Archive for 11月, 2016

Date: 11月 4th, 2016
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ヤマハのA1・その5)

私がステレオサウンドを読みはじめたころのヤマハのプリメインアンプといえば、
CA2000かCA1000IIIが代表機種といえた。

CA2000のデザインは、中学生の目から見ても上品、洗練という表現が似合うと感じていた。
ステレオサウンド 42号のプリメインアンプ特集では、音室面でも高い評価を得ていた。
測定結果も、非常に優れたアンプであることがわかった。

いつかはセパレートアンプと思いつつも、現実にはプリメインアンプが先に来る。
CA2000はA級動作に切替えることもできた。
このことが、また中学生だった私には、とても魅力的だった。

ヤマハのCA2000を手に入れれば、とにかく不満なく聴ける──、
そう思っていた時期だ。

でも同時にCA2000には、色気や艶といった要素が、
磨き上げられている音質とは裏腹に欠けているような印象を、
瀬川先生の文章からも、つたない耳ではあっても実際に音を聴いても感じられた。

CA2000の優秀性をそのままに、色気、艶がもう少しだけ加わってくれれば……、
そんなことを思っていたところに、A1の登場だった。

それまでのヤマハのプリメインアンプの型番はCAがついていた。
アナログプレーヤーはYP、スピーカーシステムはNS、カセットデッキはTC、
ヘッドフォンはHP、チューナーはCT、スピーカーユニットはJAというように、
アルファベット二文字で始まっていた。

ただしセパレートアンプだけ違っていた。
CI、C2、BI、B2というようにアルファベットは一文字だけ。
C2とペアとなるチューナーT2もそうだった。

そこにA1という型番での登場。
C2はコントロールアンプのC、B2はベーシックアンプのBなのだから、
A1のAはアンプリファイアーの頭文字のはず──、中学生の私はそう受けとった。

しかもA1である。
このアンプならば、CA2000に欠けているものがあるのではないか。
その新鮮なフロントパネルの写真を見ながら、期待しはじめていた。

Date: 11月 4th, 2016
Cate: 書く

毎日書くということ(エリカ・ケートの言葉)

11月のaudio sharing例会で、エリカ・ケートのモーツァルト歌曲集をかけた。
常連のHさんからのメールが、さきほど届いた。
そこには、読売新聞の2009年8月19日の編集手帳からの引用があった。
     *
ドイツのソプラノ歌手エリカ・ケートさんは言語の響きや匂いに敏感であったらしい。歓談の折に語った比較論を「劇団四季」の浅利慶太さんが自著に書き留めている。◆イタリア語を「歌に向く言葉」、フランス語を「愛を語る言葉」、ドイツ語を「詩を作る言葉」と評した。日本語は──浅利さんの問いに彼女は答えたという。「人を敬う言葉です」
     *
浅利慶太氏の「時の光の中で」(文藝春秋)に載っている、とのこと。

私はイタリア語もドイツ語もフランス語もダメである。
英語も苦手である。
日本語だけである。

日本語が「人を敬う言葉」なのだとしたら、
私がここで書いていることは、そこからそう遠くに外れてはいない、と思った。

Date: 11月 4th, 2016
Cate: ロマン

ダブルウーファーはロマンといえるのか(その10)

その9)でふれた菅野先生実験のJBLの4ウェイは、
スイングジャーナル別冊「オーディオ・プラン’77」での組合せである。

このムックは手元にないけれど、
同じシステムを「モダン・ジャズ読本’78」でも鳴らされている。

「モダン・ジャズ読本’78」にはジャズ&オーディオ道場という企画がある。
ジャズ喫茶への道場破り的企画である。
ここで菅野先生は門前仲町に当時あったジャズ喫茶タカノに、同システムを持ち込まれている。

サンスイによるエンクロージュアは、おそらく4350のそれと同寸法と思われる。
バスレフダクトは両サイドに縦に三つならんでいるところも同じである。

このエンクロージュアに2220Bと2120をともに二発ずつおさめ、
蜂の巣ホーンにとりつけられた375は二発のウーファーよりもやや外側に配置。
このふたつのホーンのあいだに375が二発並ぶ。

見た印象でいえば、ミッドハイの375の距離が離れすぎのように感じる。
ユニットの数が多くなれば、それだけ配置の難しさは増していく。
これが最適の配置ではないだろう。

