Archive for category テーマ

Date: 1月 21st, 2018
Cate: 「オーディオ」考

指先オーディオ(その1)

アナログでもっぽら信号処理をしていた時代から、
ツマミを動かすことで、さまざまなことができるようになってきた。

そこにデジタルが登場して、さらに範囲は拡がり、より細かな調整が可能になってきている。

なんらかのプロセッサーが目の前に一台あれば、
以前では簡単に変更できなかったパラメータをもいとも簡単にいじれるようになっている。

技術の進歩が、ツマミを動かすだけでなんでもできるようにしてくれる。
けっこうなことである。

けれど懸念もある。
その懸念が、指先オーディオである。

指先だけでかなりのことが可能になってきた。
便利な時代になってきた、とは思っている。

なのに指先オーディオなんて、ついいいたくなるのは、
何かを見失ってしまった人を知っているからだ。

彼は昔からパラメトリックイコライザー、グラフィックイコライザーが好きだった。
そのころは彼もまだ若かった。
それらのイコライザーに積極的であっても、指先オーディオではなかった。

けれどデジタル信号処理による、プロ用機器ではさまざまなプロセッサーが出てくるようになった。
それらを手にしたころから、彼は指先オーディオへと突き進んでいった。

歳をとったということもあるのだろう。
体を動かすよりも、指先だけで済むのだから(必ずしもそうではないが)、
そういうプロセッサーへの依存は強くなっていくのか。

高度なことをやっていると思い込んでしまっている彼は、
何も生み出せなくなってしまった──、
私はそう感じている。

彼ひとりではない、とも感じている。
指先オーディオは拡がりつつある、と感じている。

Date: 1月 17th, 2018
Cate: ユニバーサルウーファー

電子制御の夢(ウーファーの場合・その1)

MFB(Motional Feedback)なしにカッティングできないくらいに、
アナログディスクをつくるうえでは不可欠の技術である。

再生側においては、MFBはおもにスピーカーに使われる。
フィリップスの小型スピーカー、RH541、RH545のウーファーにはMFBがかけられていたし、
ドイツのBackes & Müller(B&M)は全帯域にかけている。
それからインフィニティのIRSのウーファータワーもそうだ。

日本では、無線と実験やラジオ技術では、
私がオーディオに興味をもちはじめる前の時代、
かなりMFBの記事が載っていた、ときいている。

スピーカーの場合のMFBは、
振動系の運動に比例した信号を、駆動するアンプの入力にフィードバックすることで、
振動系の制御を積極的に行う技術である。

MFBを適切にかけることで、スピーカーの特性を改善できるわけだが、
それだけに振動系の動きをどう検出するか、
振動系の速度なのか、振幅なのか、加速度なのかも重要となる。

以前はMFBをかけることを前提として、ボイスコイルをふたつもつユニットもあった。
ひとつは通常のボイスコイルで、追加されたボイスコイルは検出用である。
この方式だと、ボイスコイルの振幅速度に比例した電圧が得られる。

けれど、これでは振動系の制御とはいえない。
振動系の駆動部分の制御といえよう。

振動系の動きをどう正確に検出するか。
MFBという技術があると知った時に、あれこれ考えた。
考えれば考えるほど、いかに難しい、ということになる。

そんなこともあって、MFBそのものに関心をもたなくなった。

Date: 1月 17th, 2018
Cate: 楽しみ方

オーディオの楽しみ方(つくる・その18)

「かっこいい音だな」というのは、
実のところは「かっこいい録音だな」である。

それはわかったうえで、「かっこいい音だな」を嬉しく受け止めていた。

そのディスクにおさめられているのがかっこいい録音であっても、
それが必ずしもかっこいい音で鳴ってくれるわけではない。

いい音で鳴ってくれたとしても、かっこいい音だな、と思わせるかどうかは、
微妙なところで違ってくることでもある。

かっこいい録音がかっこいい音で鳴ってくれるくれるための条件とは……、
なかなか難しく、いまのところ、これとこれとこの条件を満たせば……的なことはいえない。

とにかくSICAのフルレンジユニットは、CR方法と、もうひとつのことで、
文字通り見違えるほどよくなった。

振動板の質が良くなったようにも聴こえるし、
別項でも書いているように、聴感上のS/N比の向上が、
聴感上のfレンジの向上に結びついている。

今回やったことを施す前の音は、トゥイーターが欲しくなる感じだった。
今回の音はトゥイーターが不要とまではいわないが、これはこれでいいな、と思えるし、
この状態まで最低でももってきたうえで、トゥイーターを追加すべき、だとも思う。

