Archive for category 電源

Date: 12月 13th, 2017
Cate: 電源

実感した電源ノイズ事情(その1)

私が勤めていたころのステレオサウンドは、
窓から顔を出せば東京タワーがはっきりと見える場所にあった。
井上先生が、そのころよくいわれていたのは、ノイズ環境のひどさだった。

スイングジャーナルは東京タワーの、ほぼ真下といえるところにあったから、
ステレオサウンドの試聴室の方が条件としては悪い(ひどい)、といわれていた。

いまから約30年前の話だ。
いまやノイズ環境はひどくなるばかりといっていい。
デジタル機器が氾濫しているし、電源の状態も悪くなることはあっても、
もうよくなることはないであろう。

昨日、渋谷の明治通り沿いにあるギャラリー・ルデコでの写真展(4F)に行っていた。
マークレビンソンのML7A、No.27、スピーカーはアンサンブルのReferenceという組合せで、
音楽が流されている空間だった。

片チャンネルからバズのようなノイズが出ていた。
ノイズがどう変化するのかいくつか試したなかで、
ML7Aの電源コードを、壁のコンセントから直に取るようにしたところ、
両チャンネルから、ノイズが出るようになった。

いままでのノイズにプラスして、である。
ML7AはADCOM製のノイズフィルター内蔵のACタップから取られていた。
元に戻すと、片チャンネルだけのノイズになる。

つまり電源からのノイズが、音として聞こえてきたわけである。

ステレオサウンドの1981年の別冊「’81世界のセパレートアンプ総テスト」では、
コントロールアンプの測定で、パルス性のノイズを電源に加えた場合に、
出力に表れるかどうかということをやっている。

パルス性ノイズがそのまま出てくるアンプもあった。
ML7は優秀で、まったく出てこなかった。

それだけ現在の電源ノイズは、ある意味、すごい(ひどい)といえる。

Date: 7月 8th, 2016
Cate: 電源

ACの極性に関すること(その5)

ステレオサウンド 57号で井上先生がいわれているのは、
レコードにもACの極性が存在するということである。

ステレオサウンドは55号から「オーディオ・ジョッキー」という短期連載が始まった。
ACの極性に関する試聴記事が一回目(55号)で、
放送局、PA、スタジオなどのプロの現場でのAC極性のコントロールについての取材が二回目(56号)で、
レコードにもACの極性があることにふれたのが三回目(57号)である。

記事は井上先生と黒田先生の対談形式。
この記事から井上先生の発言をいくつか拾っておく。
     *
 今回は、オーディオのプログラムソースで一番重要なレコード自体にも、AC極性があるということをとりあげてみたい。レコードは、録音からカッティングに至る制作過程で数多くの機材を使用します。当然、これら機械類はAC電源を必要としますから、出来上ったレコード自体にもAC極性があるのではないかということでいろいろチェックしてみると、これが明らかにあるのですね。
(中略)
 これまでにもACのコントロールをしていって、おかしいなと感じたことはあったのです。うまく鳴ってくれるレコードと、うまく鳴ってくれないレコードとがある。機器間の極性は合っているはずなのに、何とはなしモタモタするとか、妙にコントラストがついてくっきりしすぎちゃって、うるさい感じになる。
(中略)
 簡単にいうと、発端はテープレコーダーなんです。AC極性を合わせた再生システムにテープレコーダーを加えると、テープレコーダーの極性を変えることによって2種類の音が録音できるでしょう。さらに極性を変えながらこのテープを再生すると、また2種類できる。録音再生で4通りの音になるわけです。それなら、レコードが極性によって鳴り方が変っても当然じゃないかということで……。
(中略)
 昔から、ACのことをよくわかっている人でもどうも昨日の音とは違う、特に,マルチアンプの場合にはかなり細かくレベル調整をしてバランスをとっていくと、あるレコードはいいのだけれどあるレコードではダメということがあったでしょう。これはACをひっくり返すと直っちゃうんです。この事も一つのきっかけといえます。
     *
レコード制作側が、録音・カッティングなど、
レコードが出来上るまでのすべてのプロセスにある機材のACの極性を合せていれば、
本来ならば起らない問題なのだが、現実には、そうではないことがわかる。

