ワイドレンジ考(その55)
菅野先生が、ウェストミンスターは60Hz以下の低音は諦めている設計だと言われた理由も、
菅野先生に「なぜウェストミンスターは、あんなに大きいの低音が出ないのか」と相談された方がそう感じた理由も、
ウェストミンスターのバックロードホーンが受け持つ、この構造ならではの量感の独特の豊かさが、
実のところ、それほど低い帯域まで延びていないためだと思っている。
ウェストミンスターが、もしオートグラフと同じコーナーホーン型であったら、
あの豊かで風格を築く土台ともなっている低音は、もう少し下まで延びていく、と考える。
でもウェストミンスターはエンクロージュアの裏側をフラットにして、コーナーに置くことをやめている。
コーナー・エフェクトによる低音の増強・補強を嫌った、ともいえる。
その結果として、ウェストミンスターはオートグラフよりも、使いやすくなったスピーカーシステムといえる。
堅固なコーナー、しかも5m前後の壁の長さを用意しなくてもすむ。
設置の自由度もはるかに増している。
ステレオサウンドの試聴室ではじめてウェストミンスターを聴いたときも、
五味先生のオートグラフとの格闘の歴史を、何度もくり返し読んでいただけに、
拍子抜けするほどあっさりと鳴ってくれたのには、驚いた。
これがスピーカーの進歩かもしれないけど、反面、物足りなさも感じていた。
オートグラフでは、まず設置の難しさがある。
それだけに理想的なコーナーと壁を用意できれば、
あの当時のスピーカーシステムとしては低域に関してもワイドレンジだといえる(はずだ)。
ウェストミンスターは、そんな設置の難しさはない。
それだけに低域に関しては、ワイドレンジとはいえないところがある。
このことは、私にとって、以前「タンノイ・オートグラフ」で書いたこと、
オートグラフはベートーヴェンで、ウェストミンスターはブラームス、ということにつながっていく。