Archive for category アナログディスク再生

Date: 12月 7th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その21)

“Reference”という名称をもつアナログプレーヤーは、
トーレンスのリファレンス以外にもいくつかある。
けれど、私にとって”Reference”と呼べるプレーヤーはトーレンスのリファレンスだけであり、
あとのリファレンスは、「これもリファレンスなのか……」という感じである。

トーレンスのリファレンスは木製のベースも含めると、その重量は100kgを超えている。
外形寸法はW62×H36×D51cm。かなりの大型プレーヤーであるばかりでなく、
全体的に量感のある外観をもつ、実に堂々としたプレーヤーである。

こまかくみていくと、振動をコントロールするためにアイアングレイン(鉄の粒)、合板なども使われているが、
圧倒的にアルミのかたまり、といえる。
惜しみなく物量を投入した設計だし、
ただ物量を投入しただけのプレーヤーではないからこそ、
リファレンスの音は、これと肩を並べるプレーヤーはごくわずかに存在していても、
これを優るプレーヤーはない、と私は断言しておく。

トーレンスのリファレンスよりも高価なプレーヤー、能書きの多いプレーヤーは存在する。
けれど、そのどれも私の琴線にはまったくひっかからない。
私がアナログディスク再生に求めているものとは、じつに正反対の音を出す。
その手の音を、いい音、新しい音と持て囃す人がいる──。
けれど、私にはまったく関係のないことでしかない。
私にとって、それは新しい音でもなければ、いい音でもないからだ。

ステレオサウンド試聴室での、井上先生によるDS2000の試聴のときまで、
アナログプレーヤーにはある程度の物量は必要だし、
物量をうまく投入したプレーヤーでなければ聴けない音がある以上、
トーレンスのリファレンスの大きさは、大きいと思っても、
それは音のために仕方のないことだと思ってもいた。

けれどリファレンスが同一空間にあるだけで、
すくなくともスピーカーと聴取位置とのあいだに、視覚に入る範囲にあれば、
その存在が、これほど音に影響を与えているとは、まったく思っていなかった。

だから毛布を一枚リファレンスにかけただけの音の変化の大きさに驚き、
ある程度の大きさの金属のかたまりが音響的にどう影響しているのか、をはじめて実感した。

Date: 12月 7th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その20)

SMEの最初のトーンアーム3012が、オルトフォンのSPUのためにつくられたのだから、
Series VがSPUの良さをこれほどよく引き出したのは、いわば当然の帰結なのだ、
と、そう信じられるほどによくSPUが鳴ってくれた。

Series VがSPUのために開発されたトーンアームなのかどうかは、はっきりとしない。
けれど、そんなことは音を聴けばわかる。
そう断言できるほどに、SPUの本領が、ほぼすべて発揮された音をやっと聴くことができた。

Series Vをトーレンスのリファレンスに取り付けて、SPUを鳴らしてみたら……、
ということは、不思議なことにまったく思わなかった。
私の性格からして、そう思いそうなのに、
SPUにとってSeries Vが最良のパートナーであるのと同じように、
Series VにとってSX8000IIが、すくなくともこのときは最良のパートナーであった。
おそらく、これはいまもそうではないか、と思う。

これを書きながら、Series Vをリファレンスと組み合わせたら……、と想像している。
もちろん素晴らしい音が聴けるのは、間違いのないこと。
けれど……、と思い出すことがある。

いまから27年前のこと。
ステレオサウンドの試聴室で、井上先生による新製品の試聴を行っていた。
ダイヤトーンのスピーカーシステムDS2000の取材だった。
このときのことは、ステレオサウンド 77号に載っている。
すこし引用しておこう。
     *
最初の印象は、素直な帯域バランスをもった穏やかな音で、むしろソフトドーム型的雰囲気さえあり、音色も少し暗い。LS1(注:ビクターのスピーカースタンドのこと)の上下逆など試みても大差はない。いつもと試聴室で変わっているのは、試聴位置右斜前に巨大なプレーヤーがあることだ。この反射が音を濁しているはずと考え仕方なしに薄い毛布で覆ってみる。モヤが晴れたようにスッキリとし音は激変したが、低域の鈍さが却って気になる。置台が重量に耐えかねているようだ。
     *
試聴位置右斜前にあった巨大なプレーヤーとは、トーレンスのリファレンスのことだ。