アンプはウーファー用がアキュフェーズのM60。
ミッドバス用がGASのAmpzilla、ミッドハイとトゥイーターはパイオニアのExclusive M4、
コントロールアンプはGASのThaedraだ。

「モダン・ジャズ読本’78」には編集部による原稿と、
タカノ店主高野亘氏の「わが抗戦の記」と菅野先生の「わが挑戦の記」が載っている。

こういう企画は、ステレオサウンドに望むのは無理なところがあった。
スイングジャーナルらしい企画であり、
こういう企画を行わなくなった(行えなくなった)から、
スイングジャーナルは消えていったのかもしれない。

Date: 11月 4th, 2016
Cate: 世代

タンノイがふさわしい年齢

タンノイがふさわしい年齢。
そういったことを、いま考える人(世代)は、いるのだろうか。

タンノイといっても、これまでにさまざまなモデルが登場して消えていっている。
同軸型ユニットを採用していないモデルもある。

同軸型ユニットにしても、アルニコからフェライトになっているし、
フェライト採用のユニットには、
ウーファー用とトゥイーター用をひとつのマグネットで兼ねているタイプと、
独立させてふたつのマグネット採用のものとがある。

だからタンノイといっても、人によって真っ先に頭に浮ぶモデルは違ってくる。
そうなれば、タンノイにふさわしい年齢も違ってこよう。
もしくは、そんなこと、まったく感じない、ということにもなろう。

けれどタンノイといえば、Guy R. Fountain Autographという者にとっては、
タンノイがふさわしい年齢を意識するのではないだろうか。

私は、いまどうなんだろうか。

Date: 11月 4th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その86)

岩崎先生が亡くなられた時、
ステレオサウンド 43号に追悼文が載った。
井上先生、岡先生、菅野先生、瀬川先生、長島先生、山中先生が書かれていた。

55号には、なかった。
理由はなんとなくわかる。

55号の編集後記では、原田勲氏が、五味先生へのおもいをつづられている。
それからKen氏も、そうだ。

《ぼくのオーディオは「西方の音」で始まった》、
という書き出しでKen氏の編集後記は始まる。

編集後記はそう長くないから、すべて書き写してもたいした手間ではないが、
最後のところだけを引用しておく。
     *
 以来格闘十年間、オリジナル・コーナーヨークにたどりついたところで、ぼくとタンノイの歴史は一旦終る。若さに目ざめたのである。
 しかし本号の取材でオリジナル・オートグラフを聴き、手離したことを心底後悔した。西方の音で何度も読んでいた、あの音が聴こえてきたのだ。しかし戻ることはしないでおこう。タンノイが相応しい年齢になるまでは……。
     *
Ken氏は、私より十、上である。
タンノイが相応しい年齢ではないですか。

Date: 11月 4th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その85)

ステレオサウンド 55号にも「五味オーディオ巡礼」は載っていない。
載っていないことは、発売前からわかっていた。

この年の4月1日に、五味先生が亡くなっているからだ。
「ザ・スーパーマニア」が、五味先生だった。

扉には、こうあった。
     *
Guy R. Fountain Autographのまえの先生のソファに坐ってみた。
そこにはいまも、あのひとりの偉大なスーパーマニアの熱気がただよっていた
     *
そして55号巻末には、「オーディオ巡礼」の出版案内があった。
6月30日発刊予定、とあった。

55号は、私にとってステレオサウンドが大きく変っていく節目の号になっていく。

Date: 11月 4th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その84)

41号から読みはじめた私にとって、
アナログプレーヤーのテスト記事は48号に続いて二回目である。

48号ではターンテーブル及び軸受けの強度、
ターンテーブルの偏芯と上下ブレ、
無負荷状態での速度偏差とレコードトレーシング時の速度偏差/ダイナミック・ワウ、
以上の項目について測定していた。

55号での測定には速度偏差がなくなっている。
かわりにランブルの周波数分布が加わっている。

測定にはトーレンスが開発した専用治具を用いられている。
この専用治具は、瀬川先生がトーレンス社を訪問された際に入手されたモノである。
(瀬川先生のトーレンス訪問記事は56号に載っている)

