background…(その4)
ポール・モーリアのLPは一時期試聴用ディスクとして使われていた、ときいたことがある。
日本での発売元であった日本フォノグラムは、いくつかのポール・モーリアのLPも、
フランスからの直輸入盤で売っていた。
どうしてそういうことをしていたのかはっきりとしないが、
ひとつは音の良さを、日本のポール・モーリアの聴き手に届けるためだったのかもしれない。
ポール・モーリアのLPを、だから試聴用に使っていた人は、
その場合は、真剣にポール・モーリアのLP(どの曲なのかはわからないが)を聴いていたことになる。
ただその真剣さは、カルロス・クライバーの「トリスタンとイゾルデ」を聴くときのそれと、
まったく同じとは言い切れないところが残る。
クライバーの「トリスタンとイゾルデ」を聴くとき、試聴ディスクとして聴いていることはない。
私の場合、クライバーの「トリスタンとイゾルデ」をオーディオのチューニングのために使ったことはない。
クライバーの「トリスタンとイゾルデ」を聴く時は、
クライバーによる「トリスタンとイゾルデ」を聴きたいから、ということになる。
試聴用ディスク、オーディオのチューニングのためのディスクとなると、
特に、そのディスクに収められている音楽を聴きたい、と思っていなくとも、聴くことがある。
ポール・モーリアのLPを試聴用ディスクとして使っていた(聴いていた)人たちは、
どうだったのだろうか。
ポール・モーリアの音楽を聴きたい気持はあったのだろうか、どれだけあったのだろうか。
そんな気持はなくとも、音がいいから、試聴に都合がいいから、という理由でだったのだろうか。
だとしたら、そこで鳴っていたポール・モーリアの音楽は、BGMということになるのか、
BGMとまでいえないまでも、そこに近いところにある、といえるのではないか。