アキュフェーズ A20Vのこと(A級アンプのこと・その2)
世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)で、
瀬川先生は、Exclusive M4について、こう書かれている。
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たとえば入力に対する応答速度とか解像力という面からみれば、ごく最近の優秀な製品には及ばない。が、ここから鳴ってくる音のニュアンスの豊かな繊細なやさしさは、テストソースの一曲ごとに、ついボリュウムを絞りがたい気持にさせてしまう。そのこと自体がすでにきわめて貴重であることを断わった上で細かなことを言えば、それぞれの単体のところでも書いたように、繊細さの反面の線の弱さ、柔らかさの反面の音の密度の濃さや充実感、などの面でわずかとはいえ不満を感じないとはいえない。本質的にウェットな傾向は、曲によっては気分を沈みがちにさせるようなところがなくもない。ただ、そうした面を持っているにもかかわらず、菅野録音のベーゼンドルファーの音を、脂こさはいくぶん不足ながらかなりの魅力で抽き出したし、シェフィールドのダイレクトカットでさえ、意外に力の支えもあって楽しめた。アラ探しをしようという気持にさせない音の品位とバランスの良さが聴き手を納得させてしまう。
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繊細で上品で、ウェットな音というのが、Exclusive M4の音のイメージであり、
これはそのまま当時のA級アンプの音のイメージだった。
このころA級アンプは、国産アンプしかなかった。少なくとも日本に輸入されていた海外製アンプには、なかった。
そこにマークレビンソンのML2が登場した。1977年のことだ。
ステレオサウンド 45号の新製品紹介の記事に登場している。
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山中 このパワーアンプを開発するにあたってマーク・レビンソン自身は、本当のAクラスアンプをつくりたい、そこでつくってみたところがこの大きさと出力になってしまった。出力ももっと出したいのだけれど、いまの技術ではこれ以上無理なんだといっているのですが、いかにも彼らしい製品になっていと思います。
実際にこのアンプの音を聴いてみますと、今までのAクラスパワーアンプのイメージを打ち破ったといえるような音が出てきたと思うのですがいかがでしょうか。
井上 そうなんですね。いままでのAクラスパワーアンプは、どちらかといえば素直で透明な音、やわらかい音がするといわれてますね。それに対してこのアンプではスピーカーとアンプの結合がすごく密になった感じの音といったらいいのかな……。
山中 その感じがピッタリですね。非常にタイトになったという感じ。スピーカーを締め上げてしまうくらいガッチリとドライブする、そんな印象が強烈なんです。
井上 一般的に「パワーアンプでスピーカーをドライブする」という表現が使われるときは、一方通行的にパワーアンプがスピーカーをドライブするといった意味あいだと思うのです。このマーク・レビンソンの場合は対面通行になって、アンプとスピーカーのアクションとリアクションがものすごい速さで行われている感じですね。
山中 ともかく片チャンネル25Wの出力のアンプで鳴っているとは思えない音がします。この25W出力というのは公称出力ですから、実際の出力はもう少しとれているはずですし、しかもインピーダンスが8Ω以下になった場合はリニアに反比例して出力が増えていきますから、やはり電源のしっかりしたアンプの底力といったものを感じますね。
井上 昔から真空管アンプのパワーについて、同じ公称出力のトランジスターアンプとくらべると倍とか四倍の実力があるといったことがよくいわれていますね。
山中 それに似た印象がありますね。
井上 でも真空管アンプというのはリアクションが弱いでしょ。やっぱり一方通行的な部分があって、しかも反応がそんなに速くない。アンプとの結びつきが少し弱いと思うのだけど、この場合はガッチリ結びついた感じのするところが大変な違いだと思います。
山中 とにかく実際にこのアンプを聴いた人はかなり驚かされることになると思います。
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マーク・レヴィンソンは、ML2以前、自社製のパワーアンプを持たない時期、
スタックスのパワーアンプとExclusive M4を使っていたことを、後で知る。