Date: 12月 31st, 2008
Cate: Kathleen Ferrier, 快感か幸福か
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快感か幸福か(その4)

1年の最後に聴くディスクは、決めている。
カスリーン・フェリアーのバッハ/ヘンデル集である。
1985年に復刻されたCDを、いまでもずっと持ちつづけて聴いている。

このディスクだけは手離さなかった。
オーディオ機器も処分して、アナログディスクもCDも処分したときでも、
このディスクだけは手もとに残しておいた。

持っていたからどうなるものでもなかった。
聴くための装置もないし、ただもっているだけにすぎないのはわかっていても、
このディスクを手放したら、終わりだ、そんな気持ちがどこかにあったのかもしれない。

人の声に、神々しい、という表現は使わないものだろう。
でも、このディスクで聴けるフェリアーの声は、どこか神々しい。
いつ聴いても神々しく感じる。

厳かな時間がゆっくりと流れていく、とは、このことをいうのかと聴いていて思う。

23年間所有しているディスクだけに、ケースはキズがつきすこし曇っている。
けれど、ディスクにキズはひとつもない。

フェリアーのバッハとヘンデルを聴く時は、これから先もこのディスクで聴いていく。
いくら音が格段によくなろうと、PCオーディオにリッピングして聴くことは、
フェリアーの、この歌に関しては、ない。

愛聴盤を聴き続けていく行為とは、そういうものである。
だからこそ、愛聴盤になっていく。

いろいろあったし、これからもいろいろあるだろう。
でも、1年の終わりに、フェリアーをじっくり聴けるだけで、幸福というしかない。

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