Archive for category 日本の音

Date: 10月 9th, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その14)

ラインレベルの出力をもつ入力ソース側の機器としては、
チューナーやカセットデッキがあり、1982年秋からこれにCDプレーヤーが加わった。

チューナーやカセットデッキ、CDプレーヤーの違い、
アナログ機器とデジタル機器といった違いではなく、
リアパネルを比較したときの違いとして目につくのが、ヒートシンクの有無である。

私が見た範囲ではチューナー、カセットデッキのリアパネルがヒートシンクがついているモノはなかった。
けれどCDプレーヤー登場の、
わりと初期(1980年代なかごろまで)の製品のリアパネルにはヒートシンクがついているのが、いくつもあった。

このヒートシンクは、電源のレギュレーター用である。
ヒートシンクといっても、パワーアンプの発熱量とくらべればそれほど多いわけでもなく、
ヒートシンクも櫛の歯状のフィンのものが多かった。
だから指でフィンをはじくと、けっこう盛大に音を出すモノもあった。
そして、中には成型したゴムをフィンに取り付けて鳴きを、ほとんど抑えているものも出てきたし、
すこし後にはフィン状ではなくチムニー型ヒートシンクも登場してきた。

リアパネルに飛び出した、それほど多くないヒートシンク、
指ではじけば鳴くといっても、パワーアンプのそれとは比較にならないほど小さな鳴き、
しかもパワーアンプは出力段のパワートランジスターが取り付けてある、
増幅段に直接関係してくる個所にあるのに対して、
CDプレーヤーのヒートシンクは電源用のものであり、直接には信号回路には関係しない個所のものでる。

にも関わらず、リアパネルのヒートシンクの鳴きを、どう処理するかによって、
そのCDプレーヤーの音は変っていった。

Date: 10月 7th, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その13)

マークレビンソンのML2(No.20)は、
シャーシーの側面からヒートシンク1基に対して2本の金属柱を出していて、
この金属柱に星形ヒートシンクのHの字の水平ラインにネジ止めしている。

このヒートシンクには出力段用のトランジスターとエミッター抵抗がとりつけられていて、
そのままではこれらのパーツが露出してしまうため、
コの状に折り曲げたアルミ製のカバーが取り付けられている。

このカバーもシャーシー側面から延びた金属柱にヒートシンクが取り付けられ、
さらにそれを延長する形でついている短めの金属柱(スペーサー)にネジ止めされている。

ML2(No.20)のヒートシンクも、このカバーも肉厚は厚くはない。
どちらかといえば薄い、といったほうがいいだろう。

これらが、いわば中空に浮くような状態になっている。
しかもコの字状のカバーは垂直のラインの上下2点による固定なので、
コの字の水平ラインは片持ち状態である。

前述したように分割したヒートシンクだから、
ヒートシンク1基あたりの重量はそれほどでもない。

実際にML2(No.20)のヒートシンクを指ではじいてみると、
けっこうな音で鳴っていることが確認できる。

ソニーのTA-NR10は、重量10kgの重量のあるヒートシンクを、
TA-NR1でも採用されている、ハイカーボン・スチール(いわゆる鋳鉄)のベースに取り付けている。
このベースは最大肉厚21mm、重量は10.5kg。

ML2(No.20)の側面はアルミで、ずっと薄い。
ML2(No.20)の底板だが、もちろんこんな重量級ではない、アルミ製である。

TA-NR10のヒートシンクは、一般的な形状をしているものの、
おそらく鋳鉄製のベースにフィンの先端を固定しているもの、と思われる。

いくら重量級で銅でつくられていようと、
フィンを指ではじければ、大なり小なり音叉的存在ゆえ、音は発生する。

けれどフィンの先端を、鋳鉄(銅に対して異種金属)に固定すれば、
フィンの鳴きはそうとうに抑えることができる。

TA-NR10をバラしてみたことはないけれど、鋳鉄ベースの形状と、
TA-NR10の内部のつくりをみていると、まちがいなくフィンの先端は鋳鉄ベースで固定されているはず。

Date: 10月 6th, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その12)