このレコードにおけるAC極性の問題を、黒田先生はオスとメスがある、という表現をされている。
ほとんどのレコードはオスであっても、少数ではあるがメスのレコードがある。

つまりACの極性を合せる、の「合せる」の意味に少し違う意味が加わってくることになる。

Date: 7月 7th, 2016
Cate: 電源

ACの極性に関すること(その4)

ACの極性をかえることで音が変化するのはいまや常識である。
ACの極性合せはどうやるのかについては、(その2)で書いている。

アース電位をデジタルテスターで測る。
このときすべての接続をはずしておく必要がある。
他の機器とケーブルでつながっていてはだめである。

そうやってアース電位を測る。
コントロールアンプが、仮に5Vと10Vだったとする。
通常であれば5Vの方を、ACの極性が合っているとする。

けれどパワーアンプのアース電位が12Vと20Vだったとする。
こちらは12Vが合っているとなる。

コントロールアンプは5V、パワーアンプは12Vだとアースの電位差は7Vということになる。
ここでコントロールアンプのACの極性をあえて反対にする。
つまり10Vにすることで、パワーアンプとのアースの電位差は2Vと小さくなる。

こういう考え方もできるのではないか。
だとしたら、どちらを選択すればいいのか。
これは、聴いて判断するしかない。

ACの極性合せを聴感で行う場合、
注意点としては音の入口側からやっていくことである。
CDプレーヤーをまずやり、次にコントロールアンプ、パワーアンプとやっていく。

ACの極性があえば、音場が拡がる。
音楽が演奏される場が、どんなイメージで鳴ってくるか。
たとえば狭い兎小屋で演奏しているかのような窮屈な鳴り方なのか、
それともホールで演奏しているように響いてくれるのか。

別項で書いたマークレビンソンのLNP2のゲイン切り替えの音の違いと、
基本的には同じともいえる。

他にもチェックポイントはあるけれど、まずは音楽が演奏される場としての音場であり、
つまりは聴感上のS/N比をあげることである。

そうやってシステム全体のACの極性を合せた上で、
個々のオーディオ機器の極性がどうなっているのかをチェックしてみることである。

単体で測ったアース電位が低い方がいいのか、
それとも接続する機器同士のアース電位差が小さい方がいいのかははっきりする。

まれにではあるが、聴感で合せたACの極性が、
テスターで測って合せた極性で、すべて逆の場合がないわけではない。

これについては、ステレオサウンド 57号で、井上先生が解説されている。

Date: 4月 23rd, 2013
Cate: 50E, QUAD, 電源

電源に関する疑問(QUAD 50E・その6)

オートバランス回路による位相反転にはこういうところがあり、
このことが理論に忠実であろうとすればするほど、納得のいかない回路であるし、
オートバランスを採用するのであれば、カソード結合のムラード型にするとか、
さらには徹底して入力トランスを用いて、電圧増幅段、出力段ともにプッシュプルとしたほうが、
性能的にも優れ、音質的にもよい結果が得られる──、
私もそう考えていた時期があった。

伊藤先生による349Aプッシュプルアンプ、
これもオートバランス回路を使っている。
だから、このアンプの音に惚れながらも、
349Aのプッシュプルアンプを作るのであれば、オートバランス以外の位相反転回路を採用するか、
ウェスターン・エレクトリックの349Aアンプ、133Aの回路をそのままで作ろうと考え、
前段に使われている348A、それもメッシュタイプのモノを探し出してきたこともある。

133Aの回路のほうが、伊藤先生の349Aアンプ(元はウェストレックスのA10)よりも、
回路の平衡性ということでは理論上優れていることになる。

とにかく最高の349Aのアンプが欲しかった私は、
最初は伊藤先生のアンプのデッドコピーをしよう、から、ここまで変化していった。

なのに主要パーツが集まり、あとはシャーシーの設計と発注の段階まできて、また考えが変っていた。
オートバランスのもつ、
私が気付くような欠点はウェスターン・エレクトリックやウェストレックスの技術者はとうに知っていたはず。
伊藤先生もそうであったはず。
にも関わらず、オートバランスを位相反転の回路として採用していることには、
電源回路に1kΩの抵抗を直列に挿入するのと同じように、
私が気付いていない意味があるはずだと考えるようになったからである。

Date: 4月 17th, 2013
Cate: 50E, QUAD, 電源

電源に関する疑問(QUAD 50E・その5)

