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Date: 5月 20th, 2011
Cate: Kate Bush

Director’s Cut(ケイト・ブッシュのこと)

ケイト・ブッシュの新譜が5月16日に出た。
Director’s Cutというタイトルから、ある程度想像がつくように、1989年発売のThe Sensual Worldと
1993年発売のThe Red Shoes、この2枚のアルバムから11曲を選んだものだ。

単なるベスト盤、リマスター盤ではなく、当時のトラックをそのまま使っているところがあるけれど、
ケイト・ブッシュのヴォーカルをふくめ、かなり再録音したものとでリメイクされたもの。

このDirector’ Cutを「新譜」ではない、という人もいる。
でも、クラシックをおもに聴いてきた者には、ある演奏家が同じ楽曲を、
ある年月を経てもう一度録音し直したレコード(つまり再録音のこと)も、新譜と呼ぶ。
この感覚があるから、私にとってはDirector’s Cutも「新譜」となる。

Director’s Cutには、3つのヴァージョンがある。
通常盤(CD、1枚)と、これをLPにしたもの(これは2枚組)、
それに限定盤(通常盤に、The Sensual WorldとThe Red Shoesのリマスター盤を加えた、計3枚組)。

数年前に日本で、紙ジャケットで再発売が行われたとき、もしかするとリマスター盤かも、
というウワサが発売前に流れたけれど、リマスターは行われなかった。
ケイト・ブッシュのリマスターCDは、1985年に発売されたHounds of Loveがかなりたってから、
シングル盤のみで発売された曲、12インチ・シングルで出たリミックスをくわえて出ただけである。

だからリマスター盤が聴ける、といううれしさも、今回のDirector’s Cutにはある。

そういううれしさはある一方で、
なぜ、The Sensual WorldとThe Red Shoesからのみからの選曲なのかという想いもある。

1986年に、それまで出ていた5枚のアルバムからのベスト盤、The Whole Storyは出ている。
だから、今回のDirector’s Cutは、The Whole Story以降のアルバムからという推測は、すぐに成り立つ気がする。
でも、それだけだろうか、という思いがある。

The Sensual Worldに収められているThe Fogのなかで、ケイト・ブッシュは父親に、
“Coz you’re all grown-up”と語らせている。
日本語訳では、「もう大人だろう」になっている。

この言葉と、Director’s Cutが、The Sensual WorldとThe Red Shoesからのみの選曲ということとは、
決して無関係ではない、というよりも、深く関係していることとのような気がする。

Date: 5月 19th, 2011
Cate: 黒田恭一

黒田恭一氏のこと(「遠い音」補足)

1938年が、黒田先生にとってどういう意味をもつのかと気づいたうえで、
「遠い音」に書かれてあることをふりかえってみると、ここのところが私の中で浮んでくる。
     *
次第に緊迫の度をましていく「ウォー・オブ・ザ・ワールズ/宇宙戦争」に耳をかたむけながら、ラジオからきこえる空襲警報を告げるアナウンサーの、抑揚のない声をきいて子供心にも恐怖におびえた幼い日のころの気分になっていた。そこできいているのが、遠い日にアメリカでなされた放送の録音であるとわかっていてもなお、古ぼけた音の伝えることを信じはじめていた。人の出入りのまったくない喫茶店が、じっとりと湿った空気の、土の臭いが気になる、戦争中の防空壕に思えてきた。
     *
終戦の年、黒田先生は7歳。
防空壕の土の臭いは、黒田先生の実体験ということになる。

Date: 5月 19th, 2011
Cate: 黒田恭一

黒田恭一氏のこと(「遠い音」)

ステレオサウンド 57号に「遠い音(上)」が、58号に「遠い音(下)」を、黒田先生は書かれている。
23号からはじまった「ぼくは聴餓鬼道に落ちたい」、43号からの「さらに聴きとるものとの対話を」、
これらの一連の連載の中で、この「遠い音」だけが2回にわたっている。

