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Date: 9月 4th, 2016
Cate: オーディオ評論

「商品」としてのオーディオ評論・考(その2)

オーディオ評論家という書き手の商取引の相手は、誰かというと出版社である。
ステレオサウンドの書き手にとっての商取引相手は、株式会社ステレオサウンドという出版社である。

商取引に金銭の授受があるのだから、
書き手と読み手との間に直接的な金銭授受はないわけだから、
オーディオ評論家という書き手は出版社と商取引をしている。

その場合のオーディオ評論という「商品」は、
オーディオ評論家という書き手とステレオサウンドという出版社とで商取引されるもの、となる。

このことは今も昔は変らない。

出版社としての株式会社ステレオサウンドにとって、
季刊誌ステレオサウンドは、誰と商取引をするものなのだろうか。

読み手と株式会社ステレオサウンドとで商取引されるものが季刊誌ステレオサウンドなのだろうか。
厳密には読み手と直接商取引することは基本的になく、
取次と呼ばれる会社との商取引となるわけだが、
ここでは便宜上読み手ということにする。

読み手は株式会社ステレオサウンドにとって商取引の相手ではあるが、
読み手だけが商取引の相手ではなく、広告主もまた株式会社ステレオサウンドの商取引の相手である。

Date: 9月 4th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ヤマハNS1000M・その4)

測定で昂奮する。
そういうことがあるなんて予想だにしなかった。
昂奮していたのは私だけではない、長島先生も興奮されていた。

とある国産のセパレートアンプ(L02Aよりも高価である)は、
負荷インピーダンスを瞬時切替すると保護回路が働いてしまい、
データをとるのも大変だった。

そういうアンプばかりだと測定は、ほんとうに手間がかかる。
それに同じアンプを三回測定する。
しかも64号で行った、どこもやっていない新しい測定だと手間はよけいにかかる。

測定は地味な作業だ、と感じていた。
興味深い面も確かにある。でも地味な面もある。

負荷インピーダンスの瞬時切替での測定は、
国内メーカーからは否定的な意見もあった。
それでもアンプの優秀性は、はっきりと表していた、といえる。

プリメインアンプには、特に酷な測定であった。
そう思いはじめていたときに、L02Aの測定の番だった。
それなりに優れた特性であろう、というこちらの予想をはるかに上廻る優秀さだった。
ここで昂奮し、その後セパレートアンプの測定に移って、また昂奮していた。

セパレートアンプでL02Aを超えるアンプはなかったからだ。
匹敵するアンプもなかった。

L02Aよりも容量に余裕のあると思えるアンプはいくつもあった。
けれどL02Aの瞬時電流供給能力には及ばない。

L02Aは、トリオ独自のΣドライブをもつ。
スピーカーケーブルもアンプのNFBループにおさめてしまう方式である。
L02Aの優秀さは、Σドライブをかけてもかけなくとも変化しなかった。

Date: 9月 4th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ヤマハNS1000M・その3)

64号は1982年のステレオサウンド。
もう30年以上が経っているから書いてもいいだろうと思うことがある。

64号ではアンプの測定を行っている。
52号と53号ではダミースピーカーを使った測定だった。
64号では、負荷インピーダンスを急変させて測定を行っている。

誌面に掲載されているのは、
8Ωから1Ωに瞬時に負荷インピーダンスを切り替えた際の電流供給能力である。
グラフと実際の波形で表している。

これとは別に参考データとして、
8Ω/4Ω瞬時切替THD測定データが、九機種分載っている。
こちらはあくまでも参考データということで機種名はふせてある。

この全高調波歪で、一機種のみ圧倒的に優れた特性を示している。
これがケンウッドのL02Aである。

L02Aの瞬時電流供給能力の波形とグラフをみれば、
おそらくL024Aだろう、と推測していた人もいると思う。

64号では、電流供給能力の高さを謳っていた海外製パワーアンプもある。
マークレビンソンのML3、ハーマンカードンCitation XX(国内生産だが)、
クレルのKSA100などがある。
これらも良好な特性ではあるが、L02Aのデータと比較すると、
片やプリメインアンプで、片やセパレートアンプ。
価格も大きさもかなり違うにも関わらず、プリメインアンプのL02Aの優秀さには及ばない。