位相反転にオートバランス回路を採用しているのは、
伊藤先生による349Aプッシュプルアンプもそうである(つまりウェストレックスのA10、A11も、である)。

伊藤先生の349AではここにE82CC(A11では6SN7)を使われている。
E82CC、6SN7、どちらも三極管である。
QUAD IIにはEF86、五極管で、回路を比較していくと、
単に三極管と五極管の違いだけとはいえない違いがあるのに気がつく。

2本のEF86のスクリーングリッドがコンデンサー(0.1μF)で結ばれている。
いうまでもなく三極管にはスクリーングリッドはないわけで、
伊藤先生の349Aアンプには、この0.1μFに相当するコンデンサーは存在しない。

オートバランスの位相反転回路の動作からいって、このコンデンサーの必要性はない。
にもかかわらずQUAD IIには使われている。

オートバランスという位相反転回路は、プッシュプル回路の上下(+側と−側)において、
信号が通る真空管の段数に違いが生じる。

通常回路図は左端が入力で横方向に信号が流れるように描かれることが多い。
プッシュプル回路の場合、上下に真空管が配置されることになる。
それで上の球、下の球という表現がなされるわけで、
ここでも上の球、下の球という表現を使って説明していく。

QUAD IIでは入力信号はまず上側のEF86で増幅される。
この出力は上側のKT66に接続される一方で、抵抗ネットワークによって分割・減衰された信号が、
下側のEF86に入力される。
つまり上側のEF86での増幅された分を抵抗ネットワークで減衰させ、
上側のEF86に入力された信号レベルと同じにするわけだ。

下側のEF86で増幅された信号は下側のKT66へと行く。
つまり上側のKT66にいく信号はEF86を一段のみ通っているのに対し、
下側のKT66への信号はEF86を二段(プラス抵抗)を通っていることになる。

Date: 4月 15th, 2013
Cate: 50E, QUAD, 電源

電源に関する疑問(QUAD 50E・その4)

QUADの真空管アンプの回路のユニークさについての解説は、
ステレオサウンド別冊「往年の真空管アンプ大研究」に掲載されている石井伸一郎、上杉佳郎、是枝重治、三氏による
「QUADII+22の回路の先見性・魅力の源泉を探る」をお読みいただきたい。
(すでに絶版になっているが現在は電子書籍で入手できる)

これまでQUADの真空管アンプの回路について解説は、いくつか読んだことがある。
それでもはっきりとしないことがいくつもあって、それらがほとんどはっきりしたのが、この本のこの記事である。

QUADの真空管アンプの回路のユニークさについてこまかく解説していこうとすると、
それだけでけっこうな文量になるし、その多くを「往年の真空管アンプ大研究」から引用することになる。
なのでQAUDのアンプの詳細について知りたい方は「往年の真空管アンプ大研究」を参考にしてほしい。

「往年の真空管アンプ大研究」のQUADを記事を読んで、改めて思ったのは、
ピーター・ウォーカー氏は、五極管を使いこなしに長けていた人ともいえることだ。

コントロールアンプの22のフォノイコライザーは五極管EF86を1本だけで構成している。
しかも長年22のフォノイコライザーに関しては、CR型なのかNF型なのか、議論されてきていた。
それでも納得のいく答を出せていた人はいなかった(少なくとも私が読んだ記事の範囲においては)。

フォノイコライザーを真空管1本だけ(1段)だけで構成するのは、
三極管では増幅率が低く、まず無理であり、五極管を使うしかない。
三極管の2段構成すればもちろん可能になるわけだが、ピーター・ウォーカーはあえてそうしていない。

パワーアンプのQUAD IIもそう。
QUAD IIには三極管は使われていない(22はラインアンプはECC83の2段構成)。
初段は22のフォノイコライザーと同じEF86を2本使い、
基本的にはオートバランス型と呼ばれる位相反転回路となっている。

けれど、ここが22のフォノイコライザー同様、迷路的な回路となっていて、
なかなかその正体(動作)が把握しにくくなっている。

Date: 4月 14th, 2013
Cate: 50E, QUAD, 電源

電源に関する疑問(QUAD 50E・その3)