ほかの回と、これだけ雰囲気が異なっているのは、ステレオサウンドに掲載されているときに読んで気がついた。
登場人物は黒田先生自身だということは、すぐにわかる。

ある喫茶店がある。ここでのことを「遠い音」では書かれている。
読んでいけば、黒田先生の創作によるものだとわかってくる。

「遠い音(下)」を読めば、ここに登場してくる、「13」と印字されただけのマッチの意味あいがはっきりとなる。
それで読み手は納得できる。
だから納得したつもりになっていた。

さきほど「遠い音」を入力し終えて、ひとつ気づいた。
「遠い音」の中のふるぼけた喫茶店でかけられていた3組のレコードは、
どれも1938年に録音されたものばかりであることは、「遠い音」の中に書かれている。
1938年が、どういう年なのかも、当然書かれている。

だから、「遠い音」を読んだ30年前、納得したつもりになれた。
「なれた」だけで、「できた」わけでなかったことに、今日気づいた。

1938年には、もうひとつの意味がある。
黒田先生は、1938年1月1日の生れである、からだ。

そのことに気づくと、じつは、このとについてさり気なく書かれていることにも気づく。
「そうか、あの店は、自分が生れたときからずっとああやってひらいていたのかと、あらためて思い」
と書かれている。

「遠い音」を最初に読んだときは、黒田先生の年齢を知らなかった。
写真で見る黒田先生は、実際の年齢よりも若く見えていたから、そう思いこんでしまっていた。
だから、1938年生れとは思っていなかったから、

「そうか、あの店は、自分が生れたときからずっとああやってひらいていたのかと、あらためて思い」
を、そういう意味にはとることができずに、いわば読み流していた。

1938年からある古びた喫茶店は、1963年生れの私にとっても「自分が生れたときから」ある店であり、
そう受けとってしまっていた。
そう受けとってしまったから、1938年のことをそれ以上考えることをやめてしまっていた。

最初に読んだときから30年たち、やっと気づいた。
まだ気づいただけだが、思いだしたことがある。
ブルーノ・ワルターがウィーン・フィルハーモニーを指揮したマーラーの交響曲第九番。
これも1938年にライヴ録音されたものということ。

このワルターのマーラーの第九番を
「時代の証言として、いまもなお、重い」と黒田先生は書かれている。

「遠い音」を書かれたことについての、私なりの答はまだみつかっていない。

Date: 5月 18th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×十 K+Hのこと)

ステレオサウンドに載っていた累積スペクトラムの測定結果は、
いうまでもなく無響室でスピーカーシステムの正面の特性である。

累積スペクトラムは、いわばスピーカーシステムの「残響特性」だから、
エンクロージュアからの輻射、それに実際のリスニングルームに設置されたときのことなどを考慮すると、
水平方向30度、60度の位置にマイクをおいた累積スペクトラムも測定してほしいところだ。
正面の特性にくらべるとエンクロージュアからの輻射の比率が高くなるから、
累積スペクトラムのグラフは、減衰はさらに遅くなり、うねり、乱れが多くみられることだろう。

スピーカーシステムに入力される音楽信号は、つねに変化している。
その変化に忠実に対応・追従していくのがスピーカーシステムとすれば、
累積スペクトラムはもっと重視されるべき測定項目だと思う。
でも、累積スペクトラムの測定結果が、理想的なものになるには、いったいどれだけの時間がかかるのだろうか……。
こんなことを、ステレオサウンド 47号の測定結果をみながら思っていた。

そのことを、K+HのO500Cの累積スペクトラムのグラフをみていて思い出した。
O500Cの累積スペクトラムのグラフは、この30年間の技術進歩をはっきりとみせてくれる。

ステレオサウンド 47号には、インパルスレスポンスの結果も載っている。
これもO500Cと47号に登場している10機種のスピーカーシステムの間には、隔世の感がはっきりとある。

