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Date: 8月 26th, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その9)

SP10MK2の存在を私が知ったのは1976年。13歳のときで、ひどいとは感じなかった。
そう感じなかったひとつの理由としてSP10の専用キャビネットとしてSH10B3があったことが大きい。

SH10B3は天然黒曜石、木材、粘弾性材の三層構造で、四隅は丸く処理されていて、
黒い光沢のある、このキャビネットと組み合わされた雰囲気は、なかなかいいと感じていた。

もっともSP10に対する厳しいことは、おもに使い勝手にある。
こればかりは、当時は実物を見たこともなかったし、オーディオ機器に触れたこともわずかなのだから、
なんともいえなかったが、少なくともSH10B3の雰囲気には惹かれるものがあった。

書かれていることはわからないはないけれど……、そんなふうにも思っていた。
それでも数年後、SL100W、SL1000の存在を知ると、厳しい意見が出て来たのも頷けなくもなかった。

SL100WはSP10を専用ウッドケースにおさめたもので、ダブルトーンアーム仕様。
SL1000はSP10とトーンアームEPA99をウッドケースにおさめたもの。
写真でしかみていないが、安易にウッドケースにおさめたことで、どちらもSP10の無機質なところが際立つ。

これでは、あれこれ厳しいことがいわれてきたのもわかる気がする。
ダイレクトドライヴという世界初のモノが、期待通りもしくは期待以上の性能を有して登場してきた。
にも関わらずプレーヤーシステムとしてのまとまり、雰囲気が、
オーディオマニアがレコードをかける心情をまったく理解していない──、そんな感じのものであれば、
改良モデルで、その点が手直しされることを期待しての発言でもあった、はずだ。

テクニクスもそのことは理解していたような気がする。
だからこそSH10B3を出してきたのだろう。
一方でSP10のスタイルはスイッチ類にわずかな変更はあったものの、まったく変更されることはなかった。

ここにテクニクスというブランドの面白さがあるように思っている。

Date: 8月 26th, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その8)

テクニクスのSP10MK2は、ステレオサウンド 37号の新製品紹介に登場している。
ターンテーブルとしての高性能であることは、37号の記事でも語られている。
同時に、SP10のスタイルについては、かなり厳しいことが述べられている。
     *
山中 このスタイルというのは、人によって好き嫌いがはっきり分かれそうですね。
 僕個人としては、モーターボードの高さの制限を相当受ける点に、問題点を感じてしまうのですけれども、これは、実際にアームを取りつけて使ってみると、非常に使いにくいんです。
井上 モーターボードをもっと下げて、ターンテーブルが突き出たタイプの方が使いやすいと思われますね。
     *
SP10のスタイルについての発言はまだ続く。
記事の半分以上はスタイルについて語られている。

SP10のスタイルについては、菅野先生も以前から厳しいことを書かれている。
     *
 もちろん、いくらそうした血統のよさは備わっていても、実際の製品にいろいろな問題点があったり、その名にふさわしい風格を備えていないのならば、〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選定されないわけである。その意味からいえば、私個人としては完璧な〝ステート・オブ・ジ・アート〟とはいいがたい部分があることも認めなければいけない。つまり、私はプレーヤーシステムやターンテーブルにはやはりレコードをかけるという心情にふさわしい雰囲気が必要であると思うからで、その意味でこのSP10MK2のデザインは、それを完全に満たしてくれるほど優雅ではなく、また暖かい雰囲気をもっているとはいえないのである。しかし、実際に製品としてみた場合、ここに投入されている素材や仕上げの精密さは、やはり第一級のものであると思う。このシンプルな形は、ある意味ではデザインレスともいえるほどだが、やはり内部機構と素材、仕上げというトータルな製品づくりの姿勢から必然的に生まれたものであろう。これはやはり、加工精度の高さと選ばれた材質のもっている質感の高さが、第一級の雰囲気を醸し出しているのである。
     *
これはステレオサウンド 49号のもの。
瀬川先生もステレオサウンド 41号で書かれている。
     *
 ただ、MKIIになってもダイキャストフレームの形をそのまま受け継いだことは、個人的には賛成しかねる。レコードというオーガニックな感じのする素材と、この角ばってメタリックなフレームの形状にも質感にも、心理的に、いや実際に手のひらで触れてみても、馴染みにくい。
     *
ここで引用した他にもSP10のスタイルについては、あれこれ書かれているのを読んでいる。
SP10のスタイルに肯定的な文章は読んだ記憶がない。