Date: 12月 6th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その19)

オルトフォンのカートリッジは、田舎でのシステムでMC20KKIIを使っていた。
SPUも聴いてみたかったし、手に入れてみたかったのだが、
そのころの私の使っていたプレーヤーシステムのトーンアームでは、32gの自重のSPUは無理があった。

MC20MKIIはいいカートリッジだったし、気に入っていた。
同じオルトフォンでもMCシリーズとSPUシリーズが違うことは知ってはいた、
そのSPUシリーズがSPU-Goldとなってリファインされたことが、
SPUへの関心をそうとうに大きくしてくれた。

EMTのTSD15も、オルトフォンのSPUをベースに開発されたカートリッジだと云われていたし、
伝統的な鉄芯入りのMC型カートリッジの両雄ともいえるSPUとTSD15。

なのにSPUに対して、手に入れるという行動にまでいたらなかったのは、
TD15にはEMTの930st、927Dst、トーレンスのリファレンスといった、
TSD15にとって最良といえる専用プレーヤーシステムが存在していたのに対し、
SPUには専用のトーンアームはあったけれど、
専用、もしくは最良のプレーヤーシステムがなかったことが大きく影響している。

いつのころからなのかは自分でもはっきりしないけれど、
カートリッジ、トーンアーム、ターンテーブルとの三位一体での音──、
だからこそプレーヤーシステムとして捉えていることに気がつく。

そんな私が、SX8000II + Series V + SPU-Goldの音を聴いたとき、
はじめてSPUを欲しい、自分の音として欲しい、と思ったことを、いまでも憶えている。

私にとってSPUを最良に鳴らしてくれるのはSX8000II + Series Vの組合せであり、
SX8000II + Series Vの組合せに最適のカートリッジはSPUであり、
ターンテーブルは日本のマイクロ、トーンアームのイギリスのSME、カートリッジはデンマークのオルトフォン、
国もブランドもばらばらなのに、SPUとっての三位一体のプレーヤーシステムがやっと登場してくれた──、
本気でそうおもえたし、いまもそうおもっている。

Date: 12月 6th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その18)

おもえば日本という国は、カートリッジをあれこれ交換して聴く、という環境に恵まれていた。
SMEの規格がいわば標準規格のように採用されて、
ほとんどのプレーヤーでヘッドシェルごとカートリッジを容易に交換できるようになっている。
単体で販売されていたトーンアームのほとんどが、やはりヘッドシェル交換型であった。

MM型カートリッジの特許はアメリカのシュアーとドイツのエラックがもっていたが、
日本では特許が認められなかったため、日本国内では国内メーカーからMM型カートリッジがいくつも登場した。
けれど、これらのカートリッジはシュアーとエラックの特許が認められている海外への輸出はできなかった。

日本でしか販売できない日本のメーカーによるMM型カートリッジの種類は、実に多かった。
それに国内のMC型やコンデンサー型など、他の発電方式のカートリッジ、
海外製のカートリッジの多くが輸入されていたし、1970年代のオーディオ販売店の広告には、
カートリッジをまとめ買いすることで、定価があってないような価格で売られてもいた。

私はというと、そのころはまだ高校生だったし田舎暮らしだったこともあり、
FM誌に載っている、その販売店の広告を見ては、
上京したら、このカートリッジとあのカートリッジを買うぞ、と思うだけだった。

なのに実際に上京したら、何度も書いているように、
とにかくSMEの3012-Rだけは買っておかなければ、ということで、
これだけは無理して買った(当時の広告では限定販売となっていたので)。
ステレオサウンドで働くようになるまで、手持ちのオーディオ機器は、この3012-Rだけだったから、
カートリッジをあれこれ買うぞ、というのは妄想に終ってしまった。

ステレオサウンドにいたことも大きかったと思うのだが、
結局、私はEMTのカートリッジがあれば、
あのカートリッジも、このカートリッジも欲しい、という気はあまりおきなかった。
ステレオサウンドの試聴室で聴けるし、
仕事でカートリッジの交換を頻繁にやっていると、自分のシステムでまで、
頻繁にカートリッジを交換して聴く、という気がなくなっていったのかもしれない。