QUADの50Eの増幅部の回路構成は、
P-K分割の位相反転回路をもつ真空管のプッシュプルアンプの増幅素子をトランジスターに置き換えたもの、
ということで説明できるわけだが、
このことをQUADのアンプの変遷のなかでみていくと、
そこには創立者であるピーター・ウォーカーのしたたかさと柔軟さ、とでもいうべきなのか、
そういう面が浮び上ってくる。

QUADは1948年に最初のアンプQA12/P(インテグレーテッドアンプ)を出している。
KT66のプッシュプルアンプということ、それにモノクロの写真以外の資料はなく、
どんな回路構成だったのか、以前は不明だったのだが、
いまは便利なものでGoogleで検索すれば、QA12/Pの回路図は簡単に見つけ出せる。

その後1950年にQUAD Iを、1953年に今でも良く知られているQUAD IIを発表している。

この3つのアンプの回路図を比較すると、すでにQUAD IIに至る出発点としてQA12/Pが生れていたことがわかる。
なので、これからはQUADの真空管アンプ=QUAD IIとして話を進めていく。

50Eは真空管アンプのプッシュプル回路と基本的には同じである──、
実際にそうなのだが、だからといってQUAD IIの回路と同じかというと、まったく違う回路である。

真空管時代のQUADのアンプは、コントロールアンプの22にしても、パワーアンプのQUAD IIにしても、
細部をみていけばいくほど、「?」が浮んでくる、そういう回路構成となっている。

Date: 4月 14th, 2013
Cate: 50E, QUAD, 電源

電源に関する疑問(QUAD 50E・その2)

私がQUADの50Eの存在を知ったのは、ステレオサウンド 43号に載った記事である。
「クラフツマンシップの粋」という連載記事で、鼎談形式により過去の銘器について、
その時点の視点から捉え直そうというもの。

43号ではQUADの管球式アンプがとりあげられていて、
最後のところでQUAD初のソリッドステートアンプの50Eについても語られている。

山中先生の発言をひろってみる。
     *
この50Eというアンプは、いままでのパワーアンプと違って(註:QUADのそれまでの管球式アンプのこと)、完全に最初からソリッドステートということを意識したスタイリングをもっているわけで、これも大変シンプルで、しかもプロ的なイメージの強い製品として興味深いんですが、音の点でも大変ユニークな製品だったと思うんです。いわゆるソリッドステートアンプということではなく、球のアンプのもつスムーズさというか……。これはピーター・ウォーカー氏によれば、現時点ではもう特性的に魅力がないんだということですが、実際に聴いてみると、303とはやはり全然違った魅力というのはありましたね。
     *
ピーター・ウォーカーの発言がいつのことなのかは、これだけでははっきりとしないが、
ステレオサウンド 43号は1977年3月に出ている。
すでにカレントダンピングという新しい回路を搭載した405は世に登場していた。

405の登場の時の発言なのか、それとも303の時点での発言なのか。
どちらにしても50Eが「特性的に魅力がない」ということは、そのまま言葉通りに受けとめていい、と思う。

けれど音の魅力としては、山中先生の発言にもあるように「魅力がない」とはいえない。

私は43号を読んだ時点では、50Eをそういうアンプとして受けとめていた。

50Eは1965年ごろに発表されている。
もう50年近く経っている。
ステレオサウンド 43号の1977年は50Eが発表されて約10年、
製造中止になってそれほど経っていないころだ。

この間、アンプだけをみてもずいぶんと変遷があり、
あのころの50Eをみていた眼といま50Eをみている眼は、私個人に関してもずいぶんと変化してきている。

あらためて50Eの回路図を眺めていると、どこか新鮮さにつながるものを感じている。

Date: 4月 14th, 2013
Cate: 電源

電源に関する疑問(その28)

伊藤先生の349Aプッシュプルアンプは、ウェストレックスのA10がベースになっている。
A10はいうまでもなく映画館で使われるアンプであり、
そこではセリフのとおりがもっとも重要視される。

もしA10で鳴らしたときに低音がボンつくことがあったら、
セリフの明瞭度は著しく落ち、とおりも悪くなるだろう。
だからA10では、絶対にそういうことがないだけでなく、
むしろセリフの明瞭度ととおりが、他のアンプ(いいかえれば家庭用のアンプ)より優れていなければならない。