Date: 8月 26th, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その7)

松下電器産業の無線研究所でダイレクトドライヴの開発が行なわれていた1960年代後半当時の測定用レコードは、
当時のアナログプレーヤーのS/N比を測定するのには問題のないレベルだったが、
世界初のダイレクトドライヴが目標とした60dBのS/N比の測定には役に立たないレベルでしかなかった。

どんなにアナログプレーヤーのS/N比が向上しようとも、
測定に使うレコードのS/N比が60dB以上でなければ、
それはレコードのS/N比の限界を測定しているようなものである。

60dBのS/N比のためには、60dB以上のS/N比の測定用レコードを確保することが必要になる。
そこで市販されていた測定用レコードを使わずに、ラッカー盤をそのまま使った測定用レコードにする。
これだけで10dB向上する、とのこと。

それでもまだまだである。
次にラッカー盤の削り方の工夫。それからカッティングマシンの回転数を33 1/3回転から45回転にアップ。
これでラッカー盤測定用レコードのS/N比は50dB近くに。それでも足りない。

33 1/3回転から45回転にしたことで約10dBの向上がみられるのならば、
さらに高回転、つまりSPと同じ78回転にすることで目標の60dBのS/N比の測定用レコードを実現。

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」のテクニクス号で、この記事を読んで気がついた。
SP10は、初代モデルもMK2もMK3にも78回転があった。

私がSP10MK2の存在を知った1976年、
国産のダイレクトドライヴ型のアナログプレーヤーで、78回転に対応していたのは、他になかった。
そのときは、SP10はダイレクトドライヴのオリジネーターということ、
テクニクスを代表するモデルだから、78回転もあったのだと思っていた。

もちろんそれも理由としてあっただろうが、78回転に対応していなければ、
当時の技術では60dBレベルのS/N比を測定することができなかったから、も理由のひとつのはずだ。

Date: 8月 25th, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その6)

松下電器産業には当時15ヵ所の研究所をもっていた。
これらの中で、オーディオと関係していたのは、
中央研究所、材料研究所、無線研究所、音響研究所、電子工業研究所、生産技術研究所の六つである。

ダイレクトドライヴを開発した無線研究所は、テクニクス号によれば、
テレビ、音響機器とそれらを支える電子部品の研究開発、電波伝送理論から高周波・低周波の回路系、
精密機械系や電子部品にいたるまで広範にわたる、とある。

その無線研究所が目標としたS/N比60dB。
これを実現するには、S/N比60dB以上を測定できる環境がまず必要となる。

開発がはじまり1967年には試作品一号機ができる。
無線研究所は線路の近くにあったため、測定は深夜に行なわれていた。

もちろん測定には防振台の上に置かれて行なわれるのだが、
電車の通過によって地面が振動してしまっては、防振台でも完全には遮断できないため、
電車の運行が終っての深夜、S/N比の測定は始まる。

試作機は一号機、二号機……となり、S/N比は向上しているはずだし実感できているのに、
測定値は30dBあたりで足踏みしていた。
原因は測定用レコードにあった。

Date: 8月 25th, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その5)

1975年にMK2となったSP10。
それ以前に、Technicsのロゴの前からナショナルのマークは消えている。
いつごろ消えたのかははっきりとしない。

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」テクニクス号でも、確認できる。
何枚かのSP10の写真が載っていて、Technicsのロゴだけになっているのがある。

SP10は1970年6月の発表だが、
ダイレクトドライヴの発表は一年前に行なわれている。

この本によると、ダイレクトドライヴの開発に松下電器産業が着手したのは昭和41年(1966年)頃となっている。
SP10登場まで四年間である。

ダイレクトドライヴの開発にあたったのは音響研究所では無線研究所である。
ダイレクトドライヴ登場以前、モーターゴロを発生するプレーヤーが当り前のようにあった。
当時のオーディオ雑誌のプレーヤーの評価記事をみても、モーターゴロという単語が登場する。
モーターゴロがあればターンテーブルのS/N比は十分な値が確保できない。

SP10の登場、つまりダイレクトドライヴの登場は、アナログプレーヤーのS/N比を確実に向上させている。
無線研究所では、それまでのアナログプレーヤーの一般的なS/N比25〜30dBに対し、
60dBを目標としていた。

Date: 8月 25th, 2014
Cate: オーディオマニア

オーディオマニアとして(続グレン・グールドからの課題)

