指先オーディオ(その1)
アナログでもっぽら信号処理をしていた時代から、
ツマミを動かすことで、さまざまなことができるようになってきた。
そこにデジタルが登場して、さらに範囲は拡がり、より細かな調整が可能になってきている。
なんらかのプロセッサーが目の前に一台あれば、
以前では簡単に変更できなかったパラメータをもいとも簡単にいじれるようになっている。
技術の進歩が、ツマミを動かすだけでなんでもできるようにしてくれる。
けっこうなことである。
けれど懸念もある。
その懸念が、指先オーディオである。
指先だけでかなりのことが可能になってきた。
便利な時代になってきた、とは思っている。
なのに指先オーディオなんて、ついいいたくなるのは、
何かを見失ってしまった人を知っているからだ。
彼は昔からパラメトリックイコライザー、グラフィックイコライザーが好きだった。
そのころは彼もまだ若かった。
それらのイコライザーに積極的であっても、指先オーディオではなかった。
けれどデジタル信号処理による、プロ用機器ではさまざまなプロセッサーが出てくるようになった。
それらを手にしたころから、彼は指先オーディオへと突き進んでいった。
歳をとったということもあるのだろう。
体を動かすよりも、指先だけで済むのだから(必ずしもそうではないが)、
そういうプロセッサーへの依存は強くなっていくのか。
高度なことをやっていると思い込んでしまっている彼は、
何も生み出せなくなってしまった──、
私はそう感じている。
彼ひとりではない、とも感じている。
指先オーディオは拡がりつつある、と感じている。