スイッチング電源のこと(その1)
私の記憶の範囲内では、
スイッチング電源を最初に採用したアンプは、ビクターのM7070である。
M7070のスイッチング電源は、アンプ全体を小型軽量化するためのものではなく、
従来の電源方式では得られない供給能力を目指しての才能だった──、
と当時読んでいた電波科学での記事からの印象である。
その記事には、木の板、コンクリートの板、鉄の板のイラストがあった(はずだ)。
それぞれの板に、上からボールを落としているイラストだった。
板の材質が、アンプの電源の容量を表していた。
ひ弱な電源が木の板で、従来の方式でのしっかり作られた電源がコンクリートの板。
ビクターは、スイッチング電源でのみ鉄の板の強度を実現できた、と説明していた。
細部で記憶違いはあると思うが、こんなふうな説明がなされていた。
なるほど、と感心しながら読んでいた。
M7070は、瀬川先生が定期的に来られていた熊本のオーディオ店で聴いている。
瀬川先生は、そのとき「THE DIALOGUE」を鳴らされた。
他のアンプでは聴けないかも……、と思わせるほど、
パルシヴな音の鋭さは見事だった。
音を聴いて、またなるほど、と感心していた。
確かに、これは鉄板の音だ、と感じていたからだ。
M7070の音は、快感ですらあった。
でもクラシックは、このアンプでは聴けないな、とも感じていたけれど、
スイッチング電源の可能性は、小型軽量の方向ではなく、
従来の電源と同程度の容積で構成してこそ良さが活きてくるのかも、と考えた。
スイッチング電源は、なかなか普及しなかった。
M7070のスイッチング周波数は35kHzと、可聴帯域よりもほんのわずかだけ上だった。
当時としては、このへんが上限だったのだろう。