ソニーTA-NR10、マークレビンソンML2(No.20)のヒートシンクはシャーシー内部・外部の違いはあれど、
左右に振り分けられている。
おそらくNPN型トランジスターとPNP型トランジスターとで振り分けられているのだろう。
言い換えれば+側と−側となる。

そうなるとヒートシンクは最低でも2基必要になり、TA-NR10ではそうなっているのに対し、
ML2(No.20)では6基のヒートシンクを使っている。

ML2(No.20)の6基のヒートシンクうち2基は定電圧電源の制御トランジスター用であり、
出力段用のヒートシンクは4基となり、
+側、−側で分けて、さらに2分割しているわだ。

どちらもA級動作のパワーアンプで発熱量は大きいため、
ヒートシンクも大きなものを必要とするわけだが、
それに対し大きなヒートシンクを用意するか、中型のヒートシンクを複数用意するか、がある。

ソニーは前者であり、マークレビンソンは後者の手法をとっている。
これによってもアンプの音を変える要素となっている。

しかもそのヒートシンクの取り付け方法が、ソニーとマークレビンソンとでは違う。

TA-NR10のヒートシンクは材質は純銅と、それまで採用例のない、
熱伝導率がアルミニウムよりも優れているものだが、
ヒートシンクの形状は一般的なもので、いわゆる櫛のようにフィンを均等に並べている。

ML2(No.20)のヒートシンクは、星形ともいわれるもので、
アルファベットのHの、左右の縦のラインを放射状のフィンにしたもので、
シャーシー本体への取り付けは、Hの字の水平のラインを使っている。

つまりTA-NR10はシャーシー底部に、
ML2(No.20)はシャーシー側面に、それぞれ取り付けられている。

Date: 10月 5th, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その11)

ステレオサウンド編集部にいたころ、ジョン・カールにインタヴューする機会があった。
ジョン・カールによると、マークレビンソンのML2(彼によるとJC3)の、
あの独特な形状のヒートシンクは市販品である、とのことだった。

たしかにML2の登場以前に、同形状のヒートシンクを採用したアンプは、国産にも海外製にもあった。
ただ、どちらもML2のように、視覚的に強くアピールするコンストラクションではなかった。

ML2(No.20)といえば、まずあの星形ともいえるヒートシンクが、
シャーシー左右にそれぞれ3基ずつ並んだ外観がまっさきに浮ぶ。
筐体のじつに2/3は、ヒートシンクということになる。

これに較べるとソニーのTA-NR10では、ヒートシンクはシャーシー内部に収められている。
せっかくの純銅ブロック製のヒートシンクなのに、外観からはまったくそのことは伝わってこない。
これを日本的ともいえるだろうけど、もうすこしアピールするようにしていれば、
TA-NR10への注目度は増していたかもしれない。

ヒートシンクをシャーシーの外に出すのか、内にしまいこむのか。
これだけでも音は違ってくる。
一概にどちらがいいとはいえない。

シャーシー内におさめることのメリットもあればデメリットもある。
外側に配置するメリットとデメリットもある。

とくにモノーラルアンプの場合やマルチアンプの場合には、
パワーアンプを複数台使用することになるわけで、
その場合にもヒートシンクがシャーシー内にあるアンプと外にあるアンプとでは、
アンプの配置において気をつけることが変ってくる。

ヒートシンクが音叉的存在であることを考えれば、
なぜそうなのかは想像できるし、予測のつくことでもある。

Date: 10月 5th, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(続・聴くことの怖さ)

ステレオサウンドの新しい号が出る数日前になると、
ステレオサウンドのウェヴページが更新され、最新号の予告(表紙の写真と掲載記事のタイトル)が公開される。

184号は9月1日に発売された。
その数日前に、ステレオサウンドのウェヴページは更新されていたのだけれど、
表紙の写真のところには、”Now Printing”の文字だけだった。
翌日もそうだった。その翌日もそうだったから、
これは、おそらく9月1日に情報解禁されるオーディオ機器が表紙になっているんだな、という予測は確信になった。

ステレオサウンド 184号の発売当日にもう一度更新され、
表紙が表示されるようになるとともに、”CONTENTS”のところに、
それまで表示されていなかった”JBL Project Everest DD67000/DD65000″も表れた。