O500Cの測定結果をみていると、これがスピーカーの特性なのか、とも思う。
なにかアンプの特性でもみているような気にもなる。
もちろん最新のアンプの特性に近い、とはいわないけれど、
ソリッドステート化される以前の真空管全盛時代のアンプなみの特性に近い、とはいっていいような気がする。

Date: 5月 18th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×九 K+Hのこと)

累積スペクトラムが一般に知られるようになったのは1970年代の後半だろう。
ステレオサウンドでも1978年夏号の47号で、46号で取り上げたモニタースピーカーを測定しており、
測定項目の中に、累積スペクトラムがある。
累積スペクトラムの測定結果がステレオサウンドに載ったのは、この号は最初だ。

累積スペクトラムとは、パルスを一波加えた後のスピーカーシステムから出る音の減衰していく様を、
立体的なグラフで表示したもの。
パルスが加わり振動板が動くことで音がスピーカーから放射される。
パルスはすぐになくなるが、スピーカーの振動板はすぐに動きが止るわけではない。
さらに振動板が動くことによって、さまざまな振動がフレームからエンクロージュアに伝わり、
これらからの輻射音も放射される。
さらにエンクロージュア内部にはウーファーの裏側から放射された音がある。
これも時間差をともなって放射される。

ステレオサウンド 47号の説明にもあるが、累積スペクトラムはスピーカーの残響特性ともいえる。
だから理想はパルスが加わった瞬間はフラットな音圧で、
次の瞬間からはすっとすべての帯域において音が消えてなくなっていることだが、
47号に掲載されているグラフを見ると、かなり長い残響特性を、どのスピーカーも持っている。
しかもその残響特性がきれいに減衰していくものはすくなく、うねりや乱れが生じている。

47号には、アルテック620A、キャバス・ブリガンタン、ダイヤトーンのMonitor1、
JBLの4333Aと4343、K+HのO92とOL10、スペンドールBCIII、UREI・813、ヤマハNS1000M、
計10機種の特定結果が載っている。
このなかではNS1000Mが減衰が早いほうだが、それでも低い周波数では減衰が遅いし、
時間軸ごとの周波数のカーヴにはうねりが生じている。

ひどい特性ものについては……、いわないでおく。

Date: 5月 18th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×八 K+Hのこと)

スピーカーの物理特性は、オーディオ機器のなかでいちばん遅れている、というのが古くからの認識である。
アンプの周波数特性が定規で直線を引いたようにまっすぐなのに対して、
スピーカーの周波数特性はフリーハンドで描いた直線もどきにとどまる。
同じ変換系のオーディオ機器でも、振動系の質量が小さなカートリッジはスピーカーよりもいい特性だった。

スピーカーの物理特性は確実によくなっている。
それでもオーディオ機器のなかでは、やはりその進歩の歩みは遅く、
スピーカーの発音原理がなにか画期的なものに変りでもしないかぎり、
飛躍的な向上は無理だろうな、と実のところ思いこんでいた。

K+Hのサイトを探したのは、単にOL10の資料探しがおもな目的だった。
これは結局なにも得られなかった。
かわりにO500Cの存在を知った。

写真をみたときは、それほど興味はわかなかった。
英文の説明に”FIR”の文字を見つけた。
ほーっ、と思った。それですこし興味がわいてきた。
それで実測データ(Measurements)をみた。

周波数特性(Frequency Response)、高調波歪率(Harmonic Distortion at 100dB SPL)、
累積スペクトラム(Cumulative Spectral Decay)、インパルスレスポンス(Impulse Response)などがある。

周波数特性も、いまやここまでフラットにできるのか、と思う。
周波数特性のフラットさにかけては、ジェネレックの、やはりDSPを搭載したアクティヴ型の新シリーズも見事だ。
周波数特性に関しては、数ヵ月に前にジェネレックの特性を見ていたから、見事だと思っても、
O500Cの周波数特性には、驚きはなかった。

