ハイ・フィデリティ再考(続×十一・原音→げんおん→減音)
ネルソン・パスの新しい会社パスラボラトリーズのデビュー作ALEPH 0は,
それまでのスレッショルドのパワーアンプとは外観・機構と回路ともに、
まるっきりといっていいほど異ったモノだった。
ALEPHシリーズの特色は出力段にある。
スレッショルド時代のパワーアンプの特色も出力段にあったわけだが、
ALEPHシリーズの特色とスレッショルド時代の特色は、同じ人間が考えついたものとはすぐには思えぬほど違う。
基本的にトランジスターアンプの出力段はコンプリメンタリープッシュプルである。
いわば+側のトランジスターと−側のトランジスターのペアから構成されていている。
これはほぼすべてのトランジスター式パワーアンプではそうなっている。
ごく一部例外的な回路構成のアンプがあり、そのひとつがSUMOのThe Goldであり、ALEPHシリーズである。
だからといってThe GoldとALEPHの回路構成が似ているかといえば、また異るわけだが。
現在のパスラボラトリーズのラインナップにはALEPHはなくなっている。
Xシリーズ、XAシリーズがある。
これらのシリーズの回路については不勉強でどうなっているのかについてはほとんと知らない。
ALEPHに採用された回路ではないことは確かである。
ALEPHに興味を持っていた私は、その点すこしがっかりしていたのだが、
ファーストワットからSIT1とSIT2を、ネルソン・パスは出してきた。
ALEPHの回路とSITの回路はまた異るものなのだが、
それでもこのふたつのシリーズに流れている考え方には共通したものを感じる。
そしてパスラボラトリーズのXシリーズ、XAシリーズとSITシリーズの違いは、
スレッショルドのパワーアンプとALEPHシリーズとの違いにも似ているもの感じる。
ひとりのアンプ・エンジニア(ネルソン・パス)がこれらのアンプをつくり出している。
ここにオーディオの世界の広さと奥行の深さを感じることができる。
そして個人的には、ALEPHとSITの両シリーズには、減音に関して通じるものを感じとれる。