いま「オーディオ機器の新製品情報はオーディオ雑誌よりもネットのほうがずっと早いから……」的なことが、
よくいわれるようになっているし、そういう文字を目にすることも、さらに増えてきた。

たしかにオーディオ雑誌に週刊誌はない。
月刊誌か、ステレオサウンドのように季刊誌である。
情報の伝達ということだけに関していえば、1ヵ月、3ヵ月とスパンということになってしまう。
ネットであれば、新製品の発表当日に、その情報は公開される。
今回のステレオサウンドのことは、それに対する手段といえなくもないが、有効といえるだろうか……。

こういったスピードに関しては、雑誌はどうあがいても無理である。
だからといって、オーディオ雑誌は不要、というふうに考えてしまうのは、あまりにも短絡的でしかない。

新製品の登場の情報はネットで得て、気になるオーディオ機器があれば販売店に聴きにいけばいいのだから、
オーディオ雑誌なんて要らない、ということになるだろうか。

新製品に限らず、販売店や、そろそろはじまるオーディオショウなどの催しものにいけば、
オーディオ機器の音は聴ける。
でも、その聴けた音が、十全な音だという保証は、どこにもない。
どういう状態で鳴っているのか判断し難いところでの音だけで、
そのオーディオ機器のすべてを聴いたつもりになってしまう人もいるだろう。

聴くことの怖さがある。
だからオーディオ雑誌は必要である。
それも良心的な、良質なオーディオ雑誌が必要である。

Date: 10月 4th, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(聴くことの怖さ)

百聞は一見に如かず、が、オーディオでは、
百読は一聴に如かず、となる。

誰かの試聴記を何度読むよりも、
あるオーディオ機器について書かれた、いくつもの試聴記、評価を読むよりも、
自分の耳で聴くことのほうが得られるものは多い、ということになるのだが、
これはおおむね事実であっても、つねに一聴したことが正しい、とも限らない。

これまでにいったいどれだけくり返されてきたことだろうか、といつも思ってしまうのだが、
オーディオ機器は、いわゆる使いこなしによって、その結果として生ずる音が影響を受けてしまう。
どういう試聴環境での「一聴」なのかが重要になるわけだが、
案外、このところには関心がないのか、
ただ聴いた印象が、その人の中に居座っていることも多い、と感じることがある。

運良く、再度、同じオーディオ機器を聴く機会があり、
前回とはまったく異る環境において、そのオーディオ機器の特質が充分に発揮されていれば、
その人の中での、そのオーディオ機器の印象は書き換えられていくはずだが、
そういう機会がないままだと、ずっと最初の音の印象のままになってしまう。

オーディオ機器の中でもスピーカーシステムは、使いこなしによる影響が大きい。
それに優れたスピーカーシステムであればあるほど、
使いこなしの未熟さだけでなく、
アンプやプレーヤーといった、
そのスピーカーシステムに接がれるオーディオ機器の性格ストレートに描き出すことも多い。

ある場所である機会に、あるスピーカーシステムの音を聴いた──、
としても、そのときの音がひどかったとしても、その原因がどこにあるのか、ということになると、
往々にしてスピーカーシステムが負うことになりがちである。

そして誤解が生れ、ときにはそれが育っていってしまう。

いま、この項でダイヤトーンの2S305について書いている。
2S305はヤマハのNS1000Mとともに、日本のスピーカーを代表する存在でもあり、
おそらく多くの人が一度は耳にされた機会がある、と思う。

いい音で鳴っている2S305を聴かれた人もいれば、そうでない2S305の音、
そしてひどい音で鳴っていた2S305の音を聴かれた人もいる。

NS1000Mとともにロングセラーモデルであっただけに、
他の国の、ほかのブランドのスピーカーよりも、
同じ日本のブランドの、他のスピーカーよりも、多くの人の耳に聴かれている。

個人のリスニングルームで、オーディオ販売店の決していいとはいえない環境下で、
さらにスタジオで、2S305は鳴ってきていた。
それだけにひどい音、ひどい音とまでいかなくとも十全でない音で鳴っていた2S305の数は、
他のスピーカーよりも多いはず、と思う。

その数が多ければ、そういう2S305の音を耳にした人の数も多くなる。
その結果「2S305なんてねぇ……」と言ってしまうのも、思ってしまうのも、
なぜ、2S305のことを延々と書いているのだろうか、と疑問に思われる方がいても不思議ではない。

