Archive for category きく

Date: 3月 15th, 2020
Cate: きく

音を聴くということ(グルジェフの言葉・その8)

入魂の音、
それも全神経を傾注したの結果による音ではなく、
魂のこめられた音という意味での、入魂の音というのはあるのだろうか。

ありますよ、といってくる人がいる。
入魂の意味を説明したうえでも、ありますよ、といってくる人がいる。

音に魂が込められるのか──、
そのことを問いたいのではない。
その前の段階のことを問いたい。

音に魂を込める。
その魂は、どこから持ってくるのか。

そう問えば、自分の中からだ、という答が返ってくるはずだ。

人は生きているから、どこかに魂はあるといえる。
けれど、問いたいのは、あなたの魂は目覚めているのか、だ。

睡ったままの魂を、どうやって音に込めるのか。

なぜオーディオをやってきたのか。
ここまで情熱を注いできたのか。

結局、自分の魂を目覚めさせよう、としてきたのだと、
ここにきておもうようになった。

Date: 3月 2nd, 2020
Cate: きく

音を聴くということ(グルジェフの言葉・その7)

先日発売になったオーディオアクセサリー 176号は、
音元出版のサイトによれば《編集部入魂の1冊》だそうだ。

入魂の音、という表現はしばしばみかける。
自分自身の音について「入魂の音」と表現する人もいるし、
誰かの音について「入魂の音」という人もいる。

入魂とは、辞書(大辞林)には、
 ある事に全神経を傾注すること、
 ある物に魂を入れること、
とある。

オーディオアクセサリーの場合は、「ある事に全神経を傾注すること」の方だろう。
入魂の音の場合はどうだろうか。

使う人によって微妙に違ってくるのだろうが、
私は、「ある物に魂を入れること」の方で使われているように感じている。

つまり音に魂を入れること、である。

「五味オーディオ教室」が、私のオーディオの核になっている。
だから、ここでくり返し書いているように、
オーディオにおける肉体の復活を信じているし、めざしてもいる。

音による肉体の復活。
実際には、そう錯覚しているだけなのだろうが、
それでもそう感じることがあるのも事実だ。

それでも、肉体の復活と感じられる音こそが入魂の音とは思っていない。
細部にまで神経のいきとどいた素晴らしい音で鳴っていたとしたら、
そこでの入魂の音は、「ある事に全神経を傾注すること」の結果による音であって、
「ある物に魂を入れること」ではない。

Date: 11月 14th, 2019
Cate: きく

試聴と視聴と……(その2)

その1)の最後に、
試聴は、為聴なのか、と書いた。

最近では、(しちょう)は思聴でもある、と思うようになってきた。

Date: 8月 4th, 2019
Cate: きく

カセットテープとラジカセ、その音と聴き方(余談・その21)

TC800GLと同時代のヤマハの製品は、
プリメインアンプのCA2000をみればわかるように、
そのジャンルの製品として、必要される機能はできるかぎり搭載しようとコンセプトがある。

CA2000は、その後に登場したA1とは違う。
メーターも搭載しているし、トーンコントロールはどちらもあるが、
A1にはターンオーバー周波数切替えはない。
フィルターはA1はローカットのみ、CA2000はハイカットも持つ。

PHONO入力もCA2000は、負荷抵抗の三段切替が可能。
テープモニターは、A1は一系統、CA2000は二系統、
モードセレクターも、A1は二点、CA2000は五点。
ミューティングはA1はなし、CA2000は-20dBである。

そしてCA2000はパワー段のA級/B級動作の切替えもできる。

CA2000にこれ以上の機能を搭載しようとすれば、
フロントパネルの面積がもっと必要になるほどに、
使い手が望む機能は、ほぼ備えている、といえる。

それはコントロールアンプのCIにもいえる。
そしてパワーアンプのBIもそうである。

CIはフロントパネルを視れば、それがどれだけ多機能なコントロールアンプなのかは、
誰の目にも明らかなのに対し、BIはちょっと違う。
別売のコントロールユニットUC-Iを取り付けていないBIは、
シンプルなパワーアンプにしかみえない。