私が驚いたのは、インパルスレスポンスと累積スペクトラムだ。

Date: 5月 17th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×七 K+Hのこと)

K+HのO500Cは、アナログとデジタルの入力に対応している。
デジタル信号は24ビット、48kHzに対応、アナログ信号はすぐさまA/D変換される。
O500Cの内部ではデジタルによって、当然行われている。

Acoustical Controlsは名づけられているセクションはふたつにわけられていて、
ひとつはIIR型、もうひとつはFIR型デジタルフィルターによって行われている。
そのあとにDSP Crossover(-48dB/oct.のスロープ特性)を経てパワーアンプ、スピーカーユニットとなっている。
詳細を知りたい方は、K+Hのサイトから資料がダウンロードできるので参照していただきたい。

K+Hのサイトには、Integrated digital controller with the latest FIR Filter technology という表記がある。

デジタルディバイディングネットワーク(DSP Crossover)は3ウェイではなく、4ウェイ仕様となっている。
専用のサブウーファーO900と推奨パワーアンプのKPA2220による拡張を行なえるようになっていて、
O500C単独では27Hz(-3dB)だったのが、15Hz(-3dB)と約1オクターヴ近く延びている。

O500CはW400×H750×D447mm。ヤマハのNS1000MがW375×H675×D326mmだから、
ほんの少し大きいだけだが、内容積はO500Cはデジタル回路やパワーアンプ、電源回路を搭載しているだけに、
NS1000Mとほとんど同じぐらいだろう。
ただ重量はNS1000Mは31kgだが、O500Cは65kgとかなり重い。

とはいえサイズ的にはO500Cは、国産3ウェイ・ブックシェルフ型とほぼ同じである。
ウーファーの口径も30cm、スコーカー、トゥイーターはドーム型は、構成、規模も似ている。

けれど、O500Cの特性は、3ウェイ・ブックシェルフ型というイメージからは遠いところにまで達している。

Date: 5月 17th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×六 K+Hのこと)

コンシューマー用オーディオ機器で、FIR型デジタルフィルターの搭載をはっきりと謳ったのは、
パイオニアのC-AX10が最初、だと思う。

けれど最初に搭載していたオーディオ機器は、
おそらくNECの最初のCDプレーヤーだったCD803ではないだろうか。
マランツ、ソニー、オーレックス、トリオ、Lo-Dといったメーカーから少し遅れて登場してきたCD803は、
音の面で話題になった。
お世辞にもスマートとはいえない武骨な外観で、遅れて登場してきたとは思えないCD803は、
でも音を聴いてみると、遅れて登場してきただけの違いを聴かせてくれた。
CD803の音には、少なからず驚いたことを憶えている。

でも動作にはやや不安定なところもあった。
ディスクをセットして最初から再生するのはよかった、
スキップキーで次の曲を再生するのにも問題はなかったけれど、
10キーによる操作をすると、パソコンでいうフリーズみたいに、たびたび固まってしまうことがあった。
そうなるとどうにもできずに、電源スイッチを切ってもういちど入れると問題なく動作した。
そういう使い勝手の未消化な部分はあったものの、井上先生は、当時CD803を試聴に使われていた。

CD803はデジタルフィルターを搭載していることを謳っていた。
とはいえ、デジタルフィルターを搭載した最初のCDプレーヤーではない。
デジタルフィルターを最初に搭載したのは、マランツ(フィリップス)のCD63である。
このときすでに4倍オーバーサンプリングのデジタルフィルターSAA7210を搭載し、
ここでノイズシェーピングを行い、
16ビットのデジタル信号を14ビット動作のD/AコンバーターTDA1540で処理できるようにしていた。

