Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 8月 20th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その43)

適切に設計されたコーナー型スピーカーシステムであれば、
しっかりした壁と床を確保できれば、低域のレスポンスを改善できるといえる。

たとえレスポンスの上昇が6dBだとしても、これを電気的に補整するためには、
パワーアンプにそれだけの負担がかかる。6dBアップだと、4倍の出力が求められる。
そして、当然ウーファーには、それだけのストロークが求められる。

いまのように数100Wの出力のあたりまえになり、ウーファーのストロークも充分にとれるのであれば、
電気的な補整も実用になるが、タンノイのオートグラフが登場した時代は、
真空管アンプで、出力は大きいもので数10W。
ユニットのほうも同じようなもので、モニターシルバーの最大許容入力は25Wだ。

だから、低域のレスポンスを伸ばすには、コーナー効果の助けを必要とした。

Date: 8月 19th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その40)

蓄音器の音に通じる音の響きをもつタンノイの中にあって、
オートグラフは、その意味でまさしく頂点にふさわしい構造と音と響きをもつ。

その現代版といわれるウェストミンスターを、だから井上先生はスピーカーではなく、
「ラッパ」と呼ぶにふさわしいと判断されたのだろう。

以前、オートグラフをベートーヴェン、ウェストミンスターをブラームスにたとえもしたが、
このふたつのスピーカーは、構造的、設計面で、ひとつ大きく違う点がある。

コーナー型であるかどうかである。

オートグラフはコーナー型、それもコーナーホーン型である。
ウェストミンスターは、リア型を90度の角度を持たせることなく、
通常のスピーカー同様、フラットにした、タンノイ的にいえばレクタンギュラー型で、
コーナーに置くようには設計されていない。

Date: 8月 17th, 2009
Cate: MC2301, McIntosh, ショウ雑感

2008年ショウ雑感(その2・続×九 補足)

ML6の場合、アンプ本体の上側を左チャンネル、下側を右チャンネルとして、
外部電源の左チャンネル用を上の口のコンセントから、右チャンネル用を下の口からとるのが、ひとつ。
そしてアンプはそのままで、電源の取り方を左右で逆にする。右チャンネルを上、左チャンネルを下へ、と。

次はアンプの上側を右チャンネルに、下側を左チャンネルで、電源の取り方も、上記のように2通りあるわけで、
合計で4通りの組合せができ、それぞれに微妙に音は異なるわけだから、
部屋の状況、スピーカーなど状況に応じて、柔軟に使いわけた方がいい。

つけ加えれば、電源コードに手を加えるのであれば、前に書いたように、
ひとつのACプラグに左右両チャンネル、2本の電源コードをまとめれば、5通りの音が得られる。

グラフィックイコライザーをどんなに駆使して、微調整をくり返しても、
周波数特性のコントロールだけでは、補整できない音のキャラクターの微妙な違いには、
こういう地味な工夫が、意外と効果的だったりすることもある。

Date: 8月 16th, 2009
Cate: MC2301, McIntosh, ショウ雑感

2008年ショウ雑感(その2・続×八 補足)

人が作り出すものである以上、どれほど厳格に品質管理されていようと、若干のバラツキまでは排除できない。

技術がこれから先飛躍的に向上し、アンプに代表される電子機器のバラツキが完全になくなったとしても、
スピーカーがこれまでの形態の延長線上にあるかぎり、バラツキがなくなるとは思えない。

そしてそのスピーカーが設置される部屋が、完全に左右条件が同じであること、
左右チャンネルの音がまったく同じであることは、まずあり得ない話である。
だから現実と折り合いをうまく見つけ出すのも、大事なポイントとなってくる。

マークレビンソンのML6を2段重ねで使う際、
たいていは上のML6を左チャンネル、下の方を右チャンネルとしがちだが、
なにもこれはこだわることはなく、左チャンネルを下のML6にしてもいい。

ML6の場合、外部電源も左右チャンネルで独立しているため、
左右チャンネルのどちらを、電源コンセントの上の口からとるかということを含めると、4通りの接続が試せる。

Date: 8月 15th, 2009
Cate: MC2301, McIntosh, ショウ雑感

2008年ショウ雑感(その2・続×七 補足)

そんなことを気にしはじめると、マークレビンソンのML6やディネッセンのJC80のように、
左右チャンネルでシャーシーから独立しているアンプを2段重ねで使うのは、論外ということになってくる。