それでも、ときどきノイマンのDSTを知人から借りたり、
オーディオテクニカから当時販売されていたEMTのトーンアーム用のヘッドシェルに、
いくつか気になるカートリッジを取り付けて聴いたことはあったけれど、
DST以外はEMTのTSD15にすぐに戻っていた。

そんな私でも、オルトフォンのSPUだけは、現行のカートリッジの中で気になっていた。

Date: 12月 5th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その17)

EMT・927Dst、トーレンスのリファレンス、
このふたつのプレーヤーシステムの音に関しては、EMTのカートリッジTSD15とかたく結びついている。

927DstはTSD15を前提としたプレーヤーであるから当然として、
トーレンスのリファレンスも最初に聴いたときがTSD15とトーンアームもEMTの929だった。

リファレンスには最大3本のトーンアームを装着できる。
TSD15 + 929は標準装備でもあったようだ。

リファレンスはステレオサウンド試聴室で一時期リファレンスプレーヤーとして使われていたことがある。
そのときに、いくつかのカートリッジを聴く機会を得たわけだが、
私にとってリファレンスの音は、
最初に聴いた時から、いまもそしてこれから先もずっとTSD15との音である。
TSD15と切り離して考えることはできないわけだ。

マイクロのSX8000IIも、ステレオサウンド試聴室のリファレンスプレーヤーであった。
私がステレオサウンドにいたまる7年間で、もっとも長くリファレンスプレーヤーとして使われていたのが、
SX8000IIとSMEの3012-R Proの組合せである。

この組合せからなるプレーヤーで、いくつもカートリッジを聴いてきた。
リファレンスプレーヤーとして、この組合せはあったけれど、
リファレンスカートリッジは、なにかひとつに決っていたわけではない。
オルトフォンのSPU-Goldがリファレンスの場合もあり、トーレンスのMCHIIのときもあり、
他のカートリッジがリファレンスのときもあった。
人により、時によりリファレンスカートリッジはその都度違っていた。

だからなのかもしれない、SX8000IIに3012-R Proの音をいいと感じてはいたものの、
その音は、ある特定のカートリッジと結びついていたわけではない。

この点が、SX8000IIにSMEのSeries Vを組み合わせた時と大きく異る。
私にとってSX8000II + Series Vの音は、オルトフォンのSPU-Goldとの組合せである。

最初に聴いたのがSPUだったことも大きく関係している、とおもう。
それでもその後、いくつもカートリッジをSeries Vに取り付けては聴いている。
Series Vに取り付けて、およそいい音で鳴らないカートリッジはなかった。
もしSeries Vでいい音で鳴らないカートリッジがあるのならば、
そのカートリッジはどこかおかしいのか、そうでなければSeries Vの調整が狂っている、
そう判断してもいいと断言できるくらいに、Series Vの音は、あの時もいまもこれに匹敵するものはない。

それでもSPUでの音は格別だった。
ずっとEMTで聴いてきた私だけに、
よけいにSX8000II + Series V + SPU-Goldの音は、より克明に記憶に刻まれているのだ、と思う。

Date: 12月 4th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その16)

マイクロのSZ1について、その細部についてあれこれ書くことは出来るけれど、
書いていて気持のいいものではないし、読まれる方はもっとそうだろうから、
細々としたことは書かない。

私は、ただSZ1でアナログディスクをかける気が全くしないわけだが、
同じマイクロのSX8000IIに対しては、違う感情・感想をもっている。

おそらくSZ1を担当した人とSX8000IIを担当した人は違うのだと思う。
だからといってSX8000IIのデザインが、
アナログプレーヤーシステムとしてひじょうに優れたものとは思っていない。

細部には注文をつけたくなるところがいくつもあり、
全体的なことでもいいたいことがないわけではない。
でも、SX8000IIは自家用のプレーヤーシステムとして使いたい、と思わせるプレーヤーになっている。

SZ1もSX8000II、どちらも金属の塊である。かなりの重量の金属の塊であるのだが、
目の前においたときの印象はずいぶんと違う。
音も、SZ1の音はまったく印象に残っていないと書いているが、
SX8000IIをはじめて聴いた時のことは憶えている。
もっと強く印象に残って、はっきりと思い出せるのは、SMEのSeries Vと組み合わせたSX8000IIの音だ。