CD63のデジタルフィルターはIIR型だったはずだ。
CD803のデジタルフィルターを、NECはND(ノン・ディレイ)フィルターと呼んでいた。
当時はどんなことをやっていたのかまったくわからなかったが、
10年くらい前に、どこかでCD803のデジタルフィルターはFIR型だった、と読んだ記憶がある。

CD803の次にFIR型のデジタルフィルターを搭載したCDプレーヤーには、
Lo-Dの初のセパレート型のDAD001がある。

Date: 5月 16th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×五 K+Hのこと)

C-AX10のデジタルディバイディングネットワークにおけるIIR型とFIR型の音を比較するためには、
だからパイオニアのスピーカーシステム、たとえばExclusive 2404を用意しなければならない。
どれだけの人が、デジタルフィルターのふたつの方式の違いを比較試聴できたかというと、わずかかもしれない。
私も聴けなかった。

だからステレオサウンド 133号に載っている井上先生と朝沼さんの対談による記事を参考にするしかない。
朝沼さんはFIR型にしたときの音をこう語られている。
     *
非常に静かなんです。それから、音像定位と音場感がもっと精密になって、明確に録音の意図が分かる。未体験ゾーンを味わったという感じですね。
     *
井上先生はというと、
     *
これは今までにない音ですよ。デジタルで初めて体験できる音。だから、どう捉えたらいいか……。
録音側も、このリニアフェイズの FIRでモニターしてくれないと、録音モニターと再生モニターの相関性がなくなってしまうんです。そこまで考えないと簡単には言いきれない、何かとてつもないものを持っているんですよ。
(中略)この音を聴くと、そういう問題を提起させながら、これからオーディオは、また面白くなりそうな感じがしますね。
     *
この記事は書き原稿ではなく対談のまとめだから、断言はしにくいけれど、
私の編集経験からすると、井上先生がこれだけのことを発言されているということは、
C-AX10の可能性、つまりFIR型のデジタルディバイディングネットワークの可能性、それがもたらしてくれる、
これから先のオーディオの楽しみ、おもしろさについて感じとっておられることは伝わってくる。

Date: 5月 16th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続々続々K+Hのこと)

1999年秋に、パイオニアからデジタル・コントロールアンプとして、C-AX10が登場した。
DSPとA/Dコンバーターを搭載して、内部での信号処理はすべてデジタルで行うもので、
レベルコントロール、トーンコントロールはもちろん、アナログディスクの再生においてもデジタルで処理している。
その他の機能として、16ビット信号を24ビットに再量子化するHi-Bit、
デジタルディバイディングネットワークをもつ。
C-AX10の機能を、こまかく説明していると、それだけでけっこうな分量になってしまうほどの多機能ぶりだ。

C-AX10で、使い手側(つまりオーディオ機器のユーザー)は、はじめてIIR型とFIR型、
ふたつのデジタルフィルターの音の違いを聴くことが可能になった。

メーカーの技術者ならば、IIR型とFIR型を、ほかの条件は同一のまま聴き較べることはできても、
メーカーの製品を聴く側では、そんな機会はまずない。
C-AX10の機能のひとつ、デジタルディバイディングネットワークは、IIR型とFIR型の切替えができる。

C-AX10のデジタルディバイディングネットワークの機能をみると、
IIR型とFIR型の演算処理の違いが、間接的にではあるがわかる。

クロスオーバー周波数は、IIR型では70Hzから24kHzまでの25ポイントなのに対し、
FIR型は500、650、800、1000Hzの4ポイントだけ。
スロープ特性はIIR型では0、-6、-12、-18、-24、-36、-96dB/oct.に対し、
FIR型ではローパス側は-36、ハイパス側は-12dB/oct.に固定、となっている。
演算処理が増すことにより、設定の自由が狭くなっていることがわかる。

つまりIIR型のデジタルディバイディングネットワークは汎用型として使えるが、
FIR型デジタルディバイディングネットワークは、
基本的にはパイオニアのスピーカーシステム用に限定されてしまう。