高域がのびいていない、もう少し繊細な音が欲しい、とか、そういう理由で、
すぐにでもトゥイーターを付ける人はけっこう多い。

つい先日も、あるサイトで小口径フルレンジにトゥイーターを追加した記事があった。
個人サイトではない。
タイミングのいい記事というか、とにかく読んだ。

40年前に読んだ記事かと思うほどに、何ら進歩を感じない内容だった。
こんな記事は、これまで何本も見てきた。

その記事は初心者向けに書かれているのだろう。
編集者からの要望通りの内容なのだろう。

そのへんのことはわかったうえで、
その記事を読まされる初心者は恵まれていない、といおう。
あまりにも安易すぎるのだ。
昔のままの安易さが、そのまま残っている。

Date: 1月 17th, 2018
Cate: Noise Control/Noise Design

聴感上のS/N比と聴感上のfレンジ(その7)

喫茶茶会記のスピーカーで、トゥイーターだけはCR方法がこれまでは試せなかった。
グッドマンのトゥイーターはハウジング内にハイパスフィルターが内蔵されていて、
それをパスすることができないからだ。

10月のaudio wednesdayから、トゥイーターはJBLの075にしている。
だからトゥイーターにもCR方法を実践できようになったし、もちろんやっている。

その効果は、来ている人がみなつけたほうがいい、という。
もちろんスコーカーのアルテックのドライバーにも取り付けてある。
これですべてのユニットに対して施してある。

そして別項で書いているSICAの10cmのダブルコーンのフルレンジユニットにもやっている。
ここでの効果は、喫茶茶会記のスピーカーユニットにひとつずつ試した時よりも大きかった。

フルレンジということもあろう、
それからスピーカーユニットとアンプとのあいだにネットワークがないことも、
深く関係しているのかもしれない。

CR方法については、(その1)で書いている。
私がこれまで試したところでいえば、
抵抗はDALEの無誘導巻線抵抗にかぎる。
この抵抗は、秋葉原の海神無線で入手できる。

DALEの無誘導巻線抵抗は、カーボン抵抗や金属皮膜抵抗に比べると高価だ。
といっても一本数百円である。

それからコンデンサーのリード線をユニットのアース側にもってきたほうが結果はいい。

既製品のスピーカーでは試しにくいモノもあろうが、
自作スピーカーであれば、試してみることはそんなに面倒でもないはずだ。
フルレンジユニットであれば、もっと簡単に行える。

ただしいずれも場合も、スピーカーユニットの端子に直接最短距離で取り付けるべきだ。

聴感上のS/N比の向上というと、機械的な雑共振を抑えることと受け止められるし、
たしかに機械的雑共振をどう抑えるかは、ひじょうに重要なこきとであるが、
同時に電気的な共振を抑えることも、聴感上のS/N比の向上には効く。

CR方法が実際にどう作用しているのかはっきりとしたことはいまのところいえないが、
少なくとも聴感上のS/N比は向上するし、聴感上のfレンジも上のほうにのびていく。

Date: 1月 16th, 2018
Cate: 「オーディオ」考

「虚」の純粋培養器としてのオーディオ(人が集まるところでは……)

不特定多数の人が集まるところでは、気持よく帰れることの方が稀だとおもう。
特にオーディオ関係の、そういう場では、げんなりしたり、イヤな気持になったり、
そういうことは必ずつき物だと思っていた方がいい。