この専用治具については、長島先生が説明されている。
     *
治具の構造は、ターンテーブルのセンターシャフトに固定するチャックを持つ高精度シャフトと、このシャフトに軸受けで支えられ、自由に軸方向に回転できる構造を持つ軽量フレームによりなっている。測定は、フレームの指定された場所にカートリッジの針先をのせ、被測定ターンテーブルのシャフトを通して治具に伝わってくる振動をピックアップして行う。
 この方法によれば,治具のシャフトとフレーム軸受けとの精度を高精度にすれば、レコード法よりはるかに測定系ノイズを減らすことができ、ローレベルまでのランブルが測定できるわけである。治具の説明書によると、測定用シャフトおよびフレーム軸受け部分(これはテフロン系と思われるプラスチックでできている)には絶対に手を触れないこと、布などで拭わないことと注意がされている。これは、治具のベアリングの振動が測定値に影響を与えないよう注意しているためだろう。
     *
55号には、トーレンスの専用治具の写真も載っている。
掲載されている測定結果も興味深い。
特に、アームレスのターンテーブルにおいて、
オーディオクラフトのAC4000Mcとフィデリティ・リサーチのFR66S、
ふたつのトーンアームを使っての測定結果が載っているのが、また興味深い。

トーンアームが違えば、ランブルの周波数分布もかなり違ってくる。
この測定結果も、当時よりもいま見ているほうが得られることが多い。

Date: 11月 4th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その83)

ダグラス・サックスのインタヴュー記事から引用したいことはいくつもある。
そのすべてを引用してしまうと、記事の大半を引用することになるから、
ひとつだけに留めておく。
     *
──将来のシステムとしてもつべきものとしてほかに何かありますか?
サックス ある分野においては、見方によっては退行ともいうべき改善を考慮すべきだと感じています。それは、スピーカーとアンプの組合せにおけるダイナミックスの許容力を拡大しなければならないということです。デジタルやダイレクト・トゥ・カディスク録音の時代にはいって、このことを一層痛感させられるのです。いわゆるオーディオファイル・レコードの製作者たちは、ダイナミックレインジの拡大に努めているのですが、今日使われている極度に能率のわるいスピーカーでそれだけのラウドネスを再現することはできません。レコードは再生機器の能力に制約されてしまい、フォルティシモで鳴る三度の音など、いかによく録音されていても、リアリスティックに再生できないのですね。
── では、これからのシステムは、より大出力のンアプトより能率のよいスピーカーでなければならないというわけですか?
サックス 左様。しかし、いま私の知っている多くのスピーカーは二千ワットのアンプをもってしても救いがたい。なぜなら能率がわるいと同時に、それだけの大入力に耐えられないのがほとんどですから。
── ダイナミックスの窓がとっても狭いということですね。
サックス 今日のしすてむの限界になっている要素です。わたしのつくったレコードをそのようなシステムできくと、静かなパッセージの再生は一応充分なんですが、ダイナミックスの釣り合いということになるとまったく混迷してしまう。カートリッジの再現性はいい、プリアンプにもともかく問題はない、パワーアンプとスピーカーの終端、ここに慢性狭窄性があるんです。
 私は、オーディオのまじめな追及者あるいはプロフェッショナルが自宅でつかっている自家製の大型システムを数多くきいています。その音は注目に値いします。それはけして大音量で再生しているのだからよくきこえるのではない。むしろ普通の再生レベルなのです。しかし、ピークのときにも充分の余裕をもった能力を発揮して、音がつまるなんてことにならない。こういうシステムがどこの家庭にもおかれるようになったとき、ディスクにどれだけの音が刻まれているかということが、はじめて認識されるのです。
     *
ステレオサウンド 55号の特集2がアナログプレーヤーのテストであったから、
この記事が掲載されたわけでもないだろう。
たまたまAudio誌に掲載された時期からいって、55号になっただけであっても、
同じ55号に載っているのは、結果としていいことになっている。

そしてアナログプレーヤーのテストにおける測定も、そうだといえる。

Date: 11月 3rd, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その82・追補)

ステレオサウンド 55号に載っているダグラス・サックスの記事の原文は、
Interview:Douglas Sax on the Limits of Disc Recordingというタイトルで、
アメリカのオーディオ雑誌Audioの1980年3月号に掲載されている。

このころのAudio誌の誌面をそのままスキャンして公開しているサイトがある。
記事のタイトルで検索すれば、すぐに見つかる。
ダグラス・サックスの記事も公開されていて、英文で読むことができる。