私の耳にいまも、おそらく死ぬまでずっと残っているアナログプレーヤーの音は、
EMTの927Dst、トーレンスのリファレンス(この2機種はどちらもEMTのTSD15での音)、
そしてSX8000II + Series V + SPU-Goldの音である。

RX5000から始まった、このシリーズはSZ1でどか違うところにいってしまうのではないか、と思ったりもしたが、
SX8000IIで、かなりのところまで完成度を高めている。

だから927Dst、リファレンスとともに、私の耳にいつまでものこる音を出したのだろうし、
SX8000IIが日本のプレーヤーであることは、やはり嬉しくおもう。

Date: 12月 3rd, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その15)

アナログプレーヤーは、他のオーディオ機器とは違う。
それはデザインにおいて、決定的に違うところがある。

オーディオ機器のデザイン、
アナログプレーヤーのデザイン、CDプレーヤーのデザイン、チューナーのデザイン、
カセットデッキのデザイン、オープンリールデッキのデザイン、
コントロールアンプのデザイン、パワーアンプのデザイン、スピーカーシステムのデザイン、
これらのなかでアナログプレーヤーのデザインだけが、特別に違うのは、
アナログプレーヤーのデザインはアナログプレーヤーだけでは完結しない、ということと、
アナログプレーヤーにおける「主」は、ターンテーブルプラッター、トーンアーム、カートリッジなどではなく、
LP(アナログディスク)だという点にある。

コントロールアンプにはコントロールアンプのデザインの難しさ、
パワーアンプにはパワーアンプのデザインの難しさ、
スピーカーシステムにはスピーカーシステムのデザインの難しさがあるわけだが、
それでもアンプにしてもスピーカーにしても、
(部屋との調和、他の機器との調和という問題はあるにせよ)単体で完結している。

プログラムソースとなるオーディオ機器、
カセットデッキ、オープンリールデッキ、CDプレーヤーもアナログプレーヤー同様、
メディアをセットするオーディオ機器であるわけだが、
カセットデッキ、CDプレーヤーはメディアの大きさと機器との大きさが違いすぎるし、
カセットテープもCDも基本的には本体中にセットされ、
CDはほとんど見えない状態で、カセットテープも一部が外から見える程度である。

オープンリールデッキは、CD、カセットテープに比べればずっと大きいわけだが、
オープンリールデッキのデザインは、すでにリール込みのものである。
そのリールもデッキ本体と同じ金属製である。

アナログプレーヤーでは直径がLPでは30cmあり、
その材質は塩化ビニールであり、金属ではない。
艶のある漆黒の円盤がアナログディスクであり、しかも表面には溝が刻んである。
そこに音楽が刻まれていることが視覚的に確認できる。

テープにも音楽が記録されているわけだが、人間の目にはテープ表面の磁性体の変化を捉えることは出来ない。
録音されているテープとそうでないテープを目で判別は出来ない。

そういうアナログディスクを、ほぼ中央にセットして回転させるのがアナログプレーヤーであり、
アナログプレーヤーシステムを構成するのは、
ターンテーブル、トーンアーム、カートリッジ、プレーヤーキャビネットなどだけでなく、
アナログディスクがあって、はじめてプレーヤーシステムとして構成されることを、
気づいていないメーカー、それを忘れてしまったメーカーがつくるプレーヤーで、
アナログディスクを再生したいと思うだろうか。

マイクロはSZ1において、このことを忘れてしまったとしか思えないのだ。
だからSZ1を私は認めない。

Date: 12月 3rd, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その14)

マイクロのターンテーブルにXがつくモデルは、
ダイレクトドライヴ型では、あの有名なDDX1000(DQX1000)がある。

おそらくターンテーブルプラッターのみだけという印象を与える構成のモデルに、
マイクロはXの型番をつけているのだと思う。
RX5000、RX3000、SX8000も、だからXが型番につく。

SZ1は、Xがつくモデルとは異り、一般的なプレーヤーと同じシルエット、
つまりベースがRX5000、SX8000よりもぐんと拡がっていることもあって、
SX1ではなく、SZ1という型番となったのだろう。