昨年のインターナショナルオーディオショウでは、
別項「2017年ショウ雑感(会場で見かけた輩)」で書いている人がいたわけだ。

こういう人の他にも、音を聴きに来ているのか、自慢話を披露したくて来ているのか、
何が目的なのかわからない人もいる。

同好の士が集まる場だからといって、気持よく帰れるわけではい。
先日の「菅野録音の神髄」でも、残念なことに、そういう人たちがいた。

そういう人たちの方が圧倒的に少数であっても、
そういう人たちは目障り、耳障りであるために目立つ。

そういう人たち(そういう大人)に幻滅したくない、という人もいよう。
それで「菅野録音の神髄」に来なかった人もいる。

その人の気持がわからないわけではない。
それでも、やはり来るべきだった、といおう。

今年の最初に「オーディオマニアの覚悟(その7)」を書いた。
そこには、こう書いた。

オーディオマニアとして自分を、そして自分の音を大切にすることは、
己を、己の音を甘やかすことではなく、厳しくあることだ。

そうでなければ、繊細な音は、絶対に出せない、と断言できる。

繊細な音を、どうも勘違いしている人が少なからずいる。
キャリアのながい人でも、そういう人がいる。

繊細な音を出すには、音の強さが絶対的に不可欠であることがわかっていない人が、けっこういる。

音のもろさを、繊細な音と勘違いしてはいけない。
力のない、貧弱な音は、はかなげで繊細そうに聴こえても、
あくまでもそう感じてしまうだけであり、そういう音に対して感じてしまう繊細さは、
単にもろくくずれやすい類の音でしかない。

そんな音を、繊細な音と勘違いして愛でたければ、愛でていればいい。
一生勘違いしたままの音を愛でていればいい。

それでいいのであれば、幻滅したくない、イヤな気持になりたくない、
傷つきたくないということで、そういう場に出かけなければいい。それで済む話だ。

あとは本人次第だ。

Date: 1月 15th, 2018
Cate: 楽しみ方

オーディオの楽しみ方(つくる・その17)

今日もまたSICAの10cmスピーカーと対面してきた。
組み立てたのは先週の日曜日、約一週間経ったわけだ。

エンクロージュアは、いい感じで塗装されていた。
吸音材も追加で、私が指定した素材が入っている。
この素材は、秋葉原には売っていないものだ。

それからスピーカー端子のワイヤーの処理も、
一般的な方法ではなく、こうしたほうがいいです、といったやり方に変えられていた。

その上で今回はふたつのことをやってきた。
すごいことでもないし、特別なことでもない。
特殊なパーツやアクセサリーを使ったわけでもない。

ひとつは、このブログを丹念に読んでいる方ならば、あれか、とおわかりになるだろう。
もうひとつは、audio wednesdayにきている人ならば、おおよその見当はつくことである。

ほんとうはひとつずつステップを踏んで、その音を聴いてもらったうえで、
もうひとつの方法をやるというのがいいのはわかっていたが、時間的な関係と、
あまり頻繁にユニットを取り外しては取り付けるということをやりたくなかったので、
あえてふたつのことをいっぺんにやった。

私の頭の中では、おおよそこのくらいは変化するだろうな、という予測はあった。
予測していた方向に、いい感じで音は変った。

ただその変化量が、予測よりも少しばかり大きかった。
ここまで変化するのか、と正直驚きがあった。

驚いたのは私だけではない。
むしろ予測していないだけに、SICAのスピーカーの持主のほうが、
私よりも驚かれていた。

「かっこいい音だな」といわれた。
なによりの褒め言葉だと受け取っていた。

昨日の「菅野録音の神髄」で、
江崎友淑氏は菅野録音のことを「かっこいい録音」と表現されていた。

そのことがあったから、よけいに「かっこいい音だな」が嬉しかったわけだ。

Date: 1月 14th, 2018
Cate: オーディオマニア

オーディオは男の趣味であるからこそ(その13)

「菅野録音の神髄」での江崎友淑氏の話のなかに、瀬川先生、という言葉が出てきた。
江崎氏が若かったころの話をされた。

どこかのショールームで瀬川先生が話されたことだった。
「どんなに狭くてもひとりで音楽を聴ける空間をもちなさい」、
そういう趣旨のことだった。

どんなに広くてもリビングルームで聴いてはだめだ、と。
来場者から「なぜですか」と問われ、
「音楽に感動して涙をながしているところを家族にみられてたまるか」と。

瀬川先生もそうだったのか。
そういう音楽の聴き方(接し方)をされてきていたんだ、ときいていてうれしかった。

赤の他人ではなく、家族だろ、涙をみせてもいいじゃないか。
それはそれでいいし、そういう聴き方(接し方)もあろう。

けれど男がひとりで音楽に涙する空間こそが聖域であって、
それは城とは違う。

Date: 1月 13th, 2018
Cate: 楽しみ方

オーディオの楽しみ方(ユニットのキット)

