Archive for category D130

Date: 7月 31st, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その22)

電圧伝送・電圧駆動という、いわばひとつの決りごとがある。
この決りごとのおかげがあるからこそ、といえる面があれば、
この決りごとがあるために、といえる面も、少ないとはいえ、やはりある。

電圧伝送・電圧駆動という決りごとがあるからこそ、
これだけのオーディオ機器のヴァリエーションと数がある。
これまでにいったいどれだけのオーディオ機器が世の中に登場したのか、
その数を正確に把握している人はおそらくいないだろう。
そのくらい多くの機種が登場している。

それだけのオーディオ機器が世に登場したことによるヴァリエーションの豊富さがある一方で、
技術的なアプローチとしてのヴァリエーションということになると、
果して電圧伝送・電圧駆動が圧倒的主流で良いのだろうか、と思うわけだ。

特に思うのはスピーカーと、その駆動に関して、である。

世の中のスピーカーは、
電圧伝送・電圧駆動が主流なのと同じくらいにピストニックモーションによるものが主流である。
ホーン型、コーン型、ドーム型、リボン型、コンデンサー型……、
その動作方式にヴァリエーションはあっても、
目指しているのはより正確なピストニックモーションの実現である。

けれど1920年代からドイツでは非ピストニックモーションといえる方式のスピーカーが生まれている。
ベンディングウェーヴと呼ばれるスピーカーである。
ベンディングウェーヴ方式のスピーカーは、ずっと、そしていまでも少数である。

スピーカーに関しては、
ホーン型とかコーン型とか、その動作方式で分類する前に、
まずピストニックモーションかベンディングウェーヴかに分類できる。

そしてスピーカーの駆動についても、
真空管アンプかトランジスターアンプかという分類もあり、
回路や出力段の動作方式によって分類する前に、
定電圧駆動か定電流駆動かに分類できる。

つまりスピーカーとアンプの組合せでみれば、
現在圧倒的主流であるピストニックモーションのスピーカーを定電圧駆動があり、
ベンディングウェーヴのスピーカーを定電圧駆動、
ピストニックモーションのスピーカーを定電流駆動、
ベンディングウェーヴのスピーカーを定電流駆動、
──この4つのマトリクスがある。

Date: 7月 30th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(余談・D123とアンプのこと)

JBLのフルレンジユニットの歴史をふりかえってみると、
最初に登場したD101、
そしてJBLの代名詞ともいえるD130、その12インチ・ヴァージョンのD131、8インチ口径のD208があり、
ここまでがランシングの手によるモノである。
これらに続いて登場したのがD123(12インチ)だ。

D123はD130(D131)とは、見た目からして明らかに異る。
まずコーン紙の頂角からして違う。そしてD130やD131にはないコルゲーションがはいっている。
JBLのスピーカーユニットで最初にコルゲーションを採用したユニットが、D123だ。
しかも岩崎先生によると、D123にはもともと塗布剤が使われていた、とのこと。

さらに裏を見ると、フレームの形状がまったく異る。
ラジカル・ニューデザインと呼ばれているフレームである。

同じ12インチ口径でもD131が4インチのボイスコイル径なのに対し、D123は3インチ。
磁気回路もD130、D131の磁束密度が12000に対し、D123は10400ガウスと、こちらもやや低い値になっている。

同じ12インチのD131と比較するとはっきりするのは、D123の設計における、ほどほど感である。
決して強力無比な磁気回路を使うわけでもないし、ボイスコイル径もほどほど。
フレームにしてもスマートといえばスマートだが、物量投入型とはいえない。
なにか突出した技術的アピールがあるユニットではない。

井上先生はD123はいいユニットだ、といわれていたのを思い出す。

このD123はランシングによるモノではない。
では、誰かといえば、ロカンシーによるユニットで、間違いないはずだ。

ロカンシーがいつからJBLで開発に携わっていたのかははっきりしないようだが、
1952年のLE175DLHはロカンシーの仕事だとされている。
ということは1955年登場のD123もロカンシーの仕事のはず。

となるとD123とJBLのプリメインアンプのSA600を組み合わせてみたくなる。
D123が登場したころは真空管アンプの時代だったし、D123とSA600のあいだには約10年がある。

けれど、どちらもロカンシーの開発し生み出したモノである。
ただこれだけの理由で、D123をSA600で鳴らしてみたい、と思っている。
エンクロージュアはC38 Baronがいい。

Date: 7月 29th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その21)

