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Date: 7月 19th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その18)

こうやって40万の法則、いいかえをすると630Hzという周波数に注目してスピーカーシステムを眺めて、
あれこれ考え書いていて気がついたことが、実はある。
思い出したこと、と言い換えたほうがより正しいのだが、
それはステレオサウンド 124号で、井上先生があげられているスピーカーシステムのことである。

124号の特集は「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう」で、
朝沼予史宏、井上卓也、上杉佳郎、小林貢、菅野沖彦、長島達夫、傅信幸、三浦孝仁、柳沢功力──、
9人の筆者によるによる「独断的オーディオの流儀を語る」という座談会が載っている。
この記事の中で、各筆者が、それぞれのシンボル的スピーカーシステムをあげている。
参考までに書き写しておく。

朝沼予史宏:JBL S7500+GEM TS208、プラチナム Air Pulse 3.1
井上卓也:パイオニア Exclusive 2404、アクースティックラボ Stella Elegans
上杉佳郎:アルテック 515C×2+311-90+288-16G+JBL 2402H+テクニクス 10TH1000、タンノイ Westminster
小林 貢:レイオーディオ RM7V
菅野沖彦:マッキントッシュ XRT26、タンノイ Kingdom
長島達夫:コースタルアコースティックス Boxer T2
傅 信幸:B&W Nautilus
三浦孝仁:ウィルソンオーディオ System5、エグルストン・ワークス Andra
柳沢功力:プラチナム Air Pulse 3.1

井上先生があげられているスピーカーシステム2機種とも、
この項で書いてきていることと見事に重なっている。

Date: 7月 19th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その17)

JBL以外にも、600Hzあたりにクロスオーバー周波数をもつスピーカーシステムは、他にもある。
アルテックのA5が500Hzで、A7は800Hz仕様と500HzのA7-500-8がある。
イギリスのヴァイタヴォックスのスピーカーシステムは、CN191、Bitone Major、Bass Binすべて、
クロスオーバー周波数は500Hzになっている。
これはすべてウーファーは15インチ・コーン型で、中高域にホーン型を使っている。

ただ、以上列挙したスピーカーシステムのなかでも、JBLのパラゴン、ハーツフィールド、
ヴァイタヴォックスのCN191などが500Hzにクロスオーバー周波数をもってきたのは、
エンクロージュアの構造にも起因している、といえる。

パラゴンもハーツフィールドもCN191も、正面からウーファーの姿を見ることはできない。
これらのスピーカーシステムは低域にもホーン型を採用しており、しかもホーンはストレートではなく、
折曲げ式であるため、中域以上の減衰が多くて、500Hzあたりが限度だったのだろう。

JBLのS9500、DD66000、アルテックのA5、パイオニアのExclusive 2402、2404などでは、
そういったこととは関係なく600Hzあたりにクロスオーバー周波数を設定している。
アルテックのA7は最初ホーンに811を使用していたから、おそらく800Hzのクロスオーバー周波数で出てきて、
のちにホーンをより大型の511に変更するとともにクロスオーバー周波数を500Hzに下げた
──というべきか、それとも500Hzに下げるために511ホーンにしたのか──A7-500-8を出している。

500Hzか800Hz──、どちらが630Hzに近いかというと同じである。
500Hzと800Hzの積は40万だからだ。
私が知る限り、アルテックの2ウェイ・システムに630Hz近辺のクロスオーバー周波数をもつものはない。
だからというわけでもないが、もし私がA7-500-8を鳴らす機会があれば、
630Hzで分割した音をぜひ試してみたい、と思っている。

Date: 7月 18th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その16・追補)

S9500は、JBLでは初の試みである仮想同軸配置を採用している。
仮想同軸という言葉が一般化してきたのも、ちょうどこのころであったし、
JBL以外にも仮想同軸配置のスピーカーシステムは増えていっていた。

S9500は2ウェイであったからウーファーを上下に配置し、その間に中高域のホーンを配置するという、
もっと基本的な仮想同軸の配置であったが、
他社製の3ウェイのシステムでは、ウーファーだけでなくスコーカーも2本使用して、
トゥイーターを中心に、その上下にスコーカー、ウーファーと配置していっていた。