本項といえる「オーディオマニアとして」でも、
グレン・グールドの「録音は未来、演奏会の舞台は過去だった」を引用している。

グールドがいう「わくわくする驚きと落ち着いた静けさの心的状態を構築していくこと」──、
この部分が落ち着いた静けさの心的状態だけでないこと、
その前に「わくわくする驚き」とあることが、
私にとっては、「録音は未来」へとつながっていく。

Date: 8月 24th, 2014
Cate: Glenn Gould, オーディオマニア

オーディオマニアとして(グレン・グールドからの課題)

グレン・グールドの、この文章を引用するのは、これで三回目。
一回目は「快感か幸福か(その1)」、二回目は「ベートーヴェン(動的平衡・その4)」。
     *
芸術の目的は、神経を昂奮させるアドレナリンを瞬間的に射出させることではなく、むしろ、少しずつ、一生をかけて、わくわくする驚きと落ち着いた静けさの心的状態を構築していくことである。われわれはたったひとりでも聴くことができる。ラジオや蓄音機の働きを借りて、まったく急速に、美的ナルシシズム(わたしはこの言葉をそのもっとも積極的な意味で使っている)の諸要素を評価するようになってきているし、ひとりひとりが深く思いをめぐらせつつ自分自身の神性を創造するという課題に目覚めてもきている。
     *
濁った水がある。
水に混じってしまった不純物は、ゆっくりと水の底に沈殿していく。
水は透明度をとり戻していく、落ち着いた静けさの心的状態によって。

心も同じのはず。
落ち着いた静けさの心的状態では、まじってしまった不純物も底へと沈殿していく。

アドレナリンを瞬間的に射出してしまえば、不純物はまいあがり濁る。

わくわくする驚きと落ち着いた静けさの心的状態を構築していくために、
オーディオの働きを借りるのがオーディオマニアではないのか。

グールドは、積極的な意味で使っている、とことわったうえで、
美的ナルシシズムの諸要素を評価するようになってきている、としている。

美的ナルシシズム、美的ナルシシズムの諸要素。
オーディオではナルシシズムは決していい意味では使われない。

ナルシシズム、ナルシシスト。
これらが音について語るとき使われるのは、いい意味であったことはない。

オーディオマニアとしての美的ナルシシズム、
自分自身の神性の創造、
グールドからのオーディオマニアへの課題だと私は受けとっている。

Date: 8月 24th, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その4)

Technicsのロゴの頭につくナショナルのマーク。
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」テクニクス号に掲載されている写真をみていく。

アメリカではテクニクス・ブランドが登場する以前からパナソニック(Panasonic)ブランドであり、
当時のアメリカでの広告には、Technics by Panasonic の文字がある。
ちなみに1973年のアメリカでの広告には、こう書いてある。

Introducing a new world in the Hi-Fi vocabulary:
Technics[tek·neeks′]n. a new concept in components.

ハイファイ用語に登場した新しい単語を紹介しましょう。
テクニクス、名詞。コンポーネントの世界に置ける新しい概念

tek·neeks′は発音記号で、カタカナ表記すれば、テク・ニークスか。
そういえば1970年代後半、テレビコマーシャルで流れていたのも、テク・ニークスだったはず。

アメリカではブランドとしてナショナルではなくパナソニックが使われていたが、
イギリス、フランス、ドイツなどヨーロッパでは、ナショナル・ブランドだった。

「世界のオーディオ」テクニクス号でも、海外でのテクニクスについての記事では、
SP10同様、Technicsのロゴの頭にナショナルのマークがついているのが確認できる。

Date: 8月 23rd, 2014
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(おさなオーディオ・余談)

おさなオーディオは私の造語である。
このおさなオーディオについて書こうとしたさいに、
「おさなオーディオ」というタイトルで書こうか、とも思った。

それでも「ネットワーク」というテーマのもとに、おさなオーディオについて書きはじめたのは、
それほど熟考してのことではない。
なんとなく、というところもあった。

詳細は省くが、今日twitterである書き込みを見た。
私がフォローしている人がリツィートしていた書き込みは、このブログに関してのものだった。

それを見て、やぱりおさなオーディオは、「ネットワーク」のテーマの元に書いて正解だったかもしれない、
そう思えた。

この項の(その1)で、きたなオーディオについて書いた。
きたなオーディオは30年の月日を経て、おさなオーディオへと変っていっただけだと思う。
きたなオーディオの本質は、おさなオーディオだったのかもしれない、とも。

