Archive for category アナログディスク再生

Date: 12月 21st, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その30)

このころはB&Oの美しいプレーヤーがリニアトラッキングだった、
それからすこし遅れて登場したルボックスのプレーヤーもそうだった。
日本ではマカラ(エアーフローティングを採用した最初のプレーヤー)とヤマハからも出ていた。

B&OのBeogramは、オーディオのことは何もまだ知らない少年の目にも、美しい、と映った。
こういうプレーヤーが採用しているのだから、それだけでもリニアトラッキング型のトーンアームは理想と思えた。
ルボックスB790とB&Oとでは、同じリニアトラッキング型でも実現のための方式は違っていた。

ヤマハのリニアトラッキング型を採用したPX1のデザインは、
B&Oとは大きく違っていて、
PX1がプリメインアンプのCA2000、CA1000と同系統のデザインだったら……、とそんなことを思ってしまうほど、
路線が変ってしまっていたプレーヤーの姿だった。

マカラのプレーヤー4842Aは、メカニズムというつくりで、B&Oとは正反対のプレーヤーであった。
ある部分EMT的でもあったし、とにかくそれまで日本のプレーヤーではあり得なかった造形であった。
4842Aはなかなか実物を見る機会もなかった。
製造中止になってかなり経って、やっと見ることができた。
でも、音は聴けなかった。
完動品があれば、一度は音を聴いてみたい機械である。

1970年代も終り近くになると、
リニアトラッキングは高級プレーヤーだけのものではなくなっていた。
ダイヤトーンからは縦置きの普及クラスのプレーヤーに、
テクニクスではLPジャケットサイズのプレーヤーSL10に、リニアトラッキングを採用していた。

リニアトラッキングは、もう特殊なトーンアームではなくなりつつあった。
これは、スピーカーにおいて平面型振動板が一時期流行したことと、
すくなくとも日本では同じ現象でもあったと思う。

そして1980年代のなかごろに、海外の小さなメーカーから、
リニアトラッキング型のトーンアームがいくつか登場してきた。
ゴールドムンド、エミネント、サウザーなど、である。

Date: 12月 21st, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その29)

物量を投入したプレーヤーでなければ聴けない音があることは、何度か書いてきている。

私が小さいころには、テレビから「大きいことはいいことだぁ」というコマーシャルが頻繁に流れていたし、
EMTの930st、927Dst、トーレンスのリファレンス、
マイクロのRX5000 + RY5500、SX8000IIといったプレーヤーの音に惹かれてきたからこそ、
いまでもそう思ってしまうのだろうが、
そう思う理由は、カッティングマシーンという存在にあるのではなかろうか。

カッティングマシーンといえば、1990年頃だったと記憶しているが、
ある人から、「カッティングマシーンの出物があるけど、買わない?」という話が来た。
価格は驚くほど安かった。
無理すれば買えない金額ではなかった。
けれど、設置場所のことを考えると、購入したところで結局は手離すことになってしまう。
それに、カッティングマシーンが再生用のレコードプレーヤーとして理想的なものかというと、
決してそうでないことを知っていたので、買わなかった。

そのころは、カッティングマシーンへの憧れは持っていなかった私も、
オーディオに関心をもちはじめたころは、そうではなかった。
カッティングマシーンこそが、再生においても理想的なマシーンである、と盲目的に信じていた。
だからトーンアームは一般的な弧を描くタイプではなく、
リニアトラッキング型こそが理想である、と信じていた。

まだリニアトラッキング型のトーンアームを備えたプレーヤーの音を、
なにひとつ聴いたことがなかったにもかかわらず、である。

Date: 12月 11th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その28)

アナログプレーヤーのデザインについて書いている。
Air Force Oneのデザインがよくないことを書いている。

これを読まれる方の中には、音がいいのだから、
しかもこれだけのアナログプレーヤーの開発は今後望めないともいえる状況で、
Air Force Oneは登場してきたのだから、音に関係のないデザインのことなど、
どうでもいい、些細なことではないか。
欲しいのは音のいいプレーヤーであり、デザインのいいプレーヤーではない、
と思っている人もいても不思議ではない。

