Archive for category ロマン

Date: 3月 29th, 2015
Cate: ロマン

オーディオのロマン(その8)

自転車店めぐりの最初の店であり、私がロードバイクを購入した店は、
東京・芝大門にあるシミズサイクルだ。

20年前はいまのような自転車ブームではなかった。
自転車店はずっと少なかった。それでもシミズサイクルよりも大きな店はいくつかあったし、
同じモノがもっと安く買える店もあったし。
それでもシミズサイクルで買おう(何を買おうとは決めてなかった)と思ったのは、
この店が、自転車を差別しない店であったからだった。

ある大型店でのことだった。年輩の人が調子の悪くなった自転車の修理を店員に依頼していた。
その店の店頭には、当店はプロショップだから、一般自転車は販売していないし修理しない、と貼紙があった。

若い店員は口もきかずに、その貼紙を指さすだけだった。
年輩の人はよく事情がわからず、何度か頼んでいたし、どこか修理できるところはないかときいてもいた。
それでも若い店員は貼紙を指さすだけだった。

彼は雇われの身であるから、店の方針には逆らえないのはわかる。
けれど、問題はその対応だ。
きちんと言葉で説明すればいいだろうし、
その店で修理は受け入れられないのなら、他の店を教えるくらいのことはできたはずなのに、
貼紙を指さすだけなのをみて、この店で買うのは絶対にしない、と思った。

私はそう思ったけれど、その店はいまも繁盛しているようだ。
そんなことがあったから、最初の店、シミズサイクルにしようと決めた。

シミズサイクルに展示してあるフレーム中から、サイズと予算に合うモノを選ぶつもりで、
再度この店を訪れた。
そして、完成車として展示されていたデ・ローザのフレームともう一度出逢ったわけだ。

フレーム単体でみていた時よりも、ずっと映えてみえる。
細部の仕上げは、もっとていねいな仕事をしているフレームがある。
それでも、これにしよう、と決めた。サイズもぴったりだった。

いい買物をした、と思う。
そして、デ・ローザを選んだとは思っていない、運良く出合えたと思っている。

Date: 3月 29th, 2015
Cate: ロマン

オーディオのロマン(その7)

1995年の5月に、はじめてのロードバイクを買った。
買う前には、当然いろんな情報を収集した。
当時はまだインターネットをやっていなかったし、
やっていたとしてもいまのようにブログやSNSが普及していたわけではないから、
結局は自転車雑誌が情報収集のメインとなる。

自転車店もいくつも廻った。
何かを買うかも重要なことだけど、それと同等かそれ以上にどこで買うかも重要だと考えてのことだった。
そのために自転車雑誌の記事だけではなく、広告も丹念に見ていた。

予算はそれほどなかったし、初めてのロードバイクだから、
いきなり最高級のモノを手にしようとは考えていなかった。
候補はいくつかに絞られた。

ただ自転車のフレームが、オーディオのスピーカー選びと異るのは、
サイズの問題がある。
どんなに優れたフレームでもサイズが合わなければ、その人にとっていいフレームとはいえない。
自分の欲しいフレームで、自分に合ったフレームのサイズでなければならないこともあって、
とにかく東京都内、神奈川、埼玉の自転車店をいくつも廻ったものだった。

そんな数ヵ月を過ごして購入したのはデ・ローザ(DE ROSA)のオレンジ色のフレームだった。
このフレームは、自転車店めぐりをはじめた最初の店にあったモノだった。
目にはついていた。
けれどオレンジ色がそんなに好きではなかったし、デ・ローザのこの時代のフレームは武骨だった。
もっと洗練されたフレームが欲しいと思っていたから、まったく気にも留めなかった。

いろんな店を廻って数ヵ月後、再び最初の店を訪れた。
そのとき、オレンジ色のフレームは、完成車として展示されていた。
「これだ!」と感じた。

Date: 1月 30th, 2015
Cate: ロマン

オーディオのロマン(その6)