この項の(その1)で、パイオニアののPIM16KTのことを書いた。
PIM16KTは、16cmフルレンジユニットを自作するキットである。

スピーカーシステムのキットではなく、しつこいようだが、
ボイスコイルが巻かれているボビンをコーン紙に接着し、というところから始まるキットである。

こんな製品は、そうそうないと思っていた。
さっき見つけたのが、ログオーディオのRK100とRK200である。

RK100/200も、スピーカーユニットの自作キットである。
エンクロージュアもついていくる。

コーン紙、ダンパー、センターキャップ、ボイスコイル取付治具、フレーム、磁気回路などが、
構成部品である。

こういうキットは、そんなに数がうれるものではないと思う。
それとも教材用として、ある程度の数が見込めるものなのだろうか。
そのへんのところはわからないが、
こういうキットが、いまもあるということは、伝えておきたい。

Date: 1月 13th, 2018
Cate: 新製品

新製品(ADCOM LUNA・その2)

(その2)を書くつもりはまったくなかった。
けれど昨晩、iPhoneのGoogleアプリが提示したカードには、
LUNAによく似たスピーカーが新製品として登場するというニュースへのリンクだった。
もちろんそのニュースはLUNAについては触れていない。

LUNAによく似たスピーカーが、Ankerというメーカーから登場する。
LUNA(月)と違い、このModel Zeroは、パッと見た印象としては、
女性用のバッグというイメージがする。

だから、上部のアーチ部分は、バッグの把手のようにも見える。

貫通している部分の形状も、LUNAとは少し違う。
真横から見たシルエットも違う。

細部の違いはいくつもあるから、似ているだけで、そっくりとはいえない。
つまりパクリではない、となるのだろうか。

Date: 1月 13th, 2018
Cate: マルチアンプ

マルチアンプのすすめ(自動補正がもたらすもの・その1)

dbxの20/20の登場で始まった自動補正の技術は、
デジタル信号処理の導入によって、20/20のそれとは比較にならないほど、
精度も高くなり、高度になっている。

いくつかのメーカーから、同種の製品が登場している。
これらのモデルを使えば、マルチアンプシステムにおいても、
あるレベルのところまでは簡単に構築できるようになった、といっていいだろう。

マルチアンプは、それほど難しくないから、やってみよう、
と安易に言ったり書いたりしている人ほど、
ひどく偏った音(間違った音)を出しているのを知っている。

マルチアンプにすれば調整の自由度の範囲が一挙にひろがる。
ひろがりすぎといってもいいほどに、大きくなる。

完成品のスピーカーシステムを、内蔵のLCネットワークで鳴らしていては、
決していじることのできないパラメーターもいじれるようになる。

いきおい、間違った音を簡単に鳴らせるほどになる。
瀬川先生は、マルチアンプをすすめるステレオサウンドの別冊においても、
マルチアンプの可能性についてふれながらも、安易にはすすめられていなかった。

いまはデジタル信号処理の自動補正機能をもったモデルによって、
それ以前では一年とか二年(人によってはもっと必要となる)ほどかかるレベルになるまで、
しかもそのレベルは、いわばマルチアンプのスタート地点といえるところに、
わずか一日(数時間)で、そこに立てるようになる。

大幅な時間の短縮であり、
そこからスタートすれば、よりこまかな調整に没頭できる──、
そう思われるかもしれないが、ほんとうにそうだろうか。

マルチアンプのスタート地点に立つために、ひとりで四苦八苦する。
この経験の積み重ねがでるからこそ、そこからのこまかな調整ができるようになる、
そう考えることもできる。

初めてのマルチアンプシステムで、自動補正による大幅な時間の短縮、
そこからスタートする人には、それまでの積み重ねが薄い。

ゴールに向うための力を養えるのは、どちらだろうか。

Date: 1月 12th, 2018
Cate: audio wednesday

30年ぶりの「THE DIALOGUE」(その15)

SACDとCDのハイブリッド盤では、
当然のことながら、SACDへのマスタリングとCDへのマスタリングは同じではない。

器(メディア)のカタチ(DSDかPCM)、サイズ(記憶容量)が、SACDとCDでは違うのだから、
その器におさまるもののマスタリングが違うのは、ごく当り前のことである。

