Archive for category 組合せ

Date: 2月 25th, 2018
Cate: ジャーナリズム, 組合せ

組合せという試聴(その10)

オーディオの面白さは、組合せにある。
システム全体という組合せ、
スピーカーシステムという組合せもある。

そう捉えているから「スピーカーシステムという組合せ」も同時に書いている。
別項「オーディオの楽しみ方(つくる)」での自作スピーカーもまた組合せ、
それゆえに音をつめて作業に求められるのは、
この項で何度が書いているように、受動的聴き方ではなく、能動的聴き方である。

受動的聴き方が求められていないわけではないが、
受動的聴き方だけでは無難なスピーカーシステムにしか仕上がらないのではないか。

能動的聴き方をして、「いいスピーカー」へと近づいていくのではないだろうか。

組合せ(component)は、いわば組織である。
スピーカーシステムという組織、システム全体という組織にしても、
受動的聴き方によってまとめられた組織というものは、どこかが弱いとでもいおうか、
構造的強さをもっていない、とでもいおうか、そんな印象がある。

組織という意味では編集部もそうだ。
組織は入社試験、面接によって人を選ぶ。
その選び方が受動的なのか能動的なのか。

受動的な視点で集められた組織というものの弱さを感じる。

Date: 11月 6th, 2017
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(その13)

国産のエレクトリッククロスオーバーネットワークだと、私が記憶している範囲では、
オンキョーのD655NII、パイオニアのD23、サンスイのCD10、ビクターのCF7070、
テクニクスのSH9015Cなどが、
ローパスフィルター、ハイパスフィルターのカットオフ周波数の独立可変仕様である。

これらのメーカーは、スピーカーシステムも積極的に開発してきていた。
おそらく内蔵ネットワークの開発において、
ローパスとハイパスのカットオフ周波数は離れているケースがあるのかもしれない。

古くはマランツのModel 3(1957年発表)がそうだった。
日本製になってからのマランツのAD5、AD6もそうである。
海外製品ではSAEのMark 4000があった。

マランツはスピーカーシステムも手がけていたが、
1957年当時はアンプ専門メーカーであった。
にも関らずカットオフ周波数の独立設定が可能になっていたのは、
設計者(マランツなのだろうか、シドニー・スミスなのだろうか)のノウハウから、か。

ヤマハのEC1はクロスオーバー周波数の選択はローパス、ハイパスで共通なのだが、
ローパス、ハイパスには、連続可変のクロスオーバー微調整ツマミが独立して付いている。
このツマミによって±0.5オクターヴ範囲内ではあるが、カットオフ周波数を独立可変できる。

エレクトリッククロスオーバーネットワークも製品数は、
時代とともに少なくなってきている。
それでもアキュフェーズは一貫して開発し続けてきている。
現在もデジタル信号処理によるDF65が現行製品である。

けれどそれまでのアナログ式で、
しかもカードを差し替えてのクロスオーバー周波数の変更の製品では、
ローパス、ハイパスのカットオフ周波数を独立させることはできなかった。

オーレックスのSD77は2ウェイ、3ウェイ対応で、
クロスオーバー周波数ポイントが細かく設けられているため、
2ウェイでは、ハイパス、ローパスのカットオフ周波数を独立させた使い方も可能である。

だからアキュフェーズの場合も3ウェイ用としてカードを搭載して、
ローパス、ハイパスのカットオフ周波数をそれぞれ設定することは可能なのだが、
コストのかかる使い方である。

その意味では、他社製のエレクトリッククロスオーバーネットワークでも、
2ウェイ仕様のモノを複数台使うことで、同じことはできるが、
こちらはさらにコスト的に負担が大きくなる。

アキュフェーズのエレクトリッククロスオーバーネットワークを、
スピーカーシステムを自作する側からみると、
アンプ専門メーカーとしての製品なのだ、とおもえてくる。

けれど、アキュフェーズ創立メンバーであった春日二郎氏、出原眞澄氏は、
ホーン型を中心とした自作スピーカーだったのに……、とも思ってしまう。

Date: 11月 5th, 2017
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(その12)