だからいっておきたい。
聴くことの怖さを知ってもらいたい、と。

中途半端なかたちで聴いてしまったがために、そのスピーカーに対する関心を失ってしまうことを、
どう思うのかは、その人の自由ではある……。

オーディオにおいては、時として一聴より百読が正しいこともある。
もちろん、誰が書いたものを読むかも、とても重要なことではあるけれど。

Date: 10月 3rd, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その10)

パワートランジスターは振動発生源であるわけだが、
その振動のモード、大きさは、
トランジスターの形状、材質によって変化するとともに、
電流が多く流されれば当然振動の発生は大きくなるわけである。

つまりA級アンプでアイドリング電流をつねに大量に流している状態では、
振動の発生は、他の動作のアンプよりも当然大きく、
しかもパワートランジスターを並列使用しているため、
振動発生源が多く点在することになり、それぞれの振動が干渉することも充分考えられるし、
ヒートシンクを含めての筐体の振動、共振をより複雑にしている、ともいえよう。

もちろんパワートランジスターを並列使用することで、
トランジスターひとつあたりのアイドリング電流は少なくなり、その分振動も少なくなるが、
仮にひとつのパワートランジスターで3Aのアイドリング電流を流した場合と、
3つのトランジスターを使い、ひとつあたり1Aのアイドリング電流を流した場合、
さらにトランジスターを10個並列にして、ひとつあたり0.3Aのアイドリング電流を流した場合、
このなかのどれが振動をコントロールしやすいか、を考えてみるのもおもしろい。

このあたりは、井上先生がいわれているスピーカーのエンクロージュアと同等の楽器的要素へとつながっている。
大口径のウーファーを鳴らすのか、
それとも口径の小さなウーファーをいくつか並列、もしくは直列接続して鳴らすのか、
複数のウーファーユニットを使う場合、その配置をどうするのか──、
同じことがパワーアンプにおいて、パワートランジスターの数と使い方にもあてはまる。

そういう観点からマークレビンソンのML2(No.20)とソニーのTA-NR10のヒートシンクまわりを比較してみると、
対照的であることがいくつもあり、実に興味深い。

Date: 10月 2nd, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その9)

マークレビンソンのML2には、そのパワーアップ版ともいえるNo.20がある。
No.20の開発は、マーク・レヴィンソンの手から完全に離れているパワーアンプで、
ML2がA級25Wの出力だったのに対し、A級100Wを実現している。

ソニーのTA-NR10も、A級100Wの、ML2、No.20同様モノーラル仕様であり、
パワーアンプとしての規模は同等ともいえよう。

ML2とNo.20の音は、同じマークレビンソン・ブランドであっても、
ML2、そしてマーク・レヴィンソンとジョン・カールがいた時代の同ブランドのアンプに惚れ込んだ者にとっては、
そうとうに異るアンプともいえるのだが、
ML2とNo.20の筐体構成・構造はほぼ同じといえるし、
この筐体構成が、ML2(No.20)とTA-NR10との大きな相違点であり、
私が2S305でグールドのゴールドベルグ変奏曲を聴くための組合せとして、
ソニーのTA-NR10を選ぶ理由に直結している。

仮にML2(No.20)とTA-NR10がまったく同じ回路構成で、しかも同じコンデンサーや抵抗を使っていたとしても、
マークレビンソンのA級100WとソニーのA級100Wとでは、音色において差が生じる。
そのくらい、このふたつのアンプの筐体構成・構造は違う。

こまかくひとつひとつ挙げていくときりがないので、
大きな点をひとつだけ書くとすると、やはりヒートシンクについて、である。

どちらもアンプもA級アンプが発する熱を、自然空冷で対処している。
そのためヒートシンクは、同じ出力のAB級、B級アンプと比較すると大型化してしまう。

さらに出力段のトランジスターの使用数も増える傾向にあるし、
それにアイドリング電流がかなり高めに設定されている。

このことは、井上先生が幾度となく書かれていたことでもあるが、
パワートランジスターは振動発生源であり、ヒートシンクはその形状からして音叉的存在である。
さらに井上先生は、
「アンプの筐体構造はスピーカーのエンクロージュアと同等の楽器的要素をもつことを認識すべきだ」
ともいわれている。