測定は長島先生が行われた。
私は補助で、傍らで見ていた。
L02Aの特性は、驚異的といえた。

何度測定しても見事なデータを示す。
驚歎していた。
どこまでL02Aは耐えられるのか、そんなふうになってしまい、
最後には燃やしてしまった。

こう書いてしまうと、L02Aを不安定なアンプ、危ないアンプと勘違いされるかもしれないが、
逆である。
おそろしく動作が安定していたからこそ無茶な領域での測定を試みたためである。

Date: 9月 4th, 2016
Cate: audio wednesday, 柔と剛

第68回audio sharing例会のお知らせ(柔の追求・その7)

今月のaudio sharing例会は、7日(水曜日)。
その6)に書いているように、
渡辺成治氏に来ていただく。

渡辺氏が無線と実験に発表された自作のハイルドライバーだけでなく、
13cm口径のウーファーを円柱状のエンクロージュアにおさめたウーファーと組み合わせる。
エンクロージュアも渡辺氏設計のもの。
この2ウェイのスピーカーシステムのクロスオーバー周波数は900Hz。
ハイルドライバーの後面が開放されているため、
後面を閉じている同サイズのハイルドライバーよりも低いところまで再生できている。

今回は、このスピーカーシステムとともに、ハイレゾリューション再生も行う。
D/Aコンバーターも渡辺氏設計のオリジナルで、
アンプも渡辺氏オリジナル。D級動作で出力は30W。

渡辺氏の経歴を知らない方は、アマチュアの自作システムの試聴なのか、と思われることだろう。
そういうレベルのモノではない。

今年行ってきた音出しとは、ずいぶん違ったシステムとなる。
私自身、ひじょうに楽しみにしている。

iPod、iPad、iPhoneで音源を持ってきていただければ再生可能である。

場所はいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 9月 4th, 2016
Cate: オーディオ評論

「商品」としてのオーディオ評論・考(その1)

8月は三人に訊かれた。
今年は、十人ちかい人に訊かれたことがある。

このブログで収入を得ているんですよね──、そんな感じで訊かれることがあった。
昨年まではほとんどそんなことはなかった(ゼロではなかった)。
でも、今年は訊かれることが急に増えた(といっても十人に満たないのだから少ない)。

このブログで収入は得ていない。
つまりここで書いていることは、「商品」として足り得ていない、ともいえる。
「商品」として認められれば収入となるだろうが、
「商品」ではないから、ここで書くことで収入を得ることはできない、ともいえる。

いつのオーディオ雑誌に載っているオーディオ評論と呼ばれている文章は、
それを書いている人たちに収入をもたらしているのだから、「商品」といえる。

商品とは辞書には、商取引されるもの、とある。
商取引には、買い手という対価を払ってくれる人がいなければ成立しない。

例えばこのブログを有料化してでも読んでくれる人がいるとすれば、
ここで書いていることは「商品」となる。
そうなった場合、読んでくれる人と私との間には誰も介在しないから、
ここでの商取引は、読み手と私のあいだで行われることである。
商取引の相手がはっきりとしている。

だがオーディオ雑誌の場合、そこまではっきりしているだろうか。
ステレオサウンド、オーディオアクセサリー、ステレオ、アナログといった雑誌には、
読者がいる。読者は二千円前後のお金を払ってこれらを買う。

けれどステレオサウンドなどに書いているオーディオ評論家の商取引の相手は、
読者なのだろうか。はっきり読者といえる人がどれだけいるだろうか。

Date: 9月 3rd, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ヤマハNS1000M・その2)

このころのケンウッドは、いまとは違い、メーカー名ではなく、
トリオの高級ブランドとしてケンウッドだった。
L02Aは、1982年当時55万円という、最も高価なプリメインアンプだった。

実際にはマッキントッシュのMA6200が68万円していたから、
正確にはもっとも高価なプリメインアンプとはいえなかったわけだが、

MA6200が海外製ということ、当時の為替からいっても、
L02Aがもっとも高価なプリメインアンプといって間違いではない。

L02Aはプリメインアンプ(インテグレーテッドアンプ)とは、素直に呼び難い面ももっていた。
電源部が別筐体になっていたからだ。

MA6200が常識的なプリメインアンプとすれば、
L02Aはプリメインアンプの最高峰をめざして開発されたというよりも、
アンプとして理想を追求した結果としての形態が、電源別筐体のプリメインアンプといえた。