スピーカーシステムを自作する人で、
ネットワークも自身で設計し組み立てている人は、どのくらいの割合なのだろうか。

1970年代まではスピーカーユニットが、各社から出ていた。
日本のメーカーもけっこうあったし、海外のメーカーも多かった。

ユニットの種類も多かった。
ホーン型は、特にそうだった。
ネットワークも各社から出ていた。

JBLのユニットで自作する人は、大半がJBLのネットワークを使っていた、と思う。
アルテックにはアルテックのネットワーク、
オンキョーにはオンキョーのネットワーク……、というように選択していた。

それでも自作の醍醐味は味わえるが、ネットワークも手がける人もいたはずだ。
だからこそコイルやコンデンサー、アッテネーターといったパーツも販売されていた。

自分でネットワークを設計しようとなると、カットオフ周波数、スロープ特性をどうするのか。
自作であれば、試作と試聴を重ねながら、聴感上の好ましいポイントを探っていく。
そのためにはコイルにしてもコンデンサーにしても、さまざまな値を必要となる。

これは想像以上に手間のかかることである。
ならばマルチアンプドライヴにすれば、
エレクトリッククロスオーバーネットワークのスイッチで、
クロスオーバー周波数、スロープ特性を変えられる。

パワーアンプの数は増え、システムとしては大がかりになっても、
試行錯誤のためには、マルチアンプドライヴが向いてそうだ、と誰だって思うだろう。

私も学生のころは、そう思っていた。
けれど実際のスピーカーシステムの難しさを知るにつれ、
考え方は少し変ってきた。

エレクトリッククロスオーバーネットワーク(チャンネルデバイダー)では、
カットオフ周波数を低・高域個別に設定できる仕様のモノが意外に少ないからだ。

Date: 11月 5th, 2017
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(その11)

「誌上シンポジウム システムスピーカー使いこなし」での組合せ例18の中の2例。
2ウェイから、トゥイーターを加えた3ウェイへの組合せ例について書いた。

古いスピーカーの教科書に載っているやり方とはそうとうに違う、
メーカーの実際のやり方のほんの一例である。

2ウェイにしても低域・高域のカットオフ周波数は離れていて、
トゥイーターが加わることで、高域側のカットオフ周波数が変る場合と同じ場合とがある。

組み合わせるスピーカーユニットの能率が完全に同じならば、
ネットワークの設計はそれだけでも楽になるが、現実にはそうではない。

市販されているスピーカーシステムでも、厳密にいえばレベルコントロールをいじれば、
クロスオーバー周波数はわずかとはいえ変っていくものであることは、以前にも書いている。

ここではオンキョーのシステムスピーカーの詳細について書くのが目的ではなく、
ネットワークの設計(カットオフ周波数の決め方)にしても、
古い教科書に縛られていたら、
うまくいかないことがある(むしろその方が多いのかもしれない)ということだ。

記事の最後のほうで、瀬川先生が語られている。
     *
瀬川 一番初めに、スピーカーシステムの自作が難しくなっているということを言ったのですが、とくにこのシリーズで顕著なのはネットワークのフィルターの考え方なんですね。これは専門家の間でもずっと前からいわれてきたことであるにもかかわらず、スピーカーシステムの入門書、教科書を見ると、いまでも遮断周波数から6dBや12dBか18dBかというような、机の上でのネットワークしか出ていない。ところが、実際のスピーカーというのは、定規で引いたような一直線の特性ではないんだから、スピーカーの特性に合わせてネットワークの遮断周波数とカーブをかなり有機的に選んでいかないと、マルチウェイというのはうまくいかないということを、製品で示した功績は大きいと思います。
 少なくともこのインストラクションを隅から隅まで時間を眺めていますと、いままでの机の上の理論では説明できないことがいっぱい出てきます。われわれも今回、ここで音を聴きながら、そうじゃない方向、そうじゃない方向と悪あがきしてみたけれども、結局はこの不思議な遮断特性をもったフィルターがやっぱりうまくいくということを、再確認させていただいたみたいなことで、フィルターの難しさというのを、このネットワークは面白く教えてくれますね。
     *
インストラクション(レイアウトブック)と「誌上シンポジウム システムスピーカー使いこなし」。
このふたつを熟読するだけでも、スピーカーシステムの面白さが伝わってくると思う。

