300(その9)
テープスピードの違いによる音の変化。
38cm/secの剛から、76cm/secの柔。
こんなことを思われる人はいないだろうが、
テープスピードが38cm/secよりも遅くなったら、もっと剛の音になるかといえば、
もちろんそんなことはない。
カセットテープの音を、私は以前、ふわふわして、どこか頼りない、
不安定さを感じる──、そんなふうに書いた。
2トラック38cm/secからすると、
カセットテープは、この狭いテープ幅で4トラック、
テープスピードもそうとうに遅い。
それが9.5cm/secのオープンリール(4トラック)になると、
音は安定の方向を示しはじめる。
19cm/sec(4トラック)になれば、さらにしっかりとしていき、
同じテープスピードであっても2トラックになれば、トラック幅が約二倍になり、
このへんからようやくオープンリールテープらしい音を聴かせてくれるようになる。
カセットテープも、私が知る以前の音は、もっと頼りない感じの音だった(ときいている)。
カセットテープとデッキは、日本のオーディオメーカーが、ほぼ極限まで進歩させてきた、といえる。
メタルテープで、各社の代表的なカセットデッキでの音は、
4トラック19cm/secのオープンリールの存在をおびやかしそうなくらいのクォリティでもあった。
オープンリールの音は、だから2トラック19cm/secから、といえる。
その19cm/secから倍の38cm/secになると、オープンリールの音のひとつの極点なのかもしれない。
より安定して、確かに剛と表現したくなる音を特徴とする。
それがさらに倍の76cm/secとなると、柔となるというのは、実に興味深い。
4トラック19cm/ces以下の音は、どこか頼りなくふわふわしている。
剛とはいえない音であるが、でもそれは柔といえる音では決してない。