電流に注目したところでは、ご存知の方は少ないようだが、
オーディオデバイスのMC型カートリッジ用のヘッドアンプHA1000はI/V変換方式を採ったものである。
I/V(電流・電圧変換)アンプとは、反転アンプの入力抵抗を省いた構成で、
MC型カートリッジのヘッドアンプとして使用する場合には、
カートリッジのインピーダンスがそのままアンプの入力インピーダンスとなり、
このことはヘッドアンプのゲインが接続するカートリッジのインピーダンスによって変化することでもある。

反転アンプのゲインは帰還抵抗を入力抵抗で割ったのだから、
ハイインピーダンスのカートリッジの場合、ゲインはローインピーダンス接続時よりも下る。

海外メーカーではクレルがコントロールアンプとパワーアンプ間の伝送方式、
CAST伝送も電流伝送である。

このCAST伝送をみてもわかるように電流伝送、電流駆動を採用するには、
単独では無理で必ず組み合わせる機器が指定される(専用となる)。

ヤマハのHA2は専用ヘッドシェルとの組合せだし、
ビクター、テクニクスの試作品のスピーカーシステムは、
パワーアンプとスピーカーでトータルのシステムとして設計・開発されている。
クレルのアンプも他社製のアンプと組み合わせるときには通常の電圧伝送しかない。

電流をパラメータとしたほうがいいのか、電圧をパラメータとしたほうがいいのか。
ここには考え方がいくつかあるだろうし、安易に電流をパラメータとすべきとは言い難いところがある。

つきつめていけば電流をパラメータとすべきなのかもしれない、とは考えている。
けれどもしすべてのオーディオ機器が電流伝送を採用し、スピーカーを電流駆動していたとしたら、
オーディオはここまで発展しなかったはず、とは確実にいえる。

電圧伝送、電圧駆動を採用したことにより、
コントロールアンプとパワーアンプの組合せは自由に選択できるし、
コントロールアンプへも、CDプレーヤー、テープデッキ、チューナーなど、
これらの機器を細かいことを気にせずに接続することができている。

スピーカーとパワーアンプの組合せにしても、そうだ。
極端なローインピーダンスのスピーカーを負荷としないかぎり、
スピーカーとパワーアンプの組合せは自由である。

かなり入力インピーダンスの低いパワーアンプが過去を含めてわずかとはいえ存在していたから、
そういうアンプと管球式のコントロールアンプを接続する際には注意が必要となるくらいで、
コンシューマー用機器を使う場合には、
送り出しのインピーダンスが接続される機器の入力インピーダンスよりも十分に低い値となっているので、
原則として、組合せと自由に行える。

この組合せの自由さ、つまりコンポーネントの面白さがあったからこそ、
オーディオはここまで発展してきたといえるわけだから、
電圧伝送・電圧駆動ではダメであるとは、私としてはいいたくない。

Date: 7月 18th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その20)

Standard Speaker System、
試作の3ウェイのスピーカーシステムにつけられた、この名称に、
このスピーカーシステムの開発にかかわった人たちのスピーカーとアンプについての考え方の、
その一部ではあるものの、推し量れることがある。

少なくとも、このStandard Speaker Systemを開発していた時点でビクターは、
スピーカーの駆動方法として、一般的な定電圧駆動ではなく定電流駆動が望ましい、
という判断を下していた、ということだ。

だからこそ一般的な定電圧駆動ではなく、定電流駆動を採用しながらも、
Standard Speaker Systemと、その名称に”standard”をつけている。
standardの意味はいうまでもなく、標準とか基準である。

標準となるべきスピーカーシステム、基準となるべきスピーカーシステムに、
1978年ごろのビクターの開発者たちは、定電流駆動を採用していることを強調しておきたい。

このころ、テクニクスも試作品のスピーカーシステムに、やはり定電流駆動を採用している。
リニアフォースドライブスピーカーと名付けられた、この方式は、スピーカーの徹底した低歪化を目指したもので、
スピーカーの歪をBl歪と電流歪にわけて考えられることから、
前者のBl歪(ボイスコイルに信号が流れることによって生じる磁束密度の変調によるもの)には、
外磁型マグネットの前後にプレートを配することで対称構造としたうえで、
このふたつのプレートの間に磁束コイルをおき、
ボイスコイルの両端に捲いてある制御コイルからの信号により、
磁束コイルに対し専用アンプによる磁束フィードバックをかけている。
電流歪(ボイスコイルがセンターポールやプレートなどのヒステリシスをもつ材質に囲まれているために発生)には、
対称構造としたプレートに対し、それぞれボイスコイルをおき(つまり2組ある)、
こちらも専用アンプでドライヴする、という仕組みである。