と同時にマイクロにとって、その当時の、もてる技術をすべて注ぎ込んで開発した、
いわばマイクロにとってのフラッグシップモデルでもあったわけで、
その意味も込めて、アルファベットの最後の文字であるZを型番に使っている、といわれている。

SZ1が登場したとき、私はすでにステレオサウンドにいた。
SZ1には、実を言うと、すごく期待していた。
SX8000をこえるモデルを、マイクロが開発した。
これだけでもわくわくして、SZ1の到着をまっていた。

SZ1の個々のパーツは木枠にはいって届いた。
そういう重量の製品であることが、梱包の状態からでも伝わってくる。
重量のあるプレーヤーが、必ずしもいい音を出してくれるわけではない。
そんなことはわかっていても、
やはり物量を投入しないと、どうしても出せない音があるのも同時にわかっている。

トーレンスのリファレンスをこえるアナログプレーヤーが、
日本の製品として登場してくれるのかも、とも期待していたことを思い出す。

木枠が開けられ、パーツが取り出され組み立てられていくSZ1を見て、
期待は完全に失望へと変っていた。

アナログプレーヤーは、基本メカニズムであり、
だからこそ精度が重要であることは理屈として正しい。
その精度の高さを実現しているのがSZ1なのもわかる。
けれど、なぜここまで冷たい雰囲気を漂わせなければ成らないのか。

RX5000、SX8000よりも大きくなったベース。
それだけに色、仕上げ、質感は、より大きなウェイトをもつことになるのは誰にでもわかることだ。
なのに、この色、この仕上げ、この冷たさ……。

SZ1の音のことについては書いていない。
実は、ほとんど印象に残っていないからだ。

たしかにステレオサウンドの試聴室で聴いた。
それは短い時間ではなかった。
でも記憶に残っていない。

Date: 12月 3rd, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その13)

この項のタイトルにはあえて「私にとって」とつけている。

今年でCDが誕生して30年、
そのあいだにDVD-Audioも出てきて、SACDも登場してきた。
デジタルといっても、30年前はPCMのみだったのが、いまではDSDもある。
そしてCDはそろそろ消えていきそうな気配をただよわせている。

デジタルのメリットを活かした供給方法は、
インターネットによるオンラインであることは間違いないだろう。

30年前、身の廻りにあるものデジタルといえば、CDぐらいだった。
それがいまや電話もカメラもテレビも、いたるところにデジタルが、いまやふつうのものとして存在している。

そういう時代に、アナログディスクを再生することは、どういうことなのか、
と特に考えているわけではない。
ただ好きなように、アナログディスクだけは再生してみたい、という気持がつよい。

人さまからどういわれようと、やりたいことをやれる範囲内で好き勝手にやって楽しみたい、
そう思わせる時代になってきていると、私は感じている。

だからいままで言わなかったこと、書かなかったことも、
ことアナログディスク再生については、書いていこうと思っている。

昨晩書いたように、私はマイクロのSZ1をまったく認めていない。
もっと書けば、このターンテーブルを絶賛する人は、
その人が一アマチュアであればなにもいわないけれど、
オーディオを仕事としている人(オーディオ評論家と名乗っている人)が、
SZ1をマイクロの最高傑作だとか、
マイクロのフラッグシップモデルとしてふさわしい内容と音をもつとか、
そんなことを言ったり書いたりしていたら、私はその人の感性を、
その人の発言をまったく信用しない。

私は、そのぐらい、LPをSZ1で聴きたいとは思っていない。

Date: 12月 2nd, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その12)

RX5000 + RY5500が得た高い評価は、
マイクロ以外のガレージメーカーからも、類似の製品が少なからず出たことからもわかる。

後発のターンテーブルは、RX5000よりも重いターンテーブルプラッターを採用したりしていた。
ただ、どれもステレオサウンドに載った広告をみるかぎり、
決して完成度の高い、とはいえないRX5000が、完成度の点では上に思えるものばかりだった。

マイクロのSZ1は、それらを蹴散らす意図もあったのかもしれない、
それからプレーヤーシステムとして完成させようとしていたのだとも思える。

SZ1が、RX5000、SX8000、RX1500となにが大きく異るかといえば、ベースである。
RX5000、SX8000、RX1500、これらはどれもベースの大きさはレコードジャケットサイズとほほ同じである。
だからアームベースは、どのアームベースを使ってもベースからはみ出るような形でつく。