Date: 10月 2nd, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その8)

ダイヤトーンの2S305は、本来放送局用モニターとして開発されたスピーカーシステムだが、
家庭用としても使える優秀なスピーカーシステムとしての人気が高くなり、
生産が追いつかなくなるほど、コンシューマー用スピーカーシステムとして認識されていった。

古いスイングジャーナルの三菱電機の広告で、
2S305の生産が間に合わない、というお詫び広告もあった。

JBlの4343が、やはりスタジオモニターとして開発されたスピーカーシステムにも関わらず、
日本では家庭用に売行きを伸ばしていったことの先例であろう。

それにダイヤトーン自身が、2S305の後継機として、
AS3001(1965年)、AS3001S(1971年)、AS3002(1972年)、AS3002P(1977年)を発表している。
基本構成は30cm口径コーン型ウーファーと5cm口径のコーン型トゥイーターの2ウェイ
AS3002から2S305採用のPW125、TW25が、それぞれPW125A、TW25Aと改良型に変更されているけれど、
一貫して同じユニットを採用してきていた。

2S305の系譜はAS3002Pで終ったかのように思っていたら、
1990年に2S3003が登場してきた。
ウーファーは32cm口径コーン型、トゥイーターは5cm口径の、これもまたコーン型というと、
この時代のスピーカーシステムとしてはトゥイーターにあえてコーン型を採用しているという、
ある意味、珍しい構成のスピーカーシステムである。

2S305の系譜の最終形態とでもいえる2S3003は、
ダイヤトーンがコンシューマー用スピーカー開発で得た技術を、
スピーカーユニットにもエンクロージュアにも投入している。

ほぼ同口径のコーン型ユニットを採用していても、
2S305と2S3003とでは再生周波数帯域もずいぶん違う。
2S3003では50Hz〜15kHzだったのが、2S3003では39Hz〜30kHzと拡大している。
定格入力も20W(最初は15Wだったと記憶している)から80Wへ、
出力音圧レベルは2S305の96dBから94dBと少しばかり低下しているけれど、
耐入力の拡大、それに聴感上のS/N比を徹底して改善している設計方針により、
ダイナミックレンジも拡大していることだろうし、
ユニットの振動板、磁気回路などの再検討により低歪率も実現している。

2S305と比較するまでもなく、2S3003はまさしく現代スピーカーといえる内容をもっている。
2S3003を聴く機会はなかった。けれど、いまでも、ぜひ聴いてみたいスピーカーシステムであり、
日本製のスピーカーシステムをメインとして迎えるのであれば、
この2S3003かビクターのSX1000 Laboratoryのどちらかを、選択するとする断言できるほど、
いまも気になっているスピーカーシステムである。

そんな存在のスピーカーシステムであっても、
グレン・グールドのゴールドベルグ変奏曲を聴くために選ぶのは、2S305である。
その理由は、パワーアンプでソニーのTA-NR10を選ぶのとまったく同じだ。

Date: 9月 29th, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その7)

ダイヤトーンの2S305に組み合わせるパワーアンプとして、
私が第一に試してみたいのは、ソニーのTA-NR10である。

2S305を、どのアンプで鳴らすのか、鳴らしたいのかは、
2S305でどういう音楽(ディスク)をどういうふうに聴きたいかによっても変ってくる。

私が聴きたいのは、ヤマハのピアノで魅かれたグールドのゴールドベルグ変奏曲の新録音のほうを、
日本の音(音色)ということに着目して、確認できるのであれば確認したいことがあるためであるから、
ソニーのTA-NR10で、ぜひとも鳴らしてみたい。

TA-NR10はいまから20年ほど前の、モノーラルのパワーアンプで、
TA-NR1をベースに、出力段をバイポーラトランジスターからMOS-FETに、
そのMOS-FETを取り付けるヒートシンクには、
一般的なアルミ製(TA-NR1もそう)から、重量10kgの純銅ブロックへと変更されている。