でもそうだろうか、ほんとうにプレーヤーのデザインは音に関係ないのか。
そうでないことは、オーディオ機器のサイズが音に与える影響のことを書いている。

スピーカーからの音が金属のかたまりであるAir Force Oneにあたる。
音の波紋のひろがっていくのを、Air Force Oneの大きなサイズが少なからず乱す。
それだけでなく金属のかたまりだから、Air Force Oneにあたった音は、
ほとんど吸音されることなく反射して、
その反射音を含めて聴き手は聴くことになる。

聴感上のS/N比の劣化が起ってしまう。
つまりこれはAir Force Oneの開発の主眼にある「限りない静粛性を求めること」を阻害している。

ただAir Force Oneの、この部分に関しては、
「無限大に近い回転精度と限りない静粛性を求めること」とあるから、
ターンテーブルのプラッターの回転精度と静粛性のことであり、
Air Force Oneの聴感上のS/N比の追求のことではないとも読める。

そうであっても、回転の静粛性は聴感上のS/N比に直接関係していることであり、
Air Force Oneは聴感上のS/N比の高さをも求めているはず。

Air Force Oneの聴感上のS/N比は、おそらく高い、と思われる。
それで充分じゃないか、と思われる人もいるだろうが、
私はAir Force Oneが、本当の意味でのデザインを追求していたら、
さらに聴感上のS/N比を増すことになっていたと考える。

Air Force Oneはこれから先10年、20年と使っていけるプレーヤーであるだろうし、
音に関しては色褪せないことだと思う。
そういうプレーヤーだけに、デザインはより大切なことなのだ。
10年後、20年後、Air Force Oneのデザインはどう思われているか、どう受けとめられているか、
それをAir Force Oneの開発スタッフは一度でも想像したのだろうか。

Air Force Oneが美しいプレーヤーシステムに変貌を遂げたとき、
Air Force Oneは完成する、と思う。

Date: 12月 11th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その27)

1979年のマイクロのRX5000 + RY5500から始まった、
重量級のターンテーブルプラッターを糸ドライヴで回転させる、という、
もっともプリミティヴな方式は、1981年にエアーベアリング方式を採用したSX8000の登場で、
重量級のターンテーブルプラッターで避け難い欠点で軸受けから発生する機械的ノイズを抑え、
1984年にSX8000IIになり、プレーヤーとしてのまとまりを身につけ、
2012年、この方式としては考えられる最高の性能をAir Force Oneは実現している。
そういえると思う。

この点ではAir Force Oneを高く評価したい。
だから「いまどき、よくぞこういうモノをつくった!」と思ったのだ。

それでもAir Force Oneはマイクロ時代のSX8000IIを凌駕しているといえるだろうか。
Air Force Oneの音は聴いていない。
この時代に、こういう性格の製品だから、じっくり聴く機会はほとんどないかもしれない。
SX8000IIと直接比較試聴できる機会は、さらにないだろう。

それでもAir Force Oneは、すべての点でSX8000IIを凌駕しているとは思えないのだ。

SX8000IIも物量を投入した金属のかたまり的なプレーヤーではあるが、
トーレンスのリファレンスやゴールドムンドのリファレンス、それにAir Force Oneと比較すると、
コンパクトに仕上げられている。

このことが音に与える影響について、Air Force Oneは充分な配慮が為されているとは思えないからだ。
トーレンスのリファレンスが同一空間に、
聴いている時に視覚内にあるだけで音に大きな影響を与えることは、すでに書いているとおりである。
金属のかたまり、それもある程度以上の大きさをもつ機器が、
スピーカーと聴き手の間に存在していれば、音への影響は無視できなくなる。

記憶のなかでの比較になってしまうが、
Air Force OneはSX8000IIよりも大きい。かなり大きく感じる。
このAir Force Oneを部屋のどこに設置するのか、
部屋が狭くなるほどに、この問題は反比例に大きくなっていく。

この点への配慮は、Air Force Oneにはほとんどない、といえる。

オーディオ機器のサイズは、絶対的でもあり相対的でもある。
部屋が充分な広さがあれば、
ただしAir Force Oneクラスの大きさにとって充分な広さは相当なものであるけれど、
それだけのスペースが確保できる層の人たちに対してだけのアナログプレーヤーなのかもしれない。

オーディオ機器のサイズは、デザインの領域である。

Date: 12月 10th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その26)

