日本のオーディオ、日本の音(その8)
ダイヤトーンの2S305は、本来放送局用モニターとして開発されたスピーカーシステムだが、
家庭用としても使える優秀なスピーカーシステムとしての人気が高くなり、
生産が追いつかなくなるほど、コンシューマー用スピーカーシステムとして認識されていった。
古いスイングジャーナルの三菱電機の広告で、
2S305の生産が間に合わない、というお詫び広告もあった。
JBlの4343が、やはりスタジオモニターとして開発されたスピーカーシステムにも関わらず、
日本では家庭用に売行きを伸ばしていったことの先例であろう。
それにダイヤトーン自身が、2S305の後継機として、
AS3001(1965年)、AS3001S(1971年)、AS3002(1972年)、AS3002P(1977年)を発表している。
基本構成は30cm口径コーン型ウーファーと5cm口径のコーン型トゥイーターの2ウェイ
AS3002から2S305採用のPW125、TW25が、それぞれPW125A、TW25Aと改良型に変更されているけれど、
一貫して同じユニットを採用してきていた。
2S305の系譜はAS3002Pで終ったかのように思っていたら、
1990年に2S3003が登場してきた。
ウーファーは32cm口径コーン型、トゥイーターは5cm口径の、これもまたコーン型というと、
この時代のスピーカーシステムとしてはトゥイーターにあえてコーン型を採用しているという、
ある意味、珍しい構成のスピーカーシステムである。
2S305の系譜の最終形態とでもいえる2S3003は、
ダイヤトーンがコンシューマー用スピーカー開発で得た技術を、
スピーカーユニットにもエンクロージュアにも投入している。
ほぼ同口径のコーン型ユニットを採用していても、
2S305と2S3003とでは再生周波数帯域もずいぶん違う。
2S3003では50Hz〜15kHzだったのが、2S3003では39Hz〜30kHzと拡大している。
定格入力も20W(最初は15Wだったと記憶している)から80Wへ、
出力音圧レベルは2S305の96dBから94dBと少しばかり低下しているけれど、
耐入力の拡大、それに聴感上のS/N比を徹底して改善している設計方針により、
ダイナミックレンジも拡大していることだろうし、
ユニットの振動板、磁気回路などの再検討により低歪率も実現している。
2S305と比較するまでもなく、2S3003はまさしく現代スピーカーといえる内容をもっている。
2S3003を聴く機会はなかった。けれど、いまでも、ぜひ聴いてみたいスピーカーシステムであり、
日本製のスピーカーシステムをメインとして迎えるのであれば、
この2S3003かビクターのSX1000 Laboratoryのどちらかを、選択するとする断言できるほど、
いまも気になっているスピーカーシステムである。
そんな存在のスピーカーシステムであっても、
グレン・グールドのゴールドベルグ変奏曲を聴くために選ぶのは、2S305である。
その理由は、パワーアンプでソニーのTA-NR10を選ぶのとまったく同じだ。