。
作ったことがあるとしても、キットを一台程度だとしたら、同じようなものだ。

誰にも最初はある。
真空管アンプを自作しようとする場合も、必ず最初がある。
その最初のアンプに、どういうアンプを選択するのか。

伊藤喜多男先生が、以前いわれていた。
「最近では、いきなり300Bでアンプを作る人がいる」と。
でも300Bという真空管のよさを知るには、それ以外の真空管でのアンプ作りが求められる。
経験とはそういうものだ。

自作とは、本来そういうもののはずだ。

私は初めて作る真空管アンプならば、
その1)で書いているように、
いわゆるラジオ球を使ったプッシュプルアンプをすすめる。
回路はアルテック回路、ダイナコ回路と呼ばれるものがいい。

電圧増幅管には五極管と三極管をひとつにした複合管が、アルテック回路では使われるが、
いまでは複合管の品質のいいものを探すのはたいへんだから、双三極管でいい。

初段で増幅して、P-K分割の位相反転回路、そして出力段。
使用する真空管は、片チャンネルあたり三本。
プッシュプルだからチョークコイルを省略してもいい。

月並ではあって、このアンプが初めて作る真空管アンプとしては向いている。
この選択を、6L6のシングルアンプをすすめるような人は、古い、というかもしれないが、
初心者向きに、古いとか新しいとかは重要なことだろうか。

Date: 7月 30th, 2017
Cate: 真空管アンプ

真空管の美(その7)

現代の真空管アンプというイメージは、
懐古趣味ではない真空管アンプということなのだろうか。

いまアナログディスクブームと、一般でもいわれている。
そしてアナログディスクの音は、あたたくてやわらかい、
デジタルのように無機的でつめたくはない、
そんなこともいっしょにいわれることがある。

同じように、真空管アンプの音は、あたたかくてやわらかい、といわれることがある。
真空管のヒーターのともりぐあいが……、ということもいっしょに語られることがある。

井上先生が1980年代にいわれていたことは、
日本での、あたたかくてやわらかい、という真空管アンプの音のイメージは、
ラックスのSQ38FD/IIによって生れてきたものだ、だった。

他のメーカーが真空管アンプの開発・製造をやめていくなかにあって、
ラックスは真空管アンプを作り続けてきた。
SQ38シリーズだけでなく、コントロールアンプもパワーアンプも、
さらにキット製品でも真空管アンプを提供しつづけてきていた。

なにもSQ38FD/IIが当時のラックスの唯一の真空管アンプではなかったけれど、
真空管アンプといえばラックス、ラックスの真空管アンプといえばSQ38FD/II、
そのくらいSQ38FD/IIの存在は、大きいというより独自の感じがあった。

それだけに真空管アンプの音として、
SQ38FD/IIの音が浮んでしまうのは仕方ないことだったのかもしれない。

SQ38FD/IIがつくってきたあたたかくてやわらかい、
そういう音から離れた音の真空管アンプを、現代の真空管アンプというのなら、
おかしな話である。