耳はふたつある(その2)
マイクロフォンを聴取位置に立てる。
けれど聴取位置とは正確にはどこなのか。
右耳の位置なのか、左耳の位置なのか。
右耳と左耳の中央なのか。
マイクロフォンを使った測定の経験のある人ならば、
マイクロフォンの位置がわずか違っただけでも、測定結果が同じにはならないことを知っている。
それは右耳の位置、左耳の位置の違いでもはっきりと出る。
しかも音は右耳と左耳の両方に入ってくる。
たとえ右側のスピーカーだけで音を出していても、
右側のスピーカーの音は右耳にしか入ってこない、ということは現実にはあり得ない。
右側のスピーカーの音は左耳にも、ほんのわずかな時間差で入ってくる。
左側のスピーカーの音は左耳だけでなく、右耳にも入ってくる。
ということは右側のスピーカーの測定を行う場合、
人が音を聴くのに近づけるには、マイクロフォンを二本使う、ということになる。
マイクロフォンを二本使っての測定は、ずいぶん以前に岩崎先生が述べられている。
週刊FMに連載されていた「カタログに強くなろう」に、こうある。
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前置きが長くなったが、スピーカーの特性を前にすると、アンプと違って山や谷が細かく続き、さらに全体にまたがって大きな起伏がいくつもある。
これは横の目盛が周波数で、縦の高さがそれに応じた音響出力だ。細かい山や谷は、周波数がわずかずれると出力が大きくなったり、小さくなったりするということを意味する。
これは簡単な構造のようにみえるスピーカーの振動板が、実は細かい部分部分がそれぞれ別々の動き方をしているため、マイクとスピーカーの距離によってその各部の出力が、相加わったり打ち消し合ったりして、出力が増えて山になり、減って谷ができるわけ。
ところで、そうした細かい山や谷は、実は耳で聴いたところほとんど気にならない。それは測定上の条件からできる山や谷であるからだ。もしスピーカー前方のマイクの位置を少しずらせば、山や谷のできる周波数もまた少しずれてくる。
だから人間の耳のように約一六cm離れた二つのマイクで測定してこれを合成すると、山や谷はほとんどなくなって、特別の理由でできた山や谷と、全体の大きな起伏とがはっきりした形となり、それが音の傾向を物語るデータとなる。
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マイクロフォンを人間の耳のように離して立てる。
ならばダミーヘッドを使うという手もある。