オリジナルとは(その27)
ダグラス・サックスへのインタヴュアーは、こんな質問もしている。
「ある人が莫大な資金をあなたに提供してレコード再生システムを改良するとしたら、どうやるか」と。
彼の答は、「レコード面に接触しないで再生する方法」である。
光学的に音溝をトレースして情報を読みとり電気信号とするもの。
この時点(1980年)では夢物語に近かった、この光学式プレーヤーも、いまや実現されている。
しかも登場したころ100万円をこえる、かなり高額だったものが価格的にも抑えられた機種も登場している。
ダグラス・サックスは、エルプの光学式プレーヤーをどう評価しているのか、知りたいところである。
なぜ彼は光学式だと答えているのか。
その理由については語られていないけれど、
従来の、ダイアモンドの針先で音溝を直接トレースして、
その振動を電気信号に変換して増幅・イコライジングという方法では、
再生機器の能力はカッティングレースの能力をこえることができないからだ。
だから彼は「ベターの段階でとどめておくべき」だと発言している。
機械式に音溝を読みとっていくかぎり、振動の問題から解放されることはない。
振動があれば共振の問題がある。
特にトーンアームの低域共振の問題は、トレース能力に大きく関係してくる。
もしカッティングでの限界である8Hzという低い周波数の音が大振幅でカッティングしてあったら、
どんなカートリッジ、どんなトーンアームをもってきても、まず完全なトレースは不可能であろう。
共振の問題からのがれるには光学式ということになる。
光学式はたしかに多くの技術的なメリットを持っている、と思う。
でも、心情的にはアナログディスクの再生は、
いままでどおりカートリッジでトレースして、の方式に惹かれるし、
アナログディスク再生の面白さは、こちらにあると感じている。
アナログプレーヤーの在り方について考えるのであれば、こういったレコードの事情を充分に考慮した上で、
アナログプレーヤーにおける「オリジナル」とは何か、について考えていく必要がある。