オーディオ雑誌やインターネットでの情報、
それからオーディオ店での試聴などなど、
ありとあらゆる情報を選択のために集める。

これはこれで楽しい行為である。
これ自体が趣味といえるのかもしれない。

気になっているモデルの情報をどれだけ集められるか。
集めた情報をどう取捨選択していくのか。
候補がいくつかあれば、情報収集とその取捨選択はもっと面白くなる。

これはオーディオの楽しみ方のひとつであり、
私はこれを自転車でよくやっている。
買えるとか買えないとかはあまり関係なく、この行為自体が楽しいからである。

そんなことをやりながらも、買いたいと思うフレームは、
そうやって情報収集・取捨選択をやっているフレームとは、まったく違っていたりする。

なのに、なぜそんなことをやっているのか。
無駄な行為としか思えないことをやるのか。

もちろん欲しいと思っているフレームについての情報も集めないわけではない。
かなり積極的に集める方だと思う。

でもそれ以上に、他のフレームに関して情報収集をするのは、もう趣味だから、としかいいようがない。
あえて理由をつければ、現在入手できるフレームの中で、もっとも理想に近いと思われるモノはどれなのか、
それを知りたいからなのかもしれない。

Date: 2月 26th, 2014
Cate: ロマン
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オーディオのロマン(その5)

瀬川先生が、以前こんなことを話されていたのを思い出している。

女性の出逢いについて、だった。
その人にとって、ある女性が運命の人であるならば、
その女性がたとえぼさぼさ頭で化粧がうまくいってなかったり、
元気がなかったりしていたとしても、逢った瞬間にインスピレーションで、
運命の人であると感じるものだ。
スピーカー選びも同じだ、と。

そんなことをいわれた。

五味先生にとってのタンノイ・オートグラフ、
原田勲氏にとってのヴァイタヴォックス・CN191、
瀬川先生にとってのマランツ・Model 7とJBL・375+537-500、グッドマンのAXIOM80、
これらこそが、出逢いであるはずだ。

オーディオ雑誌を読んで評判のいいオーディオ機器をいくつか借りて、
自宅試聴して良かったモノを買う──、
これを出逢いと呼んでいいのか、出合いでもないのかもしれない。

われわれは、つい自分が選択しているものと思い込んでいる。
一方的な選択なんてものは、この世に存在しないのではないか。
結局、選び選ばれている、としか思えない。

だからこそ出逢いでありたいと願う。

Date: 2月 26th, 2014
Cate: ロマン

オーディオのロマン(その4)

オーディオ機器はどんなものでも安くはない。
それどころがかなり高価なモノのほうが多いともいえる。

金の成る木は持っていないから、選択の失敗は避けたい。
そのためには充分すぎるほど調べ、試聴する。
それも販売店の試聴室だけの試聴ではなく、できるだけ自宅試聴を行いたい、と思う人はいる。

インターネットを見ていると、自宅試聴を行った、とか、
自宅試聴ができるような客になれ、とか、そういう書き込みが目につく。

自宅試聴こそが、選択の最終手段でもあるかのように書かれている。

自宅である程度の時間をかけて、じっくりと気になる機種をいくつか借り出して比較試聴ができれば、
選択で失敗することはないのかもしれない。

失敗はしないだろう。
でも失敗しない選択が、最良の選択であるのかは、また別のことである。

いまは情報と呼ばれているものがあふれすぎている。
そんな情報と呼ばれているものは、インターネットで検索すればかなりの量に接することができる。

自宅試聴して、インターネットでも人の評価を調べまくる。
そうやって買ったオーディオ機器は、人に自慢できるモノではあっても、
その人を幸福に導いてくれるモノとは限らない。

Date: 2月 25th, 2014
Cate: ロマン

オーディオのロマン(その3)

