ステレオサウンドについて(その83)
ダグラス・サックスのインタヴュー記事から引用したいことはいくつもある。
そのすべてを引用してしまうと、記事の大半を引用することになるから、
ひとつだけに留めておく。
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──将来のシステムとしてもつべきものとしてほかに何かありますか?
サックス ある分野においては、見方によっては退行ともいうべき改善を考慮すべきだと感じています。それは、スピーカーとアンプの組合せにおけるダイナミックスの許容力を拡大しなければならないということです。デジタルやダイレクト・トゥ・カディスク録音の時代にはいって、このことを一層痛感させられるのです。いわゆるオーディオファイル・レコードの製作者たちは、ダイナミックレインジの拡大に努めているのですが、今日使われている極度に能率のわるいスピーカーでそれだけのラウドネスを再現することはできません。レコードは再生機器の能力に制約されてしまい、フォルティシモで鳴る三度の音など、いかによく録音されていても、リアリスティックに再生できないのですね。
── では、これからのシステムは、より大出力のンアプトより能率のよいスピーカーでなければならないというわけですか?
サックス 左様。しかし、いま私の知っている多くのスピーカーは二千ワットのアンプをもってしても救いがたい。なぜなら能率がわるいと同時に、それだけの大入力に耐えられないのがほとんどですから。
── ダイナミックスの窓がとっても狭いということですね。
サックス 今日のしすてむの限界になっている要素です。わたしのつくったレコードをそのようなシステムできくと、静かなパッセージの再生は一応充分なんですが、ダイナミックスの釣り合いということになるとまったく混迷してしまう。カートリッジの再現性はいい、プリアンプにもともかく問題はない、パワーアンプとスピーカーの終端、ここに慢性狭窄性があるんです。
私は、オーディオのまじめな追及者あるいはプロフェッショナルが自宅でつかっている自家製の大型システムを数多くきいています。その音は注目に値いします。それはけして大音量で再生しているのだからよくきこえるのではない。むしろ普通の再生レベルなのです。しかし、ピークのときにも充分の余裕をもった能力を発揮して、音がつまるなんてことにならない。こういうシステムがどこの家庭にもおかれるようになったとき、ディスクにどれだけの音が刻まれているかということが、はじめて認識されるのです。
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ステレオサウンド 55号の特集2がアナログプレーヤーのテストであったから、
この記事が掲載されたわけでもないだろう。
たまたまAudio誌に掲載された時期からいって、55号になっただけであっても、
同じ55号に載っているのは、結果としていいことになっている。
そしてアナログプレーヤーのテストにおける測定も、そうだといえる。