Date: 6月 21st, 2012
Cate: High Fidelity
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ハイ・フィデリティ再考(続×十二・原音→げんおん→減音)

スレッショルドのSTASIS1の出力段に使われている出力トランジスターの数は72個だ、とすでに書いた。
電圧増幅段に使われているトランジスター、FETの数をあわせると増幅部だけで85個になる。
STASIS1はモノーラル仕様で、1台の重量は48kg。
この規模で、200Wの出力を実現し、当時テラーク(と記憶している)のカッティング用アンプにも採用されている。

くり返しになってしまうが、
STASIS1はスレッショルド時代におけるネルソン・パスの傑作であり頂点でもあった。

このSTASIS1をつくった男が、ほぼ30年後に発表したSIT1は、STASIS1と同じモノーラル仕様であっても、
ずいぶんと規模は異るパワーアンプである。

輸入元のエレクトリのサイト、ステレオサウンド 182号の小野寺弘滋氏による記事を読めばわかるように、
SIT1に使われているトランジスターの数はわずか1。1石アンプである。
STASIS1の1/80以下である。
重量は13.1kgと、STASIS1の1/3以下である。

これらのことから想像がつくようにSIT1の出力は8Ω負荷で10Wと、STASIS1の1/20。
ちなみにダンピングファクターはSTASIS1は100以上(DC〜20kHz)となっている。
可聴帯域においてほぼフラットということは、トランジスターアンプではそれほど多くはない。
ダンピングファクター100ということは出力インピーダンスは0.08Ωということになる。
SIT1は出力インピーダンス:4Ωと発表されているから、ダンピングファクターは8Ω負荷時において2。
4Ω負荷だと、STASIS1は50以上、SIT1は1である。

こうやってスペックだけを比較していくと、
STASIS1は物量を投入したトランジスターアンプそのもの、
SIT1は直熱三極管のシングルアンプ、それも無帰還のそれ、とも思えてくる。

このふたつのアンプを、ネルソン・パスは設計している。

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