このことが良くも悪くも石臼的な姿につながっているし、
使い勝手の悪さの元にもなっている。
馴れないとカートリッジの上げ下げに不安をおぼえる人もいたと思う。

通常のプレーヤーだと手のひらの小指側の側面をベースにのせてカートリッジの操作ができるのに、
RX5000ではベースに、手を乗せるスペースがほとんどない。
だから実際に使用にあたっては、小指をのばしてベースにふれるようにするか、
右手の下に左手置いて、という使い方になってしまう。

SZ1は、マイクロの最高のプレーヤーとして登場した。
物量はRX5000、SX8000以上に投入し、それまで培ってきた技術はもちろん、
プレーヤーシステムとして使い勝手に関しても考慮して、
SZ1のシルエットは、通常のプレーヤーと同じになっている。

このこと自体は、とくに悪いことだとは思わない。
けれどSZ1は、プレーヤーシステムはLPというアナログディスクを再生する機器であることを、
その長いキャリアのどこかに忘れてきてしまったのではないか、
そういう印象を見た人に、そして触ってみると、そのことを確信できてしまうほど、
冷たく無機的で、これでアナログディスクを聴きたいとは思わせない、
私にとってはそういうアナログプレーヤーでしかない。

Date: 12月 2nd, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その11)

音のことだけで比較すれば、SX8000の方がRX5000よりも、いい。
音の滑らかさということに関しては、特にSX8000がいい。

まだステレオサウンドの読者で、写真の上でRX5000とSX8000を比較していたころは、
どちらも決していいデザインではないけれど、SX8000(青色ベースに関して)のほうが、
まだ良く見えていた。

それが実際に自分で自分の部屋で、SMEの3012-Rとの組合せで使ってみると、
RX5000の色合い、脚部、アームベース取付用の四隅の円柱の仕上げが好ましく感じられる。

マイクロは、この糸ドライヴシステムが思いの外ヒットしたことで、
RX1500シリーズも出す。

RX5000が出た時に、ローコスト版のRX3000 + RY3300もあった。
そう悪くはなかったはずなのに、こちらはあまり話題にならなかった、と記憶している。

RX1500はRX3000の後継機であり、外観的にもRX5000のジュニアモデルともいえる。

RX1500は細部にデザイナーの手がはいっている。
そんな感じを強く受ける。
RX5000は社内での実験機をそのまま製品化したという感じを残しているモデルであり、
SX8000、RX1500と、少しずつ製品として仕上げられている、ともいえるのだが、
それが結果として好ましいかどうかは──、
すくなくとも私にとってはあまりいい方向には進んでいないように感じていた。

マイクロのアナログプレーヤーの専業メーカーといっていい会社である。
数多くのプレーヤーに関係する製品を開発してきている。
けれどプレーヤーシステムということに関して、
素晴らしい、と素直に思える製品を出していない、アナログプレーヤーの専業メーカーでもある。

RX5000以降の糸ドライヴ(途中からベルトドライヴになる)によって、
音に関しては高い評価を得るようになったマイクロだが、
プレーヤーシステムづくりのまずさはひきずったままで、
そのことが盛大にでてしまったモデルが、SZ1だと私はみている。

Date: 12月 2nd, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その10)

マイクロのRX5000とSMEの3012-Rの組合せは、
私にとって、プレーヤーシステムのデザインについて見つめ直すいいきっかけとなった。

RX5000は音の面で評判になっていた。
瀬川先生はRX5000を二台用意して二連ドライヴも試されている。
私は、この二連ドライヴの音は聴いたことがないが、いいんだろうな、とは想像できる。
けれど音のことだけでなく、プレーヤーシステムとしてのデザインを求めていくと、
二連ドライヴは大袈裟すぎて、RX5000の視覚的メリットを損なうことにもなる。

割と気に入っていたRX5000だが、欠点がないわけではない。
調整が面倒なのは、私はそれほどの欠点とは思っていないけれど、
RX5000の欠点は、耐久性にある。

砲金製のターンテーブルプラッターの重量は16kg。
軸受けが長期間の使用には耐えられない。
それに軸受けから、直接耳に聴こえるわけではないのだが、ノイズが発生していることもわかっていた。

