BBCモニター考(余談・続々続K+Hのこと)
デジタル信号処理の話題が出はじめたとき、
まだそのときはステレオサウンドにいたころで、国内メーカーの技術者の人の話に、
デジタルで信号処理した際に、振幅特性と位相特性に関することがあった。
ある国内メーカーの技術者は、デジタルでは振幅特性と位相特性とをそれぞれ単独でコントロールできる。
けれど、自然現象として、振幅特性が変化すればそれにともなって位相特性も変化するものだから、
そのことを重視して、われわれは振幅特性と位相特性、互いに影響し合う関係処理していく、
つまりアナログフィルター同様にする、ということだった。
そういわれてみると納得するものの、やっぱりデジタル信号処理の強み、
つまり品ログフィルターでは不可能なことがデジタルでは可能になるわけだから、
振幅特性と位相特性は、それぞれ単独でコントロールもできるようにしてくれれば、
使い手側で選択できるのに……、と思ってもいた。
CDが登場して、わりとすぐに聞くようになったのは、
デジタルだから振幅を変化させても位相特性は変化しない、ということだった。
その2、3年経ったころだったと思うが、
今度は、いやデジタルでも振幅を変化させれば位相もそれに応じて変化するのは、
アナログと同じである、ともいわれはじめた。
どちらも正しい。
IIR型デジタルフィルターなのか、FIR型デジタルフィルターなのかによって、それは異るからだ。
IIR(Infinity Impulse Response)型では振幅特性とともに位相特性も変化していく。
FIR(Finite Impulse Response)型では、振幅のみを独立して変化できる。
いまはこんなふうに書いているけれど、私もデジタルフィルターにIIR型とFIR型とがあることを知ったのは、
1980年代の終りごろだった。
それも、どちらがより高度な処理なのかは、
振幅特性、位相特性をそれぞれコントロールできるFIR型であることはわかっていたものの、
それが実際にはどの程度の違いなのか、具体的なことまでは知らなかった。
このときになって思ったのは、あのときデジタル信号処理についての話には、
FIR型に関しては、実際に製品に導入することはあの時点では無理があったんだろうな、ということだ。