この仮想同軸を最初に採用したメーカーはいったいどこなのか。
S9500の少し前に、日本ではレイオーディオがすでに採用していたが、
レイオーディオよりも前にイギリスのメリディアンが、
1985年ごろに発表したM2で、この仮想同軸配置を行っている。
私がこれまで聴いてきたスピーカーシステムの中で、最初に聴いた仮想同軸配置のスピーカーシステムがM2だ。
このときは仮想同軸という言葉がなかったこともあり、
M2のユニット配置については話題にのぼることはなかったように記憶している。

このM2以前に仮想同軸配置のスピーカーシステムはなかったのだろうか。
今日、偶然見つけたのが、ダイヤトーンのDSS-S91Mだ。
正確な発売日はいまのところ不明だが、1971年には現行製品だった。

DSS-S91Mときいても、どんなスピーカーシステムなのか、思い出せない方も多いだろう。
DSS-S91Mはスピーカーシステムの型番ではなく、セパレート・ステレオの型番だからだ。

セパレート・ステレオとはスピーカー、アンプ、チューナー(もしくはレシーバー)、
プレーヤーがラックに収められメーカー側でシステムとしてまとめられている装置一式のことだ。

DSS-S91Mのスピーカーは3ウェイ構成。
コーン型ウーファーを2本、フロントロードホーンのエンクロージュアにおさめ、
そのフロントロードホーンの開口部に中域のホーン型ユニットが、
2本のウーファーの間にくるように配置され、
トゥイーターは中域用ホーンの上にスペースをとって、ウーファーのホーン開口部の上部に取りつけられている。
だからトゥイーターに関しては厳密には仮想同軸とは呼びにくいところがあるが、
ウーファーとスコーカーの位置関係は、まさしく仮想同軸配置である。
そして、DSS-S91Mのスピーカーは、オールホーン型にもなっている。

いまのところ、私が探し出したなかで、もっとも古い仮想同軸配置のスピーカーである。

Date: 7月 18th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その16)

JBLのDD66000のカタログに発表されているクロスオーバー周波数は、
150Hz(LF1/LPのみ)、700Hz、20kHz(UHF/HPのみ)とある。

DD66000は15インチ(38cm)口径のウーファー(1501AL)を2本、
4インチ・ダイアフラムのコンプレッションドライバー(476Be)とバイラジアルホーン、
1インチ・ダイアフラムのコンプレッションドライバー(045Be-1)とバイラジアルホーンから構成されている。

2つのウーファーは単純に並列に接続・動作させているわけではなく、
横方向に並んでいる2本のウーファーのうち外側に位置するウーファーは150Hz以上をカットしている。
内側のウーファーは700Hzまで使っている。
つまり150Hz以下ではダブルウーファーとして動作している。

700Hz以上を受持つ476Beだが、20kHz以上をカットしているわけではない。
カタログに記されている20kHz(UHF/HPのみ)とは、トゥイーター、
というよりもスーパートゥイーターと呼ぶべきの045Be-1のカットオフ周波数を指している。
HPのみ、とは、ハイパスフィルター(ローカットフィルター)のみ、ということで、つまりDD66000は、
15インチ・ウーファーと大型ホーンをもつコンプレッションドライバーによる2ウェイが基本となっている。

JBLのスピーカーシステムで、630Hzあたりにクロスオーバー周波数を設定したものは過去にいくつかある。
まずパラゴンがそうだ。500Hzと7kHzの3ウェイ。それからオリンパスS8Rも同じく500Hzと7kHz。
オリンパスの2ウェイ使用のS7Rは500Hz。ハーツフィールドも500Hzである。
もうひとつ思い出す。
1989年に登場したS9500のクロスオーバー周波数は650Hzと、
JBLのスピーカーシステムのなかで、もっとも630Hzに近い値に設定されている。

S9500はJBLとして珍しい14インチ口径のウーファー2本と、
コンプレッションドライバーと大型ホーンによる2ウェイ・システムである。

Date: 7月 18th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その15)