何度か試したことがあるが、やはり左右に2台並べて置いた音を聴くと、2段重ねでは使いたくない。
セパレーションを良くし、音場感情報の再現に有利なはずのモノーラル構成が、
使い方の注意がすこし足りないと、活かしきれないことになる。

同一条件にする(近づける)ために、井上先生は、こんなことを言われた。
「ボリュウムは、左右の条件をできるだけ同じにするには、2連タイプではだめ。
4連タイプの中央の2連のみを使うこと」

つまり2連ボリュウムだと、機械的な条件が、前側と後ろ側とでは異なるためで、
4連ボリュウムの中央2つを使い、前と後の2つを使わなければ、
完全とはいえないまでも、2連タイプよりは、ずっと左右の条件が近づくわけだ。

そういうふうに、電気的、機械的、電磁的、振動的にも、
左右チャンネルの条件をできるだけ等しくしていくことが、
音場感情報の精確な再現につながっていくわけだが、
その一方で、どれだけ注意を払い、意を尽くしても、
左右チャンネルを完全に等しくすることは無理だということも、井上先生は言われていた。

Date: 8月 15th, 2009
Cate: MC2301, McIntosh, ショウ雑感

2008年ショウ雑感(その2・続×六 補足)

以前、こんなことがあった。
井上先生が、パワーアンプの電源を、コンセントの下からとってみろ」といわれた。
いわれるままにコンセントの下の口に差し換えて、音を出す。
「どうだ?」ときかれる。
たしかに、微妙だが、音が違うのがわかる。

上に戻した音を、もういちど聴く。2回ほどくり返すと、音の違いがはっきりしてきた。

コンセントの構造上、たいていの場合、室内配線は上の口のほうにつながっており、
下の口へは真鍮製のバーを通って供給されるわけだが、
このわずか数センチの真鍮の存在によるキャラクターがついてくる。

モノーラルアンプで、同一コンセントから電源をとったにしても、完全には同一条件にはならないわけだ。
もっともコンセントの構造が、
上下の口に対して同条件である──上下の口を結ぶバーの中央に配線がつながる構造──ならば、いいのだが。

だから以前QUADのESLを使っていたときは、ひとつのACプラグに2本の電源コードをつないでいた。

Date: 8月 15th, 2009
Cate: MC2301, McIntosh, ショウ雑感

2008年ショウ雑感(その2・続×五 補足)

音場感情報を精確に再生するには、左右チャンネルをできる限り同条件にすることが大事だ、
と井上先生はいわれていた。

とくに外来からのノイズが増えていく状況においては、スピーカーケーブルの這わせ方を、
左右でまったく違う経路を通るようにしただけでも、音場感はいともたやすくくずれてしまう。
だから、私がいたころ、ステレオサウンドの試聴室で、
スピーカーケーブルはつねに左右チャンネルをぴったりくっつけて這わせていた。

左右のスピーカーケーブルを離しておいたほうが、セパレーションが確保できていいという人もいるが、
実際に音を聴いてみれば、どちらが音場感情報の再現に優れているかはすぐにわかることだ。

もちろんモノーラルパワーアンプは、2台とも同一コンセントから電源をとるのはもちろんだし、
コンデンサースピーカーの電源もそうだ。

ただここで問題になるのは、通常コンセントは2口あり、
どちらの口に挿し込むかによっても微妙に音は違ってくる。

Date: 8月 13th, 2009
Cate: MC2301, McIntosh, ショウ雑感

2008年ショウ雑感(その2・続々続々補足)

真空管パワーアンプ(もしくはプリメインアンプ)で、
重量物であるトランスをシャーシー中央に集めたコンストラクションは、MC2301以前にもある。

2008年はじめにエソテリックから登場したA100がまさにそうで、こちらはステレオ構成なので、
シャーシー中央に、電源トランスは1個、出力トランスは2個、計3個のトランスを配置している。
基本的な考え方は、MC2301とA100は同じである。

おそらくマッキントッシュからこれから出てくるであろうパワーアンプは、
MC2301と同じコンストラクションとなる可能性が高いと考えられるし、
ステレオ構成で、3つのトランスということになると、A100と相似のコンストラクションになるであろう。

ただトランス3個を、一直線に配置する場合、どういう順番で並べるかで、違いが出てくる。
A100は、フロントパネルのすぐ裏に電源トランス、そして出力トランス2個は、
ひとつのシールドケースにまとめて収められている。
つまり電源トランス、出力トランス、出力トランスという配置である。
これとは別に、出力トランス、電源トランス、出力トランスという配置も、ある。