Date: 5月 15th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続々続K+Hのこと)

デジタル信号処理の話題が出はじめたとき、
まだそのときはステレオサウンドにいたころで、国内メーカーの技術者の人の話に、
デジタルで信号処理した際に、振幅特性と位相特性に関することがあった。

ある国内メーカーの技術者は、デジタルでは振幅特性と位相特性とをそれぞれ単独でコントロールできる。
けれど、自然現象として、振幅特性が変化すればそれにともなって位相特性も変化するものだから、
そのことを重視して、われわれは振幅特性と位相特性、互いに影響し合う関係処理していく、
つまりアナログフィルター同様にする、ということだった。

そういわれてみると納得するものの、やっぱりデジタル信号処理の強み、
つまりアナログフィルターでは不可能なことがデジタルでは可能になるわけだから、
振幅特性と位相特性は、それぞれ単独でコントロールもできるようにしてくれれば、
使い手側で選択できるのに……、と思ってもいた。

CDが登場して、わりとすぐに聞くようになったのは、
デジタルだから振幅を変化させても位相特性は変化しない、ということだった。
その2、3年経ったころだったと思うが、
今度は、いやデジタルでも振幅を変化させれば位相もそれに応じて変化するのは、
アナログと同じである、ともいわれはじめた。

どちらも正しい。
IIR型デジタルフィルターなのか、FIR型デジタルフィルターなのかによって、それは異るからだ。
IIR(Infinity Impulse Response)型では振幅特性とともに位相特性も変化していく。
FIR(Finite Impulse Response)型では、振幅のみを独立して変化できる。

いまはこんなふうに書いているけれど、私もデジタルフィルターにIIR型とFIR型とがあることを知ったのは、
1980年代の終りごろだった。
それも、どちらがより高度な処理なのかは、
振幅特性、位相特性をそれぞれコントロールできるFIR型であることはわかっていたものの、
それが実際にはどの程度の違いなのか、具体的なことまでは知らなかった。
このときになって思ったのは、あのときデジタル信号処理についての話には、
FIR型に関しては、実際に製品に導入することはあの時点では無理があったんだろうな、ということだ。

Date: 5月 15th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その18)

LS5/1はトゥイーターのHF1300に手を加えて搭載している。
LS5/1AのウーファーのグッドマンCB129Bも、
そのままではなく、フレームの左右は垂直にわずかとはいえ切り落している。
そうすることで、フロントバッフルの幅をぎりぎりまで狭めている。

イギリスの、それもBBCモニター系列のスピーカーシステムのエンクロージュアのプロポーションは、
横幅はわりと狭く、奥行が概して長くとられている。
高さ方向も、わりと高い方である。

アメリカのスピーカーシステムでは、どちらかといえば横幅が広く、奥行はわりと浅い傾向にある。
その極端な例のひとつが、1980年代に日本にはいってきたボストン・アコースティックスのA400だ。
ここまで奥行を浅くしたイギリスのスピーカーといえば、
ジョーダン・ワッツのモジュールユニットをおさめたものが薄型エンクロージュアだが、
これ以外では、とくにBBCモニター系列のなかにはまず見当たらない。

エンクロージュアのプロポーションは、とうぜん音の傾向に大きく関係してくる。
それにしても、なぜLS5/1Aでは、ウーファーのフレームを切り落としてまでも、
横幅を狭めているのか、と思う。
板取の関係とは思えない。

LS5/1Aはもともと市販するために開発されたものではなく、
そこで板取を優先した結果としてフロットバッフルの大きさが決り、
それに合わせるためのウーファーのフレームの加工、というふうには考えにくい。

これは、やはりエンクロージュアの横幅を狭めることの音質上のメリットを優先してのことだと思う。

Date: 5月 14th, 2011
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その15)