磁束フィードバック用アンプも、ボイスコイル用アンプも、定電圧出力ではなく定電流出力となっていることも、
リニアフォースドライブスピーカーの、大きな特徴といえる。

リニア(linear)は、直線の、直線的な、の意味をもつわけだから、
リニアフォース(直線的な力、言い換えれば非直線的な要素のない力)を実現するために、
テクニクスは定電流駆動を選択した、とも受け取れる。

Date: 7月 17th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その19)

アンプとスピーカーの関係について考えてゆくにつれて感じているのは、
現状の、定電圧出力のパワーアンプと、定電圧駆動を前提としたスピーカーシステムの組合せだけでなく、
もういちど定電流出力のパワーアンプによるスピーカーの駆動を再検討してみるべきではないか、ということ。

電圧をパラメータとする電圧駆動、それに電圧伝送が、オーディオの世界では標準の方法として定着している。
それでも電流をパラメータとしたオーディオ機器が、これまでにも登場している。

私がオーディオに関心をもちはじめた1976年以降の製品だけにしぼってもいくつかある。
まずヤマハのヘッドアンプのHA2がそうだ。
ヘッドシェルにヘッドアンプの初段のFETをとりつけることで、
MC型カートリッジの出力電圧を電流変換してヘッドアンプ本体まで伝送していた。

その次には登場したのはビクターのコントロールアンプのP-L10がある。
P-L10は、ヤマハのHA2のように見た目ですぐに特徴的なところがあるアンプではない。
けれど、このコントロールアンプは内部では電流伝送を行っていた。
おそらくビクターではパワーアンプとの接続に関しても電流伝送を実験していた、と私は思っている。
けれどコントロールアンプとパワーアンプをペアで必ずしも購入されるわけではなく、
他社製のパワーアンプやコントロールアンプと組み合わされることのほうが実際には多いのかもしれない。
だからコントロールアンプ・パワーアンプ間に電流伝送を搭載するということは、
他社製のオーディオ機器との使用を考慮すると、そういう冒険はやりにくい。
だからP-L10内部だけの電流伝送にとどまったのではないだろうか。

そう考えるのには、ひとつ理由がある。
ビクターが1978年ごろに発表したスピーカーシステムの試作品が、それである。
試作品だから型番はなく、たしかStandard Speaker Systemと呼ばれていた。

卵形のエンクロージュア平面型のスピーカーユニットを納めた、この3ウェイのスピーカーシステムは、
3台のパワーアンプを内蔵したマルチアンプ駆動てある。
そしてそれぞれのアンプは、すべて定電流駆動となっている。
ウーファーに関しては、さらにMFBもかけられている。

このStandard Speaker Systemは市場に登場することはなかった。
このStandard Speaker Systemのコンセプトを受け継いだスピーカーシステムも現れなかった。
けれど、いまビクターのサブウーファーのSX-DW77はDクラスアンプによる定電流駆動となっている。

Date: 7月 16th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その18)

アンプによってスピーカーは鳴り方を変える。
ときには、まるで別物のスピーカーに変ってしまったかのように錯覚するほどの音の変り方を示すことだってある。

D130は1948年に登場したスピーカーユニットだから、
64年のあいだ、さまざまな時代の、さまざまなアンプで鳴らされてきたことになる。

出力トランスの2次側からのNFBがかけられていない真空管によるパワーアンプ、
とうぜん出力インピーダンスは高い(ダンピングファクターが低い)。
それがNFBが積極的に使われるようになり、同じ真空管アンプでも出力インピーダンスは下り、
ダンピングファクターも高くなっていく。

そしてトランジスターが登場し回路技術が発展していくことで、
D130の登場の1948年では考えられないくらいのNFBが安定にかけられるようになり、
出力インピーダンスはさらに下っていく。
ダンピングファクターが100を超えるアンプは珍しくなくなったし、1000を超えるアンプも登場してきた。

あるジャンルの製品の多彩さをみていったとき、
パワーアンプの多彩さはコントロールアンプのそれをはるかに上回っている。
出力数Wの直熱三極管のシングルアンプもあれば、
1kWを超える出力をもつトランジスターアンプも存在している。
アンプの規模にしても、手のひらにのってしまうのに数10Wの出力をもつDクラスアンプもあるし、
モノーラル仕様で、さらには電源部と増幅部が別筐体で、
それぞれのシャーシー重量が50kgを超える規模のアンプも存在する。

