SOUTH PACIFIC(その2)
“SOUTH PACIFIC”をアルテックのスピーカーで、一度でいいから聴いてみたい。
ステレオサウンド 60号を読んだ人ならば、そう思われた方も少なくないはずだ。
その音で、日常的に詩文の好きな音楽を聴きたいと思うわけではないけれど、
それでも聴いてみたい、というよりも聴いておきたい音というのがある。
とはいえアルテックのA4で“SOUTH PACIFIC”というのは、叶わぬこととあきらめてもいた。
60号に登場するA4のシステム構成は次の通り。
エンクロージュアは210、ウーファーは515Eのダブル、
ドライバーは288-16K、ホーンは1005Bにスロートアダプター30210を組み合わせたモノ。
ネットワークはN500FAである。
210エンクロージュアには両サイドに補助バッフルがつく。
その際の外形寸法は、W205×H213×D100cm。
この210の上に大型のマルチセルラホーンがのるわけだから、
はっきりと劇場用のスピーカーシステムである。
かなりの大型スピーカーシステムを縦いに持ち込む人が多い日本でも、
A4を自宅で聴いています、という人は、どれだけいたのだろうか。
60号に掲載されているザ・スーパーマニアには、
A4をお寺の本堂に置かれている方が登場しているが、
それでも高さ的にはA4が窮屈そうにみえる。
60号の特集の試聴で使われたのは、ステレオサウンド試聴室ではなく、
54畳ほどのかなり広い空間である。
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瀬川 ただ、幸か不幸か、日本の住宅事情を考えますと、きょうはここは54畳ですね。ここでA4を鳴らすと、もうA4では部屋からはみ出しますね。大きすぎる。A5になって、どうやら、ちょうどこの部屋に似あうかな、でも、もうすこし部屋が広くてもいいなという感じになってくるでしょう。
ただ現実にはわれわれ日本のオーディオファンは、A5を6畳に入れている人が現にいますよね。一生懸命鳴らして、もちろん、それはそれなりにいい音が出ているけれども、きょうここで聴いた、この開放的な朗々と明るく響く、しかもなんとも言えないチャーミングな声が聴こえてくる。このアルテック本来の特徴が残念ながら、われわれの部屋ではちょっと出しきれません。どんなに調整しこんでも……。
逆に菅野さんが言われたように、このシリーズはクラシックが鳴りにくいと言われた、それがむずかしいと言われた。むしろ6畳なんかでアルテックを鳴らしている人は、そっちのほうに挑戦してますね。
つまり、このスピーカーは、ほっとくとどこまでも走っていきたくなるあばれ馬みたいなところがある。そこがまた魅力でもあるんだけれども、そこをおさえこみ、おさえこみしないと、6畳ですぐそばじゃとっても聴けないですね。そこをまたおさえこむテクニックはたいしたものだと、ぼくは思います。実際、そういう人の音をなん度も聴かせてもらっているけれども。
でも、それが決してアルテックの本領じゃない。やっぱり、アルテックの本領は、この明るさ、解き放たれた自在さ、そしてこれは今日的なモニタースピーカーのように、原音にどれほど忠実かという方向ではないことは、このさい、はっきりしておかなくちゃいけない。物理的にどこまで忠実に迫ろうかというんじゃなくて、ひとつの音とか音楽を、ひとりひとりが心のなかで受けとめて、スピーカーから鳴る音としてこうあってほしいな、という、なにか潜在的な願望を、スッと音に出してくれるところがありますね。
実にたのしいと思うんです。この音を聴いてても、ぜったい原音と似てないですよ。だけど、さっきサウンド・トラック盤をかけた、あるいはヴォーカルをかけた、あのときの歌い手の声の、なんとも言えず艶があって、張りがあって、非常に言葉が明瞭に聴き取れながら、しかも力がある。しかし、その力はあらわに出てこない。なんともこころよい感じがする。
あの鳴り方は、これぞ〈アメリカン・サウンド〉だ、と。
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「たのしい」とある。
この瀬川先生の「たのしい」は、この後にも出てくる。