いまごろになって、オンキョーのレイアウトブックを手に入れておけばよかった……、
少し後悔している。

Date: 11月 5th, 2017
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(その10)

システムナンバー122000も2ウェイだが、
システムナンバー100220とは、ウーファーはW3801で同じなのだが、
ドライバーとホーンが、D5020AとH2004Rになっている。

H2004Rはカットオフが420Hzのラジアルホーンで、
D5020Aとの組合せでの再生周波数の下限は600Hzと発表されている。

システムナンバー122000では、このホーンの採用により、
ネットワークはN900CLとN1800CHとなっている。

ローパスのカットオフ周波数は90Hzで、100220と同じ、
ハイパスのカットオフ周波数は1.8kHzと、100220よりもかなり低くなっている。
それでもカットオフ周波数は1オクターヴの開きがあって、
クロスオーバー周波数は1.2kHzあたりである。

この1222000にトゥイーターTW3001を追加して3ウェイにした122001のネットワークは、
N900CLとN1800CHの組合せに、N15000BLとN9900BHが追加されている。

N15000BLはカットオフ周波数15kHzのローパスフィルター、
N990BHはカットオフ周波数9.9kHzのハイパスフィルターである。

つまりドライバーD5020Aのハイパスのカットオフ周波数は1.8kHzで、
ローパスのカットオフ周波数は15kHzで、
トゥイーターTW3001のハイパスのカットオフ周波数は9.9kHz。

ネットワークのスペックだけをみると、
トゥイーターのカットオフ周波数が、スコーカーのカットオフ周波数よりも低い。
けれど3ウェイを構成する三つのユニットの出力音圧レベルには違いがあり、
ネットワークのあとにはレベルコントロールが入る。

発表されているネットワーク特性はユニットのレベルを揃えたものであり、
グラフをみるとスコーカーとトゥイーターのクロスオーバー周波数は12kHzあたりである。

Date: 11月 3rd, 2017
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(その9)

「世界のオーディオ」オンキョー号の「誌上シンポジウム システムスピーカー使いこなし」では、
173の組合せ例の中から、18例の試聴が行われている。
記事には、ネットワーク特性のグラフと、
システムトータルの周波数特性グラフが載っている。

これらのグラフは、おそらくレイアウトブックに掲載されていたものだろう。
レイアウトブックは、1,500円(価格1,000円、送料500円)を、
現金書留でオンキョーの宣伝課に送付すれば手に入れることができた。

システムナンバー100220のネットワーク特性をみると、
たしかにウーファーは900Hzのカットオフ、
トゥイーターは5kHzのカットオフであることが確認できるし、
クロスオーバー周波数は1.75kHzあたりになっていることもわかる。

周波数特性をみると、1.75kHzあたりの音圧はやや低下気味ではあっても、
深く落ち込んでいるわけではない。

「誌上シンポジウム システムスピーカー使いこなし」の冒頭で、
瀬川先生の次のようなことを発言されている。
     *
 ある時期、自作というのは難しいものでした。メーカーのユニット技術がだんだん上がるにつれて、ユニットどうしをうまく組み合わせるためには、いままでの古い教科書に出ていたようなネットワークやアッテネーターでは、うまくいかないということがいわれ始めた。いわれ始めたにもかかわらず、ではどうしたらいいのかというと、そこに何の手がかりもなかったわけです。ところが、この全システムを見ると、ネットワークなどもいままでの常識から全然外れたような、メーカーサイドで製品としてやっていたことを、ユニットでアマチュアに公開してしまったみたいな、ある意味ではメーカーがスピーカーシステム作りの手の内を半ば見せてしまったような面白さもあると思います。
     *
システムナンバー100221は、
100220にスーパートゥイーターとしてTW3001を加えた3ウェイの組合せ例である。
ここでのネットワークは、ウーファーにはN900CLと100220と同じだが、
ミッドレンジはドライバーとホーンは同じにもかかわらず、N3400CBに変更されている。