田口泖三郎博士によれば、
人間の口をポカンとあけた時の口の中の共鳴周波数が大体630Hzだという。
もちろん個人差は多少あるものの平均値として630Hzあたりに落ちつくとのこと。

田口博士の研究は、なぜ人間は20Hzから20kHzまでが聞こえるか、ということだったらしい。
そして口の共鳴周波数630Hzを中心として、上下の帯域に均等に広げていった結果が、
一般的にいわれている20Hzから20kHzといわれている可聴帯域となり、
これを対数グラフで表わすと、20Hzから20kHzという周波数特性は、
約630Hzを中心として左右対称に広がったかたちとなる。
つまり40万という値は、この630Hzを二乗した値ということになる。

この630Hzという数字が、40万の法則によるスピーカーシステムを考えていく上での基点であり、
もうひとつのスピーカーシステムを在り方を発想させる。

630Hzを中心にして上下の周波数に均等に帯域幅を広げていくのに、
フルレンジから発想したのがいままで述べてきたBWTを中心としたスピーカーシステムであり、
630Hzを中心としてできるだけ、単一のユニットで広い帯域を受持ち、
それだけでは及ばない上下の帯域をウーファーとトゥイーターを附加する、というもの。

630Hzを中心にして均等に広げていく、という、このことをどう解釈してどう実現するかだが、
ベンディングウェーヴのユニットを使っても、
いまのところフルレンジ1本ではカヴァーできる範囲はまだ限られている。
ウーファーとトゥイーターを必要とする。
このウーファーとトゥイーターは振動板の口径も大きく異るし、
ウーファーはコーン型、トゥイーターはベンディングウェーヴならAMT、
ピストニックモーションならばホーン型、ドーム型、リボン型、コーン型などになる。
ウーファーとトゥイーターは、いわば違うユニットであり、これでは均等に広げたということになるのか、
という捉え方ができ、結局100Hz以下の低音と4kHz以上の高音では、波長も大きく異っているし、
どうせ異るスピーカーユニットを使うことになるのだからいっそのこと、
630Hzをクロスオーバーとした2ウェイのスピーカーシステムも考えられる。

630Hzなら、38cmコーン型ウーファーとホーン型との組合せであれば、実現できる。
少し前のスピーカーシステムではあるが、パイオニアのExclusive 2402、2404がすぐに頭に浮ぶ。
Exclusive 2402、2404、どちらもクロスオーバー周波数は650Hzである。

クロスオーバー周波数が700Hzとすこし高くなってしまうし、
ややユニットの使い方がExclusive 2404からすると複雑というか変則的になるが、JBLのDD66000がある。

Date: 7月 17th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その14)

ここで話は前にもどる。
40万の法則そのものに関しては、もういちど書くことにする。

一般的に40万の法則は、人間の可聴帯域の下限(20Hz)と上限(20kHz)の積が40万になるからだ、
といった説明がなされてきているが、人によって可聴帯域は異る。
同じ人間でも年齢によって高域が聴こえなくなるから可聴帯域は変化していく。
高域が聴こえなくなってきたら、40万の法則にしたがって、
下限の値(低域の再生域)も変えていかなければならないのか。

これは考えていくと、どうもおかしいと感じる。
ということは、40万の法則そのものが間違っているのか、ということになるのか。
そうとは、どうしても思えない。

3ウェイ・システムにおいてスコーカーの受持ち帯域も40万の法則どおりにする、ということを考えていると、
40万の法則は、上限と下限の積から導き出されたものではなく、
じつは別のところから導き出されたものではないか、と思える。

4ウェイの4343のミッドバスがほぼ40万の法則どおり、
3ウェイでは、100Hzから4kHzをスコーカーに受持たせることで、ここも40万の法則。
つまり4343のミッドバスと、BWTの3ウェイのスコーカーで共通するのは、その中心周波数である。
632.455Hz、約630Hzがそれにあたる。
この630Hzを受持つユニットの上限と下限を均等に広げていくことが、
そのユニットの受持ち帯域が40万の法則どおりになるわけだ。

この630Hzがもつ意味については、瀬川先生の「虚構世界の狩人」「オーディオABC」、
どちらかを読んだことのある人なら、この630Hzの数字とともに、田口泖三郎博士の名前も思い出されるはず。