Date: 8月 13th, 2009
Cate: MC2301, McIntosh, ショウ雑感

2008年ショウ雑感(その2・続続々補足)

マッキントッシュにとって新しいコンストラクションの採用が、
MC2301の正式な登場まで、1年近く必要だった理由のひとつではなかろうかと思う。

トランジスター化されて以降、フロントパネルの裏側に、電源トランス、オートフォーマーは配置されていた。
ステレオサウンドで働くようになって、はじめてMC2255を持ち上げたとき、
こんなにもフロントパネル側が重いのか、と、重量のアンバランスさに驚いたほどで、
ひとりで抱えるには、フロントパネルを自分のほうに向けて抱え込むようにしないと無理で、
もし逆さまに持ち上げてしまうと、ひっくり返しそうになる。

井上先生が、かなり以前から指摘されているように、電源トランスの配置によって、
アンプ全体の重量バランスは大きく左右され、
重量バランスのとれているアンプだと、音場感情報もよく出るとともに、音像の輪郭が自然な感じとなるのに対して、
重量的にアンバランスなアンプでは、音像の輪郭がエッジが張った感じになり、
そのおかげで聴き応えのある音になるとともに、音場感の情報量は、減衰傾向にある。

アンプの音は、重量バランスだけで決るのではないし、
マッキントッシュは、あえてこの重量のアンバランスさをうまく利用していたのではないかとも、思える。

MC2301のコンストラクションは、重量バランスの変化による音の変化とともに、
アンプの主要パーツの配置が従来とは大きく変ったために、とうぜん内部配線処理も変更を受ける。
アースの処理の仕方も変わったであろう。

それまでの伝統的なノウハウだけでは対処できない面も生まれてきたため、
新たなノウハウを得るための時間が必要だったのではなかろうか。

Date: 8月 12th, 2009
Cate: MC2301, McIntosh, ショウ雑感

2008年ショウ雑感(その2・続々補足)

マッキントッシュのパワーアンプは、トランジスター化されても、オートフォーマーを採用している。
いまだにオートフォーマーのことを出力トランスを書く人がいるけれど、
このオートフォーマーも、出力トランス同様、重量物であり、
マッキントッシュのトランジスターパワーアンプは、フロントパネル裏に、
オートフォーマーと電源トランスを配置している。
だから、重量的なアンバランスは、トランジスター化されても受け継がれてきてたわけだ。

マッキントッシュの歴代のパワーアンプのなかで、比較的重量バランスがとれているのは、MC3500だろう。
内部写真を見ると、対角線上にトランスを配置している。
それでもシャーシー四隅のうち、二隅にはあまり重量がかかっていないだろうから、
まだまだ検討の余地は残っている。

その点、MC2301は、シャーシー中央に重量物をまとめて配置しているから、実際に持ち上げてみることなく、
その重量バランスの良さは、すぐにわかる。
いままでのマッキントッシュのアンプにはないコンストラクションであり、
とうぜん、このことは内部配線にも関係してくる。

真空管アンプで300Wという出力の大きさと、新しいコンストラクション。
これまでのマッキントッシュのパワーアンプにはなかった面をきっと聴かせてくれるであろう、
と期待はふくらむばかりだ。

Date: 8月 12th, 2009
Cate: MC2301, McIntosh, ショウ雑感

2008年ショウ雑感(その2・続補足)

MC2301に、これほど注目している理由のひとつとしてあげたいのは、重量バランスのよさである。

真空管のパワーアンプの場合、電源トランス、出力トランスという重量物が、モノーラル構成だと最低でも2つ、
ステレオ構成だと最低でも3つ必要となり、トランス同士の相互干渉を防ぐとともに、
いかにシャーシー上に、重量的なアンバランスが生じないように配置するのは、
内部配線との絡みもあって、そう簡単には解決できない問題である。

それに真空管アンプの場合、トランスの配置が、見た目の問題にも大きく関わってくるから、
よけいにやっかいともいえる。

マッキントッシュの真空管アンプをみてみると、トランス類はたいていシャーシーの片側にまとめられている。
MC275もそうだし、モノーラル機のMC75もそうだ。さらに古いMC30でも片側によっている。
これはなにもマッキントッシュの真空管アンプだけのことではない。
マランツの♯2や♯9でも、どちらかに片寄っていて、実際に抱え上げると、
かなりの重量的なアンバランスさを感じとれる。