けれどリアパネルをみると、スピーカー端子が五組ある。
これを活かすにはUC-Iが必要となる。

UC-Iを装備したBIは、五系統のスピーカー端子が使えるようになるだけでなく、
それぞれにレベルコントロールが可能にもなる。

そこまでの機能を必要とする使い手がどれだけいるのかといえば、そうはいなかっただろう。
それでも、この時代のヤマハは、それだけ機能を搭載した。

CA2000の機能、CIの機能もそうであろう。
すべての使い手が、すべての機能を使いこなしている、必要とするとは限らないが、
メーカーの都合で、使い手に不自由はさせない──、
そういうコンセプトが感じられる。

それはカセットデッキのTC800GLにもいえる。
だから据置型としても可搬型としても使えるカセットデッキなのである。

Date: 7月 27th, 2019
Cate: きく

カセットテープとラジカセ、その音と聴き方(余談・その20)

ヤマハのTC800GLの、乾電池込みの重量は5.4kgである。
この重量を重いと思うか、そうでないか。

TC800GLと同時代の可搬型のカセットデッキ、
ソニーのTC3000SDは4.6kg、TC550SDは5.2kg、
ティアックのPC10は5.0kg、テクニクスRS646Dは5.7kg、RS686Dは3.0kg、
ビクターのKD2は3.85kgであった。

海外製のウーヘルのCR210は2.0kgと、可搬型と呼べるほどの軽さであるが、
国産の、この時代の可搬型カセットデッキは、
TC800GLよりもやや軽いか、ほほ同じくらいの重さである。

ソニーが1980年に発表したTC-D5Mは、さすがに軽い。1.7kgである。

こうやって重量をみていくと、TC800GLは、
据置型カセットデッキなのか、可搬型カセットデッキなのか。

上記した国産各社の可搬型カセットデッキは、
外観からして可搬型らしい。
据置型と認識する人はまずいない。

可搬型カセットデッキとしての場合にも、
ヤマハのTC800GLは類型的になりがちなモデルばかりのなかで、
ここでも光っていた。

据置型カセットデッキとしても、可搬型カセットデッキとしても、
決して類型的でなく、光っている存在、
それがヤマハのTC800GLである。

Date: 7月 26th, 2019
Cate: きく

カセットテープとラジカセ、その音と聴き方(余談・その19)

ヤマハのオーディオ機器の型番は、アルファベット二文字から始まっていた。
プリメインアンプのCA、チューナーのCT、カセットデッキのTC、
アナログプレーヤーのYP、スピーカーシステムのNS、ヘッドフォンのHPがそうである。

セパレートアンプだけは、コントロールアンプがC、パワーアンプがBというように、
アルファベット一文字だったけれど、
アルファベット二文字から始まる型番が、ヤマハのオーディオ機器といえた。

それが変りはじめたのが、プリメインアンプのA1から、である。
アルファベットが一文字になった。
チューナーもT、カセットデッキもK、というふうに変っていった。

アルファベット二文字時代のヤマハのプリメインアンプといえば、
CA2000、CA1000IIIがある。

これらと比較すると、A1は製品コンセプトからして時代が変ったといえる面がある。
同じことは、TC800GLとK1を比較してみても、ずいぶん違ってきた、といえる。

それは形態的なことだけではなく、録音機としてのコンセプトが、
TC800GLとK1はずいぶん違う。

K1は据置型カセットデッキとしか使えない。
そんなことTC800GLも同じじゃないか、と思われるかもしれないが、
TC800GLは可搬型カセットデッキなのである。

K1の電源はAC100Vのみだが、
TC800GLは、AC100V、乾電池とカーバッテリーのDC12Vにも対応している。

さらにオプションで専用のケースKS800も用意されていた。

このことはカセットデッキとしてよりも、
録音機としてTC800GLとK1を比較した場合に、際立ってくる。

Date: 7月 23rd, 2019
Cate: きく

カセットテープとラジカセ、その音と聴き方(余談・その18)

ナガオカがカセットテープの新製品を発表したことは、
オーディオ関係のニュースサイト以外でも話題になっている。

ナガオカは以前もカセットテープを出していた。
ナガオカ・ブランドとジュエルトーン・ブランドの両方で出していた。

ナガオカ・ブランドではノーマルテープのみ二種類だった。
一つは+6という商品名で、66分、96分用があった。
もう一つはExcellenceで、こちは+6よりも少し高かった。

ジュエルトーン・ブランドではメタルテープまで用意されていた。
1980年ごろのことである。

このころは各社からカセットテープが出ていた。
カセットテープのメーカーといえば、ソニー、TDK、日立マクセルが強かった。
けれどカセットテープを出していたメーカーは、ずっと多い。

