聴感上のS/N比と聴感上のfレンジ(その1)
「五味オーディオ教室」にこう書いてあった。
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くり返して言うが、ステレオ感やスケールそのものは、〈デコラ〉もわが家のマッキントッシュで鳴らすオーグラフにかなわない。クォードで鳴らしたときの音質に及ばない。しかし、三十畳のわがリスニング・ルームで味わう臨場感なんぞ、フェスティバル・ホールの広さに較べれば箱庭みたいなものだろう。どれほど超大型のコンクリート・ホーンを羅列したって、家庭でコンサート・ホールのスケールのあの広がりはひき出せるものではない。
——なら、私たちは何に満足すればいいのか。
音のまとまりだと、私は思う。ハーモニィである。低音が伸びているとか、ハイが抜けているなどと言ったところで、実演のスケールにはかないっこない。音量は、比較になるまい。ましてレンジは。
したがって、メーカーが腐心するのはしょせん音質と調和だろう。その音づくりだ。私がFMを楽しんだテレフンケンS8型も、コンソールだが、キャビネットの底に、下向けに右へウーファー一つをはめ、左に小さな孔九つと大穴ひとつだけが開けてあった。それでコンクリート・ホーン(ジムランのウーファー二個使用)などクソ喰えという低音が鳴った。キャビネットの共振を利用した低音にきまっているが、そういう共振を響かせるようテレフンケン技術陣はアンプをつくり、スピーカーの配置を考えたわけだ。しかも、スピーカーへのソケットに、またコードに、配線図にはない豆粒ほどのチョークやコンデンサーが幾つかつけてあった。音づくりとはそんなものだろうと思う。
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「五味オーディオ教室」を読んだのは中学二年の時。
テレフンケンS8型のスピーカーのソケットについている豆粒ほどのパーツがなんなのか、
実際にどのくらいの値のパーツが取り付けてあるのか、まったくわからなかった。
配線図にはない、と書かれているから、
S8の回路図を手に入れたいとも考えなかった。
これらのパーツがなんなのかを確かめるにはS8の実物にあたるしかない。
それでも豆粒ほどのパーツの正体を知りたい、とは思っていた。
「五味オーディオ教室」を読んでそれほど経っていなかったと記憶している。
電波科学にそれらしい記述があった。
後ろの方に掲載されている連載コラムに、CR方法について書かれていた。
確か出原眞澄氏の担当のページだった、と記憶している(記憶違いかもしれない)。
CR方法とは、まず電源トランスの巻線の直流抵抗値を計る。
仮に20Ωあったとしたら、20Ωの抵抗と20pFのコンデンサーを直列に接続したものを、
電源トランスの巻線に並列に接続する、というもの。
コンデンサー(C)と抵抗(R)とでCR方法というらしく、
私が読んだのは1970年代後半だったが、かなり以前から知られている手法と書いてあった。
記憶違いでなければ、CR方法は電源トランスの一次側巻線に対してだったのを、
試しに二次側にも試してみたら、二次側にも効果があった、と。
この記事を読んで思い出していたのが、テレフンケンS8型の豆粒ほどのパーツの正体である。
これなのでは、と直感した。
電源トランスとスピーカーユニットとでは違うと思われるかもしれないが、
片やトランスフォーマー、片やトランスデューサーである。
構造的にもコイルがあり、コイルの中心には磁性体が配置されている。
トランスに効果的であるならば、スピーカーユニットにも効果的のはず。
そう考えた。