N3400CBは、バンドパスフィルターで、
ローカットは3400Hz、ハイカットは17kHzとなっている。
このネットワークはTW3001用の出力ももち、
コンデンサーがひとつ直列に挿入されるようになっている。

TW3001が加わり3ウェイとしてまとめるためなのだろう、
ミッドレンジのカットオフ周波数が5kHzから3.4kHzへと低くなっている。
そのことにより、ウーファーとのクロスオーバー周波数は1.5kHzあたりとやや低くなっている。

そのことにより周波数特性のグラフにも変化がある。
高域のレンジがのびているだけでなく、
ウーファーとミッドレンジのクロスオーあたりにも変化がみられる。

Date: 11月 3rd, 2017
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(その8)

1978年には、ステレオサウンドから「世界のオーディオ」のオンキョー号が出ている。
セプター・システム・スピーカー登場の翌年ということもあって、
オンキョー号では、セプター・システム・スピーカーにかなりのページを割いている。

井上先生、菅野先生の対談「オンキョー製品の魅力をさぐる」でも、
セプター・システム・スピーカーは取り上げられているし、
高森恭氏による「ドキュメント 新製品誕生」では23ページ、
岡原勝、黒田恭一、瀬川冬樹、三氏による試聴が行われている
「誌上シンポジウム システムスピーカー使いこなし」では、31ページが割かれている。

「ドキュメント 新製品誕生」から、引用しておこう。
     *
 こんなふうに、ユニットの設計がすすんでいる一方で、このシステム・スピーカーのアピールを、どんな形で展開すればよいかが議論されていた。
 昭和51年の正月休みが明けたある日、スピーカー設計グループの1人が、変ったものをもちこんできた。メルクリンの6・5mmゲージSL模型である。正月休みにつくり上げたということで、ひとしきりその話題に鼻が咲いたあげく、熱しやすいのはマニアの常とかで、みんなで模型屋まで出かけていくことになった。SLの模型といっても、このクラスになるともはや子供の玩具の域を越えてしまって、おとなが熱中しはじめるものである。各型式の機関車、客車、貨車、食堂車などの車輌の他に、レ昼はもとより、山あり、鉄橋あり、信号、ポイント切りかえ、車庫、操作場等々、実にさまざまのアクセサリーが用意されており、これらを部屋中にレイアウトして、大のおとなが無邪気な歓声をあげる、というしろものである。それらをどう組み合わせて、どう並べるかというレイアウト例を図示した、豪華なレイアウトブックも発売されていた。
 この日、その模型屋が確実に何人かの上得意を獲得したのは確かで、その中に鶴本氏が含まれていたことは間違いのない事実であった。昼間は会社でスピーカーに、夜は自宅でメルクリンにと、2つの情熱(?)を燃え上がらせて氏の胸のうちで、次第にこれが一つに結びついていくのに時間はかからなかった。組み合わせ例、レイアウトブック──システム・スピーカーの決め手はこれだ!
 いろいろてスピーカーを自由に組み合わせるとしても、クロスオーバー周波数を固定したままでユニットだけを交換してみても、決していい結果は得られない。ホーンのカットオフやユニットの特性が変われば、それに応じてネットワークの特性を変えてゆかねばならない。従って、それぞれの組み合わせに対して、最適の値をもったネットワークを用意すると共に、それらの使い方の指針となるレイアウトブックが必要である。
 それには可能なすべての組み合わせについてヒアリングしなければならない。
     *
オンキョーのセプター・システム・スピーカーは、六桁の数字がシステムナンバー(型番)となっている。
オンキョーの表記では、
最初の数字がバスレンジユニット、二番目がミッドレンジユニット、三番目がミッドレンジホーン、
四番目がハイレンジユニット、五番目がハイレンジホーン、
六番目がスーパーハイレンジユニットを示していて、
それぞれのユニット、ホーンには1から始まる番号が割り当てられていて、
0はその帯域のユニットはなし、ということになっている。

例えばシステムナンバー100220の場合、
最初の1は、38cmウーファーのW3801、四番目の2はD3520A(ドライバー)、
五番目の2はH2014P(ホーン)とAL80(音響レンズ)からなる2ウェイシステムである。