カセットデッキで参入したオーディオメーカーも、自社ブランドのカセットテープを出すようになっていた。
ナカミチ、ラックス、アイワ、ダイヤトーン、ケンウッド、テクニクス、ビクター、Lo-D、
パイオニア、サンヨー、オットー、シャープ、オーレックス、デンオン、クラリオン、
ヤマハ、東芝、マグナックス、富士フイルムなどの国産ブランドの他に、
アンペックス、スコッチ、フィリップス、BASF、トーレンスなどの海外ブランドがあった。

思いつくまま挙げてみたので漏れもあるだろうが、とにかくけっこう数のブランドのテープがあった。

ナガオカが、ナガオカとジュエルトーン、二つのブランドで出しているように、
東芝とオーレックス、サンヨーとオットーもそうである。
Lo-Dとマクセルも似たようなものか。

すべてのブランドのカセットテープが、自社生産だったわけではないはずだ。
それでも自社ブランドのカセットテープは、
そのメーカーのカセットデッキにとっては、一つの基準となるテープといえる。

TDKのMA-Rに憧れがあっても、それとは別に、
ナカミチのカセットデッキならばナカミチのカセットテープ、
ヤマハのカセットデッキにはヤマハのカセットテープ──、
そういう組合せは一度はきちんと聴いておきたいものでもある。

ヤマハのメタルテープをヤフオク!に出ていたけれど、
けっこうな高値になっていて、早々に諦めてしまった。

Date: 7月 22nd, 2019
Cate: きく

カセットテープとラジカセ、その音と聴き方(余談・その17)

7月3日のaudio wednesdayで、カセットテープ、カセットデッキをやる以前は、
カセットのことについて、これだけ書いていけるとは思っていなかった。

しかもまだミュージックテープの再生のことだけである。
カセットデッキとカセットテープは、録音できる器械とメディアだ。
録音については、いまのところ試していない。

録音にはカセットテープが必要になる。
ナガオカからノーマルテープの新製品が登場した。
一度は試してみたいと思うけれど、
やはり一度はメタルテープを試してみたい。

以前書いたように、私が以前使っていたカセットデッキはメタルテープに対応していなかった。
なのでメタルテープを自分自身で使ったことは一度もない。

メタルテープの音は、何度か聴いている。
でもTDKのMA-Rの音は聴いていない。

型番を忘れてしまったが、ソニーからもリファレンス的なメタルテープが登場していた。
こちらも聴いたことはない。

カセットデッキをヤフオク!で手に入れたように、
カセットテープもヤフオク!には、かなりの数出品されている。

未開封のテープも少なくなく、少々驚いている。
それにMA-Rの未開封品につく価格に、また驚く。

MA-Rは、46分テープが1,750円、60分用が2,000円、90分用が2,600円していた。
同じTDKのADの60分用が550円、SAの60分が750円だったのだから、
MA-Rは、というよりもメタルテープはどのメーカーも高価だった。

しかもいまはどこも製造していないのだから、高くなるのはわかる。
それでも高すぎないか、とちょっと思う。
なにせカセットデッキを一万円を切る価格で手に入れることができただけに、
メタルテープが高く感じてしまう。

Date: 7月 20th, 2019
Cate: きく

カセットテープとラジカセ、その音と聴き方(余談・その16)