Date: 8月 22nd, 2014
Cate: 所有と存在

所有と存在(その1)

オーディオ愛を語る文章がある。
オーディオ愛でなくとも、レコード愛でもいい。

書いている本人はオーディオ愛、レコード愛を書いているわけだが、
読み手がそこに書き手のオーディオ愛、レコード愛を感じとれるかとなると、それは文章の巧拙とは関係がない。

たとえばオーディオに、レコードに、さらには音楽に、どれでもいいが、
対象物に恋する、と書くし、対象物を愛する、と書く。

間違っても対象物を恋する、対象物に愛する、とは書かない。

恋と愛。
これは言い換えれば、所有と存在なのではないのか。

オーディオ愛を感じられないオーディオ愛について書いてある文章は、
つまるところ、愛ではなく恋(所有)なのだろう。

Date: 8月 22nd, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その3)

そのSP10だが、ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」のテクニクス号を読むと、
すこし意外なことが書かれている。
菅野先生の文章だ。
     *
 テクニクスというと、私はいまだに思い出す1つの光景がある。それは、ダイレクトドライブ・ターンテーブルSP10との最初の対面のときだ。今から8年ほど前になるこの出会いは、ターンテーブル・メカニズムの発想を根本から変えたという意味で、大変にショッキングなものだった。
 と同時に、そのSP10を松下電器の方々が、はじめて私の家に持ってこられたときの光景を思い出すわけだ。そのとき私は「松下という会社は、昔から決してオーディオに冷たいメーカーではない。大メーカーのなかでは、われわれにとって、アマチュア時代からなじみのあるメーカーだ。しかし、松下電器とか、ナショナルとかいうブランドはオーディオに対して訴える力がどうしても弱く感じられる。それはオーディオのイメージが弱いというよりも、そのほかのイメージが強すぎるからだろう。たとえば、このSP10にもNATIONALというマークがついている。するとどうしても電気がまや掃除機のイメージの方が強くなるから、このマークは取り去った方が良いのではないですか」という話をした。
 そのとき「いや、これは会社の憲法であり、これを変えたら大変なことになる」という言葉が返ってきたが、私は「オーディオというのは非常に趣味性の高いものだし、オーディオファンが親しみと信頼をもってくれるブランド名を製品に与えるのが本当だと思う。そのためにも考え直された方が良いのではないだろうか」といった覚えがある。
     *
意外だった。
テクニクスの顏といえる存在のSP10に、最初のころとはいえ、ナショナルのマークがついていたことは。

テクニクス号には、いくつかのSP10の写真が載っている。
その中にはナショナルのマークはないものが多いが、
小さな写真でぼんやりしているが、
ひとつだけ、Technicsのロゴの左側にナショナルのマークらしきものが見えるのがある。

Date: 8月 22nd, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その2)

松下電器産業からテクニクス(Technics)ブランドの最初の製品、
Technics1が登場したのは昭和40(1965)年6月である。

来年(2015年)は、テクニクス・ブランド誕生から50年にあたる。
それもあってのテクニクス・ブランドの復活なのかも、とも思っている。

1965年は松下電器産業が、音響研究室を発足させた年でもある。
この音響研究室がのちの音響研究所だ。

1963年生れの私にとって、テクニクスときいて、真っ先に浮ぶイメージは、
リニアフェイズのスピーカーシステム、それからSP10から始まったダイレクトドライヴ型ターンテーブルである。

世界初のダイレクトドライヴ型でもあるSP10は、テクニクスの顏でもあった。
私がオーディオに興味を持ち始めた1976年には、SP10は改良されSP10MK2となっていた。
たしか1975年にSP10MK2になっている。

さらに1981年に、ターンテーブルプラッターを従来のアルミダイキャスト製3kgから、
銅合金+アルミダイキャスト製で、重量は10kgのものへと変更されたSP10MK3が出た。

ダイレクトドライヴ型は性能はいいけれど、音は芳しくない、といわれた時期に、
テクニクスがオリジネーターの意地を見せつけてくれた製品でもあった。
SP10MK2は15万円だったが、MK3では25万円になっていた。

SP10は、やはりテクニクスの顏であった。

Date: 8月 22nd, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(インサイドフォースキャンセラーのおもり・その4)