一年ほど前、別項で「オーディオのデザイン論」が、
ステレオサウンドの45年をこえる歴史の中で、ほとんどなかった、ということを書いている。

そこでも書いていることをまたくり返すが、
2008年のステレオサウンド 166号の特集「オーディオコンポーネントの美」も、
「オーディオのデザイン論」ではなかった。

こういうことを書いている私も、ステレオサウンド編集部にいたときに、
「オーディオのデザイン論」といえる記事をつくっていたわけではない。
あの頃の私は、「オーディオのデザイン論」の記事をつくろうとしても、
つくることはできなかった、と思う。
反省もある。

ステレオサウンドに対して、
ときどき否定的、批判的なことを書いている、と受けとめられている人もいる、と思う。
でも、私はステレオサウンドというオーディオ雑誌に人一倍思い入れがある。
ステレオサウンドが、ほんとうに面白いオーディオ雑誌になってほしい、といまでも思っている。
だから書いている。

いまのステレオサウンドに欠けているいくつものことのなかで、
もっとも大きいのが、この「オーディオのデザイン論」だと私は思っている。
またくり返すが「オーディオのデザイン論」は、いまのステレオサウンドだけではなく、
これまでのステレオサウンドについてもいえることなのだが。

国内メーカーから、Air Force Oneのデザイン、マイクロのSZ1のデザインが出てしまうのは、
「オーディオのデザイン論」がステレオサウンドになかったことが遠因になっている──、
とすら私は思っている。

いまの私は「オーディオのデザイン論」といえる記事をつくれる。
けれど私は、ステレオサウンドとは無関係の人間であり、
すでにAir Force Oneは、あのデザインで世に出てしまっている……。

Date: 12月 10th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その25)

2011年のインターナショナルオーディオショウのステラヴォックスジャパンのブースで、
Air Force Oneを見た時の「なぜ、こんなふうにしてしまった……」は、
Air Force Oneのデザインについて思ったことである。

おそらくAir Force Oneの開発スタッフは、
Air Force Oneの性能、音だけでなく、デザインに関しても誇っていることだろう。
でもAir Force Oneのデザインは、どう贔屓目にみても、これを美しいとは思えない。

私がAir Force Oneを見た瞬間にどう思ったかについては、
それはあまりにもひどいことを書くことになってしまうから、
具体的に書くことはやめておく。
ひとつでも書いてしまうと、次々と書きたくなってしまうから……。

これだけの製品の開発においては、信頼できる外部の人にも試作品を見せて聴いてもらい、
意見をもらっていることだろう。
だとしたら、そこでAir Force Oneのデザインについて、誰も苦言を呈さなかったのか。
それともAir Force Oneのデザインを素晴らしい、とでもいったのだろうか……。

オーディオ評論家を名乗っている人には、書き難いことがあるのはわかる。
だからAir Force Oneについてオーディオ雑誌に書くときに、
あえてAir Force Oneのデザインについて触れない、という書き方もするかもしれない。

並のプレーヤーとはあきらかに異質の、
このAir Force Oneのデザインについて何も書かない、ということは、
つまりはそういうことである。

でも、中にはAir Force Oneのデザインを優れている、とか、美しい、とかいう人も出てくるかもしれない。
たぶん、いると思う。
そういう人が、どうして音の美を判断できようか。

それにしても、
Air Force Oneの開発の主眼に書いてある「使い易さと美しさに最大限にこだわる」ということは、
こういうことなのだろうか。

Date: 12月 9th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その24)

2011年、インターナショナルオーディオショウのステラヴォックスジャパンのブースに、
一台のアナログプレーヤーがあった。
見た瞬間に、それがマイクロのSX8000IIの流れを汲み、さらに徹底させたモノであることはわかった。
このプレーヤーの名称は”Air Force One”。

Air Force Oneではあるけれど、私は勝手に心の中でSX8000IIIと名付けていた。

SX8000は1981年、SX8000IIは1984年に登場している。
SX8000IIがいつ製造中止になったのか、正確には記憶していないけれど、
2000年、2001年までは現役のプレーヤーであったはずだ。

SX8000IIが約10年ぶりに復活した、と素直にそう喜びたかった。
けれど目の前にあるAir Force Oneは、
いまどき、よくぞこれだけのモノをつくった! と素直にそういえるところをもつとともに、
なぜ、こんなふうにしてしまった……、と思わないでいられなかった。