だからマイクロは空気の力を借りてターンテーブルプラッターを浮上させ、
軸受けへの負担をなくしたSX8000を開発している。

SX80000の基本的な形はRX5000と同じだが、
ターンテーブルプラッターの材質がステンレスに変更され、
ベースの色も黒からブルーになっている。
黒も用意されてはいたのだが、私は目にしたSX8000はすべて青だったため、
SX8000イコール青の印象が強い。

それから脚部の仕上げ、トーンアームーベースを取り付ける四隅の円柱の仕上げも、
RX5000とSX8000では異る。
SX8000ではターンテーブルプラッターと同じ仕上げで、ステンレス特有のてかりがある。

機構面での変更は大きいものの、見た目の変更はわずかこれだけにもかかわらず、
ターンテーブルを縁の下の力持ちとして位置において、
RX5000とSX8000のそれぞれの位置は違ってきていると感じる。

RX5000の石臼的な存在感が影をひそめ、
ターンテーブル自体がアナログ再生の主役である、ということを、自己主張しはじめてきた。

Date: 12月 1st, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その9)

LPは、一部例外的にピンク、白などのディスクもあったけれど、
黒、それも艶のある黒のディスクである。

そのディスクをカートリッジがトレースするわけだが、
トレースしていくためにはトーンアームが必要であり、
レコード、カートリッジ、トーンアーム、
この三つが、アナログディスク再生では動きを表している。

ターンテーブルプラッターももちろん回転しているわけだが、
精度が高く静かに回転しているターンテーブルほど、
それは静止しているようにも見える。

レコードには溝が刻んであるし、中心はレーベルがあり、
どんなにターンテーブルプラッターがわずかなブレもなく静かに回転していても、
レコードが回転していることは、すぐに判別できる。

カートリッジはレコードの外周から内側に向けて、これもまた静かに移動していく。
その移動もトーンアームが弧を描きながら支えている。

レコードに反りがあれば、カートリッジ、トーンアームの動きに上下方向が加わる。
ふわっ、とほんのすこし上昇したかと思えば、すぐにさがり静かに、何事もなかったかようにトレースを続けていく。

こういう場面を頭のなかで描いてみてほしい。
そのときのターンテーブルは、意外にも、というか、当然というか、
マイクロのRX5000と同じような姿をしているのではなかろうか。

RX5000は、ターンテーブルプラッターは砲金製で金色、厚みもけっこうある。
このターンテーブルプラッターを支えるベースは必要最少限の大きさの正方形で、
四隅をカットしている。色は黒。

RX5000の外形寸法はW31.2×H13.2×D31.2cmで、
LPのジャケットサイズとほぼ等しい。

プレーヤーを明るく照らすのではなく、ほのかに照らしたような使い方だと、
ベースの部分は影に埋もれていく。
本金の金色もギラつくわけではない。
視覚的にはレコード、カートリッジ、トーンアームだけが浮び上ってくる。

ターンテーブルのRX5000は、文字通りの縁の下の力持ち的存在でいることを、
自分で使ってみてはじめて知ることとなった。
SMEの3012-Rの優美さを際立たせてくれた。

Date: 11月 30th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その8)

SME・3012-Rを取り付けるターンテーブル選びは、
ステレオサウンド 58号の瀬川先生の記事を読んだ時から、ずっと考え続けていたことである。
     *
どのレコードも、実にうまいこと鳴ってくれる。嬉しくなってくる。酒の出てこないのが口惜しいくらい、テストという雰囲気ではなくなっている。ペギー・リーとジョージ・シアリングの1959年のライヴ(ビューティ・アンド・ザ・ビート)が、こんなにたっぷりと、豊かに鳴るのがふしぎに思われてくる。レコードの途中で思わず私が「お、これがレヴィンソンのアンプの音だと思えるか!」と叫ぶ。レヴィンソンといい、JBLといい、こんなに暖かく豊かでリッチな面を持っていたことを、SMEとマイクロの組合せが教えてくれたことになる。
     *
ここのところう読んだ直後、というか、読みながら、すでに3012-Rを買う! と決心していた。
その決心と同時に、ターンテーブルは何にしようか、と考えていたわけだから、
ほぼ1年、頭のなかであれこれシミュレーションしていて、
すでに書いたようにマイクロのRX5000 + RY5500にしたわけだ。