TA-NR10(NR1もそうなのだが)の外観は、サイドにウッドパネルを使い、
フロントパネルの両端にはラウンド形状のアルミブロックをコーナーポスト的に配置しているため、
2S305のラウンドバッフルに共通するものもある、
というのは、なかばこじつけの選択の理由でもある。

2S305は、さまざまなアンプで鳴らしてみると、きっと面白いはず。
パワーアンプのキャラクターを、意外にも素直に出してくれる、と想像できる。
ゆえに真空管アンプも楽しいだろうし、
真空管アンプならばOTLアンプでも鳴らしてみたい。
1980年代に復活したフッターマンのOTLアンプは、2S305によく合う、のではないかと、その音を思い出す。

トランジスターアンプでは、アメリカ製のアンプをもってくれば、ずいぶん違う鳴り方をしてくれるだろうし、
グールドのゴールドベルグ変奏曲を、という目的がなければ、
私も個人的な興味からいえば、たとえばマークレビンソンのML2で鳴らしてみたい。

なのにTA-NR10をあえて選ぶのは、
TA-NR10とML2、どちらが優秀なパワーアンプであるといったことではなく、
ただひたすら音色を重視しての選択である。

Date: 9月 28th, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その6)

グレン・グールドのゴールドベルグ変奏曲は、
旧録音(1955年)と新録音(1981年)は大きく、そして驚くほど異っている。
どちらのゴールドベルグ変奏曲も、グールドでしか成し得ない演奏ではあっても、
約四半世紀のあいだに、コンサート・ドロップアウトを宣言し、
少なからぬ量の録音をコロムビアに残し、またカナダのCBCにはラジオ・ドラマも残している──、
こういったグールドのさまざまな活動が、グールド自身を変貌させたのかどうか、
それは人によって見解のわかれるところだろう。

旧録音と新録音では、まずテンポが大きく異る。
誰の耳にもあきらかなこの違いは、どこからきているのだろうか。
これもさまざまな理由が考えられるだろうが、
私にはピアノがヤマハのCFになったこと、このことがもっとも深く関係しているように考えている。

旧録音は反復指定をすべて省略して、
そのころゴールドベルグ変奏曲のひとつのスタンダードでもあったランドフスカの演奏からすると、
唖然とするほどの早いテンポで、39分で弾き終っている。

新録音は各変奏の反復指定の前半だけはかなり行っていることと、
ぐっと遅めのテンポにより、弾き終えるのに51分をこえている。

1955年のグールドの風貌と、1981年のグールドの風貌は、たしかに変貌している。
人は歳をとる、グールドも歳をとる──、
こんなあたりまえのことを如実に、ゴールドベルグ変奏曲のジャケットはもの語っている。

テンポの大きな変化の理由はけっしてひとつではない、と思っていても、
もしピアノが、それまでグールドが気に入っていたスタインウェイのCD318が無事で、
新たなピアノ探しをする必要もなく、つまりヤマハのCFと出会うこともなく、
ゴールドベルグ変奏曲の再録音を行っていたとしたら、はたしてテンポは、あれほど遅くなっただろうか。
反復指定は旧録音のように省略したかもしれない……、そんなことを考えるし、
そう考えさせるのは、ゴールドベルグ変奏曲で聴くことができるヤマハのCFの音色にある。

Date: 9月 28th, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その5)

ダイヤトーンの2S305は古いスピーカーだ。
それもかなり古いスピーカーシステムである。

ステレオサウンド 62号の時点で25年ほど前ということだから、そこからさらに30年が経っているいま、
2S305は半世紀以上前のスピーカーシステムとなる。

30cm口径のコーン型ウーファーと5cm口径のコーン型トゥイーターの組合せによる2ウェイの2S305は、
いまどきの2ウェイのように広帯域の周波数特性を実現しているわけではない。
発表されている周波数特性は50Hz〜15kHzと、
2S305よりもずっと安いブックシェルフ型のスピーカーのほうが、
数値上ではワイドレンジということになる。

そういう古風な設計のスピーカーシステムを、
いま鳴らしてみたところでどうなる? と疑問をもつ人もいて不思議ではない。
でも2S305は、QUADのESLと同時代につくられている。