Air Force Oneは650万円(税別)という価格がつけられている。
650万円という価格は安いとはいえない。
Air Force Oneは高価なターンテーブルである。

けれど、Air Force Oneに注がれている技術を丹念に見ていくと、
決して法外な価格設定とはいえないし、
生産台数を考えると、むしろ(安いとはいいたくないので)お買得かも……、
そう思えるくらいの内容をもつ製品だとは思う。

なので、このAir Force Oneも、
SX8000IIと同じくらいロングセラーを続けてほしい、という気持はある。
けれどAir Force Oneのデザインのことについて黙っていられない。

しかもAir Force Oneのカタログ(販売元のステラのサイトからダウンロードできる)には、
Air Force One開発の主眼に置いたのは次の内容です、という記述があり、
そこには、次の項目が掲げられている。

全ての高級オーディオ製品の目標である不要振動を完全に除去すること
無限大に近い回転精度と限りない静粛性を追求すること
外来振動を完全にシャットアウトすること(カタログには「外来振動の」となっているが「を」の間違いだろう)
全てのトーンアームの取り付けを可能とすること
使い易さと外観の美しさに最大限こだわること
プラッター(ターンテーブル)に選択可能な多様性を持たせること
静粛性に優れリップルの全く無いエアーポンプシステムを開発すること

五番目の項目に「使い易さと外観の美しさに最大限こだわる」とある。
使い易さと外観の美しさ──、
これはいいかかれば、プレーヤーシステムとしてのデザインのことである。

Date: 12月 8th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その23)

こんなことは書く必要はないと思うが、
音に影響を与えるのは、なにもトーレンスのリファレンスだけではない。
このクラスの、金属のかたまり的なオーディオ機器であれば、
トーレンスのリファレンスと同じようにスピーカーから出てくる音に影響を与える。

トーレンスのリファレンスは大型のプレーヤーではあるが、
リファレンスと同等、それ以上の大型のプレーヤーはいくつか出ているし、
この話はアナログプレーヤーだけに限らず、他のオーディオ機器(おもにパワーアンプ)にもいえる。

今月のaudio sharing例会で、ジェフ・ロゥランドDGのパワーアンプの話が出た。
Model 8Tは、いいアンプだと思う、と話した。
これに対して「Model 9Tよりも、ですか」と訊かれたので、「そう思っている」と答えたのには、
理由がある。

それは、いまここで書いている大きさに関係することである。

Model 9TとModel 8Tとでは、アンプとしての規模が大きく異る。
Model 8Tは1シャーシーなのに対し、Model 9Tは4シャーシーである。

ステレオ仕様で電源部内蔵のModel 8T、
モノーラル仕様で、外部電源構成をとるModel 9Tとでは、
リスニングルーム内で占める空間は1:4である。

Model 8TもModel 9Tもトーレンスのリファレンスと同じで、
アルミのかたまりである。

パワーアンプとしてのリファレンスを追求した結果であるModel 9Tは、
設置が非常に難しい、ともいえる。
部屋の広さが、40畳、60畳くらいあれば、それほど神経質に考えることも求められないが、
20畳程度であれば、Model 9Tの設置にはそうとうに神経を使うことになるし、
理想的な設置条件を20畳程度の空間で実現するのは、想像以上に困難としかいいようがない。

恵まれた空間であればModel 9Tがよくても、
現実の、それほど広くない部屋においては、現実的なModel 8Tのほうが、いいアンプといえる。

アンプとしての性能、実力はModel 9Tのほうがまちがいなく高いであろう。
けれど20畳程度の部屋ではModel 9Tが同じ空間に設置されることによる影響と、
Model 9Tの性能・実力を天秤にかけることになる。

だから私は、日本人として、かなしいけれど、それほど広い空間をもてない者として、
Model 9TよりもModel 8Tのほうを高く評価するわけである。

Date: 12月 8th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その22)

私が勤めていたときのステレオサウンドの試聴室の広さは、約20畳ほど。
決して狭い空間ではない。
20畳より広い、もっと広い空間、40畳とか60畳といった広さの空間をリスニングルームとされている人もいる。
けれど20畳は、いまでも日本人の多くにとっては広い空間になるのではないだろうか。

