ワイドレンジ考(その77)
また書いているのか、と思われても、
くり返し書くことになるけれど、「五味オーディオ教室」からオーディオの世界へとはいっていった私には、
タンノイのオートグラフは、そのときからずっと、
そして(おそらく)死ぬまで憧れのスピーカーシステムでありつづける。
タンノイの前身であるTulsemere Manufacturing Companyは1926年の創立だから、
あと14年で創立100年の歴史をもつタンノイのスピーカーシステムの中でいちばん欲しいのはオートグラフであり、
これから先どんなに大金を手にしようと、オートグラフを迎えるにふさわしい部屋を用意できようと、
おそらく手に入れずにいるであろうスピーカーシステムもオートグラフである。
特別な存在であるオートグラフを除くと、
私が欲しいと思うタンノイのスピーカーシステムは、
タンノイ純正ではないから、いささか反則的な存在ではあるけれど、
ステレオサウンドが井上先生監修のもとで製作したコーネッタがある。
現行製品の中ではヨークミンスター/SEはいい出来だと思っている。
このふたつのスピーカーシステムを欲しいと思う気持とはすこし違った気持で「欲しい」と思うのは、
やはりKingdomである(それも最初に登場した18インチ・ウーファーのモノ)。
このKingdomこそが、オートグラフの後継機種だと考えているからだ。
オートグラフの後継機種はウェストミンスターではないか、と思われるだろう。
たしかにウェストミンスターは、オートグラフの形態的な後継機種とは呼べるものの、
オートグラフが1953年に登場したとき実現としようとしていたもの、目指していたもの、
こういったものの方向性は、オートグラフとウェストミンスターとではやや違うように感じているからだ。
オートグラフは1953年の時点で行き着けるであろう最高のところを目指していた。
そのための手段としてバックロードホーンとフロントショートホーンの複合ホーン、
さらにコーナー型という複雑なエンクロージュアを採用することになったのではないか。
菅野先生が以前からいわれているように、
スピーカーシステムは同時代の録音と同水準のものそなえることが理想的条件のひとつである。
周波数特性(振幅特性だけでなく位相特性もふくめての周波数特性)、ダイナミックレンジ、リニアリティ、
S/N比……、こういったことをベースとしての音色、音触などいったことを含めての、
つねに同時代の録音に対するタンノイの答が、
1953年はオートグラフであり、それから約40年後はKingdomである。
ウェストミンスターは、オートグラフと同じ要求に対する答ではない──、
私はそう考えている。
だからオートグラフの後継機種といえるのは、ウェストミンスターではなくKingdomであり、
私がKingdomを「欲しい」と思っている理由は、まさにここにある。