そういうアンプに、ウェストレックスの開発陣は出力管に350Bを使い、
出力トランスの2次側からのNFBをかけることをとっていない。
かわりにチョークインプットと1kΩの抵抗の直列挿入を行っている。

つまり、このことはA10の出力段はAクラス動作であることを表してもいる。
A10の出力段、伊藤先生の349Aアンプの出力段がBクラスもしくはABクラスであったなら、
1kΩという値の抵抗を直列にいれることは無理となる。

抵抗の中を電流が通れば、電流×抵抗値の分だけ電圧降下が起る。
出力段の電流変動の大きいBクラス、ABクラスだと大出力時、電流が多く流ることで電圧降下が大きくなり、
結果出力管のプレートにかかる電圧が大きく低下することになってしまう。

電流変動がごくわずかであればこそ、電源回路に1kΩという抵抗を挿入することができる。

ウェストレックスのA10は一見すると無駄の多い回路のようにもうけとれる。
チョークインプットと1kΩの抵抗で、電圧のロスはかなり大きい。
抵抗が発する熱もかなり大きい。
そして三極管より効率の高い多極管をあえてAクラスで使い、出力はアンプ全体の規模からすれば小さい。

こういうアンプを、あえてウェストレックスの開発陣がつくったということは、
セリフの明瞭度ととおりを重視してのことなのかもしれない。

Date: 4月 13th, 2013
Cate: 50E, QUAD, 電源

電源に関する疑問(QUAD 50E・その1)

この項の(その2)にこう書いている

真空管アンプには、いくつか採用例があったチョークインプット方式だが、
トランジスターアンプになってからは、1987年に登場したチェロのパフォーマンスまで採用例はなかった(はず)。

今日、ある方から、このことで指摘を受けた。
QUAD最初のソリッドステートアンプ50Eも、チョークインプットだ、と。

回路図を見ると、たしかにチョークインプットである。
となると、ほぼまちがいなくトランジスターアンプで最初にチョークインプットを採用したのは50Eだろう。

50Eの増幅部の回路構成は、真空管アンプのプッシュプル回路の増幅素子をそのままトランジスターに置き換えた、
そういえる回路構成である。

そのため、一般的なトランジスターアンプ(シングルエンテッドプッシュプル型)にはない位相反転回路がある。
真空管アンプのP-K分割ならぬ、トランジスターだけにC-E分割回路である。
50Eは出力トランスも搭載している。

こういう回路構成のアンプ、当時いくつかのメーカーで試作品的なものはつくられたそうだが、
実際に製品化されたのはQUADの50Eだけ、らしい。

実は増幅部の回路構成については回路図を以前みたときから知っていた。
でも、そのときは電源部にまで注意がいかなかった。

増幅部の回路構成が真空管アンプそのものであるなら、
電源部もそうである、と、なぜか当時は思わなかった。

Date: 4月 10th, 2013
Cate: 電源

電源に関する疑問(その27)

伊藤先生による349Aアンプにおける電源回路の1kΩの働きが、
ほんとうのところはどういうものであるのかは、
実際に、この349Aアンプを製作して、しかも電源トランスの2次側のタップをふたつ用意して、
片方は1kΩがなくてとも規定の電圧がとれるタップ、
もうひとつは1kΩを挿入した状態で規定の電圧がとれるタップとで、
1kΩの抵抗のあるなしの音を聴いていくしかない。

1kΩの抵抗なしでも低音がボンつくことなく鳴るのであれば、
伊藤先生の349Aアンプの音の秘密は、別のどこかにあるということになる。
1kΩの抵抗なしで低音がボンつけば、
1kΩの抵抗による効果ということができ、そうなると(その26)に書いた推論が、ある程度正しいといえよう。

こんなことを書いている暇があったら、さっさと伊藤先生の349Aアンプを作って確かめればすむこと。
1kΩの抵抗の役割に気がついて、もう20年以上が経つ。
にも関わらず検証せずにいる。

それでも1kΩの抵抗の役割について考えていくと、
ある時期のゴールドムンドのパワーアンプの平滑コンデンサーの容量が小さかったこと、
47研究所のアンプにしても、ぎりぎりの容量のコンデンサーしか搭載していないこと、
これらの理由は主に応答速度と語られることが多い、そのことについてもこれだけではない見方ができる。