とはいえ「THE DIALOGUE」のSACDの音は、そうとうに違う。
まっとうなSACD、それもハイブリッド盤で、CDの音と比較すると、
低音域が1オクターヴとはいわないまでも、半オクターヴほど低いほうにのびる印象がある。

このことは私だけでなく、多くの人が感じられていることだろう。
古くからの友人でオーディオマニアのKさんも、まったく同じことを言っていた。

これまでラックスのD38uでのCDレイヤーの再生では、
もう一息、低音が下のほうまでのびてくれれば……、と思い続けていた。

喫茶茶会記のウーファーはアルテックの416-8C。
JBLのウーファーとは、そこが大きく違うところだな、と感じてもいた。

ここでいうJBLのウーファーとは、
私が「THE DIALOGUE」のアナログディスクを聴いて驚いたJBLのスタジオモニター、
つまり4343と4350Aに搭載されている2231Aのことである。

「THE DIALOGUE」のSACDの音は、その領域が416-8Cからも出てきたのである。

CDでもおそらく出ていたのであろう。
けれど、どこか空振り気味だったのかもしれない。
しっかりと音として伝わってこなかった(聴こえてこなかった)。

それがSACDでは、はっきりと聴きとれる。
この違いは、ほんとうに大きいだけでなく、音楽の本質的なところに関ってくる。

Date: 1月 11th, 2018
Cate: 楽しみ方

オーディオの楽しみ方(つくる・その16)

SICAの10cm口径のダブルコーンのフルレンジユニットの音を聴いていて、
頭を擡げてきたのは、瀬川先生の4ウェイのプランである。

何度か書いている。
フルレンジからスタートして、2ウェイ、3ウェイと発展し、
最終的には4ウェイとなるシステム構築である。

40年近く前、これをやってみようと思ったことは、いまもはっきりと憶えている。
結局フルレンジスピーカーはいくつか鳴らしてきたが、
2ウェイ、3ウェイ……と発展させることはなかった。

それでも数年おきに思い出す。
思い出すごとに、いまだったら、どのユニットをでやるだろうか、と思う。
思うだけで実行することはなかった。

SICAの音を聴いて、このままフルレンジとして聴くのもいいけれど、
4ウェイまで発展させなくとも、3ウェイで、イギリスのBBCモニター的なスタイルでつくれないものか、
そんなことを考えていた。

ウーファーは20cm、25cmくらいか。
30cmも捨て難い。

30cmにするなら、JBLの4311的なまとめ方もいいかもしれない、と、
BBCモニター的なことから外れたことを、もう考えてしまっていた。

いやいや最初に考えていたスペンドールのBCIIくらいの大きさの3ウェイならば……、
と考えを元にもどす。

となるとウーファーは大きくても25cmくらいまでで、
トゥイーターはドーム型、もしくはAMT(ハイルドライバー)にしたい。

エンクロージュアはあまりガチガチにしたつくりではなく、
BBCモニター的に奥に長いプロポーションで、あまり重たくしたくない。

いやいや──、とまた思い直す。
今年は、押入れで眠ったままのQUADのESL63 Proを直すことを最優先したい、と。

その他にもプランはいくつかある。
私の場合、どれかひとつに絞って「始めろ」と自分自身にいうことなのは、
よーくよーくわかっている。

それでもフルレンジから始めるマルチウェイシステムは、
オーディオ少年真っ只中だったころの残り火であって、いまもくすぶっているのを感じていた。

Date: 1月 11th, 2018
Cate: ディスク/ブック

超画期的木工テクニック

特に用事がなかったけれど、ぶらっと新宿の東急ハンズに行っていた。
六階に上ったら、「木工、やられてます?」と声をかけられた。

毎週木曜日、15時から六階の工具売場で行われている木曜木工という実演販売だった。
電動工具がなければ、正確な木工は難しいと思いがちである。

けれど木曜木工の人は、手引鋸でいとも簡単にまっすぐに角材を切っていく。
鋸が特殊なわけではなく、ノコギリガイドを使っていた。
といっても、このノコギリガイドも特殊なものではない。
ただ側面にマグネットシートが貼られているだけである。

