background…(ポール・モーリアとDitton 66・その6)
スピーカーの前面に扉があり、
そのスピーカーで音楽を聴くには、扉をきちんとあける必要がある。
そういうスピーカーシステムであるセレッションのDEDHAMは、
ベースとなったDitton 66に、
古風な外観のキャビネットというデコレーションを施したスピーカーといえる。
けれど(その4)でも書いているように、
それはデコレーションのためだけではなくて、はっきりとデザインといえる要素でもある。
扉を開けなければ、DEDHAMではまともな音は聴けない。
では開けっ放しにしておくのか。
几帳面な人ならば、聴き終れば扉を閉める。
ずぼらな人ならば、どうだろうか。
少なくともDEDHAMを買った人、つまりはDEDHAMを選択した人ならば、
多少性格にずぼらなところがあったとしても、音楽を聴くごとに扉を開け閉めするのではないだろうか。
DEDHAMのところまで行って、扉を開ける。
当り前のことだが、左右のDEDHAMの扉を開ける。
聴き終れば、ふたたびDEDHAMのところに行き、扉を閉める。
(その5)で書いたように、DEDHAMは聴き手にある種の儀式を求める。
このことが、私がデザインといえる要素と考えるところである。
DEDHAMのアピアランスは、確かにデコレーションといえる。
けれど、そのままの状態(扉を閉じたまま)で聴けるスピーカーではないところに、
意図されたデザインを感じる。
ただそれは聴き手が扉をつねに開けっ放しにしてしまったら、
あっけなく消えてしまうはかなさももちあわせている。