瀬川先生も同じ体験(買い方)をされていることは、
瀬川先生の書かれたものを読んできた人ならば思い出す。

マランツのModel 7がそうだったし、JBLの375+537-500もそうである。

こういう例は昔のオーディオ雑誌、オーディオについて書かれた文章を丁寧に読んでいけば、
これだけではないことがわかる。

こう書くと「そういう時代だったんだろう」という反論が来る。
たしかに「そういう時代」だったわけだ。

五味先生がオートグラフ、齋藤氏がデコラ、瀬川先生がModel 7、375+537-500を買われたときには、
まだステレオサウンドは創刊されていなかった。

海外のオーディオ機器の情報を詳細に伝える雑誌はまだなかったころであり、
インターネットは影も形もなかった時代。
情報は極端に少なかった。

試聴をしたくとも実物を目にすることすらほとんどなかった、そういう状況だから、
実物も見ず試聴もせずに買うのは、時代のせいといえばそうであることは確かなのだが、
それだけではないことも、また確かである。

Date: 2月 25th, 2014
Cate: ロマン

オーディオのロマン(その2)

私がツイートしようと思っていて、
先に同じことを別の人にツイートされたからやめてしまったのは、
五味先生、ステレオサウンドの原田勲会長、齋藤十一氏(新潮社のS氏)、瀬川先生のことである。

五味先生の書かれたものを読んできた人ならば、オートグラフを買われた経緯を知っている。
五味先生がオートグラフを最初に日本で買われた人であり、
それ以前に日本にオートグラフは入ってきていない。

つまり実物も見ることなく、1963年のHiFi year bookに載っていたオートグラフを見て、
「怏怏たる思いをタンノイなら救ってくれるかもしれぬと思うと、取り寄せずにいられなった」五味先生は、
タンノイにオートグラフを発注された。

ステレオサウンドの原田氏も、ヴァイタヴォックスのCN191は音も聴かずに買われた、と聞いている。
五味先生のオートグラフを何度も聴かれているだけに、
オートグラフと肩を並べる存在で、英国のスピーカーシステムとなると、
ヴァイタヴォックスのCN191しか、当時はなかった。
だからCN191にされた。

原田氏のCN191は横浜港に到着した。
今も当時もヴァイタヴォックスの輸入元は今井商事。
今井商事としては日本に初めて入ってきたCN191を会社に持ち帰りチェックをした上で出荷するつもりだったが、
イギリスからCNs191とともに届いた英国の空気を少しでも失いたくないから、
半ば強引に横浜港から自宅に搬入した、と原田氏ご本人から聞いている。

五味先生はデッカ本社でデコラを聴かれている。
そしてS氏(齋藤十一氏)に「ピアノの音がすばらしい、デコラをお購めなさい」と国際電話をされている。
齋藤氏はデコラにされている。
齋藤氏も実物を見ることなくデコラに決められているはずだ。

Date: 2月 25th, 2014
Cate: ロマン

オーディオのロマン(その1)

昨夜、twitterでフォローしている人のツイートが目に留った。

そこには、不見転でオーディオを買う人は幸福になれない、と書かれてあった。

不見転とは、後先考えずに事を行なうことであるが、
ここでの不見転は、そのオーディオ機器について十分に調べもせずに試聴もせずに、ということを意味している。
少なくとも私はそう受けとめた。

このツイートについてあることを書こうと思っていたら、
別の、フォローしている人が、ほぼ同じことをツイートされていた。

でも「不見転で……」のツイートをした人の意図は、
私がしようと思っていたこととは、少し違うところの人たちの事ではないか、とも思える。

私は実際に見たことはないけれど、
オーディオ店には時々、「いちばん高いオーディオをくれ」という買い方をする人がいる、と聞いている。

とにかく価格がいちばん高いモノであればいいらしい。
店にとって、これほど有難い客は他にいないだろう。

こういう買い方をする人は、何も調べもせず、何も試聴もせずに買っていく。

おそらく、この人たちのことを「不見転で……」のツイートをした人は思い浮べていたのではないのか。
たしかに、こういう買い方をする人には、どんなにいいオーディオ機器を購入したところで、
幸福になれる可能性は、まったくないとまではいわないけれど、ほとんどない、と私もいいたい。