1980年の秋ごろのFM fanに、瀬川先生がカセットデッキについて書かれていた。
     *
 私の考えていたカセットの音質の基準とは、どういうものなのか。
 答えは簡単だ。日常接することのできるFM放送やレコードで、容易に得られる音質と同水準の音。これだけのことだ。
 それだけのこと、には違いないが、しかし、数年前のデッキやテープが、果たして本当に、FMやレコードの優れた音質と同水準にあったと言えるだろうか。私の答えは、むろん「否」だ。
 念のために補足しておくと、例えばFMチューナーなら5万ないし8万円ぐらい。レコードプレイヤーなら、カートリッジと合わせてやはり7~8万円前後。つまりいわゆる「中級機」、あるいはコンポーネントとしてはごく標準的な価格の範囲で入手できるチューナーやプレイヤーで、音質の優れた放送を受信し、また録音の良いレコードをプレイバックしたときに得られる程度の音質を頭に浮かべてみる。そして、それらとほぼ同等の価格のカセットデッキで、録音・再生した際の音質、および、数年前のミュージックテープをプレイバックしたときの音質を、もう一方に置いて比較してみる。
 すると、上記のチューナーやプレイヤーで得られる音質は、仮に(突拍子もない例かもしれないが)JBLの♯4343のような、特性の優秀で鋭敏なモニター・スピーカーで聴いてみても、けっこう、なかなかの音が楽しめる。
 けれど、カセットの音となると、もしもJBL♯4343のようなスピーカーで聴いたとしたら、まず音の強弱の比(ダイナミックレンジ)が押しつまってしまい、音に伸び伸びとした感じの不足することがわかる。また、何となく歪みが多い感じで、再生音に本当の美しさ──聴き手が思わず耳をそば立てるほどの、美しく滑らかで透明な音──が感じとりにくい。テープヒス等の雑音は相当に耳ざわりになる。そこでドルピーを使う。すると、ノイズは耳につきにくくなるが、それとひきかえに、音の鮮明さや輝かしさ、あるいは微妙なディテールのニュアンス、等が失われてしまう。
 7~8万円のカセットの音を、JBLの♯4343で聴くとは、気違いざただ、というのなら、しかし、同じスピーカーで、同じく 7~8万円のチューナーやレコードプレイヤーの音を聴いてみれば(むろん高級機のような緻密で充実感のあるすばらしい音はしないまでも)、価格を考えれば十分に満足のゆく音がするのだから、そういう音を出さないカセットは、やっぱりまだ本当の意味で完成の域に達していない、と、私はがんこに言い張っていたわけだ。
 だから、専門誌などから、カセットのテストをしてみないか、と言われると、「いいよ、だけどおれがテストしたら、カセットについてクソミソに言うが、それでもいいかい?」と聞き返す。当然、編集者は逃げで行ってしまう。
 ともかく、これが数年前のカセットについての、私の感じ方であった。
 しかし、繰り返しになるが、この1~2年(というより、もっと厳密にいえば、ほんの去年の後半あたり以後から)本当の意味で、カセットの音が、FMやレコードの音質と、十分太刀打ちできるようになってきた。
 だから私自身も、この辺でそろそろ、カセットを本気でとり上げてい、い、という考え方に、ようやくなってきた。
 振り返ってみると、カセットテープやデッキの評価については(チューナーやレコードプレイヤーに比べて)、誰もが無意識にハンディをつけて、甘やかしてきたように思う。カセットにしては……、あのテープのトラック幅にしては……、これほど扱いの簡便なテープにしては……、というように。
 だが現実に、ミュージックテープはLPレコードと同じような価格で売られている。それなら、レコードと同程度の音質が保証されなくてはおかしいのではないか?
 そしてLPレコードは、5万円前後のカートリッジなしのプレイヤーに、市価2~3万円程度の良いカートリッジを選んでプレイバックすれば、前述のようにごく高級なスピーカーでさえ、相当に満足のゆく美しい音質が楽しめる。
 FMチューナーにしたって、キー局で注意探く送り出される良質の番組を聴くかぎり、きわめて鮮度の高い音質が保証されている(中継を重ねて劣化した音を聴かされている地域については、改めて問題としてとり上げる必要があるが……)。
 そういう状況に比べて、カセットだけが甘やかされていたのは、少しおかしいのではないだろうか。
 むろん理由はある。カセットは、それ以前に普及しかけていた、そしていまでもプロの現場では主力になっているオープンリールテープに比べて、何となく、簡便型のテープ、という受けとめかたが、専門家の頭の中に根強く残っていたからだ。私自身も、ずいぶん長いこと、その考えを捨てきれずにいた。
 カセットの性能があまりに悪いものだから、結局、この方式には限界があるのだろうか、と、半ば絶望的になりかけてもいた。
 けれど、前述のように、ごく最近のデッキとテープは、そういうハンディなしに、十分の水準に達し始めた、と言える。
 少し前までのカセットデッキに比べて、最近の製品のどこが良くなったのか。まずテープ。少し前までは、巻き始めと巻き終わり近くの1~2分の部分は、リールのクセがついて、音飛びや音のふるえを生じるものがほとんどだった。しかし最近のテープは、リーダーテープの終わった直後から、相当に難しい音を録・再しても、まず大丈夫になってきた。第2に、カセットハーフの精度の向上のおかげで、テープの走行が非常に安定してきた。第3に、音のダイナミックレンジが向上した。相当に強い音を入れても、音の歪みが耳につきにくい。そして音の美しさ。とても透明な感じの、つまり歪みとノイズの少ない音がする。少し前のテープが、何となく汚れっぼい音のしがちだったのに比べて、大変な向上だ。第4に、いまもふれたノイズの減少。
 いろいろのメーカーの各種のテープについては各論をくわしく展開しなくてはとても言いきれないにしても、一応、音楽の録・再を特に考慮した中級以上のテープに関するかぎり、上のことは言えると思う。
 ではデッキの方はどうか。最も目立つのはダイナミックレンジの向上だ。これにはメタルテープの出現が大きな刺激材になっているが、私自身は、クロームやLHテープの時代から、各メーカーの作るアンプの性能に比較してデッキに内蔵された録・再アンプの能力の目立って劣っている点がひどく気になっていた。メタルテープでようやくこの点が検討されたのは、むしろ遅すぎたと言いたい気持ちだ。
 アンプと共に、ヘッドの性能も向上して、結局そのことが、周波数特性やダイナミックレンジや歪みやノイズなど、あらゆる意味での音質の向上に大きく寄与している。むろん、メカニズムの改良による走行のスムーズさ(カセットハーフ側の精度ともあいまって)も大いに音質を向上している。
 細かく書けばまだいろいろあるにしても、ともかく、以上のような理由で、カセットデッキを、私自身の再生システムの中に、常用機としてとり入れようと、一応本気で考え始めたのが、ほんのつい最近のことなのだ。ひとと比べて、ずいぶん遅いスタートだったが、私はどうしても、以前のあのカセットの音質では納得できなかった。
     *
《この1~2年(というより、もっと厳密にいえば、ほんの去年の後半あたり以後から)本当の意味で、カセットの音が、FMやレコードの音質と、十分太刀打ちできるようになってきた》
とある。