Date: 7月 17th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その13)

マンガーのBWTの指向特性が4kHzから落ちていくのは、私にとって好都合だった、といえる。
もしBWTの指向特性が20kHzまでは無理でも、10kHzあたりまでほぼフラットだったら、
そこまではBWTに受持たせたくなる。あえて4kHzから上を別のスピーカーユニットにするのは、多少気がひける。

偶然なのかもしれないが、BWTの周波数帯域は、40万の法則どおりに100Hzから4kHzまでが、
周波数特性、指向特性ともに平坦である。
BWTのいちばん特性のいい帯域が、ぴったり40万の法則どおりの帯域ともいえる。

4kHzから上を受持たせるユニットには、BWTと同じベンディングウェーヴのモノ、
つまりAMT(ハイルドライバー)をもってくる。
AMTにとって、4kHzから上の帯域は問題なく使える。
これで、100Hzから20kHzまでベンディングウェーヴでいけることになる。

100Hzから下もベンディングウェーヴ方式でいきたいところだが、
現実的には従来どおりピストニックモーションのコーン型を使うことになる。
この点に関しては、ジャーマン・フィジックスのDDD型でも、ウーファーは現時点ではコーン型に頼らざるをえない。

これで3ウェイ・システムの構想が見えてきた。
ウーファーはコーン型、口径は38cmだろう、やはり。
スコーカー(システムの中核)はBWT、トゥイーターもBWTと同じベンディングウェーヴのAMT。
クロスオーバー周波数は100Hzと4kHzで、システム全体の周波数特性は20Hzから20kHzまでをめざす。

これでひとつのシステムのなかに、40万の法則がふたつ成り立つことになる。
これが、瀬川先生のフルレンジからスタートする4ウェイ構想にインスピレーションを受けて、
私が行きついた、ひとつのスピーカーシステム構想である。

Date: 7月 17th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その12)

100Hzから4kHzまでをひとつのスピーカーユニットで受持たせ、
100Hzから下、4kHzから上をそれぞれユニットを追加して、
3ウェイとしてまとめることが結局いままで無理だったのは、
ピストニックモーションのスピーカーユニットばかりだったから、ともいえる。

ピストニックモーションを間違っている、といいたいのではなくて、
ピストニックモーションだけが正解ではない、といいたい。も
もうひとつの正解としてベンディングウェーヴがあり、ここ10年ほどで、
1930年にはすでに製品化されていたベンディングウェーヴが、ようやく市民権を得てきた、ともいえる。

まだまだベンディングウェーヴのユニットの数は、ピストニックモーションのユニットくらべると、
圧倒的に少ない。トゥイーターの数は増えつつあるが、フルレンジとして使えるものとなると、
しかもユニットが単売されているものとなると、マンガーのBWTとジャーマン・フィジックスのDDD型だけだろう。

100Hzから4kHzまで受持たせるのであれば、BWTもDDD型ユニット、どちらも使える。
選択肢は2つあるわけだが、ここではBWTをとる。
DDD型は、私の中では、これをフルレンジとして使ったUnicornの印象と分かちがたく結びついているためであり、
DDD型を使うのであれば、Unicornにしたい、という気持があるのと、
DDD型では、4kHz以上においても、これだけでほぼ問題なくいける。

そう、私はあえて3ウェイにしようとしている。
くり返し書いているように、2つの40万の法則によるスピーカーシステムをつくって、その音を聴いてみたいからだ。

本末転倒といえば本末転倒な考え方だが、BWTは振幅特性こそかなり上の帯域まで延びているが、
おそらく指向特性は4kHzあたりからなだらかに落ちはじめているのではないかと思っていた。
ピストニックモーションではないから、指向特性の劣化しはじめる周波数は違うだろうが、
可聴帯域まで指向特性がフラットになるとは到底思えないからだ。
この点、DDD型は水平方向に関しては、真の無指向性だから、4kHz以上まで問題なくいける。
ただし、別の問題がDDD型にはあるけれども。