マグネットシートに鋸がくっつく。
だから刃が湾曲することもなく、まっすぐに切ることができる。
たったこれだけのことなのに、効果は確かですごい。

いままでスピーカーの自作を考えながらも、切断のことで二の足をふんでいる人は、
一度、木曜木工の実演を見たら、いい。

実演されていた方は、杉田豊久氏で、
「超画期的木工テクニック」と「杉田式・ノコギリ木工のすべて」の筆者でもある。

Date: 1月 10th, 2018
Cate: 楽しみ方

オーディオの楽しみ方(つくる・その15)

「始めろ」。
そう自分で自分にいうところから、つくることは始まる。

ある人が、彼が心酔しているアンプ製作者の本がつくれたらなぁ……、
そんなことを口にしたのは、二年ほど前のこと。

彼はアンプ製作者と親しい関係である。
ならば、すぐに始めればいいのに……、と私は思う。

そのアンプ製作者も、こんなことをいっては大変失礼にあたるが、
いつまで生きておられるか、誰にもわかりはしない。

まだまだ十年、二十年、元気かもしれないし、
ある日……、ということだってある。

だからアンプ製作者が生きているうちに、本の制作に取りかかるべきである。
そのことを本人に直接伝えている。

けれど、そのままだ。
おそらく、アンプ製作者が亡くなってから、本をつくっておけば……、悔やむことになろう。

その時になってからでも、本はつくれる。
けれどアンプ製作者が生きているうちから始めるのと、
そうでないのとでは、できあがる本は違ってくる。

そのことがわかっているから、何度か彼に言った。

スピーカーの自作とは違うから……、と彼はいうかもしれない。
けれど、どちらもオーディオにおける「つくる」である。

彼がすべきことは、彼自身に「始めろ」といいきかせることだ。
そして、アンプ製作者に「本をつくりたい」と伝えることから、ことは始まる。

Date: 1月 10th, 2018
Cate: ディスク/ブック

NEW YORK-HOLY CITY

NEW YORK-HOLY CITY」は写真集だ。
どんな写真が、そこに収められているかは、タイトルが示している。

オーディオとはなんの接点もないように思えるだろう。
音楽とは……、
細野晴臣氏が「ニューヨークは聖地」というエッセーを寄せられているし、
「NEW YORK-HOLY CITY」の写真家、マイク野上(野上眞宏)さんは大の音楽好きで、
オーディオマニアだから、接点がないわけでもない。

それでも、ここで「NEW YORK-HOLY CITY」について書いているのは、
別項「情報・情景・情操(8Kを観て・その7)」で、
8×10(エイトバイテン)についての瀬川先生の文章を引用したのと関係してのことだ。

大型カメラとしか書いてないが、8×10で撮られた写真が、
「NEW YORK-HOLY CITY」にはおさめられている。

写真集だからカバーがついている。
カバーの端が内側に折れているところに、野上さんの文章がある。
     *
 この写真集は、私が1978年ヴァージニアにいるときに思いついた「趣味の写真」のアイデアをもとに、79年から94年までのニューヨーク在住中に撮った写真のうち、大型カメラで撮ったものから選んだ「ニューヨークの秘境案内」の写真集です。
 19世紀後半、アメリカ東部のフォトグラファーが大型カメラを馬車に積み込んで、当時の東部人にとってはまだまだ未知の世界だった西部を撮るためにオレゴンやカリフォルニアを旅して回りました。同じ頃、ヨーロッパのフォトグラファーは、汽車や船に機材を積んで遠い中国の宮殿やインドの虎狩りやアフリカのジャングルの巨大な滝などを撮りました。当時の人達はまだみぬ世界を一枚の写真の中に驚きをもって発見していたのです。時代は変わり、東洋人の僕が西洋文明の秘境の風景を大きなエキゾシズムをもって撮ってみたのがこの写真集です。かといって西洋文明を批評する気はなく、見る楽しみ、ディテールとテクスチャーの快楽の写真であります。参考に、地図も載せておきましたので興味のある方は各自の責任で行ってみるのも一興でしょう。
     *
《ディテールとテクスチャー》とある。
まさにそうだ、とおもった。
瀬川先生が、「いま、いい音のアンプがほしい」で書かれていることも、まさにそうである。
と同時に、《ディテールとテクスチャー》が、
私のなかでは、1976年12発行「ステレオのすべて」で、
黒田先生が《瀬川さんはプレゼンスだと。全くそうだと》につながっていく。