Date: 11月 9th, 2011
Cate: ロマン

ある写真(補足)

スティーブ・ジョブズがつかっていたコントロールアンプはスレッショルドのFET oneという可能性もある。
だとしたらパワーアンプもスレッショルドのモノということになるのか。
ペアとなるのはステレオ仕様のS/500かモノーラル仕様のS/1000のどちらかか。

アクースタットのModel 3に関してだが、
このスピーカーシステムの音の印象は、すべて東京で聴いたものによる。
つまり電源周波数が50Hzでの音である。

いうまでもなくアクースタットはアメリカのコンデンサー型スピーカーであり、
アメリカの電源周波数は60Hzである。

アクースタットのスピーカーシステムの優れているところは、当時聴いた人の多くは認めていても、
いざ購入する人となると、そう多くはなかった。
私も購入しなかったひとりである。
なぜか、といえば、その理由は人それぞれのはすだが、共通する理由もあったように思う。
そのことについて詳しく書くつもりはないが、なぜそうなったかといえば、
もしかすると50Hzのまま鳴らしていたからではないか、と思っている。

もし東京がアメリカと同じ60Hzの電源周波数であったら、
アクースタットの評価は少しではあっても、確実に変っていた可能性がある。

Date: 11月 8th, 2011
Cate: ロマン

ある写真

スティーブ・ジョブズがオーディオマニアであることは、けっこう前から知っていた。
とはいえ、ジョブズがどんなシステムで聴いていたのかは、すぐにはわからなかった。
それからしばらくして、なにかで読んだ記憶があるが、スピーカーシステムはマーティン・ローガン、
アンプはスペクトラムを使っている。1990年代半ばごろのことだったと思う。
でも、これもかなり曖昧な記憶で時期も機器についても違っている可能性もある。

2006年にAppleからiPod HiFiが出た。
この発表のときに、ジョブズはオーディオマニアだったことを語っている。
そして、それまで使ってきたオーディオ機器を、iPod HiFiに置き換えた、とも。

ジョブズが2006年までマーティン・ローガンのスピーカーシステムを使っていたのかどうかもわからない。
オーディオマニアということ以上の情報はほとんど得られなかった。

いま書店には、ジョブズに関する本が並んでいる。
自伝も出ている。Mac関係の雑誌でも、ジョブズを特集として組んでいるものがいくつもあった。
ムックもいくつか出ている。

AERAムックとして「スティーブ・ジョブズ 100人の証言」に、1982年12月当時のジョブズの写真がある。
自宅のリビングルームの床に直に坐っているジョブズのうしろには、オーディオ機器がある。
というよりも、そのリビングルームはまるで引越してきたばかりなのか、と思わせてしまうほどに、
オーディオ機器以外のモノはレコードだけしかない。
椅子もない。

このリビングルームで床の上に胡座をかいてジョブズは、スピーカーと向き合っていたのだろうか。

暗い部屋のなかでとられた、この写真は細部ははっきりしない。
スピーカーシステムはアクースタットのModel 3だということはすぐにわかる。
ネットの色は、日本で一般的だった黒ではなく白。
プレーヤーはジャイロデック。1982年12月の写真だから、CDは2ヵ月前に日本で発表されたばかり。
だからCDプレーヤーは、ジョブズの部屋にはない。

はっきりと判別できるのは、これだけだ。
ジャイロデックのとなりにアンプが置いてある。
ちなみにジャイロデックもアンプも、床に直置きのようだ。

アンプはいったいなんだろう、と1時間ほど記憶を掘り起こしていた。
こういうパネルフェイス、というよりもツマミの配置のアンプ、それもコントロールアンプとなると……。
スピーカーがアクースタットということからも、ほほ間違いなくビバリッジの管球式のRM1/RM2ではないかと思う。

この写真の頃、1955年生れのジョブズは27歳。
AppleでMacintoshの開発に取り組んでいたころ。