とにかくBWTの指向特性は、おそらく4kHzあたりだとにらんでいたが、事実、
マンガーのサイトにある周波数特性のグラフをみると、
このあたりから指向特性に関しては落ちていっているのが確認できる。

別項の「ワイドレンジ考」で述べているように、
周波数特性(振幅特性と位相特性)と指向特性をできるかぎり広帯域において平坦にしていきたい、
それがワイドレンジだと考えているから、BWTの使用は4kHzどまりとする。

Date: 7月 14th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その11)

Medea登場後、マンガーのBWTを搭載したスピーカーシステムが、アクースティックラボからも出た。
Stella Elegansである。
正確にはどちらが先にでたのかははっきりしないが、私が存在を知った順序はMedea、Stella Elegansであり、
音を聴く機会があったのは、Stella Elegansのほうだ。
とはいっても、数年後のこと。同じベンディングウェーヴ方式によるスピーカーユニットを搭載した、
ジャーマン・フィジックスのUnicornを聴いてから、だった。

Unicornの音には、正直驚いた。このことについて、
別項「ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと」において詳しく書いていくので、
ここでは割愛させていただくが、Unicornを聴いたことによって、
マンガーのBWTの音も、いますぐ聴いてみたい、と思った。
Stella Elegansを聴いて、また別のところでBWTを使ったスピーカーシステムを聴いた。

マンガーもジャーマン・フィジックスもどちらもドイツの会社である。
ベンディングウェーヴのスピーカーが、ドイツからあらわれた。
高域のみではあったがBWTよりもずっと早く登場していたベンディングウェーヴのスピーカーは、ハイルドライバー、
いまAMTと呼ばれることの多くなったユニットである。
ハイルドライバーはアメリカのESSから登場したものの、開発者のオスカー・ハイルはドイツ人である。

そのハイルドライバーよりももっと早く登場していたベンディングウェーヴ方式のスピーカーがある。
シーメンスのリッフェル型と呼ばれるもので、正確な年月日は不明だが、
1930年に発行されたトーキーの本には写真が載っている、と池田圭氏の盤塵集に書いてある。

盤塵集でリッフェル型の存在は知ってはいたものの、盤塵集を読むだけでは、この動作方式の特質は理解できなかった。
盤塵集にはベンディングウェーヴという言葉は出てこないし、
リッフェル型がピストニックモーションのスピーカーとどう異るのかについての記述もなかった。

結局、リッフェル型がどういうものだったのか、を理解するに、
BWT、ジャーマン・フィジックスのDDDユニットの登場を俟つしかなかった。

Date: 7月 11th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その9・追補)

この項の(その9)を書いたあとで、
スコーカーに20cm前後の口径のコーン型を採用した3ウェイ・スピーカーシステムについて、あれこれ調べてみた。
インターネットがあっても、こういう調べものをするときは、
ステレオサウンドが以前出版していたHiFi STEREO GUIDE(のちのYEAR BOOK)、
つまりカタログ誌があったほうがずっと助かる。
でも、ないものはしょうがなく徹底的に調べるまでにはいたらなかった。

それでも、ひとつ見つけた。
フランスのフォーカルのScala Utopiaは、スコーカーは16.5cmのコーン型を使っている。
このスコーカーと、27cmコーン型ウーファーとのクロスオーバー周波数は250Hz、
2.7cm口径の逆ドーム型トゥイーターとのクロスオーバー周波数は2.2kHz。
ふたつのクロスオーバー周波数の積は、55万。
40万との差は15万だから、約4割近く増えていることになる。

それでも他の3ウェイ・スピーカーシステムからすると、ずっと40万に近い。

Scala Utopiaとほぼ同じクロスオーバー周波数をもつのが、ソナース・ファベールのElipsaがある。
スコーカーは15cm口径のコーン型で、250Hzと2.3kHzのクロスオーバー周波数をもつから、57.5万となる。
40万からすこし離れてしまう。

もうひとつ見つけている。
アバンギャルドのduo Ω G2だ。
中・高域はホーン型だが、
スコーカーのドライバーはコンプレッション型ではなく口径17cmのドーム型を使っている。
コーン型とドーム型という違いはあるものの、Scala Utopiaのスコーカーと同口径といっていい。
こちらのクロスオーバー周波数は170Hzと2kHzで、積は34万。
Scala Utopia、Elipsaよりも、40万に近い。

