音楽をきく(その4)
私が生れた田舎は、さほど人口も多くない。
それでも当時は書店は何軒もあった。
いま思い出してみると、少なくとも六軒はあった。
すべて個人経営の書店である。
いま住んでいるところは書店の数が減ってきている。
人口は私の田舎よりも多いにも関わらずだ。
昔は、そのくらいあたりまえのように身近に書店がいくつもあった。
それでも田舎の書店は大きいわけではなかった。
その田舎からバスで一時間、熊本市内には大きな書店があった。
数ヵ月に一度、その書店に行くのが楽しみだった。
往復のバス代だけで二千円ほどかかるから、
読みたい本がすべて買えるわけではなかった。
書籍代よりもバス代のほうが高いのだから。
東京で暮すようになって、まず行ったのは三省堂書店だった。
ウワサには聞いていた。
実際に行ってみて、こんなに大きいのか、とその規模に驚いたものだ。
熊本市内の大きな書店よりもはるかに大きい。
しかも新宿には紀伊國屋書店もある。
東京のすごさを感じていたものだが、
それでもレコード店に関しては、三省堂書店、紀伊國屋書店に匹敵する規模のところは、
東京といえどまだなかった。
六本木にWAVEができるまでは、なかった、といっていいだろう。
秋葉原には石丸電気のレコード専門のビルがあったけれど、
それでも三省堂書店、紀伊國屋書店の規模かといえば、そうとはいえなかった。
私の田舎では、レコード店は少なかった。
書店は私が住んでいる時代に新しい店が二軒できたけれど、
レコード店はそうではなかった。
そういう環境で18まで育った。
東京に来て、それからステレオサウンドで働くようになって、
10代のうちに聴けた音楽の量に関して、同世代であっても、
田舎暮しと都会暮しではそうとうな差があったし、
さらにまわりに音楽好きな人たちがいる、という環境の人とは、
その差がさらに広がる。