こうしてみるパワーアンプの多彩さ、
いいかえるとパワーアンプという製品としてのダイナミックレンジの広さはなかなか凄いものがある。

実にさまざまなアンプにつながれてD130は鳴らされることで、
それまでのアンプではみせなかった一面を新たに聴かせてくれたりしたことだと思う。
新しいパワーアンプのすべてが、以前のパワーアンプよりもすべての面で上廻っているわけではないが、
それでも良質の、ほんとうによくできたパワーアンプであれば、
D130のような古典的なスピーカーから、新鮮な音を引き出してくれることは、そう珍しいことでもない。
いわばスピーカーそのものが若返ってしまうかのような、そういう音の変化をみせる。

だから高能率スピーカーだから大出力のパワーアンプで鳴らす必要はない、とはいわない。
D130のような非常に高能率のスピーカーを、数100Wの出力のパワーアンプで鳴らしてみる、とか、
D130が登場した時には考えられなかったほどの高いダンピングファクターのアンプで鳴らしてみる、とか、
高能率同士の組合せとしてDクラスのアンプで鳴らしてみる、とか、
固定観念にとらわれることなく、多彩なパワーアンプで鳴らしてみてもいい。

基本的にそう考えている私だけども、D130について考える時、
現代のアンプが、どれだけD130に寄り添うアンプかという観点から見た時に、
どうしても組み合わせてみたいパワーアンプとして、
別項でも取り上げているファースト・ワットのSIT1が頭から離れなくなっている。

Date: 6月 29th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その17)

ダンピングファクター可変機能を搭載したアンプとして、
しかもここではタイトルに「D130」とつけているのだから、
絶対に忘れてはならないアンプにはJBLのパワーアンプがある。

ここでいうJBLのアンプとはいうまでもなく1960年代に登場した
SE401、SE400S、SE460といった一連のシリーズのことである。

これらのアンプにはイコライザーカードが用意されていた。
SE401用は左右チャンネルを1枚にまとめていた。
SE400Sからは左右チャンネルが分けられるようになって、
カードの型番はM11からM25までとF65の計16枚が用意されていた。

これらイコライザーカードを挿し込むことで、
スピーカーシステムに応じた周波数特性、ダンピングファクターが設定される、というものである。
具体的には、どの程度特性が変化するのか、
そのへんに関する資料を私は持っていないので詳しいことは書けないけれど、
これらのアンプと一緒に出ていたプリメインアンプのSA600の出力インピーダンスは0.35Ω、
そのパワーアップ版のSA660が025Ωだから、SE401、SE400Sの出力インピーダンスもこの値といっていいはず。

ということは0.35Ωで8Ω負荷だとダンピングファクターは22.8になる。
16Ω負荷だと、その倍の45.6になる。

このころのJBLのスピーカーシステムは推奨ダンピングファクターが発表されていて、
その値は意外に低いものだったと記憶している。
ただ手元に資料がないし、旧い記憶ゆえ間違っている可能性もあるけれど、
たしかパラゴンは1から4(もしくは1から8ぐらい)だったはずだ。

ただし、このパラゴンがどの時代のパラゴンかははっきりしない。
最初の150-4Cをウーファーとしたパラゴンなのか、途中からのLE15に変更されたパラゴンなのか。

もっとも、この推奨ダンピングファクターが、すべてのアンプに対してあてはまるというわけではなく、
やはり当時のアンプに対しての値であるものだし、
さらにはJBLのパワーアンプを使って、ということとみることもできる。

あくまでも目安のひとつでしかない、と受け止めるべき、この推奨ダンピングファクターではあるけれど、
D130が生れた当時のアンプのダンピングファクターは、決して高い値ではなく、
むしろ低い値、おそらく1から4ぐらいまでだった、と推測できる。

となると、D130をマランツの管球式パワーアンプ、JBLのパワーアンプとイコライザーカードの組合せ、
ヤマハB4といったアンプで鳴らしてみたら、どういう変化をみせるのか──、そんなことを考えているわけだ。

Date: 6月 27th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その16)

ヤマハのB4の出力インピーダンス可変機能に、
真空管アンプ時代のときのダンピングファクター可変機能と同じようにプラスしていくだけでなく、
-1Ωという、マイナスしていくようにしたのは、スピーカーケーブルの抵抗成分を打ち消すためである。