確かに同一コンデンサーで、容量だけが違うものを集めて測定すると、
充放電の時間は容量が小さなコンデンサーのほうが、わずかとはいえ速い。
ゆえに応答速度の速さが音の反応の良さに活きている──、
そういえないこともないけれど、
電源トランスとの2次側のコイルとの共振周波数の、
コンデンサーの容量による変化も忘れるわけにはいかない。

Date: 10月 18th, 2012
Cate: 電源

電源に関する疑問(その26)

電源部を構成する部品は、そう多くはない。
ここでは伊藤先生の349Aプッシュプルアンプの音を聴いたことから出発しているから、
ここでの電源部とは定電圧電源を使用しない、真空管アンプ用の電源を前提としてすすめていく。

定電圧電源にすれば部品点数はすごく増えるものの、
いわゆる非安定化電源ならば、
電源トランス、整流管もしくは整流ダイオード、平滑コンデンサーがあればいい。

電源トランスは磁性体のコアに2つ以上のコイルを巻いたものである。
1次側のコイルがAC電源に接がれ、
2次側のコイルが整流管(整流ダイオード)を経てコンデンサーへと接がっている。
さらに真空管アンプではコンデンサーは出力トランスの1次側のコイルへ、となっている。

つまりコイルとコンデンサーとコイルが並列になっている状態である。
コイルとコンデンサーがあれば、必ずどこかで共振する。
電源トランスの2次側のコイルと平滑コンデンサーとが、
平滑コンデンサーと出力トランス1次側とのコイルとが、共振していると考えていいはず。

共振であれば、そこには共振周波数とQが存在する。
コンデンサーの容量をやみくもに増やすことは共振周波数を下げていくことになる。
そしてレギュレーションをよくするために電源回路のインピーダンスを下げるということは、
Qに関係してくる。つまりQが大きくなるわけだ。

共振周波数とQの具合によって、低音がボンつくとは考えられないだろうか。

こう仮説をたてると、電源回路に直列にはいっている1kΩの抵抗の役割がはっきりしてくる。
これだけ値の高い抵抗をいれることで電源インピーダンスは高くなるけれど、
それゆえにQを抑えることができる。

整流管を内部抵抗の小さな5AR4から内部抵抗の高い274Bに変えることも、
整流管としての5AR4と274Bの内部構造、材質の違いなどの差も音に関係していると同時に、
内部抵抗が高いことによってQが抑えられている、ということも考えられる。

Date: 4月 29th, 2012
Cate: 電源

電源に関する疑問(その25)

伊藤先生の349Aプッシュプルアンプは、初段がEF86で位相反転にはE82CCが使われている。
E82CCのカソードは結合されてはいるものの、いわゆるムラード型の位相反転ではなくオートバランス型である。

つまり+側の信号はEF86、E82CCという信号経路だが、
−側はEF86、E82CC、E82CCと信号経路としてE82CCを一段余計に通る。
NFBは+側のE82CCのプレートからEF86のカソードにかけられている。

ウェストレックスのA10も回路は同じで、
初段が6J7、位相反転6SN7、出力管が350B、という使用真空管の違いだけである。
伊藤先生の349AプッシュプルアンプはA10のスケールダウン仕様といえる。

でも、この回路構成が低音がボンつかない理由とはいえない。

349Aプッシュプルアンプは無線と実験に発表されたものだが、
実際に製作されたアンプと掲載されている回路図は多少異る点がある。
そのもっとも大きな違いは、出力トランスの1次側インピーダンスで、
無線と実験に載っている回路図、部品表ではラックスのCSZ15-8、
つまり1次側インピーダンスが8kΩということになっているけれど、実際に搭載されているのはCSZ15-10、
1次側インピーダンスが10kΩ仕様であり、
このことは低音がボンつかない理由に関係しているとは思えるものの、それほど大きな理由とは思えない。

このことは、しばらく疑問のままだった。
アンプの回路を信号部だけを見て考えていたままだったら、
いまでも、なぜだか低音はボンつかない、としかいえないままだったはずである。

アンプの回路は、信号部と電源部から成っている、という当り前すぎることを再認識すると、
ウェストレックスのA10、伊藤先生の349Aプッシュプルアンプは、
ビーム管、五極管を出力段に使いながらオーバーオールのNFBがかけられていないということと、
電源部に直列に1kΩの抵抗が挿入されていることは切り離せないことではないか、と気づく。