RX5000 + RY5500はトーンアームをセットした状態でも、
プレーヤーシステムとは呼べない性格のプレーヤーである。
プレーヤーシステムではなく、プレーヤーを構成するパーツを売っているようなもので、
プレーヤーモジュールと呼ぶべきかもしれない。

デザインに関しても、洗練されているとはお世辞にもいえない。
はっきりいって武骨である。3012-Rの優美さとは似合わない、と最初は思っていた。

けれど、そんな頭のなかだけのシミュレーションと実際は違うわけで、
それはこの項の余談でも書いているように、
自転車のフレームを単体で見ていたときと自転車として組み上げた時とで、
そのフレームに対する印象がまるっきり変ってしまうのと同じことを、体験していた。

Date: 11月 28th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・余談)

アナログプレーヤーのデザインのことについて書いていて浮んでくることは、
自転車のことである。

自転車もアナログプレーヤーと同じところをもっている。
自転車を構成するものは、大きくわければ3つある。
まずはフレーム、リム、タイヤ、スポークを含めたホイール,
そしてそれ以外のパーツ、
つまりブレーキ、フロント・リアディレイラー(変速機)、クランク、チェーンなどのコンポーネントパーツ。

この3つの構成要素のなかで、もっとも大きく、自転車のデザインを大きく左右するのはフレームだと思い、
1995年、ロードバイクを買おう、としたときに、まず決めたのは当然フレームだった。

オーディオへの取組みと自転車への取組みは若干違うところがある。
自転車はプロの選手になろうんて考えていたわけでもないし、
アマチュアとしても速い選手になりたかったわけでもない。
自転車という趣味を、ひとりでただ楽しみたかった。

そのためには性能の優れた自転車であってもデザインが気に入らなければ買いたい、とは思わず、
逆にデザインが気に入れば、最高の性能を持っていなくてもいい──、
それが私の、そのときの自転車の選び方であり、
とにかく気に入ったフレームで、自分に合うサイズが見つかったら、それで組もうとしていた。

自転車の専門店に行けば、吊し、とよばれる、フレームだけが単体で展示してある。
フレームだけの状態でみていると、イタリアのチネリはカッコイイ。

1995年はスーパーコルサだけでなく、チノ・チネリの復刻フレームが残っていた。
サイズも合うのが見つかった。やっぱりチネリだな、と思っていたし、
チネリとともにイタリアを代表する老舗のフレーム・ビルダーであるデ・ローザは、いかにも武骨だった。

仕上げもチネリの方がいい。フロントフォークの肩の部分が、チネリはなだらかなカーヴを描いているが、
デ・ローザは昔の自転車のフロントフォークのように、肩の部分が水平であり、
チネリに感じられるスマートさが、まったく感じられない。

色も私が見たのは、オレンジ色のデ・ローザだった。
デ・ローザがいいフレームであることは知ってはいたけれど、
デ・ローザにすることはないな、と思い、
チネリを第一候補として、次はどの自転車店で購入するかを決めるために、いくつもの店をまわった。

そうやって結局最初に行った浜松町にあるシミズサイクルで購入することにして、ふたたび向った。

デ・ローザのオレンジ色のフレームを見たのは、このシミズサイクルだった。
二度目のシミズサイクルで見たのは、完成されていたデ・ローザのオレンジ色の自転車だった。

フレーム単体で見ているときと、完成車で見ているときとでは、こうも印象が変ってくるものか。
そのことを実感しながら、フレーム単体で見ていたときには候補から外していたデ・ローザに決めてしまった。

フレーム単体では武骨な見え、欠点のように思えていたところが、
完成されると、そこが力強さを感じさせる長所へと変っていることに気づかされる。

フレーム単体では、雑な仕上げにみえる塗装も完成されてしまうと、
映える印象へとうつっていく。
オレンジ色のフレームなんて、と思っていたのが、いかにもイタリアらしい、とさえ思ってしまうほど、
印象が変る。

アナログプレーヤーもシステムであるのと同じように、
自転車もシステムであることを一瞬にして実感・理解できた。