そんな20畳の空間においてもトーレンスのリファレンスは、
音に影響を与えるほどに大きい金属のかたまりということになる。
20畳よりもずっと広い空間であれば、
トーレンスのリファレンスの設置による音への影響は比率として小さくなっていく。

ステレオサウンドの試聴室では椅子の前にヤマハのGTR1Bを4台並べていた。
GTR1Bの左端には専用のプレーヤー台があり、そこにリファレンスとして使うアナログプレーヤーが置かれる。
ステレオサウンド 77号の試聴ではトーレンスのリファレンスは、GTR1Bの右端に置かれていた。

椅子の後にリファレンスを置いていれば、
音の影響はもう少しどころか、そうとうに減ったと思われるが、
だからといって部屋の隅に設置してはまずい。

アナログプレーヤーは、いうまでもなく設置場所によって音は変化するし、
ハウリングの出方も変化していく。
なにごともやってみなければわからないところがあるというものの、
原則として部屋の隅にアナログプレーヤーを置くことはしない。

なぜなのかは、実際にやってみればすぐに理解できるはず。

トーレンスのリファレンスといえば、菅野先生のリファレンスプレーヤーである。
菅野先生がご自身のリスニングルームのどこにリファレンスを設置されているか──、
それは、ここしかない、という場所である。

Date: 12月 7th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その21)

“Reference”という名称をもつアナログプレーヤーは、
トーレンスのリファレンス以外にもいくつかある。
けれど、私にとって”Reference”と呼べるプレーヤーはトーレンスのリファレンスだけであり、
あとのリファレンスは、「これもリファレンスなのか……」という感じである。

トーレンスのリファレンスは木製のベースも含めると、その重量は100kgを超えている。
外形寸法はW62×H36×D51cm。かなりの大型プレーヤーであるばかりでなく、
全体的に量感のある外観をもつ、実に堂々としたプレーヤーである。

こまかくみていくと、振動をコントロールするためにアイアングレイン(鉄の粒)、合板なども使われているが、
圧倒的にアルミのかたまり、といえる。
惜しみなく物量を投入した設計だし、
ただ物量を投入しただけのプレーヤーではないからこそ、
リファレンスの音は、これと肩を並べるプレーヤーはごくわずかに存在していても、
これを優るプレーヤーはない、と私は断言しておく。

トーレンスのリファレンスよりも高価なプレーヤー、能書きの多いプレーヤーは存在する。
けれど、そのどれも私の琴線にはまったくひっかからない。
私がアナログディスク再生に求めているものとは、じつに正反対の音を出す。
その手の音を、いい音、新しい音と持て囃す人がいる──。
けれど、私にはまったく関係のないことでしかない。
私にとって、それは新しい音でもなければ、いい音でもないからだ。

ステレオサウンド試聴室での、井上先生によるDS2000の試聴のときまで、
アナログプレーヤーにはある程度の物量は必要だし、
物量をうまく投入したプレーヤーでなければ聴けない音がある以上、
トーレンスのリファレンスの大きさは、大きいと思っても、
それは音のために仕方のないことだと思ってもいた。

けれどリファレンスが同一空間にあるだけで、
すくなくともスピーカーと聴取位置とのあいだに、視覚に入る範囲にあれば、
その存在が、これほど音に影響を与えているとは、まったく思っていなかった。

だから毛布を一枚リファレンスにかけただけの音の変化の大きさに驚き、
ある程度の大きさの金属のかたまりが音響的にどう影響しているのか、をはじめて実感した。

Date: 12月 7th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その20)

SMEの最初のトーンアーム3012が、オルトフォンのSPUのためにつくられたのだから、
Series VがSPUの良さをこれほどよく引き出したのは、いわば当然の帰結なのだ、
と、そう信じられるほどによくSPUが鳴ってくれた。

Series VがSPUのために開発されたトーンアームなのかどうかは、はっきりとしない。
けれど、そんなことは音を聴けばわかる。
そう断言できるほどに、SPUの本領が、ほぼすべて発揮された音をやっと聴くことができた。