つまりエンクロージュアとネットワークは、六桁のシステムナンバーには含まれていない。
レイアウトブックによると、100220用のネットワークとして、
N900CLとN5000CHが推奨されている。

ネットワークの型番は最初のNはNetworkの略であり、
続く数字がカットオフ周波数を表わしている。

つまりN900CLは、カットオフ周波数900Hzのローパスフィルターであり、
N5000CHはカットオフ周波数5000Hzのハイパスフィルターである。

入力ミスではなく、900Hzと5000Hzである。

Date: 11月 3rd, 2017
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(その7)

1977年にオンキョーからセプター・システム・スピーカーが発表された。
セプター・スピーカー・システムてはなく、
システム・スピーカーであることから推測できるように、
スピーカーユニット、ネットワーク、エンクロージュアの組合せである。

セプター・システム・スピーカーは、
ウーファーが3、フルレンジが3、コンプレッションドライバーが3、ホーンが4、
音響レンズが2、スロートアダプターが3、トゥイーターが2、ネットワークが43、
エンクロージュアが2から構成されている。

これだけのユニットとネットワークとエンクロージュアの組合せ総数は315になる。
そのなかから常識的にうまくいかない例を除いたのが、173例。
これらが推薦組合せとなっている。
最低組合せ価格45,900円から最高組合せ価格329,000円となっていた。

173例まで絞り込んであるとはいえ、かなりの数である。
セプター・システム・スピーカーには、
だからレイアウトブックとグレードアップチャートが用意されていた。

何かに似ていると思われた方もいる思う。
セプター・システム・スピーカーは、鉄道模型のメルクリンが発想のきっかけとなっている。

Date: 10月 29th, 2017
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(その6)

スピーカーシステムにおけるクロスオーバー周波数とカットオフ周波数は、
必ずしも同じ値とは限らない。

クロスオーバー周波数が仮に800Hzのスピーカーシステムの場合、
ウーファーのカットオフ周波数もトゥイーターのカットオフ周波数も800Hzが、
いわば教科書的設計であるが、
一方でウーファーのカットオフ周波数を低域側に下げて、
トゥイーターのカットオフ周波数を高域側に上げても、
クロスオーバー周波数を800Hzにすることはできる。

こういう手法を、クロスオーバー周波数付近の特性を薄くする、という。
ウーファーとトゥイーターの、クロスオーバー周波数付近での重なりぐあいが、
こうすることで少なくなる(薄くなる)からで、昔からある手法のひとつである。

私は井上先生から、この話をきいている。
この手法が有効なのは、ウーファーがコーン型で、
トゥイーターがホーン型のように、大きく違ってくるときである。

ウーファー、トゥイーターともにコーン型であっても、
振動板の素材が大きく違っていたり、口径差が大きい場合にも、
つながりがスムーズになる傾向がある。

上下帯域を受けもつふたつのユニットの重なりぐあいが多く(厚い)ほど、
ふたつのユニットの音の混ざりぐあいはよくなりそうだ、と中学生のころは、
確かめもせずに、そんなふうに考えていたこともある。

井上先生の話、それに自分でやってみると、中学生のころの予想とは逆だと気づく。
重なりぐあいを厚くすると、実際の音の印象は反対になってしまう。
つまり聴感上はクロスオーバー付近の音が薄く感じてしまう。

Date: 9月 12th, 2017
Cate: ジャーナリズム, 組合せ

組合せという試聴(その9)

昔のステレオサウンドにはあったアンケートハガキ。
ベストバイ特集号の前号には、
読者の選ぶベストバイ・コンポーネントの投票用紙といえるハガキだった。

アナログプレーヤー、カートリッジ、トーンアームから
アンプ、チューナー、デッキ、スピーカーにいたるまで、
現用機種とともに記入されていた。

その8)で書いているように、
読者の選ぶベストバイ・コンポーネントの集計をやっていると、
ほんとうにそこに記入されている機種を組み合わせて音を出したら……、と思うものが少なくなかった。