私がカセットデッキの普及機を買ったのは、1977年秋ぐらいだった。
私が使っていたアイワのカセットデッキは、
《本当の意味で完成の域に達していない》製品だった、といえよう。

私がカセットテープに感じていた不満の多くは、
1980年からのカセットデッキとカセットテープ、
それも中級クラス以上であれば、かなり解消されていたようだ。

《クロームやLHテープの時代から、各メーカーの作るアンプの性能に比較してデッキに内蔵された録・再アンプの能力の目立って劣っている》、
そういう時代のカセットデッキしか自分用としては使ってこなかった。

そのころのアイワの普及機と直接比較するまでもなく、
ヤマハのK1dは、確かに優秀である。

瀬川先生が《私自身の再生システムの中に、常用機としてとり入れようと、一応本気で考え始め》、
実際にとり入れられたのがヤマハのK1(もしくはK1a)といえよう。

Date: 7月 20th, 2019
Cate: きく

カセットテープとラジカセ、その音と聴き方(余談・「BEM」)

アナログディスクに続いて、カセットテープもブームとはいわれている。
ナガオカが、22日からカセットテープを発売することが、昨日ニュースになっていた。

ノーマルタイプで、60分テープが220円という安さである。
私が中学生のころ、近くの電器店に100円テープが入荷していた。

ブランドは表記してなかった。
中国製だったのかもしれない。
とにかく製品情報が何もなかった。

60分で100円は、安かった。
安かろう悪かろう、とわかっていても、一本買ってみた。
まぁ、ひどかった。

中国では、いまもカセットテープは生産されている。
AliExpressで検索すると、ノーマルテープが表示される。

なので、最初ナガオカがカセットテープを出す、と聞いたときは、
中国製なのかと思ってしまったが、国内生産とある。
四十年前と物価はずいぶんと違ってきているのに、
この価格で利益が出るのか、とちょっと心配にもなるが……。

ナガオカのカセットテープがそこそこヒットしたら、
以前カセットテープを生産していたメーカーも続いてくるのだろうか。

そういえば昨年は「妖怪人間ベム」50周年だった。
つい先ごろ、「BEM」の放送が始まった。

若者が街中で踊っているシーンで、大型のステレオラジカセが登場する。
カセットテープである。

登場人物はスマートフォンを使っているのに、
そのシーンではラジカセというのも、カセットテープがブームになりつつある、といえるからなのか。

Date: 7月 20th, 2019
Cate: きく

カセットテープとラジカセ、その音と聴き方(余談・その15)