SMEのトーンアームでは、Bias Guideという、
金属の先に滑車がついたパーツが、アームベースの内側にとりつけるようになっている。

このバイアスガイドの滑車にバイアスウェイトからでている糸を通す。
この糸の、トーンアームに対する方向によってインサイドフォースキャンセル量、
つまりはトーンアームにかかるアウトサイドフォースがわずかとはいえ変化する。

そのためSMEの取り扱い説明書には、バイアスガイドの位置調整の項目がある。
インサイドフォースキャンセル量を変えるたびに、このバイアスガイドの位置(向き)も変えていく必要がある。

こんなことでもインサイドフォースキャンセル量は変化を受けるわけで、
厳密にはバイアスガイドの高さ調整も、場合によっては必要となってくる。

トーンアームの調整には、アーム自体の高さ調整がある。
使用するカートリッジによって、アームパイプが水平になるのを原則とし、
その後は音を聴きながらほんのわずか上げ下げをすることがある。

SMEの取り扱い説明書にあるバイアスガイドの調整は、
トーンアームを真上からみたときの位置(向き)の合わせ方である。
これは、水平における調整であり、トーンアームの高さ調整機構が備わっているのであれば、
本来はバイアスガイドの高さ調整も必要であり、連動しているのが望ましい。

トーンアームの高さをあげたとき、真正面からみてバイアスウェイトを吊り下げている糸は、
水平と垂直をなしていなければならない。
トーンアームから滑車までは水平、滑車からは垂直というようにである。

だがSMEのトーンアームの場合、バイアスガイドはスライドベースに取り付けられている。
つまりバイアスガイドの高さ(滑車の高さ)は、そのままでは変えられない。
そうなるとトーンアームの高さ次第では、水平になっていなければならない部分が、
水平でなくなっている場合も出てくる。

そうなると垂直方向の分力を生じ、針圧に変化を与えてしまう。

Date: 8月 22nd, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(インサイドフォースキャンセラーのおもり・その3)

インサイドフォースの問題がややこしいのは、
レコードの溝の波形、針圧、針先の形状、
針先からみたカートリッジの振動系の機械インピーダンスなどが絡んできていて、
一枚のレコードでも同じキャンセル量で解消されるというわけではない。

つまりインサイドフォースを完全にキャンセルすることは、非常に困難なことである。
つまりインサイドフォースキャンセラーの調整は、妥協点をさぐる行為ともいえる。

妥協点だからといって、安易に調整していいわけでもない。
SMEのトーンアームに代表されるおもりを糸吊りしている機構では、
おもり(Bias Weight)が、なにかの拍子で揺れていると、はっきりと音に影響を与える。

インサイドフォースキャンセルを、カートリッジへの水平バイアスと考えれば、
おもり、つまりバイアスウェイトの揺れは、バイアスの揺れと同じであり、
これでは安定した音は得られなくなる。

そんなことはないだろう、と訝しがる人で、
SMEの糸吊り式のインサイドフォースキャンセラーをもつトーンアームをもっているならば、
ためしにバイアスウェイトを意図的に揺らしてみればいい。

それでも音は変らない、という場合は、SMEのトーンアームの調整がうまくいっていないか、
システム全体の調整も、またそうだ、ということである。

Date: 8月 21st, 2014
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(インサイドフォースキャンセラーのおもり・その2)

以前、「型番について(その17)」で書いているように私は、
針圧は垂直方向のバイアス量であり、
インサイドフォースキャンセラー量は水平方向のバイアス量、と考えている。

インサイドフォースキャンセラーについてはかなり以前から議論されている。
インサイドフォースキャンセラー不要論を唱える人も少なくない。
針圧を多めにかけることでインサイドフォースの問題は無視できる、いう記事も読んだことがある。

おそらくインサイドフォースキャンセラーが必要なのか不要なのかは、
これから先も決着がつかないままのような気がする。

私はインサイドフォースキャンセラー量は水平方向のバイアス量と考えているから、必要とする。
昨夜のブログを書いた後、facebookにコメントがあった。

SMEのインサイドフォースキャンセラーのおもりの重量はロットによって変更されている、とのことだった。
軽いのは3gくらいで、重いのになると6gくらいのものもある、とのこと。

インサイドフォースキャンセラーのおもり──、
と書いているが、やや長い。
SMEは、インサイドフォースキャンセラーのおもりのことをどう呼んでいるのか。

SMEのサイトをみると、Bias Weightとある。
ということは、SMEのアイクマンも、
インサイドフォースキャンセラーはカートリッジの針先への水平方向のバイアスと考えていた、
とみていいだろう。