ステレオサウンドについて(その79)
ステレオサウンド 54号の特集の最終ページ(269ページ)の裏は、
スペックスのモノクロの広告ページ。
隣の271ページはカラーの記事が始まる。
記事のタイトルは、
スピーカーシステムの未来を予見させる振動系質量ゼロのプラズマレーザー方式
〝プラズマトロニクス/ヒル・タイプI〟の秘密を探る、
菅野先生が書かれている。
これまでのスピーカーとはかなり異る外観のスピーカーシステムが写っている。
コーン型のウーファーとスコーカーの上にアンプが載っているような恰好だ。
内部の写真もある。
そこにはヘリウムのガスボンベが収められている。
もうこれだけで従来のスピーカーとは大きく違うモノだということがわかる。
記事は3ページ。カラー写真で、開発・実験過程、工場の様子などが紹介されている。
プラズマトロニクス(PLASMA TRONICS)のHill Type-Iは、
700Hz以上の帯域をプラズマドライバーが受け持つ。
つまり700Hz以上の帯域は振動板が存在しない。
記事中でも、プラズマドライバーの動作原理は特許申請中で明らかにされていない、とある。
このプラズマドライバーの開発者のアラン・ヒルは、
アメリカ空軍のエレクトリックレーザー開発部門に籍をおいていた、とある。
空軍での仕事の傍らに、
自宅でレーザープラズマの応用技術のひとつであるスピーカーの研究・開発を行ってきた。
詳しいことは54号を読んでいただきたいし、
インターネットで検索して調べてほしい。
Hill Type-Iは製品としては未熟なところはある。
ヘリウムのガスボンベは300時間ごとにガスを充填させる必要があるし、
プラズマドライバーは内蔵の専用アンプが駆動する。
五つの電極があり、それぞれに専用アンプがある。
つまり五台のアンプが内蔵されている。
その出力は一台あたり1kWであり、合計5kWとなる。
しかも内蔵アンプはA級動作である。
となると、このスピーカーの消費電力はどのくらいになるのだろうか。
54号の記事には、そのことは触れられていない。
HI-FI STERO GUIDEのスペック欄にも、消費電力の項目はなかった。
Hill Type-Iの価格は5,100,000円だった。
ステレオペアだと1000万円を超える。
1982年頃に製造中止(もしくは輸入元の取り扱いが終ってしまった)時点での価格は、
5,830,000円になっていた。
Hill Type-Iはそれきりになってしまった。
けれど、インターネットで、”plasma speaker”で検索すると、
アラン・ヒルと同じように、振動板をもたないスピーカーの実験を行っている人がいる。
YouTubeでも公開されている。
Hill Type-Iから40年近く経っている。
次世代のHill Type-Iが登場するのだろうか。
54号を開くたびに、そんなことをおもってしまう。