私がグラシェラ・スサーナのミュージックテープを買っていた1976、77年は、
LPよりもミュージックテープの方が高かった。
3,800円とか3,200円していた。

3,000円を切るミュージックテープは、当時、グラシェラ・スサーナに関してはなかった。
高いなぁ──、と感じていた。

高い割には、テープヒスが多いじゃないか……、
そんなことも、実は思っていた。

ミュージックテープの製作は、手抜きしているんじゃないか、とさえ思ったこともある。

LPよりもミュージックテープが高くなるのは、理解はしていた。
LPはスタンパーを作れば、あとはプレスで大量生産できる。
テープはそうはいかない。

一本のミュージックテープのために一台のデュプリケーターが必要になる。
高速ダビングしているであろうが、それでもそこそこの時間はかかってしまう。
定価が高いのはわかっていた。

それならば、もっとクォリティが高くてもいいんじゃないか、と勝手に思っていた。

でも今回K1dでグラシェラ・スサーナのミュージックテープを聴いて、
単に私の再生環境(テープデッキ)が良くなかっただけだったのかもしれない。
そんなことも思いはじめている。

そのころの普及クラスのカセットデッキは、そういうレベルだった、ともいえるし、
そういえば、と思い出すのは、以前瀬川先生がFM fanで書かれていたことだ。

Date: 7月 20th, 2019
Cate: きく

カセットテープとラジカセ、その音と聴き方(余談・その14)

そのころステレオサウンドにはテープサウンドという隔月刊誌があった。
テープに特化したオーディオ雑誌であるから、
ステレオサウンドでは、ナカミチの1000ZXLクラスになると、
カラーページで新製品紹介することはあっても、
新製品のすべてを取り上げることはなかった。

というよりも取り上げる機種はわずか、といってよかった。
なのでステレオサウンドの試聴室で、カセットデッキを試聴したのは、多くはない。

カセットデッキの全盛時代にステレオサウンド編集部にいたにも関らず、
この時期におけるカセットデッキ、カセットテープの推移をほとんど知らない。

だから、いまごろになってヤマハのK1dのS/N比の良さに驚いている。
K1dの後に登場した各社のカセットデッキは、どうだったのか。

K1dクラスのS/N比を実現したいたのだろうか。
単なるカタログスペック上だけでなく、実際に音を聴いた場合にどうだったのか。

K1dは中級クラスのカセットデッキである。
K1dよりも高価なカセットデッキは、当時はいくつもあった。
それらの機種はどうだったのか。

いまごろになってK1dの音を聴いて、
しのころ私が気にしていたテープヒスとはなんだったのか、と考える。
録音アンプの残留ノイズ、再生アンプのノイズが加わっての、
全体としてのテープヒスだったのか。

録音アンプ、再生アンプのS/N比が優れていれば、
テープヒスはさほど気にならないものなのか。

私の乏しいカセットデッキの経験では、はっきりとしたことは言えないが、
それでも小さくないはずである。

Date: 7月 20th, 2019
Cate: きく

カセットテープとラジカセ、その音と聴き方(余談・その13)

ステレオサウンドの試聴室でカセットデッキ、カセットテープの音を聴いたのは、
ナカミチの700ZXLが最後である。

それ以降、きちんとした環境でカセットデッキ、テープの音を聴いた記憶はない。
700ZXLの音を聴いた時、ドルビーはかけていた。
テープヒスは少なかった、と記憶している。

テープヒスが気になった、という記憶がないからだ。
ドルビーをかけない音は、つまり聴いてない。
ドルビーをかけない状態でのテープヒスがどのくらいだったのかは、
そしてドルビーのかかっていないミュージックテープを再生した場合のテープヒス、
これがどうなのかは聴いていない。

そのころの私にとっては、ドルビーはかけることが前提だった。
ドルビーによる音への影響はもちろん知っていたし、
ある程度は自分の耳でも確認していた。
それでもノイズが大幅に減ることのメリットは大きかったし、
ドルビーも、登場したころよりも良くなってきている、という話を、
瀬川先生が、熊本のオーディオ店でカセットデッキの試聴の際に話されていた。

