Date: 9月 27th, 2012
Cate: 日本の音
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日本のオーディオ、日本の音(その4)

ステレオサウンド 62号の「日本の音・日本のスピーカー その魅力を聴く」に参加されているのは、
岡先生、菅野先生、黒田先生で、特集の最後に鼎談が載っている。

菅野先生が、そこでジュリアス・カッチェンのことを語られている。
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もう死んじゃったジュリアス・カッチェンというピアニストと、たまたま録音の仕事をしていきるときに、ピアノ選びをやったことがあるんです。
そのときにかれはヤマハのピアノに猛烈にしびれた。最近じゃリヒテルがすごいしびれているようですけど、どういうしびれかたをしているのか知りません。カッチェンには、なぜヤマハのピアノにしびれたのかを非常に興味をもって聞いたわけです。
そこで、かれが言うには、とにかくピアノからこんな美しさをもった音というのは聴いたことがない、と。
ぼくは片一方にあったスタインウェイがすごく張りのあるキラッと光ったいい音がしているので、こっちのほうがいいだろう、と主張したら、かれはさかんにメンデルスゾーンのロンド・カプリチオーソを弾きながら比べているわけ。そして、汚いって言うんですよ、スタインウェイの音が。これはジャリジャリして汚い、と。ヤマハの音がずっとピュアであるというわけ。
そのとき、ぼくは感じたんですが、これは意外にもぼくらの盲点なのかもしれないぞ、明治以来、急速に欧米文化をとり入れていくうちに、日本人の内部に欧米文化へのあこがれだけでなく、コンプレックスが育ってきていることは否定できないことだけれども、ぼくもまたそのコンプレックスをとおして、ヤマハとスタインウェイをくらべていた可能性があるな、と。
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ステレオサウンド 62号は1982年3月発売の号なので、
まだグレン・グールドがスタインウェイからヤマハのピアノにしたことについての情報は入ってなかった。

菅野先生は、この鼎談で、さらにデビッド・ベーカーについても語られている。
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この2S305については、デビッド・ベーカーというジャズ録音の専門の人が絶賛しているのを聞かされたことがあるんです。
かれは、ものすごくほれこんで、あんなきれいな音のスピーカーはない、それはきれいな音であり、しかも非常にアキュレイト(正確)だって言うんですよ。これこそモニターとして最良だ、と。
そして、かれの口からアメリカのスピーカーの悪口がポンポン飛びだしてきたわけ。
その話をかれとしたのは5〜6年まえのことですが、それほどまでにかれを感動させたスピーカーが25年まえに開発されたものであったのに、それじゃ他にはどうか、というと、これだけが突出していたんですね。それから長い空白がある。
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ヤマハのピアノとスタインウェイのピアノの比較、
欧米のスピーカーシステムと日本のスピーカーシステムの比較、
スタインウェイのピアノと欧米のスピーカーシステムの共通するもの、
ヤマハのピアノと日本のスピーカーシステム(ダイヤトーンの2S305)の共通するもの。

いま、グールドのゴールドベルグ変奏曲を聴くにあたって、
石英CDで聴くことのもつ意味、
ダイヤトーンの2S305で聴くことの意味を秤にかけたとき、
私にとっては後者の与えてくれるもの、そこから得られるものがずっと大きく多い、と思っている。

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