多少へそ曲がり的なスピーカーシステムの探し方だが、それでも探せばあるものだし、
こういう興味の持ち方も、オーディオにはあり、だと思う。

Date: 7月 9th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その10)

一度はボツにしたアイディアは、いまになってこうやって、しかも長々と書いているのは、
やっと実現可能なスピーカーユニットが登場したからである。

マンガーのBWTである。

マンガーのBWTを日本で最初に紹介したのは、ラジオ技術だった、と記憶している。
製品紹介ではなく、技術紹介の記事だった。
この記事を読んだころは、ベンディングウェーヴということについて知識がなかったため、
しばらく理解できなかった。
スピーカーの理想は、より正確なピストニックモーションという考え方にとらわれていては、
マンガーのBWTの本質的なところが、欠点にさえ思えてくる。

正直、このときは、なにか不思議なスピーカーユニットが登場したな、ぐらいの感想しか持てなかった。
それから数年、BWTが日本に登場することはなかった。

1996年、オーディオ・フィジックから、このマンガーのWBTを採用したスピーカーシステムが登場した。
Medeaである。
このMedeaは、BWTを正面にひとつ、左右にそれぞれひとつずつ、計3発使っている。
通常のコーン型のウーファーもBWTと同じように3発。

Medeaを記事で見たとき、不思議なユニットを使ったスピーカーシステムがやっと登場した、
でもすこし変った構成のスピーカーシステムとして、と思ってしまった。

だが、このスピーカーシステムに対する井上先生の評価は高い。
これは、これまでの常識はいったん捨てた上で聴いておくスピーカーシステムだ、と思い直した。
でも残念ながら、Medeaはいまだ聴く機会がない。

Date: 7月 8th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その9)

だが実際に市販されているスピーカーユニットの中から、
100Hzから4kHzまでをカヴァーできるモノはなかった、といっていい。
単に周波数特性(それも振幅特性のみ)でよければ、20cm口径の良質のフルレンジであれば、
一見使えそうな気がする。

この20cm口径のユニットのバックキャビティにどれだけの容積をあたえるかによるけれども、
100Hzという値はとくに問題なくカヴァーできる。
もちろんLCネットワークでウーファーとのクロスオーヴァー周波数が100Hzとなると、
ウーファー側のローパスフィルターを構成するコイルの値が大きくなりすぎて、
実際の製作面では別の問題が浮上してくるが、これはバイアンプ駆動という方法もある。

問題となるのは高域が果して4kHzまで、良好な指向特性を確保しながらカヴァーできるかということ。
結論をいえば、せいぜい2kHzどまりが限度となる。
もし仮に4kHzまで問題なくカヴァーできるユニットがあったとしよう。
もしくは10cm口径のフルレンジユニットを複数個(たとえば4発)使用するという方法もある。

それでも、今度はトゥイーターが問題となってくる。
JBLの2405はまず使えなくなる。2405は9kHzあたりからのトゥイーターである。
パイオニアのリボン型トゥイーターのPT-R7もきつい、
テクニクスのリーフ・トゥイーターの10TH1000も4kHzからだと無理がある。
ドーム型トゥイーターであれば、4kHzあたりから使えるものもあるが、
ここでも考えのベースとなっていたのは、瀬川先生の4ウェイ構想の記事であり、
そこに書かれていた内容のスピーカーを超える可能性を持つものとして考えていただけに、
正直、ドーム型トゥイーターでは、もの足りなさ、中途半端な印象がある。

そうなると、結局、瀬川先生の4ウェイの構成に行き着いてしまう。
ふたつの40万の法則を目ざそうとすると、1970年代後半のスピーカーユニットでは無理なことだった。
だから、この考えによるスピーカーシステム構想はボツにするしかなかった。

Date: 7月 8th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その8)

JBLの4343のミッドバス(ユニットは2121)の受持ち帯域──、
言い換えればウーファー(2231A)とミッドハイ(2420)とのクロスオーヴァー周波数は、
300Hzと1.25kHzであり、ほぼ40万の法則だということは、すでに別項に書いているとおりである。