B4は1978年の新製品である。
このころはスピーカーケーブルで音が変ることがすでにひろく常識となりつつあったころである。
そしてケーブルによって音が変化するというのであれば、
ケーブルの理想はケーブルが、つまりは存在しないこと、長さ0mということであり、
それに近づけるためにオーレックスとトリオはリモートセンシング技術を応用して、
スピーカーケーブルまでもNFBループに含めてしまった。

オーレックスの方式はクリーンドライブ、トリオはシグマドライブと名付けていた。
これらの技術はB4よりも約2年あとに登場している。
たしかフィデリックスもリモートセンシングは採用していた、と記憶している。

クリーンドライブは通常のスピーカーケーブルのほかに1本ケーブルを追加、
シグマドライブは2本追加することになる。

スピーカーケーブルまでがNFBループに含まれるということは、
NFBループが長くなってしまう、ということでもある。
アンプの中だけの済んでいたNFBループがアンプの外にまで拡がってしまい、
そのためループの大きさはスピーカーケーブルの長さによっては、
アンプ内だけのときと比較すると何倍にもなってしまう。

クリーンドライブは聴く機会がなかったけれど、シグマドライブは何度か聴く機会はあった。
確かに、その効果はあるといえばある。理屈としては間違っていない、と思う。
ただ、スピーカーケーブルの種類、その長さ、引回し方、それとスピーカーケーブルをとりまくノイズ環境、
これらによって、ときとしてシグマドライブにしてもクリーンドライブにしても不安定になることも考えられる。

その点、ヤマハのB4はスピーカーケーブルの抵抗成分だけを、
アンプの出力インピーダンスをマイナスにすることで打ち消し、
ケーブルの長さ0mに疑似的に近づけようとしているだけに不安定要素は少ない。

もっとも抵抗成分を打ち消しても、ケーブルのパラメータとしてはほかの要素がいくつも絡み合っていて、
それらに対してはクリーンドライブやシグマドライブのほうが有効といえる。

ヤマハにしてもオーレックス、トリオにしても、
このとき、これらのメーカーはスピーカーケーブルをアンプ側に属するものとして捉えていた、ともいえる。
別項「境界線」で書いていることとも関係している。

Date: 6月 23rd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その15)

何度か書いているようにfacebookでaudio sharingという非公開のグループをやっている。
現在94人(私も含めて)の方が参加されていて、
このブログへのコメントはfacebookにてもらうことが多くなっている。

今朝、昨夜書いた「D130とアンプのこと」の(その14)へのコメントがあった。
ヤマハのB4の出力インピーダンス(ダンピングファクター)の連続可変についての記事のことだった。
ステレオサウンドでは47号の新製品紹介でB4は登場しているけれど、
この機能についての音の変化にはふれられてなかった。
その後もB4の、この機能についての記述はステレオサウンドにはなかった。

コメントには長岡鉄男氏のダイナミックテストからの引用があった。
1978年のFM fanからの引用ということになる。
     *
出力インピーダンスのツマミを動かすと、かなりの音色変化があり、右へ動かせばゆったり、おっとり、左へ動かせばしゃっきり、がっちりとなる
     *
ということはスライドコントロールを右へ動かせばB4の出力インピーダンスは高くなり、
つまりダンピングファクターは小さくなり、
中央よりも左へ動かせば出力インピーダンスはマイナスへと変化していったことがわかる。

コメントしてくださったMさんはJBLの4343をお持ちで、B4も所有されている。
ご自身の音の印象も長岡氏の印象と同じとのこと。

B4は、この出力インピーダンス可変機能の他に、出力段のA級/B級の動作切替えもできる。
A級動作時は30W、B級動作時は120Wの出力をもっている。

同じ回路構成の同じアンプでもA級動作とB級動作の音は基本的なクォリティは同一であっても、
動作を切替えれば微妙な音のニュアンスにおいては差がある。
A級動作の音とB級動作の音とどちらがいいかをではなく、B4はひとつのアンプで、
出力段の動作切替え、出力インピーダンスの可変機能、
このふたつの機能をうまく利用することで、音の変化はかなり広く調整が利き、
積極的な使い方が可能といえば、そういえるアンプである。

こういう機能は不要だ、こんな機能にお金をかけるくらいならば、
その分の費用を音質向上に向けてほしい、とか、
それらの機能を省いて価格を安くしてほしい、という意見もあると思う。

