background…(ポール・モーリアとDitton 66・その1)
ポール・モーリアの音楽はイージーリスニングとして捉えられることがもっぱらだ。
だからといってポール・モーリアの音楽が、
常に、誰にとってもイージーリスニングな音楽であるわけではない。
たとえばセレッションのDitton 66というスピーカーシステムがある。
トールボーイのフロアー型で、30cm口径のウーファーに同口径のABR(パッシヴラジエーター)、
スコーカーは5cm口径、トゥイーターは2.5cm口径のドーム型の3ウェイである。
瀬川先生は、このスピーカーシステムを高く評価されていた。
ステレオサウンド 43号(ベストバイ)では、こう書かれている。
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仕事先に常備してあるので聴く機会が多いが、聴けば聴くほど惚れ込んでいる。はじめのうちはオペラやシンフォニーのスケール感や響きの自然さに最も長所を発揮すると感じていたが、最近ではポピュラーやロックまでも含めて、本来の性格である穏やかで素直な響きが好みに合いさえすれば、音楽の種類を限定する必要なく、くつろいだ気分で楽しませてくれる優秀なスピーカーだという実感を次第に強めている。
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Ditton 66は44号の「フロアー型中心の最新スピーカーシステム」にも登場している。
ここでも瀬川先生の評価はそうとうに高い。
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柔らかく暖かい、適度に重厚で渋い気品のある上質の肌ざわりが素晴らしい。今回用意したレコードの中でも再生の難しいブラームス(P協)でも、いかにも良いホールでよく響き溶け合う斉奏(トゥッティ)の音のバランスも厚みも雰囲気も、これほどみごとに聴かせたスピーカーは今回の30機種中の第一位(ベストワン)だ。ベートーヴェンのセプテットでは、たとえばクラリネットに明らかに生きた人間の暖かく湿った息が吹き込まれるのが聴きとれる、というよりは演奏者たちの弾みのついた気持までがこちらに伝わってくるようだ。F=ディスカウのシューマンでも、声の裏にかすかに尾を引いてゆくホールトーンの微妙な色あいさえ聴きとれ、歌い手のエクスプレッション、というよりもエモーションが伝わってくる。バルバラのシャンソンでも、このレコードのしっとりした雰囲気(プレゼンス)をここまで聴かせたスピーカーはほかにない。こうした柔らかさを持ちながら〝SIDE BY SIDE〟でのベーゼンドルファーの重厚な艶や高域のタッチも、決してふやけずに出てくるし、何よりも奏者のスウィンギングな心持ちが再現されて聴き手を楽しい気持に誘う。シェフィールドのパーカッションも、カートリッジを4000DIIIにすると、鮮烈さこそないが決して力の弱くない、しかしメカニックでない人間の作り出す音楽がきこえてくる。床にじかに、背面を壁に近づけ気味に、左右に広く拡げる置き方がよかった。
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Ditton 66は1977年当時、一本178000円のスピーカーシステムであり、
瀬川先生の評価はある程度価格を考慮してのものであるにしても、
非常に好ましいスピーカーであることが読みとれる。
43号、44号の瀬川先生の文章を読んで数年後、Ditton 66の音を聴いた。
たしかに、そのとおりの音だった。
私はいいスピーカーだと思う。
いまも程度のいいモノがあれば、それに置き場所が確保できれば手もとにおきたいスピーカーである。
けれどDitton 66は聴き手側の聴き方が変れば、その評価もかなり変ってくる。
44号では岡先生も試聴に参加されている。