意外性でおもしろいかも、と思う組合せ的ハガキもあった。
読者みなが組合せを意識して記入しているとはかぎらないのはわかっている。

それでも集計をする者からすれば、それぞれの項目だけを見て集計していても、
ハガキのすべての項目をまず見ることを忘れているわけではない。

返ってきたハガキを見ていると、
それまでのステレオサウンドの特集(総テスト)で評価の高かった機種が、
それぞれのジャンルで並んでいる、というものも少なくなかった。

その3)で書いた受動的試聴と能動的試聴。
組合せを考慮していないと感じるハガキからは、
受動的試聴での評価の高いモノが並んでいるだけの印象を感じていた。

実際のところはわからない。
私がそう感じたハガキであっても、記入した人は、組合せを考慮しての記入だったのかもしれない。

私がそのハガキから、そこのところを読みとれていなかった、という見方もできる。
それにすべての読者が、ステレオサウンドで取り上げた機種すべてを聴いているわけでもない。
どこに住んでいるのか、東京に住んでいても積極的に出掛ける人もいればそうでない人もいる。

オーディオ店での試聴は、単に聴いた、という程度と受け止めている人もいる。
ハガキを書いた人が、どの機種を聴いていて、それもどういう環境で、どの程度しっかり聴いているのか、
また聴いていない機種はどれなのか、
そういったことはまったくわからない。

聴ける機種よりも聴けない機種の方が多い人が多かったのではないか。
ならば受動的試聴の結果(試聴記)を参考にハガキを記入する。

Date: 7月 7th, 2017
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(813と4311・その6)

4310のことに話を戻そう。

JBLは4320、4310で、プロフェッショナル分野で、
それまでアルテックの牙城といえたスタジオモニターで成功をおさめた。

この成功を、JBLはコンシューマー用スピーカーにも活かそうとした。
その第一弾が、L100である。

L100は、いわば4310のコンシューマー版である。
アーノルド・ウォルフによるデザインの、
縦横に溝が刻まれたスポンジような素材のフロントグリルが特徴の……、
といえば、多くの人が、あのスピーカーか、と思い出すほどに、
インパクトの強いアピアランスをもっていた。

ちなみにフロントグリルの素材は、JBLが開発した、
音の透過性に優れたスカルプチャード・カドレックスと呼ばれるもの。

L100搭載ユニットは、ウーファーが123A-1、スコーカーがLE5-2、トゥイーターがLE20-1と、
4310と同じで、クロスオーバー周波数も同じ、
エンクロージュアの寸法も横幅と奥行きがわずかに違うものの、ほぼ同じといえるバスレフ型。

ユニットの配置は違う。
L100を特徴づけているフロントグリルをはずせばすぐにわかることは、
スコーカー、トゥイーターのレベルコントロールのパネルの向きと位置が、
4310とは違う。

上下逆さまの4310だから、L100では上下が反転しただけと思うがちだが、
L100は横向きで使うことを前提とした配置と向きになっている。

いうまでもなくL100はブックシェルフ型であり、
この当時(1971年)のブックシェルフ型スピーカーは、
本棚に収められることも前提の設計で、そのための横向きなのだろう。

フロントグリルのJBLのバッジは、確か向きがかえられたはずで、
縦置きでも使うことを考えている。
この場合の縦置きはウーファーが下にくる、一般的なユニット配置である。

だからというべきか、L100には4310にあったサブバッフルがない。

Date: 5月 21st, 2017
Cate: ワーグナー, 組合せ

妄想組合せの楽しみ(カラヤンの「パルジファル」・その25)