蓄音器の時代、それはひとつの「器」だった。
クレデンザにしろ、HMVにしろ、その他のアクースティック蓄音器は、それひとつで完結していた。

アクースティック蓄音器は、1925年ごろから電気の力によって、いわゆる電蓄になっていく。
ライス&ケロッグによるコーン型スピーカーを搭載したパナロープや、マグナヴォックスその他から登場している。
日本での大学出の初任給が60〜70円の時代に、これらのアメリカ製の電蓄は1500〜3500円で売られている。
このころの電蓄は、アクースティック蓄音器と同じく、それひとつで完結している。

レコードがSPからLPになっていくことで、電蓄の高性能化を求められるようになり、
電蓄という器が解体されていき、プレーヤーシステム、アンプ、スピーカーシステムと独立していき、
コンポーネントという形態に変化していくことで、オーディオは大きな発展を遂げることになる。

使い手の自由度は増していくことになるとともに、
コンポーネントの難しさもその拡大とともに次第に増していくことになる。

Date: 5月 13th, 2011
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その4)

「立体バッフル」という言葉が浮んできたとき、
われながら、うまい表現だな、と気持と、あぁ、いまのいままで、平面バッフルの「平面」という言葉に、
これまでの発想はどこかしらとらわれていた気持も味わっていた。

「立体バッフル」という言葉が出てくるまでは、言葉にとらわれていた、という意識はなかった。
けれど、実際には違っていたし、そのことを気づかせてくれたのも、またやはり「言葉」だった。

平面バッフルといっても、バッフル自体には厚みがある。
私が使っていたのは19mm厚の米松合板に80mmの補強棧がつくので、
トータルの厚みは99mm、約10cmあるから、この厚さの分だけ立体といなくもないわけだが、
ここでいう、「立体バッフル」とは、とうぜんそんなことからは離れているものだ。

結局、「平面」ということから解放されなければ、バッフルのサイズを縮小していくことはできない。
といって囲ってしまう方向にいけば、それはエンクロージュアにいく。

とにかく、いま私のなかには、「立体バッフル」という言葉がある。
けれど、まだ具体的にはどうするかまでには至っていない。
ただ「立体バッフル」という言葉があるだけだ。

ここから、「立体バッフル」という言葉にただとらわれてしまうだけなのか、
「立体バッフル」という言葉から、以前夢見ていたけれども、どうしても思いつかなかったことに、
今度はたどりつけるのか。

Date: 5月 12th, 2011
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その3)

その他にもいくつか案を考えていた。
でも、結局、どれも試すことなく、平面バッフルからはなれて、セレッションのSL600にした。

平面バッフルに関しては、だから不完全燃焼で、いまも、また挑戦してみたいという火がくすぶりつづけている。
それに手もとにアルテック604-8Gがある。
エンクロージュアにするのか、平面バッフルにするのか、そのどちらにも興味がある。
だから、平面バッフルについて、またあれこれ思いをめぐらしていた。

そんなところに、昨夏、偶然に見つけたのが、ギャラリー白線のano(アノ)だった。
正直、目からウロコが落ちたような印象を、その写真をみたときにおぼえた。

こういう手があるのか、と思った。
ちょうど試聴会も行われるということで、阿佐谷にあるギャラリー白線で聴いてきたのが、ほぼ1年前のことだった。

昨日、anoの各辺を60%に縮小したsono(ソノ)を、
イルンゴ・オーディオの楠本さんとの公開対談で聴くことができた。
スピーカーユニットも変更され、こまかい調整も行われていて、
anoの素朴な味わいとは、また異り、個人的にはサイズも含めて、sonoに魅力を感じる。

昨夜は、このスピーカーの製作者であり、ギャラリー白線の主宰者の歸山(かえりやま)さんも来てくださった。

歸山さんの話されるのをきいていて、ある言葉が浮んできた。

私は、anoを人に紹介するとき、折曲げバッフルだと、昨夜までは言っていた。
昨日浮んできた言葉は、「立体バッフル」だった。