このL02Aが鳴らすNS1000Mの音は、みずみずしかった。
NS1000Mは鮮明な音、もしくは鮮烈な音として、登場当時は評価されていたことは知っていた。

その鮮明鮮烈な音も、発売数年が経ち、こなれてきたおかげか、
それほどでもなくなってきたことも知ってはいた。
それでも、NS1000Mからみずみずしい音が聴けるとは知らなかった。

だからといって鮮度の低い音でもなかった。
水には水の鮮度があって、L02Aが鳴らすNS1000Mの音は、おいしく鮮度の高い水だった。

みずみずしいは、瑞々しい、と書くけれど、水々しい、とも書く。
水々しいのほうが、この時の音にぴったりとはまではいわないが、
瑞々しいと書いてしまうと、これも少し違うニュアンスを感じて、みずみずしいとしておきたくなる。

Date: 9月 3rd, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ヤマハNS1000M・その1)

別項「prototype(NS1000X)」を書いていたら、
NS1000Mについて書きたくなってきた。

私がこれまで聴くことができた日本のスピーカーシステムで、
自分のモノとしたいと思ったのはそれほど多くはない。

まず挙げたいのはビクターのSX1000 Laboratory。
自分の手で一度は鳴らしてみたい、と思わせる。

次に挙げたいのが、ヤマハのNS1000Mである。
実はNS1000Mに、最初から高い関心をもっていたわけではなかった。

私がオーディオに興味を持ち始めたころ、すでにNS1000Mは高い評価を得ていた。
すでにベストセラーのスピーカーシステムでもあった。
海外のオーディオ機器とは違い、熊本のオーディオ店にも置いてあった。

いいスピーカーなんだろう、と思いながらも、
若さゆえというか、もっともっと上を見ていたかった。

NS1000Mは当時108000円(一本)だった。
安いスピーカーではないが、4343などと比べれば、ずっと身近な存在であり、
そのことが逆に興味を失わせていた。

なのでNS1000Mの音をきちんと聴いたのは、ステレオサウンドの試聴室だった。
64号の特集、プリメインアンプとセパレートアンプの試聴においてだった。

64号では、スヒーカーとの相性をさぐる、という意図で、
スピーカーシステムはJBLの4343のほかに、タンノイのArden II、ヤマハのNS1000Mが用意された。
この試聴でさまざまなアンプで鳴らされるNS1000Mの音を聴いた。
この試聴でもっとも印象に残っているのは、ケンウッドのプリメインアンプL02Aで鳴らした音だった。

Date: 9月 3rd, 2016
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その26)

twitterやfacebookで、
JBLの4300シリーズ(4343、4333、4350など)とマッキントッシュのアンプの組合せ、
これを黄金の組合せと当時はいっていた──、
そう書いてあるのをみると、
どのオーディオ雑誌に書いてあったのだろうか……、と思う。

少なくともステレオサウンドでは、1970年代後半、
マッキントッシュのアンプとの組合せがつくられたことは、あまりなかった。
いまぱっと思い浮ぶのはステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’80」での、
井上先生による4350Aの組合せぐらいである。

菅野先生による4350Aの組合せは、
「コンポーネントステレオの世界 ’78」に載っていて、
アンプは低域がアキュフェーズのM60、中高域がパイオニアのEXCLUSIVE M4だった。

瀬川先生の4343の組合せでマッキントッシュのアンプ組合せとなることはなかった。
「コンポーネントステレオの世界」では岡先生も4343の組合せをつくられているけれど、
マッキントッシュのアンプではなかった。

おそらくマッキントッシュのアンプとが黄金の組合せだった、
といっている人たちが読んでいたのはステレオサウンドではなく、
スイングジャーナルだったのではないだろうか。