Date: 11月 3rd, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その82)

ステレオサウンド 55号の音楽・レコード欄に、非常に興味深い記事が載っている。
当時以上に、いま読み返した方が興味深いともいえる記事である。

「ディスク・レコーディングの可能性とその限界」というタイトルだ。

このタイトルからわかるように、
ダイレクトカッティングで知られるシェフィールドの二人の創設者のひとり、
ダグラス・サックスのインタヴューで構成されている。

インタヴューだけではなく、岡先生によるダグラス・サックスについての囲み記事もある。
それによるダグラス・サックスともうひとりの創設者のリンカーン・マヨーガ(マヨルガ)は、
ともに1937年生れ。
(1937年は、ジョージ・ガーシュウィンとモーリス・ラヴェルが亡くなった年でもある。)

彼らは1956年に、ウェスターン・エレクトリックの旧いディスク録音機の持主をたずね、
そこでマヨーガ演奏のピアノを録音してもらっている。
その78回転のディスク(モノーラル録音のラッカー盤)の音が、
一般のLPの音よりもあらゆる点で優っていると感じ、ふたりはSPに注目する。

周波数特性、S/N比、収録時間においても、LPよりも劣るSPなのに、
聴けば聴くほど音楽的に素晴らしいものであることを痛感。
その音の秘密はテープレコーダーにたよらず、ディスクに直接カッティング(録音)されているからで、
LP登場以後の進歩したカッティングシステムで、
ディスクレコーディングをしたら、どんなに素晴らしい音のレコードがつくれるだろうと、
と夢見るようになる。

ダグラス・サックスの兄、シャーウッド・サックスはオーディオ・エンジニアであった。
弟ダグラスの話、ばかげたことと、一笑に附す。
けれどダグラス・サックスとリンカーン・マヨーガは1965年に実験を行っている。
結果はシャーウッドのいうことを実感させられるほどに難しいものだった。

技術的に解決しなければならない問題が山ほどあることを知らされ、
マヨーガはピアニストとして演奏活動をつづけ、サックスはレコードをつくる方に夢中になる。

ふたりは1968年にマスターリング・ラボという会社をつくる。
中古のカッティングレーサーを買い、シャーウッド・サックスが稼働できるように整備している。

この会社の成功が、シェフィールドのにつながっていく。
興味のある方は55号のお読みいただきたい。

Date: 11月 3rd, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その81)

55号の特集2のプレーヤーテストは、
最初に扉のページがあって、次の見開きに、瀬川先生と山中先生の「テストを終えて」がある。
それから個々の機種の試聴記が続く。

「テストを終えて」は、いわは後書きではあっても、
記事の構成上、前書きといえる位置にくる。

つまり「テストを終えて」を読んでから、
ここのプレーヤーの試聴記を読むわけだ。

この「テストを終えて」を読んで、
瀬川先生のうまさと配慮を、ほんとうの意味で知ったといえる。
     *
 良くできた製品とそうでない製品の聴かせる音質は、果物や魚の鮮度とうまさに似ているだろうか。例えばケンウッドL07Dは、限りなく新鮮という印象でズバ抜けているが、果物でいえばもうひと息熟成度が足りない。また魚でいえばもうひとつ脂の乗りが足りない、とでもいいたい音がした。
 その点、鮮度の良さではL07Dに及ばないが、よく熟した十分のうま味で堪能させてくれたのがエクスクルーシヴP3だ。だが、鮮度が生命の魚や果物と違って、適度に寝かせたほうが味わいの良くなる肉のように、そう、全くの上質の肉の味のするのがEMTだ。トーレンスをベストに調整したときの味もこれに一脈通じるが、肉の質は一〜二ランク落ちる。それにしてもトーレンスも十分においしい。リン・ソンデックは、熟成よりも鮮度で売る味、というところか。
 マイクロの二機種は、ドリップコーヒーの豆と器具を与えられた感じで、本当に注意深くいれたコーヒーは、まるで夢のような味わいの深さと香りの良さがあるものだが、そういう味を出すには、使い手のほうにそれにトライしてみようという積極的な意志が要求される。プレーヤーシステム自体のチューニングも大切だが、各社のトーンアームを試してみて、オーディオクラフトのMCタイプのアームでなくては、マイクロの糸ドライブの味わいは生かされにくいと思う。SAECやFRやスタックスやデンオンその他、アーム単体としては優れていても、マイクロとは必ずしも合わないと、私は思う。そして今回は、マイクロの新開発のアームコード(MLC128)に交換すると一層良いことがわかった。
     *
これだけのことと思われるかもしれないが、
これだけのことで、このあとのページに登場するプレーヤーの、
音質的・音色的位置づけが提示されている。
そのうえで、個々の試聴記を読むわけだ。