ESLがアンプの性能向上、プログラムソースの高品質化など、
ESLを取り囲む環境の変化によって本領を発揮してくるとともに、
その評価も高まっていったように、
優れたスピーカーシステムであれば、ESLに限らず、同じことは起り得る。

2S305でグールドのゴールドベルグ変奏曲を聴きたいと思っている私だけれど、
2S305を鳴らすアンプは、2S305と同時代のアンプ使うつもりはまったくない。
懐古趣味で2S305を聴きたいわけではないから、アンプの時代性にはこだわらない。

あえてこだわるとすれば、日本製のアンプ、ということか。
それもグールドのゴールドベルグ変奏曲を考え合わせれば、
ピアノは日本製で、奏者(つまりグレン・グールド)はカナダ人だから、
スピーカーをピアノ、アンプを奏者にあてはめれば、
アンプは海外製のモノもいい、と、都合よく考えている。

鳴らしてみたいアンプに求めるのは、第一に音色の統一性である。

Date: 9月 27th, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その4)

ステレオサウンド 62号の「日本の音・日本のスピーカー その魅力を聴く」に参加されているのは、
岡先生、菅野先生、黒田先生で、特集の最後に鼎談が載っている。

菅野先生が、そこでジュリアス・カッチェンのことを語られている。
     *
もう死んじゃったジュリアス・カッチェンというピアニストと、たまたま録音の仕事をしていきるときに、ピアノ選びをやったことがあるんです。
そのときにかれはヤマハのピアノに猛烈にしびれた。最近じゃリヒテルがすごいしびれているようですけど、どういうしびれかたをしているのか知りません。カッチェンには、なぜヤマハのピアノにしびれたのかを非常に興味をもって聞いたわけです。
そこで、かれが言うには、とにかくピアノからこんな美しさをもった音というのは聴いたことがない、と。
ぼくは片一方にあったスタインウェイがすごく張りのあるキラッと光ったいい音がしているので、こっちのほうがいいだろう、と主張したら、かれはさかんにメンデルスゾーンのロンド・カプリチオーソを弾きながら比べているわけ。そして、汚いって言うんですよ、スタインウェイの音が。これはジャリジャリして汚い、と。ヤマハの音がずっとピュアであるというわけ。
そのとき、ぼくは感じたんですが、これは意外にもぼくらの盲点なのかもしれないぞ、明治以来、急速に欧米文化をとり入れていくうちに、日本人の内部に欧米文化へのあこがれだけでなく、コンプレックスが育ってきていることは否定できないことだけれども、ぼくもまたそのコンプレックスをとおして、ヤマハとスタインウェイをくらべていた可能性があるな、と。
     *
ステレオサウンド 62号は1982年3月発売の号なので、
まだグレン・グールドがスタインウェイからヤマハのピアノにしたことについての情報は入ってなかった。

菅野先生は、この鼎談で、さらにデビッド・ベーカーについても語られている。
     *
この2S305については、デビッド・ベーカーというジャズ録音の専門の人が絶賛しているのを聞かされたことがあるんです。
かれは、ものすごくほれこんで、あんなきれいな音のスピーカーはない、それはきれいな音であり、しかも非常にアキュレイト(正確)だって言うんですよ。これこそモニターとして最良だ、と。
そして、かれの口からアメリカのスピーカーの悪口がポンポン飛びだしてきたわけ。
その話をかれとしたのは5〜6年まえのことですが、それほどまでにかれを感動させたスピーカーが25年まえに開発されたものであったのに、それじゃ他にはどうか、というと、これだけが突出していたんですね。それから長い空白がある。
     *
ヤマハのピアノとスタインウェイのピアノの比較、
欧米のスピーカーシステムと日本のスピーカーシステムの比較、
スタインウェイのピアノと欧米のスピーカーシステムの共通するもの、
ヤマハのピアノと日本のスピーカーシステム(ダイヤトーンの2S305)の共通するもの。

いま、グールドのゴールドベルグ変奏曲を聴くにあたって、
石英CDで聴くことのもつ意味、
ダイヤトーンの2S305で聴くことの意味を秤にかけたとき、
私にとっては後者の与えてくれるもの、そこから得られるものがずっと大きく多い、と思っている。

Date: 9月 27th, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その3)