Date: 4月 28th, 2012
Cate: 電源

電源に関する疑問(その24)

向ったのは六本木にあるおつな寿司。
上杉先生は、ここのいなり寿司が好物だ、とこのとき聞いた。

上杉先生との食事は楽しかった。
いろいろな話があったが、さきほどまで真空管アンプを作られていたわけだから、
真空管、真空管アンプに関する話題が当然出てくる。

このときすでに349Aのプッシュプルアンプを作ろうと考えていたので、
たしかNさんが上杉先生にこのことを話されたので、こういう回路のアンプを作ろうと説明した。

上杉先生から返ってきたのは、「出力トランスからNFBはかけないんですか」だった。
出力管に五極管の349Aを、五極管接続で使用するのだから、上杉先生がそういわれるのはもっともである。
上杉先生の経験からも、どんな球であろうと、五極管、ビーム管をオーバーオールのNFBなしで使用したら、
低音がボンついてまともな音はしない、ということだった。

ステレオサウンドの製作記事のオルソンアンプもオーバーオールのNFBはかかっていない。
無帰還アンプである。出力管はEL34。五極管ではあるが、
オリジナルのオルソンアンプでは6F6を三極管接続している。上杉先生はEL34を三極管接続で使われている。

五極管、ビーム管を無帰還で使うのならば三極管接続するのが、いわば常識的にいわれていた。
上杉先生は、だから「三結にもされないんですか」ときかれた。「五極管接続です」とこたえた。
さらに伊藤先生の349Aのプッシュプルアンプでは、低音がボンつくことはなかったことを説明したものの、
上杉先生を納得させるだけの説明を、このときの私には無理だった。

私自身、なぜ伊藤先生の349Aプッシュプルアンプではそういったことがおこらないのか、
その理由がまったくわからなかったのだから、しょうがない。

349Aがウェスターン・エレクトリックの球だから、ということは理由にもならない。
コンデンサーや抵抗といった部品にいいものを使ったからも、この理由にはならない。
伊藤先生が作られたから、も、もちろん、その理由にはならない。

Date: 4月 28th, 2012
Cate: 電源

電源に関する疑問(その23)

上杉先生によるオルソンアンプの製作記事はステレオサウンド 64、65、66号に載っている。
65号には実際の製作過程が写真で載っていて、このときの撮影には立ち合うことができた。
目の前で上杉先生のアンプ作りを見ることができたのは、幸運だったと思う。

65号は1983年発行のステレオサウンドで、当時20の私よりもいまの私の方が、
つぶさに見れたことを幸運だと思っている。

完成品の内部を見る機会はいくらでもある。写真で見たり、実物の天板をとって中を覗いてみたりなどができる。
けれど、なかなかその製作過程を最初から最後まで見る機会はめったにない。

誌面上でどれだけ写真を多用して事細かに説明文をつけたとしても、
写真と写真のあいだにあったことを伝えるのは、まず無理だといっていい。

真空管アンプで、プリント基板を使わずに手配線によって製作していくには、
製作者の流儀といえるものがある。
その流儀は、上杉先生には永いアンプ作りから身につけられた流儀があり、
伊藤先生には伊藤先生の流儀がある。

このころから、私は真空管アンプに関しては伊藤先生の流儀をなんとか身につけたい、と思っていた。
だからといって、ほかのアンプ製作者の流儀が参考にならないか、というとそんなことはまったくない。
直にアンプが形を成していく過程をじっと見ていけば、そこから学べることはかなりのものがある、といっていい。

記事のためのアンプ作りなので、製作過程の要所要所で撮影をするわけで、
しかも撮影カット数は記事で使われている写真点数よりもずっと多い。
撮影のたびにアンプづくりの手を止められるわけではないが、
細かいところの撮影などで手を休めてもらうことになる。
だから、こういう記事のためのアンプ作りは、実際のアンプ作りよりもずっと時間を必要とする。

もう30年近く前のことだから、何時ごろから始まったのかは忘れてしまった。
憶えているのは撮影が終って(つまりアンプが完成したあとに)、
上杉先生とこの記事の担当者のNさんと三人で遅い食事に行ったことだ。