そしてすべての試聴記を読んだうえで、私はもう一度「テストを終えて」を読んだ。
誌面から音は出ない。

オーディオ雑誌について、ずっと以前からいわれ続けていることだ。
それでも、瀬川先生の文章を読んで、音は出てこなくとも、想像はできると確信できた。

Date: 11月 3rd, 2016
Cate: audio wednesday

第71回audio sharing例会のお知らせ

12月のaudio sharing例会は、7日(水曜日)です。
テーマは未定ですが、音出しを予定しています。

昨夜のaudio sharing例会の準備をやっているときに、
会場となる喫茶茶会記にあるピアノの横に、あるモノが置いてあった。
以前からあったそうだが、いまごろ気づいたわけだ。

可搬型のミキサーだった。
クーパーサウンド(Cooper Sound)CS106+1である。

可搬型ということもあって、乾電池駆動になっている。
単一の乾電池12本を使う。
VUメーターが少し安っぽい感じはするけれど、全体のつくりはきっちりとしている感じを受ける。
これを使っての音出しもおもしろそうだという予感がした。

12月の例会で、これを使うのかどうかはまだ決めていない。
でも、今年最後の例会は音を出して、楽しもうと思っている。

場所はいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 11月 3rd, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その80)

ステレオサウンド 55号の表紙は、JBLのウーファーLE14Aである。
夏号らしい、ともいえるけれど、51号の表紙と同じようでもあって、
書店で目にした時、ちょっとだけいやな予感がしたの憶えている。

55号の特集も51号と同じでベストバイである。
表紙の感じが同じであれば、特集のありかたも同じだった。
ベストバイは、51号の方針でいくのか、とがっかりした。

43号のベストバイは熱っぽく読んだ。
けれど51号、55号のベストバイは、熱っぽく読めなくなっていた。

50号での巻頭座談会での瀬川先生の発言を、
ステレオサウンド編集部はどう受けとめているのか、と思ってしまうほど、
ベストバイ(特集)がつまらなくなっている。

特集に読み応えがないと、その号のステレオサウンドの印象は、
他の記事がどうであろうと、薄くなるし、あまりいいものではなくなる。

52号、53号、54号の特集との落差を大きく感じてしまう。
落差は、編集部の仕事の楽さとも関係しているのか、とも思ってしまうほどだ。

55号のベストバイについては、このくらいでいいだろう。
55号の特集2は、おもしろかった。
「ハイクォリティ・プレーヤーシステムの実力診断」で、
瀬川先生と山中先生が、13機種のアナログプレーヤーのテストをされている。

総テストとは違う。
ここに登場するのは、いわゆる高級プレーヤーに属するモノばかりである。
13機種中、もっとも安価なのがトーレンスのTD126MKIIICで、250,000円である。
個人的に気になっていたプレーヤーのほとんどが、ここに登場していた。

Date: 11月 3rd, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その79)

ステレオサウンド 54号の特集の最終ページ(269ページ)の裏は、
スペックスのモノクロの広告ページ。
隣の271ページはカラーの記事が始まる。

記事のタイトルは、
スピーカーシステムの未来を予見させる振動系質量ゼロのプラズマレーザー方式
〝プラズマトロニクス/ヒル・タイプI〟の秘密を探る、
菅野先生が書かれている。

これまでのスピーカーとはかなり異る外観のスピーカーシステムが写っている。
コーン型のウーファーとスコーカーの上にアンプが載っているような恰好だ。
内部の写真もある。
そこにはヘリウムのガスボンベが収められている。

もうこれだけで従来のスピーカーとは大きく違うモノだということがわかる。
記事は3ページ。カラー写真で、開発・実験過程、工場の様子などが紹介されている。

プラズマトロニクス(PLASMA TRONICS)のHill Type-Iは、
700Hz以上の帯域をプラズマドライバーが受け持つ。
つまり700Hz以上の帯域は振動板が存在しない。