ステレオサウンド 60号は、
ひじょうに大がかりな試聴による特集「サウンド・オブ・アメリカ」を行っている。
続く61号では「ヨーロピアン・サウンドの魅力」、62号が「日本の音・日本のスピーカー その魅力を聴く」である。

これらの特集はすべてステレオサウンド創刊15周年記念の企画で、
たしかに60号の「サウンド・オブ・アメリカ」はそのことを感じさせてくれた。

このころはまだ読者だったわけで、
正直60号より61号は、すこし誌面から伝わってくる熱気が少なくなっていたように感じていた。
それはなにも編集方針が……、というよりも、瀬川先生の不在によるところも大きい……、
と当時から思っていた。

61号を手にしたときから、ここに瀬川先生がいたら、どんな発言をされていただろうか……、
そんなことを想像しながら読んだ61号だった。

62号は「日本の音」が特集のテーマ。
60号、61号の特集のテーマからすると、
企画そのものに、まだ10代だった私はそれほど興味を持てなかった。
しかも瀬川先生は、もうおられない。

そして62号は、私にとってステレオサウンド編集部に加わることの出来た号でもある。
私が働くようになったときには、すでに特集の取材は終っていた。
ダイヤトーンの2S305の音は聴いていない。
62号に登場した、他の日本のスピーカーシステムもとうぜん聴いてはいない。

そのときは、そのことをそう残念には思っていなかった。
でもいまは、日本のスピーカーシステムをこれだけ集めて聴く機会はそうはない。
ほとんどない、ともいえる。
聴いておきたかったなぁ、と思っている。

Date: 9月 27th, 2012
Cate: 日本の音

日本のオーディオ、日本の音(その2)

月日の経つのは早い、ということう実感するのは、1年のうちにいくつかある。
9月の終りから10月にかけてのこの時期も、毎年そう感じる。

9月25日はグレン・グールドの生れた日で、10月4日は亡くなった日だから、
今年は、もう30年経ったのか、と思う。

自分の誕生日よりも、この時期がくるたびに月日の経つ早さを感じるのは、
グールドによるバッハやモーツァルト、ブラームスなどがまったく色褪せないからなのだろう。

グールドのCDは、いまも発売され続けている。
今年は生誕80年、没後30年ということもあって、ソニーからグールド・ファンの購買力を狙った企画CDが登場した。
いったいグールドの、この手の企画CDはどれだけあるのだろうか。
ソニーはジャズでは、マイルス・デイヴィスで同じことをやっている。

もういいかげん、すべてのグールドの録音をSACDにしてほしい、というのが、
きっと多くのグールド・ファンの願いだと、勝手に想像しているのだけど、
今年出なかったということは、次に可能性の高いのは10年後、
それとも生誕100年、没後50年にあたる20年後の2032年なのだろうか。

2032年、SACDというフォーマットはあるのだろうか、とも思う。
だから、もったいぶらずにさっさと出してほしいのに……。

でも、グールドのCDは、結局売れるのだから、全タイトルのSACD化は売れ続けているうちは、
ずっと先延ばしにされるのだろう、となかばあきらめている。
ステレオサウンドからは石英CDで、
ゴールドベルグ変奏曲が1枚CDの価格として非常に高価な136500円で出ている。

この石英CDに、まったく興味がない、と言い切りたいところだが、
興味がないわけではない。
聴いてみたい、とは思う。聴いたら、欲しくなることだろう。
とはいえ、13万円を越えるCDに手を出すのがグールドの聴き手としてふさわしいのだろうか、
と、なかば、言い訳がましいことも考えもする。

1枚のCDに13万円を投ずるのであれば、私ならば13万円に、さらに予算を足そう。
といっても13万円の倍でも足りないくらいではあるのだが、
ダイヤトーンのスピーカーシステム、2S305を手に入れたい。

2S305で、グールドのゴールドベルグ変奏曲を聴きたい。
ゴールドベルグ変奏曲だけではなく、
グールドが
「これはコンピューターにまさるとも劣らぬエレクトロニック・マシーンだ。ぼくはチップ一枚はずんでやればいい」ピアノといったヤマハのCFによる録音(演奏)を、
もっとも日本的といえるスピーカーシステムといえる2S305で聴きたい、というおもいが日増しに強くなっている。