私はスイングジャーナルを熱心に読んでいたわけではないが、
スイングジャーナルにおいてもJBLとマッキントッシュが黄金の組合せだったという印象は、
ほとんどない。

でも、スイングジャーナルぐらいしか思いあたらない。
なので、ここではスイングジーナルが、4343に代表される4300シリーズを鳴らすアンプとして、
マッキントッシュのアンプを、黄金の組合せと、少なくとも読者に思わせるように、
誌面づくりをしていた、と仮定しよう。

スイングジャーナルはジャズに特化した雑誌だ。
クラシックが、そこで扱われることはあまりない。
つまり、そういうスイングジャーナルで黄金の組合せとなるということは、
その組合せは、ジャズに特化したもの、といえる。

ここで、黄金の組合せの「黄金」について考えてみたい。

Date: 9月 2nd, 2016
Cate: バッハ, マタイ受難曲

ヨッフムのマタイ受難曲(その3)

クラシックをながいこと聴いてきた聴き手で、
マタイ受難曲を聴いたことがない、ということはまずないと思う。
もしそういう人がいたら、怠惰な聴き手といってもいい。

他の作曲家の、他の曲でもいいのだが、
マタイ受難曲は、その聴き手が誰の演奏で聴いているのかは、
聴き手の、人となりを語っている、と思ってきた。

今回瀬川先生もヨッフムのマタイ受難曲、ということを聞いて、
その感を深くした。

クラシックという音楽のジャンルには、膨大な曲がある。
マタイ受難曲がどれほど傑作であっても、膨大な数の中のひとつでしかない。
それにも関わらず、たった一曲で相手(聴き手)の人となりを決めつけるのか。
それこそが間違った行為だ、といわれても、
私はそう感じているし、そう思っている。

ブルックナーのよさもわからぬ聴き手のいうことなど、
阿呆臭くて聞いてられない、と思われてもいい。

他の作曲家の、他の曲で感じたことが同じであっても、
マタイ受難曲において、まるで違うのであれば、
結局のところは、表現する言葉が同じだけでしかない……、
そんなふうにも思えてしまう。

私がどうしてもいいとは感じない演奏によるマタイ受難曲を、ある人は絶賛する。
私にもすすめてきた。
その時から、ここに書いていることを思ってきている。

Date: 9月 2nd, 2016
Cate: バッハ, マタイ受難曲

ヨッフムのマタイ受難曲(その2)

瀬川先生は、どこかにマタイ受難曲について書かれているのだろうか。
いまのところ、私は見つけ出せずにいる。

マタイ受難曲を聴かれていた──、
そう信じていた。
誰の指揮で聴かれていたのか。
リヒターなのか、カラヤンなのか、クレンペラーなのか……。
それを知りたいと、秘かに思っていた。

もしかすると……、というところはあった。
ヨッフムかもしれない……、と思うところはあった。

「虚構世界の狩人」におさめられている「夢の中のレクイエム」で書かれている。
     *
 最後にどうしても「レクイエム」について書かないわけにはゆかないが、誰に何と言われても私は、カラヤンのあの、悪魔的に妖しい官能美に魅せられ放しでいることを告白せずにはいられない。この演奏にはそして、ぞっとするような深淵が隠されている。ただし私はふつう、ラクリモサまでしか、つまり第一面の終りまでしか聴かないのだが。
 そのせいだろうか、もう何年も前たった一度だが、夢の中でとびきり美しいレクイエムを聴いたことがある。どこかの教会の聖堂の下で、柱の陰からミサに列席していた。「キリエ」からそれは異常な美しさに満ちていて、そのうちに私は、こんな美しい演奏ってあるだろうか、こんなに浄化された音楽があっていいのだろうかという気持になり、泪がとめどなく流れ始めたが、やがてラクリモサの終りで目がさめて、恥ずかしい話だが枕がぐっしょり濡れていた。現実の演奏で、あんなに美しい音はついに聴けないが、しかし夢の中でミサに参列したのは、おそらく、ウィーンの聖シュテファン教会でのミサの実況を収めたヨッフム盤の影響ではないかと、いまにして思う。一九五五年十二月二日の録音だからステレオではないが、モーツァルトを追悼してのミサであるだけにそれは厳粛をきわめ、冒頭の鐘の音からすでに身の凍るような思いのするすごいレコードだ。カラヤンとは別の意味で大切にしているレコードである(独アルヒーフARC3048/49)。
     *
だからヨッフムかもしれない……、とずっと思い続けてきた。
モーツァルトのレクイエムとバッハのマタイ受難曲とは同じにできないことはわかっていても、
それでもヨッフムかもしれない……、となぜ思い続けてこられたのか、
自分でも不思議に思っていた。