Date: 8月 12th, 2009
Cate: MC2301, McIntosh, ショウ雑感

2008年ショウ雑感(その2・補足)

昨年のインターナショナルオーディオショウで、いちばん聴いてみたかった製品が、
ほぼ1年経ち、ようやく登場した。
マッキントッシュの管球式のモノーラルパワーアンプ、MC2301だ。
出力は300Wだから、同社の往年の名器、MC3500の350Wにはすこし及ばなかったが、
ここでの、50Wの差は、ないに等しいだろう。

出力管はKT88で、片チャンネルあたり8本使用している。
MC3500は、6LQ6を、やはり8本使っている。
電圧増幅には、マッキントッシュ・ジャパンのサイトで公開されている資料によると、12AT7が2本とある。
MC3500では、初段から使用真空管をあげていくと、まず12AX7、さらに12AX7がつづき、
6DJ8、6CG7、6DJ8となっている。
出力段の前段には、双三極の出力管6BL7GTAのカソードフォロワーになっており、
電圧増幅部の6CG7も初段の12AX7もカソードフォロワーだ。
つまりカソードフォロワーが3段あるわけだ。

MC2301の回路構成がどうなっているか、詳細は不明だからこそ、
電圧増幅部の真空管の使用本数が半分以下になっているのは、興味深い点である。

電圧増幅段の、NFBをかける前のゲイン(オープンループゲイン)は、かなり違うのだろう。
ということは、NFB量も違う。
MC3500は、30dB程度のNFBをかけていたと記憶している。

それにコンストラクションも、どちらもモノーラル構成だが、大きく違う。
MC2301はシャーシーの中央に、電源トランスと出力トランスという、
アンプ内でもっとも重量のある部品を置くことで、重量バランスの片寄りをなくしている。
出力管は、両側に4本ずつ振り分けている。

MC3500は、電源トランス2個(高圧用と低圧用)はフロントパネル側に、右寄りに、
出力トランスはリアパネル側の左寄りに、配置している。
出力管は8本まとめて、リアパネル側、出力トランスのとなりに置かれ、ファンによる強制空冷となっている。

フロントパネルの色も違う。
MC3500はホワイトハウスに納入するために開発されたもので、だからパネルがシルバーだという、
どこまで本当のなのかわからない話を、昔きいたことがある。
MC2301は黒だ。メーターの大きさもずいぶん違う。MC2301のもののほうがかなり大きい。

これらの変化・違いは、時代の変化によるものも含まれよう。

MC2301は、とにかく、いまいちばん聴いてみたいパワーアンプのひとつである。

Date: 8月 12th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その15)

「思いこみ」のもつ力を否定しているわけではない。
思いこみ力が、いい方向に作用することだってあるのは、わかっている。

ただ「思いこみ」で、だれかにオーディオの技術や方式について、
そのことを音に結びつけて、オーディオ、オーディオ機器について説明するのは、
絶対にやってはいけないことだ。

これは害以外の何ものでもない。
けれど「思いこみ」の人は、そのことにまったく気づかず、害を垂れ流しつづけるかもしれない。

「思いこみ」の人のはなしをきいている人が、よくわかっている人ならば、こんな心配はいらないが、
そうでない人のことの場合も、案外多いと思う。

「だから素晴らしい」と語る、その人の仕事の詳細を、私は知らないが、
それでも、オーディオに明るくない人のシステム導入のことをやっているのは、本人からきいている。
彼は、ここでも、思いこみだけの技術的説明を行なっているのだろう、おそらく……。

Date: 8月 11th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その14)

己の知識から曖昧さを、できるだけなくしていきたい。
誰もが、そう思っているだろうが、罠も待ち受けている。

曖昧さの排除の、いちぱん楽な方法は、思いこみ、だからだ。
思いこんでしまえれば、もうあとは楽である。
この罠に堕ちてしまえば、楽である……。

Date: 8月 10th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その13)

この「伝達関数:1」ということが、「だから素晴らしい」と力説した人の頭の中にはなかったのだろう。

では、なぜ彼は、6dB/oct.のネットワークがいいと判断したのだろうか。
彼の頭の中にあったのは、
「思いつき」と「思いこみ」によってつくられている技術「的」な知識だけだったように思えてならない。

そこに、考える習慣は、存在していなかったとも思っている。
考え込み、考え抜くクセをつけていれば、あの発言はできない。

いま、彼のような「思いつき」「思いこみ」から発せられた情報擬きが、明らかに増えている。