でも、使い手がその気になれば、B4のように一台でそうとうに楽しめるアンプという存在は、
やはりいつの時代にも存在してほしい、と私は思っている。

楽しむことは学ぶことでもあるからだ。

Date: 6月 22nd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その14)

管球式アンプではいくつか搭載されているモデルがあったダンピングファクターの可変機能だが、
トランジスターアンプとなると、あまり多くないのではないか。
私が知らないだけなのだろうが、
私が思い出せるダンピングファクターを可変できるトランジスター式のパワーアンプは、
ヤマハのB4とマークレビンソンのML3、ML9ぐらいである。

マークレビンソンの2機種は連続可変ではなくスイッチによる3段階(HIGH、MID、LOW)切替えである。
具体的に、どの程度ダンピングファクターを変化させているのかは発表されていない。
ML9は聴いたことがない。
ML3はステレオサウンドの試聴室で一度か二度聴いているけれど、
ダンピングファクターを切替えてみることをしてなかったように記憶している。
いま思えばもったいないことをしたと思う。

ただステレオサウンドのバックナンバーを読み返しても、
ML9、ML3でダンピングファクターを変えての試聴記は載っていない。

あくまでも推測にすぎないが、ML9、ML3のダンピングファクターの変化幅はそれほど大きくないような気がする。
そのためあまり効果がみられず、誰もふれなかったのかもしれない。

ヤマハのB4はダンピングファクターは発表されている。
正確には発表されているのは出力インピーダンスで、1Ωから-1Ωまで連続可変となっている。

出力インピーダンスがもっとも高い値(1Ω時)にはダンピングファクターは8、
フロントパネルにあるスライドコントロールを中央にもってくれば、
出力インピーダンスは下りダンピングファクターの値は高くなる。
そして中央をこえてさらにツマミを動かすと出力インピーダンスはマイナスになっていく。
いわゆる負性インピーダンス駆動となる。

1988年にヤマハはAST(Active Servo Technology)方式を発表した。
このASTは別の会社が商標登録しており、すぐにYST(Yamaha Active Servo Technology)と変更されたが、
このAST方式はバスレフ型スピーカーと負性インピーダンス駆動を組み合わせたものだ。

ヤマハB4の、この機能による音の変化はどうだったのだろうか。
機会があれば、いまこそ試してみたいと思っている。
それもネットワークを内蔵した一般的なスピーカーシステムだけでなく、
フルレンジユニットを、ネットワークを介することなくB4と直接結線して、
ダンピングファクターを変えた音を聴きたい。

Date: 6月 18th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・続余談)

RiceとKelloggによるコーン型スピーカーユニットがどういうものであったのか、
少しでも、その詳細を知りたいと思っていたら、
ステレオサウンド別冊[窮極の愉しみ]スピーカーユニットにこだわる-1に、高津修氏が書かれているのを見つけた。

高津氏の文章を読みまず驚くのは、アンプの凄さである。
1920年代に出力250Wのハイパワーアンプを実現させている。
この時代であれば25Wでもけっこうな大出力であったはずなのに、一桁多い250Wである。
高津氏も書かれているように、おそらく送信管を使った回路構成だろう。

このアンプでライスとケロッグのふたりは、当時入手できるあらゆるスピーカーを試した、とある。
3ウェイのオール・ホーン型、コンデンサー型、アルミ平面ダイアフラムのインダクション型、
振動板のないトーキング・アーク(一種のイオン型とのこと)などである。

これらのスピーカーを250Wのハイパワーアンプで駆動しての実験で、
ライスとケロッグが解決すべき問題としてはっきりしてきたことは、
どの発音原理によるスピーカーでも低音が不足していることであり、
その不足を解決するにはそうとうに大規模になってしまうということ。

どういう実験が行われたのか、その詳細については省かれているが、
ライスとケロッグが到達した結論として、こう書かれている。
「振動系の共振を動作帯域の下限に設定し、音を直接放射するホーンレス・ムーヴィングコイル型スピーカー」
 
ライスとケロッグによるコーン型スピーカーの口径(6インチ)は、
高域特性から決定された値、とある。エッジにはゴムが使われている。
しかも実験の早い段階でバッフルに取り付けることが低音再生に関して有効なことをライスが発見していた、らしい。
磁気回路は励磁型。
再生周波数帯域は100Hzから5kHzほどであったらしい。

実用化された世界初の、このコーン型スピーカーはよく知られるように、
GE社から発売されるだけでなく、ブラウンズウィックの世界初の電気蓄音器パナトロープに搭載されている。