先日、あるオーディオマニアの方と話していた時に、
瀬川先生もヨッフムのマタイ受難曲だった、ということを聞くことができた。

ここから新たに考えることが始まる。

Date: 9月 1st, 2016
Cate: ショウ雑感

2016年ショウ雑感(その3)

今月末にはインターナショナルオーディオショウが始まる。
ドイツではIFA 2016が始まっている。

Phile-webAV Watchでショウの模様が伝えられている。

IFA 2016で初お披露目の新製品の中で、
おっ、と思ったのは、B&OのBeoSound 1BeoSound 2である。

別項「瀬川冬樹氏のこと(ヴィソニック David 50)」で、B&OのCX100について書いているところ。
そこに今回のBeoSound 1とBeoSound 2の登場。

CX100の登場は1985年か86年ごろだったと記憶している。
約30年後に、BeoSound 1とBeoSound 2が出てきた。
形は大きく変っている。
でも、CX100同様、アルミ製エンクロージュアを採用している。
ユニット構成はまるっきり同じとはいえないが、近いところがある。

個人的な思い入れだけで、BeoSound 1とBeoSound 2が、
CX100の後継機として見えてくる。

CX100は壁にかけられたり、自由度のあるセッティングがあった。
今回のBeoSound 1とBeoSound 2は、さらにそのことを発展させている。
スピーカーケーブルが、まず要らない。

Bluetooth、無線LAN機能を備えていて、当然アンプ内蔵。
しかも電源はバッテリーなので、ワイヤレスを実現している。
こういうところもCX100の後継機といえるように思えてくる。

肝心なのは音。
CX100の後継機といえる音が聴けることを期待している。

Date: 9月 1st, 2016
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(813と4311・その3)

JBLの4311には4310というモデルが、先に存在していた。
基本的には4310と4311は同じだが、外観ではっきりとした違いは、
トゥイーター、スコーカー、バスレフポートをサブバッフルに取り付けているのが4310で、
4311では一枚のフロントバッフルに三つのユニットとポートが取り付けられている。

4310の写真を見て最初は、このサブバッフルはデザイン的なものだと思った。
ハタチになるかならないかのころだった。

けれどウーファーをバッフル上部に配置することでの加重のかかり方を考えると、
このサブバッフルは、ウーファーを上にもってきたために生じる加重の変化に対応するための、
いわば補強であったのではないか。

三つのユニットの中でウーファーがいちばん重い。
そのウーファーが上にあれば、トゥイーター、スコーカーまわりのバッフルへの加重は、
ウーファーが下にある場合よりも増すことになる。
ならば、この部分の強度を増すことも必要となる。

4310の実物に触れたことはないので、
トゥイーター、スコーカー周りの強度が、
ウーファー周りよりも増しているのか確認できていない。

それでも4310のサブバッフルは音質上不可欠なものだったと考えている。

Date: 9月 1st, 2016
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(813と4311・その2)

目には直接的には見えない物理現象が、音にも影響を与えている。
重力もそのひとつである。

もし地球の重力が半分くらいになったら、
重力がなくなったとしたら、その他の諸条件はまったく同じでも、
音は大きく変化する、と予測できる。

UREIの813、JBLの4311。
これらウーファーが上にくるタイプのスピーカーを、
通常と同じウーファーを下側にくるようにセッティングすると、
バランスがくずれてしまうのも、重力が大きく関係している、といえる。

ステレオサウンドで働くようになって、
井上先生の試聴で鍛えられたのは、この目には直接見えない物理現象が、
音に影響を与えていることを常に意識するようになったことが、ひとつ挙げられる。

