黒田恭一氏のこと(「遠い音」補足)
1938年が、黒田先生にとってどういう意味をもつのかと気づいたうえで、
「遠い音」に書かれてあることをふりかえってみると、ここのところが私の中で浮んでくる。
*
次第に緊迫の度をましていく「ウォー・オブ・ザ・ワールズ/宇宙戦争」に耳をかたむけながら、ラジオからきこえる空襲警報を告げるアナウンサーの、抑揚のない声をきいて子供心にも恐怖におびえた幼い日のころの気分になっていた。そこできいているのが、遠い日にアメリカでなされた放送の録音であるとわかっていてもなお、古ぼけた音の伝えることを信じはじめていた。人の出入りのまったくない喫茶店が、じっとりと湿った空気の、土の臭いが気になる、戦争中の防空壕に思えてきた。
*
終戦の年、黒田先生は7歳。
防空壕の土の臭いは、黒田先生の実体験ということになる。