Series Vをトーレンスのリファレンスに取り付けて、SPUを鳴らしてみたら……、
ということは、不思議なことにまったく思わなかった。
私の性格からして、そう思いそうなのに、
SPUにとってSeries Vが最良のパートナーであるのと同じように、
Series VにとってSX8000IIが、すくなくともこのときは最良のパートナーであった。
おそらく、これはいまもそうではないか、と思う。

これを書きながら、Series Vをリファレンスと組み合わせたら……、と想像している。
もちろん素晴らしい音が聴けるのは、間違いのないこと。
けれど……、と思い出すことがある。

いまから27年前のこと。
ステレオサウンドの試聴室で、井上先生による新製品の試聴を行っていた。
ダイヤトーンのスピーカーシステムDS2000の取材だった。
このときのことは、ステレオサウンド 77号に載っている。
すこし引用しておこう。
     *
最初の印象は、素直な帯域バランスをもった穏やかな音で、むしろソフトドーム型的雰囲気さえあり、音色も少し暗い。LS1(注:ビクターのスピーカースタンドのこと)の上下逆など試みても大差はない。いつもと試聴室で変わっているのは、試聴位置右斜前に巨大なプレーヤーがあることだ。この反射が音を濁しているはずと考え仕方なしに薄い毛布で覆ってみる。モヤが晴れたようにスッキリとし音は激変したが、低域の鈍さが却って気になる。置台が重量に耐えかねているようだ。
     *
試聴位置右斜前にあった巨大なプレーヤーとは、トーレンスのリファレンスのことだ。

Date: 12月 6th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その19)

オルトフォンのカートリッジは、田舎でのシステムでMC20KKIIを使っていた。
SPUも聴いてみたかったし、手に入れてみたかったのだが、
そのころの私の使っていたプレーヤーシステムのトーンアームでは、32gの自重のSPUは無理があった。

MC20MKIIはいいカートリッジだったし、気に入っていた。
同じオルトフォンでもMCシリーズとSPUシリーズが違うことは知ってはいた、
そのSPUシリーズがSPU-Goldとなってリファインされたことが、
SPUへの関心をそうとうに大きくしてくれた。

EMTのTSD15も、オルトフォンのSPUをベースに開発されたカートリッジだと云われていたし、
伝統的な鉄芯入りのMC型カートリッジの両雄ともいえるSPUとTSD15。

なのにSPUに対して、手に入れるという行動にまでいたらなかったのは、
TD15にはEMTの930st、927Dst、トーレンスのリファレンスといった、
TSD15にとって最良といえる専用プレーヤーシステムが存在していたのに対し、
SPUには専用のトーンアームはあったけれど、
専用、もしくは最良のプレーヤーシステムがなかったことが大きく影響している。

いつのころからなのかは自分でもはっきりしないけれど、
カートリッジ、トーンアーム、ターンテーブルとの三位一体での音──、
だからこそプレーヤーシステムとして捉えていることに気がつく。

そんな私が、SX8000II + Series V + SPU-Goldの音を聴いたとき、
はじめてSPUを欲しい、自分の音として欲しい、と思ったことを、いまでも憶えている。

私にとってSPUを最良に鳴らしてくれるのはSX8000II + Series Vの組合せであり、
SX8000II + Series Vの組合せに最適のカートリッジはSPUであり、
ターンテーブルは日本のマイクロ、トーンアームのイギリスのSME、カートリッジはデンマークのオルトフォン、
国もブランドもばらばらなのに、SPUとっての三位一体のプレーヤーシステムがやっと登場してくれた──、
本気でそうおもえたし、いまもそうおもっている。

Date: 12月 6th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その18)

おもえば日本という国は、カートリッジをあれこれ交換して聴く、という環境に恵まれていた。
SMEの規格がいわば標準規格のように採用されて、
ほとんどのプレーヤーでヘッドシェルごとカートリッジを容易に交換できるようになっている。
単体で販売されていたトーンアームのほとんどが、やはりヘッドシェル交換型であった。

MM型カートリッジの特許はアメリカのシュアーとドイツのエラックがもっていたが、
日本では特許が認められなかったため、日本国内では国内メーカーからMM型カートリッジがいくつも登場した。
けれど、これらのカートリッジはシュアーとエラックの特許が認められている海外への輸出はできなかった。