ダブルウーファーのスピーカーには、
二つのウーファーを水平位置にしたものと垂直配置にしたものとがある。

ウーファー専用エンクロージュアを用意して、
縦置きと横置きにした場合の音の違いは、部屋の影響の度合が変化することももちろんあるが、
それだけでなく縦置き(垂直配置)と横置き(水平配置)とでは、
ここのウーファーユニットへの加重が違ってくる。
バッフルへの加重も縦置きと横置きとでは違ってくる。

無限大の強度を持つ材質が世の中にあって、
それでバッフルをつくり、ウーファーのフレームをつくるのであれば、
垂直配置、水平配置における重力の影響による違いはかなり小さくなっていくと思われるが、
現実にある材質は、無限大の強度とはほど遠い強度しかない。
ゆえに垂直配置、水平配置における重力の影響は、無視できないレベルで音の変化としてあらわれる。

Date: 9月 1st, 2016
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(813と4311・その1)

ステレオサウンド 46号で、UREIの813が登場した。
アルテックの同軸型ユニット604-8Gにサブウーファーを追加したユニット構成なのだが、
サブウーファーは604の上側に配されていた。

通常のスピーカーシステムであればウーファーが下にあり、
その上に中域、高域を受け持つユニットが配置される。

けれどまれにウーファーが上段にくるスピーカーシステムがある。
813の前から存在していた4311も、ウーファーが上にくるタイプである。

813の試聴記で、
《スピーカーユニットの配置が独特なので、試みに天地を逆さまにして床に直接置いてみたが、これでは音像がべったりして全然よくない。指定どおり、高域ユニットが耳の高さ附近にくるように、高めの台に乗せることが必要のようだ。》
と瀬川先生は書かれている。

これを疑いはしなかったけれど、
なぜそういう結果になるのか、その理由が当時は理解できなかった。

604のホーンが、耳の高さ附近にくればいいようにも感じた。
サブウーファーが下に来ることで床の影響はその分受けるだろう。
でも大半のスピーカーは下にあって、床の影響受けてもきちんとしたバランスの音を出す。
なぜ813では、だめなのか。

4311を逆さまにしたらどうなるのか。
この場合もウーファーを下にするとうまくいかない、ときいている。
JBLは後継機の4312で、ウーファーを下にもってきた。

ウーファーが上にくるモデルでは、スタンドの問題がついてくる。
813はフロアー型にも関わらず、かなり高めのスタンド(台)が必要となり、
しっかりしたモノとなると、813にピッタリのモノはなく、特註することにもなる。

813は813Bのコンシューマー版813Bxで、ウーファーが下側についた。

Date: 9月 1st, 2016
Cate: prototype

prototype(NS1000X・その2)

ヤマハのNS1000Mを略して、センモニ、センエムと呼ぶ。
センモニは、1000 Monitorを略したものだ。

このことからわかるようにNS1000Mの正式型番は、NS-1000 MONITORである。
NS1000Mも、ようするに略称である。

NS1000Mはスウェーデンの国営放送局の正式モニターとして採用されたことが、話題になっていた。
ヤマハの広告でも、そのことは大々的に謳われていた。

おそらく型番に”MONITOR”とついていなくとも、
スウェーデンの国営放送局はモニターとして採用したであろう。

けれど日本ではどうだったろうか。
MONITORの名を冠し、サランネットもなくし、ウーファーには保護用の金属ネットといういでたち。
オーディオが男の趣味であることを、強く意識させるNS1000Mの面構えだった。
だからこそベストセラーであり、ロングセラーモデルであったといえよう。

音だけではあそこまで売れただろうか。
ということはNS1000XからNS1000Mへの変身には、
デザインの力があったからこそ、といえるし、
そう捉えていくと、1000Mの「M」が、monitorの頭文字ではなく、
metamorphosis(変身)の「M」のようにも思えてくる。

NS1000Xが載ったステレオサウンド 32号は1974年に出ている。
その10年後の1984年、ヤマハはNS1000xを発表している。

型番はまったく同じではなく、型番末尾が大文字ではなく小文字の「x」に変更されている。
NS1000Mの、いわば後継機といえる。
ウーファーの振動板が紙からカーボンに変更されているものの、
ユニット構成はNS1000Mに近い(ただしインライン配置になっている)。

けれどMONITORとは謳っていない。
ウーファーには金属ネットはもうない。
サランネットもついてくる。