この時も、ドルビー使用での試聴だった。

ミュージックテープも、1980年代になってからである、ドルビーが使われるようになったのは。
それまではドルビーはかかっていなかった。

グラシェラ・スサーナのミュージックテープを買ってきて聴いたのは、
ラジカセであった。モノーラルのラジカセである。

テープヒスがけっこう気になった。
その後、アイワの普及クラスのカセットデッキを購入した。

そこでもテープヒスは、気になっていた。
FM放送をエアチェックする際には、必ずドルビーをかけていたから、
グラシェラ・スサーナのミュージックテープもドルビーがかかっていたら……、
何度そう思ったことか。

つまり、グラシェラ・スサーナのミュージックテープを聴いたのは、
ここで一旦終っている。
そしてテープヒスに関しての記憶も、ここでのものがずっと残っていた。

Date: 7月 19th, 2019
Cate: きく

カセットテープとラジカセ、その音と聴き方(余談・その12)

41号が初めて買ったステレオサウンドだった。
続く42号は、プリメインアンプの特集だった。

ここでのヤマハのプリメインアンプ、CA1000IIIとCA2000は、
群を抜く優秀性だった。
特にS/N比の高さは、他社のどのアンプもかなわなかった、といえる。

しかもヤマハのアンプのS/N比の高さは、入力ショート時だけではなく、
カートリッジを実装した状態でも、S/N比の高さを維持していた。

入力ショート時では、高S/N比のプリメインアンプは他社製でもいくつかあった。
けれど、そのほとんどがカートリッジ実装状態では、芳しくない。

この時(1977年3月)から、私のなかでは、
ヤマハのアンプはS/N比が、単にカタログスペック上だけでなく、
実際の使用条件においてもそうである、という印象ができあがった。

この二つのプリメインアンプだけではない。
ヤマハの他のプリメインアンプ、コントロールアンプもS/N比はいずれも優秀である。
そんなことはわかりきっていることでもあった。

なのに、今回K1dを聴いて、そのことを思い出していた。
アンプだけでなく、カセットデッキでも、ヤマハはS/N比を優秀性を誇っている。

ステレオサウンド 6号での、
菅野先生がK1dのS/N比にびっくりされたことは忘れていなかった。

それでも実際に自分の耳で確認して、ほんとうにそうだ、と実感している。
k1dが、ナカミチの1000ZXLのように五十万円を超えるカセットデッキだったら、
それほど驚かなかったけれど、K1dは中級機である。

今回聴いたのは、グラシェラ・スサーナのミュージックテープである。
ドルビーはかかっていない。

Date: 7月 19th, 2019
Cate: きく

カセットテープとラジカセ、その音と聴き方(余談・その11)

十年以上前、ヤフオク!で、そこそこの価格でアンプを落札した。
写真では、かなり程度は良さそうだった。
説明文もそんなことが書かれていた。

期待して、届くのを待っていた。
開梱して、ずいぶん写真とイメージが違うことに、まずがっかりした。
細部をじっくり見るまでもなく、けっこうくたびれているな、と感じた。

実物を見ることができるわけではないインターネットオークションなのだから……。
それっきりヤフオク!は、思い出したときに眺めて楽しむぐらいがちょうどいい──、
そんなふうにしていた。

そんなことがあったものだから、K1dが到着するまでは、
あれこれおもっていた。
私が予想していたとおりのK1dなのか、それ以下の程度のK1sか、
もしかすると予想よりもいい状態のK1dなのか。

結果は予想していたよりも、ずっと、とまではいかないが、
いい状態のK1dだった。
細かな傷は確かにあるが、全体的に眺めた時にくたびれた印象が、まずないことが嬉しかった。

1981年に登場している。
私のところに届いたK1dがいつごろ製造されたものかはわからないが、
三十数年以上経っているわけで、そんな感じがしなかった。

ヤフオク!で上限を決めて入札するのは、
修理のことを想定しているからだ。

ただ音が出れば、それで満足できる人ならば、
それにふところに余裕のある人ならば、高値で落札するのもいいだろう。

でも、製造されて十年以上経過しているオーディオ機器(特に電子機器)は、
ひどい状態のことも考慮したほうがいい。

今回、私はいい出品者と出会えたからであり、
いい出品者というのは、ヤフオク!の評価高いから、ここでいういい出品者とはかぎらない。

今回のK1dは、私にとって初めてのヤマハのオーディオである。