ハイ・フィデリティ再考(続×十二・原音→げんおん→減音)
スレッショルドのSTASIS1の出力段に使われている出力トランジスターの数は72個だ、とすでに書いた。
電圧増幅段に使われているトランジスター、FETの数をあわせると増幅部だけで85個になる。
STASIS1はモノーラル仕様で、1台の重量は48kg。
この規模で、200Wの出力を実現し、当時テラーク(と記憶している)のカッティング用アンプにも採用されている。
くり返しになってしまうが、
STASIS1はスレッショルド時代におけるネルソン・パスの傑作であり頂点でもあった。
このSTASIS1をつくった男が、ほぼ30年後に発表したSIT1は、STASIS1と同じモノーラル仕様であっても、
ずいぶんと規模は異るパワーアンプである。
輸入元のエレクトリのサイト、ステレオサウンド 182号の小野寺弘滋氏による記事を読めばわかるように、
SIT1に使われているトランジスターの数はわずか1。1石アンプである。
STASIS1の1/80以下である。
重量は13.1kgと、STASIS1の1/3以下である。
これらのことから想像がつくようにSIT1の出力は8Ω負荷で10Wと、STASIS1の1/20。
ちなみにダンピングファクターはSTASIS1は100以上(DC〜20kHz)となっている。
可聴帯域においてほぼフラットということは、トランジスターアンプではそれほど多くはない。
ダンピングファクター100ということは出力インピーダンスは0.08Ωということになる。
SIT1は出力インピーダンス:4Ωと発表されているから、ダンピングファクターは8Ω負荷時において2。
4Ω負荷だと、STASIS1は50以上、SIT1は1である。
こうやってスペックだけを比較していくと、
STASIS1は物量を投入したトランジスターアンプそのもの、
SIT1は直熱三極管のシングルアンプ、それも無帰還のそれ、とも思えてくる。
このふたつのアンプを、ネルソン・パスは設計している。