以上のことを高津氏の文章によって知ることができた。
高津氏はもっと細かいところまで調べられていると思うけれど、これだけの情報が得られれば充分である。
Rice & Kelloggの6インチのスピーカーの周波数特性が、やはり40万の法則に近いことがわかったのだから。

Date: 6月 13th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その13)

ダンピングファクターは値が高けれどいいのか、というと、必ずしもそうとはいえない、と考えている。

まずダンピングファクターにも周波数特性がある。
良心的なメーカーは、ダンピングファクターの値の横に、たとえば50Hzとか100Hzとか書いている。
これは50Hzなり100Hzにおけるダンピングファクターの値である、ということ。
ダンピングファクターは高域にいくにしたがって、その値は小さくなる。
つまり出力インピーダンスは高くなる。

NFBを多量にかけてダンピングファクターの値を良くしているアンプの多くは、
低域においては非常に高い値を示すけれど、それ以上の周波数においては低下していく。

さらに良心的なメーカーだと、数ポイントのダンピングファクターの値を表示しているところもある。

けれど、ただ値だけを表示しているメーカーの方が多い、といえよう。

ダンピングファクターが重要になるのは主に低域においてだから、それでも充分だろう、という意見もきく。
果してそうだろうか、と私は思っている。
できるだけ可聴周波数帯域では一定のダンピングファクターのほうが好ましいのではなかろうか。

それに同じ値のダンピングファクターであっても、
NFBを多量にかけてその値を実現したアンプと、
出力段の規模を大きくして物量を投入することで、それほどNFBをかけずに同じ値を実現しているアンプとでは、
スピーカーに対する駆動力は、当然のことながら同じとはいえない。

ダンピングファクターの値=スピーカーに対する駆動力と考えたいのだが、現実には必ずしもそうではない。
さらにダンピングファクターが同じであっても、
トランジスターアンプと出力トランスを搭載する真空管アンプとでは、また少し違ってくる。

出力トランスの存在は、そのトランスの2次側の巻線(ここには直流抵抗が存在しているが)によって
スピーカーをショートさせていることになるからだ。

ダンピングファクターはわかりやすい数値のようでもあるが、
実際にはアンプを比較する上でそれほと役に立つ数値ではない。
とはいえ、マランツの管球式パワーアンプのようにひとつのアンプで、
ダンピングファクターが変えられるとなると、話は違う。

Date: 6月 7th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その12)

ステレオサウンド 53号の記事中には、
4331Aのウーファーについてオーバーダンピングぎみと書いてある。
けれど4331Aのウーファーは2231Aだから、
JBLのウーファーのラインナップのなかではオーバーダンピングぎみとはいえない。
JBLのウーファー、同口径のフルレンジユニットの中では、
D130は確かにオーバーダンピング型のコーン型ユニットである。

だから、この抵抗を挿入する実験は、むしろD130やアルテックの604や515のような、
誰がみてもオーバーダンピングぎみではなくて、
オーバーダンピングと断言できるユニットを使ってやってみるほうが、その効果は如実に出てくると推測できる。

1956年に登場したマランツのModel 2にはダンピングファクターコントロール機能がついている。
この機能を使わない状態でのModel 2のダンピングファクターは20だが、
それを5から1/2(0.5)の範囲で連続可変となっている。

ダンピングファクター20ということは、
8Ωのスピーカー(負荷)に対してはアンプの出力インピーダンスは0.4Ωであり、
この値をダンピングファクター5のときは1.6Ωにして1/2(0.5)のときは16Ωにまで変化させていることになる。
0.4Ωと16Ωとでは20倍違う。

出力インピーダンスを20倍も高くできる機能を搭載している理由は、Model 2の登場した年代にある。
この時代に生きてきたわけではないけれど、
どういうスピーカーが存在していたかはわかっている。
JBLのD130、130A、アルテックの604、515が全盛のときであり、
JBLのLE15が登場するのはもうすこし先1960年になってからである。

ダンピングファクターのコントロールは、オーバーダンピングのユニットに対して有効だったのだろう。
それは単にトーンコントロールで低音を増強するというのではなく、
スピーカーに対する制動そのものを変化させるわけだから。

つまりD130のようなオーバーダンピングのユニットが登場した理由のひとつには、
これらのユニットが生れた同時代のアンプのダンピングファクターは決して高い値ではなかったこと、
その裏付けでもある、と考えてもいいはずだ。