記事中でも、プラズマドライバーの動作原理は特許申請中で明らかにされていない、とある。
このプラズマドライバーの開発者のアラン・ヒルは、
アメリカ空軍のエレクトリックレーザー開発部門に籍をおいていた、とある。
空軍での仕事の傍らに、
自宅でレーザープラズマの応用技術のひとつであるスピーカーの研究・開発を行ってきた。

詳しいことは54号を読んでいただきたいし、
インターネットで検索して調べてほしい。

Hill Type-Iは製品としては未熟なところはある。
ヘリウムのガスボンベは300時間ごとにガスを充填させる必要があるし、
プラズマドライバーは内蔵の専用アンプが駆動する。

五つの電極があり、それぞれに専用アンプがある。
つまり五台のアンプが内蔵されている。
その出力は一台あたり1kWであり、合計5kWとなる。
しかも内蔵アンプはA級動作である。

となると、このスピーカーの消費電力はどのくらいになるのだろうか。
54号の記事には、そのことは触れられていない。
HI-FI STERO GUIDEのスペック欄にも、消費電力の項目はなかった。

Hill Type-Iの価格は5,100,000円だった。
ステレオペアだと1000万円を超える。
1982年頃に製造中止(もしくは輸入元の取り扱いが終ってしまった)時点での価格は、
5,830,000円になっていた。

Hill Type-Iはそれきりになってしまった。
けれど、インターネットで、”plasma speaker”で検索すると、
アラン・ヒルと同じように、振動板をもたないスピーカーの実験を行っている人がいる。
YouTubeでも公開されている。

Hill Type-Iから40年近く経っている。
次世代のHill Type-Iが登場するのだろうか。

54号を開くたびに、そんなことをおもってしまう。

Date: 11月 3rd, 2016
Cate: 五味康祐

ラフマニノフの〝声〟VocaliseとグラドのSignature II

グラドのカートリッジに、かつてSignature Iがあった。
ステレオサウンド 41号の特集で菅野先生が紹介されている。

その後、Signature IはIBになり、Signature IIも登場した。
Signature IBが1979年当時で110,000円、Signature IIが199,000円していた。

いまでももっと高価なカートリッジがいくつもあるから、
そういう感覚では、Signature IIもそれほどでもない、と思うかもしれないが、
当時はおそろしく高価に感じた。

EMTのTSD15が65,000円、オルトフォンのSPU-G/Eが34,000円の時代で、
オルトフォンのMC30の99,000円でも、相当に高価だと感じていたところに、
その二倍もするカートリッジが登場した。

しかもTSD15も、SPUもMC30もMC型なのに、
Signature IIはMI型である。

発電方式だけで価格が決るわけではないというものの、
総じて手づくりの要素の強いMC型はMM型、MI型よりも高価につく。
そういう時代だったところに、20万円近いMI型カートリッジの登場は、
それだけでも目を引く存在といえた。

一度だけSignature IIを聴いている。
Signature IBは聴いていない。
瀬川先生が聴かせてくれた。

瀬川先生によれば、Signature IIの方がいい、ということだった。
だと思う。
瀬川先生はSignature IIを購われていた。

高いけれど、聴いてしまう……、
そんなことを話されていた。

ステレオサウンド 47号で、
《高価だが素晴らしく滑らかで品位の高い艶のある音が聴き手を捉える。》
と書かれている。

確かにそういう音だ。
けれど、グラドはそれでもアメリカのカートリッジであり、
品位の高い艶のある音には違いないが、
ヨーロッパのカートリッジの「品位の高い艶のある音」とは違う。
どこか甘美なのだ。

もう少し行き過ぎると、白痴美になってしまうのでは……、
そういう甘美さである。

ラフマニノフの「声」を、このグラドのSignature IIで聴いてみたい、
とも聴きながら思っていた。

Signature IIはもう40年近く前のカートリッジだ。
おまけに高価でもあった。
日本にコンディションのいいSignature IIがあるのかどうかもあやしい。

Signature IIを聴く機会はおそらくない。
でももしかしたら……、と思う。
その時は「声」のLPを探してきて、聴いてみたい。

私にとってグラドのSignature IIというカートリッジは、
ラフマニノフの「声」のために存在している。