ロングランであるために(その12)
1970年代も終り近くになったころ、
日本のオーディオメーカーは、コンデンサーや抵抗、ケーブルといった部品(受動素子)による音の変化を認め、
積極的に「音の良い部品」を選び採用することから一歩進んで、
部品メーカーと共同であったり、または自社開発で、オーディオ専用部品を開発するようになっていた。
こまかくあげていけばいくつもあるけれど、
私と同年代、または上の世代の方ならば一度は耳にされている部品としては、
オーレックスが全面的に採用したΛコンデンサーがあり、
パイオニアが、独自の無帰還アンプのZ1シリーズに採用したガラスケース入りの電解コンデンサーがある。
Λコンデンサーは当時のオーディオ雑誌に試聴記事が載っていたくらいだから、
一般市販もされたのではないだろうか。
当時は私はまだ上京していなかったから見かけることはなかったけれど、
秋葉原では流通していたのだろうか……。
ガラスケース入りの電解コンデンサーは、市販されなかったはず。
オーレックスとパイオニアだけ例に挙げたが、
各社それぞれ積極的にオーディオ専用部品を開発していた、と思う。
そのころ高校生だった私は、素直にすごいことだと受け止めていた。
それらの部品がほんとうに優れた音質を実現してくれるのにどれだけ役立っているのかはなんともいえないけれど、
そこには他社との差別化という理由もあるだろうが、
各メーカーの意気込みも感じられるのだから、オーディオはある時代、ベンチャービジネス的だったようにも思う。
いまでもこれらの部品がさらなる改良を加えられていたら……、と思うこともある。
けれどこれらのオーディオ専用部品の大半は消えていってしまった。
もちろんなんらかのかたちで、それらの部品開発がもたらしたものが、
現行の部品に活かさされているのだろうとは思っても、一抹の淋しさは否定できない。
そう、これらのオーディオ専用部品は消えていった……。
ということは、これらのオーディオ専用部品を積極的に採用したアンプをいま修理しようとしたとき、
しかもそれらの部品が不良となった故障の場合、
どのメーカーも、これらオーディオ専用部品をストックはしていない、と思われる。