マランツはその後のModel 5、Model 8、Model 9にも、
やり方は変えているものの、抵抗挿入によってダンピングファクターをコントロールできるようにしている。

Date: 6月 7th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その11)

パワーアンプとスピーカーのあいだに抵抗を挿入する手法は、
いまではほとんど話題にならないけれども、
私がオーディオをやりはじめたころにはまだ雑誌で見かけることもあった。

抵抗を入れればダンピングファクターがコントロールできる。
けれど、というか、当然ながら、というか、
それまでなかった抵抗がそこに加わるわけだから、挿入された抵抗器の固有音が加わることになる。
どんな手法にもメリットとデメリットがあるわけで、
その手法をどう判断するかは、自分にとってデメリットよりも、もたらされるメリットが大切がどうかである。

この手法も抵抗器に良質なものを選べば、いまも試してみる価値(というよりも面白さ)がある、と思う。
実際にやる場合に注意すべき点は抵抗値が大きくなればなるほど、
その抵抗による電力損失が大きくなるということで、抵抗の容量の大きなものを必要とする。

オームの法則から電力は電流の二乗×抵抗値だから、
高能率のスピーカーでしかも音量の制約つきであれば、
デールの無誘導巻線抵抗の容量の大きなもので、いくつか抵抗値を変えて実験してみて、
その音の変化を自分のものとできれば、いい経験(勉強)になる。

オーディオマニアはどうしてもなにか比較したときに、どちらが音がいいかの判断をすぐにしがちだが、
ときに大事なのは、どちらがいい音かではなくて、そこでどういう音の変化をしていくのか、
そのことを経験値として自分の中に蓄積していくことである。

蓄積していったことはすぐには役に立たないことの多い、と思う。
それでもいろんなことを試してみて、そうやっていくつものパラメータを自分の中に蓄積していく。
それが、あるレベルを超えれば、それまでどちらかといえばやみくもにやってきていた使いこなしに、
光が射し込んでくる瞬間がきっとくる。

いい音で聴きたいという気持が、ときには音の判断にあせりを生じさせる。
いい音を出すということは、人との競争ではないのだから。
だからこそ先を急がないでほしい、と思うことが最近多くなってきたのは、
そういう空気が色濃くなりはじめてきているのか、それとも私が歳をとったからなのか……。

Date: 6月 6th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その10)

ステレオサウンド 53号に、こんな記事が載った。
それまでのステレオサウンドにはなかった記事(私が読みはじめた41号なので、それ以降ということだが)。
タイトルはかなり長めで、
「プロフェッショナルたちがあなたの装置のトラブルや不磨をチェックするとこうなります」で、
筆者名のところにははじめてみる宇田川弘司とあった。

宇田川氏については記事中にはなにもふれられていなので、どんな経歴の方なのかは私は知らない。
それにこの記事のタイトルにある「プロフェッショナルたち」からわかるは、
この記事は宇田川氏だけでなく、
ほかの方々(どんな方なのかは不明)も登場して連載記事にする予定だったのだろう。

この記事は53号だけで終ってしまった。
ステレオサウンドをずっと読んでこられた方でも、この記事をおぼえている方はそんなに多くないようにも思う。
地味な印象の記事だった。

この記事に登場した読者の川畑さんは、
JBLの4331Aに2405のコンシュマー版の077をつけ加えられたスピーカーシステムを使われている。

この4331Aに対して、宇田川氏は私見として
「プロ用のウーファーはオーバーダンピングぎみになりがちだから」と語られている。
そして川畑さんの不満を解消するためにパワーアンプとスピーカーのあいだに直列に抵抗をいれられた。

つまりパワーアンプの出力インピーダンスを高くしてしまうわけだ。
たとえば1Ωの抵抗を直列にいれれば、この1Ωぶんだけパワーアンプの出力インピーダンスは高くなる。
仮にパワーアンプの出力インピーダンスが0.1Ωだったら1+0.1で1.1Ωになる。
当然ダンピングファクターは低くなる。
0.1Ωだと80あったダンピングファクターが、1.1Ωだと7.2727となってしまう。

宇田川氏は音を聴きながら直列にいれる抵抗の値を1Ω、0.5Ωと変えられ、
さらにパワーアンプが管球式かトランジスターかによっても抵抗値を変えられている。

こういう手法があることは、ステレオサウンド 53号を読む以前にも何かで読んだ記憶があり知ってはいた。
知ってはいたけれど……、である。