その15)で黒田先生の、ステレオサウンド 59号の文章を引用している。

もう少し、別のところを引用したい。
     *
 なんといったらいいのでしょう。すくなくともぼくがきいた範囲でいうと、これまでマーク・レヴィンソンのコントロールアンプのきかせた音は、適度にナルシスト的に感じられました。自分がいい声だとわかっていて、そのことを意識しているアナウンサーの声に感じる嫌味のようなものが、これまでのマーク・レヴィンソンのコントロールアンプのきかせる音にはあるように思われました。針小棒大ないい方をしたらそういうことになるということでしかないのですが。
 アメリカの歴史学者クリストファー・ラッシュによれば、現代はナルシシズムの時代だそうですから、そうなると、マーク・レヴィンソンのアンプは、まさに時代の産物ということになるのかもしれません。
 それはともかく、これまでのマーク・レヴィンソンのコントロールアンプをぼくがよそよそしく感じていたことは、きみもしっての通りです。にもかかわらず、きみは、雨の中をわざわざもってきてくれたいくつかのコントロールアンプの中に、ML7Lをまぜていた。なぜですか? きみには読心術の心得があるとはしりませんでした。なぜきみが、ぼくのML7Lに対する興味を察知したのか、いまもってわかりません。そのことについてそれまでに誰にもいっていないのですから、理解に苦しみます。
(中略)
 ML7Lの音には、ぼくが「マーク・レヴィンソンの音」と思いこんでいた、あの、自分の姿を姿見にうつしてうっとりみとれている男の気配が、まるで感じられません。ひとことでいえば、すっきりしていて、さっぱりしていて、俗にいわれる男性的な音でした。それでいて、ひびきの微妙な色調の変化に対応できるしなやかさがありました。そのために、こだわりが解消され、満足を味ったということになります。
     *
黒田先生が、よそよそしく感じられたマークレビンソンのアンプとは、
LNP2やJC2のことである。

59号で聴かれているML7は、回路設計がジョン・カールからトム・コランジェロにかわっている。
JC2(ML1)とML7の外観はほぼ同じでも、
回路構成とともに内部も大きく変化している。

そこでの大きな変化は、とうぜん音への変化となっていあらわれている。
黒田先生が「マーク・レヴィンソンの音」と思いこまれていた
《自分の姿を姿見にうつしてうっとりみとれている男の気配》、
こういう音を出すアンプが、健康な心をもった聴き手に合うか(向いているか)といえば、
《すっきりしていて、さっぱりしていて、俗にいわれる男性的な音》のML7の方がぴったり合うし、
黒田先生がML7に惚れ込まれ購入されたのも、至極当然といえよう。

Date: 5月 20th, 2017
Cate: ワーグナー, 組合せ

妄想組合せの楽しみ(カラヤンの「パルジファル」・その24)

小林利之氏の文章を読んですぐには、そうとは思えなかった。
カラヤン好きの知人がいて、彼を見ていると、どうにもそうは思えないことも関係していた。
数年後、1987年1月、ウィーン・フィルハーモニーのニューイヤーコンサートにカラヤンが登場した。

それまではマゼールだった。
ボスコフスキーが1979年秋にニューイヤーコンサートを辞退してからの七年間、マゼールだった。
私がNHK中継で見るようになったのも、マゼールの時代だった。

いつまでマゼールなのだろうか、と思いながら見ていた。
そこにカラヤンの、いきなりの登場だった。

このころのカラヤンは相当に体調が悪かったともきいている。
それでもカラヤンは登場している。
カラヤンのニューイヤーは、これ一回きりである。

カラヤンもそうなるとわかっていたのかもしれないし、
ウィーン・フィルハーモニーのメンバーもそう思っていたのかもしれない。

1987年のニューイヤーコンサートから、録音も再開されるようになったし、
毎年リリースされるようになった。

カラヤンのニューイヤーコンサートを聴いて、
小林利之氏の文章を思い出してもいた。
確かに、カラヤンの演奏が、健康な心を持った聴き手のため、ということに、
完全ではないものの同意できるようになった。

カラヤン好きの知人は、そういえばクーベリックはほとんど聴いていなかったなぁ、と思い至った。
小林利之氏は、クーベリックの演奏もカラヤン同様に、と書かれていた。
カラヤンとクーベリックの演奏を、好んで聴く人は、健康な心を持っているのかもしれない。

ならば、ここでの組合せに選ぶアンプも、そういうアンプを持ってこよう。

Date: 5月 19th, 2017
Cate: ワーグナー, 組合せ

妄想組合せの楽しみ(カラヤンの「パルジファル」・その23)