4343だけではなく、その前身の4341(4340)も使用ユニットは同じでクロスオーヴァー周波数も同じ。
JBL初の4ウェイの4350では、ミッドバスは30cm口径の2202ということもあり、
ウーファーとのクロスオーヴァー周波数は250Hzに、ミッドハイとのクロスオーヴァー周波数は1.1kHzと、
どちらも少し下り2つの積は27.5万となる。
だから4350は、ここで述べた2440のエッジの共振を含めて、4341、4343よりも鳴らし込みが格段に難しくなる、
とは言わないけれども、後継機4355のクロスオーヴァーの変更(290Hzと1.2kHzで、積は34.8万)をみると、
あながち見当はずれのことでもないような気もしてくる。

4343のミッドバスと40万の法則の関係については、かなり以前に気がついていた。
それは当時はまだ高校生になったばかりで、4343を欲しい、と思っていても、
買えるようになるのは社会人になってからだろうから、ずいぶん先のこと。
だから4343に関する記事はできるだけ目を通すようにしていたし、4343のことをできるかぎり知ろうとしていた。
買えないからこそ、自分のモノにできないからこそ、
その想いを4343に関することはすべて、手に入れるまでに知っておこう、という気持が強かった。
それと40万の法則を知った時期もほぼ同じころだったかも関係していての結果である。

このことに気づいたときから考えていたのが、ならば4343のミッドバスの帯域を、
40万の法則に従って拡大していけば、ということだった。
300Hzと1.25kHzから、200Hzと2kHz、100Hzと4kHz、というふうにできれば、
4ウェイではなく、3ウェイで、いいスピーカーシステムができ上がるかもしれない、とその頃は思っていた。

Date: 7月 7th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その7)

2ウェイのスピーカーシステムで、仮に20Hzから20kHzまでをほぼフラットにカヴァーしていれば、
ひとつめの総合特性としての周波数特性においては、40万の法則どうりに仕上がっている。

この2ウェイのスピーカーシステムのクロスオーバー周波数が1kHzだとしよう。
ウーファーの受持ち帯域は20Hzから1kHz、トゥイーターの受持ち帯域は1kHzから20kHz。
それれのユニットの下限と上限の積は、ウーファーが2万、トゥイーターは2000万となり、
40万という値からは大きくズレてしまう。

2ウェイでは、クロスオーバー周波数をどこにもってきても、
ふたつのポイントにおける40万の法則は成り立たない。あくまでもトータルでの周波数特性のみである。

3ウェイでは、(その6)に書いたようにクレデンザ+555の組合せをスコーカーに持ってくれば、
2つの40万の法則が成りたつ。とはいうものの、スコーカーにもってくるユニットの受持ち帯域次第である。

クレデンザ+555は100Hzから4kHzと、5オクターヴをすこしこえる帯域幅をもつ。
ここではカヴァーできるスコーカーは、実際のところはほとんどない。
もしうすこしウーファーのスコーカーのクロスオーバー周波数をあげて200Hzとすると、
スコーカーの上限は2kHzとなるが、市販された3ウェイのスピーカーシステムのクロスオーバー周波数が、
200Hzと2kHzに設定されているものは、私は見たことがない。

ではウーファーとスコーカーのクロスオーバー周波数を300Hzにしたら、
トゥイーターとスコーカーのクロスオーバー周波数は約1.3kHzとなる。
300Hzと1.3kHzのクロスオーバー周波数となると、
JBLの4300シリーズの4ウェイのスタジオモニターのミッドバスの受持ち帯域が、ほぼ合致する。

4ウェイにおいて、やっとふたつの40万の法則が成りたつことになる。

Date: 7月 7th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その5・追補)

友人のOさんからのメールに、
知合いの方がクレデンザ+555のステレオ再生を実践されていた、と書いてあった。

ただその方はボストン在住なので、Oさんもクレデンザ+555によるステレオの音を聴く機会はまだない、とのこと。

とにかくひとりおられたということは、他にも実践されている方は、
日本のどこかにおられても不思議ではない、と思う。