スピーカーは決った。
次に決めるのはアンプである。

何を持ってくるか。
スピーカーは現行モデルだから、妄想組合せとはいえ、
アンプも現行モデルの中から選びたい。

どのアンプがぴったりくるであろうか。
想像するしかないのだが、楽しい時間である。

昔、瀬川先生が、アンプ選びが難しいのは、
人にたとえればスピーカーはその人の外面であり、
アンプは人の内面に関係してくるようなものだから、といわれた。

そういうところは確かに、アンプの違いによる音の違いには、ある。
ここで、またふと思い出すのは、小林利之氏が書かれていたことだ。

ステレオサウンド 30号で、
クーベリック/ベルリンフィルハーモニーによるドヴォルザーク交響曲全集について書かれている。
その最後に、こうある。
     *
カラヤンと同様にクーベリックも健康な心を持ったファンに推めたい演奏をする指揮者である。ということは、心にかげりを持つタイプの聴き手には、あまりにもそれらは美しく優しいから屢屢たえがたい苦痛を覚えさかねないのである。そして音楽は、いつも健康な心の人のためだけあるものではないのだから、いろんなタイプの演奏が求められてしかるべきだ。クーベリックがあれば、あとはいらぬなどと言い切ることは、したがって不可能なことなのである。
     *
ずっと以前に読んでいて、記憶にのこっていた。
でもステレオサウンドの何号に載っているのか思い出せずにいた。
別項のために30号をひっぱり出していて、あぁ、ここだった、と、やっと続きを書けるようになった。

カラヤンの演奏が、健康な心を持った聴き手のため、ということに、
完全には同意できないけれど、なるほどそうかもしれない、と思う気持もある。

Date: 2月 13th, 2017
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(セレッションSL600・その4)

SL600が登場するころ、イギリスのオーディオ機器にはネクステル塗装が流行っていた。
メリディアンのMCA1やCDプレーヤーMCDなどがそうだった。

SL600もそうだった。
最初は流行っているからなのか、と思ったが、
(その3)で書いたことを試してみて、
実のところセレッションもエンクロージュアの素材であるアルミハニカムの欠点に気づいていたから、
ネクステル塗装にしたのではないか、とも思うようになった。

エンクロージュアの塗装は、音に大きく影響する。
ピアノ仕上げのスピーカーは見映えのためだけではない。
光沢のある仕上げもそうである。

でも個人的には光沢のある仕上げだと、
スピーカーのバッフルに自分の顔が映ってしまう。
これが苦手だ。

音楽を聴いている自分の顔を、私は見たいとは思わない。
中には、音楽に真剣に向きあう己の姿にうっとりする人もいるけれど、
私はそんな人種ではない。

セレッションが私と同じことに気づいてのネクステル塗装を選択したのかはなんともいえないが、
別の塗装であれば、音は違ったものになっているのは確かである。

アルミハニカムは軽くて剛性も高い。
内部にエネルギーを蓄積しないという点では、SL600の開発意図に添う素材である。

アルミハニカムは蜂の巣と同じ構造となっている。
同じ大きさの六角形が隙間なくきっちりと並んでいる。

テクニクスは六角形の大きさを外周にいくにしたがって大きくなるように工夫していたが、
SL600のアルミハニカムはそうはなっていないはずだ。

この構造が軽くて高い剛性を両立させているわけだが、
同時に聴感上のS/N比を悪くもしている。

同じ大きさの六角形とは、同じ大きさの空洞である。
その空洞を塞ぐようにスキン材が両側に張られている。

この空洞を、何かで埋めない限り、
アルミハニカムで良好な聴感上のS/N比を得るのは無理なのではないか。

具体的にはウールのような天然素材を、
すべての空洞に軽く詰めていく。
ぎゅうぎゅうに詰める必要はないばずだ。

これは試してみたかった。
けれどSL600のスキン材をきれいに剥してすべての空洞をうめたうえで、
もう一度スキン材を張ることができるわけがなくて、あきらぬていた。

それでもときどき思い出しては、
アルミハニカムそのものが入手できるのであれば、
SL600と同じコンセプトのスピーカーを自作できるのに……、と、
インターネットで検索をしていた。