日本でしか販売できない日本のメーカーによるMM型カートリッジの種類は、実に多かった。
それに国内のMC型やコンデンサー型など、他の発電方式のカートリッジ、
海外製のカートリッジの多くが輸入されていたし、1970年代のオーディオ販売店の広告には、
カートリッジをまとめ買いすることで、定価があってないような価格で売られてもいた。

私はというと、そのころはまだ高校生だったし田舎暮らしだったこともあり、
FM誌に載っている、その販売店の広告を見ては、
上京したら、このカートリッジとあのカートリッジを買うぞ、と思うだけだった。

なのに実際に上京したら、何度も書いているように、
とにかくSMEの3012-Rだけは買っておかなければ、ということで、
これだけは無理して買った(当時の広告では限定販売となっていたので)。
ステレオサウンドで働くようになるまで、手持ちのオーディオ機器は、この3012-Rだけだったから、
カートリッジをあれこれ買うぞ、というのは妄想に終ってしまった。

ステレオサウンドにいたことも大きかったと思うのだが、
結局、私はEMTのカートリッジがあれば、
あのカートリッジも、このカートリッジも欲しい、という気はあまりおきなかった。
ステレオサウンドの試聴室で聴けるし、
仕事でカートリッジの交換を頻繁にやっていると、自分のシステムでまで、
頻繁にカートリッジを交換して聴く、という気がなくなっていったのかもしれない。

それでも、ときどきノイマンのDSTを知人から借りたり、
オーディオテクニカから当時販売されていたEMTのトーンアーム用のヘッドシェルに、
いくつか気になるカートリッジを取り付けて聴いたことはあったけれど、
DST以外はEMTのTSD15にすぐに戻っていた。

そんな私でも、オルトフォンのSPUだけは、現行のカートリッジの中で気になっていた。

Date: 12月 5th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その17)

EMT・927Dst、トーレンスのリファレンス、
このふたつのプレーヤーシステムの音に関しては、EMTのカートリッジTSD15とかたく結びついている。

927DstはTSD15を前提としたプレーヤーであるから当然として、
トーレンスのリファレンスも最初に聴いたときがTSD15とトーンアームもEMTの929だった。

リファレンスには最大3本のトーンアームを装着できる。
TSD15 + 929は標準装備でもあったようだ。

リファレンスはステレオサウンド試聴室で一時期リファレンスプレーヤーとして使われていたことがある。
そのときに、いくつかのカートリッジを聴く機会を得たわけだが、
私にとってリファレンスの音は、
最初に聴いた時から、いまもそしてこれから先もずっとTSD15との音である。
TSD15と切り離して考えることはできないわけだ。

マイクロのSX8000IIも、ステレオサウンド試聴室のリファレンスプレーヤーであった。
私がステレオサウンドにいたまる7年間で、もっとも長くリファレンスプレーヤーとして使われていたのが、
SX8000IIとSMEの3012-R Proの組合せである。

この組合せからなるプレーヤーで、いくつもカートリッジを聴いてきた。
リファレンスプレーヤーとして、この組合せはあったけれど、
リファレンスカートリッジは、なにかひとつに決っていたわけではない。
オルトフォンのSPU-Goldがリファレンスの場合もあり、トーレンスのMCHIIのときもあり、
他のカートリッジがリファレンスのときもあった。
人により、時によりリファレンスカートリッジはその都度違っていた。

だからなのかもしれない、SX8000IIに3012-R Proの音をいいと感じてはいたものの、
その音は、ある特定のカートリッジと結びついていたわけではない。

この点が、SX8000IIにSMEのSeries Vを組み合わせた時と大きく異る。
私にとってSX8000II + Series Vの音は、オルトフォンのSPU-Goldとの組合せである。

最初に聴いたのがSPUだったことも大きく関係している、とおもう。
それでもその後、いくつもカートリッジをSeries Vに取り付けては聴いている。
Series Vに取り付けて、およそいい音で鳴らないカートリッジはなかった。
もしSeries Vでいい音で鳴らないカートリッジがあるのならば、
そのカートリッジはどこかおかしいのか、そうでなければSeries Vの調整が狂っている、
そう判断してもいいと断言できるくらいに、Series Vの音は、あの時もいまもこれに匹敵するものはない。

それでもSPUでの音は格別だった。
ずっとEMTで聴いてきた私だけに、
よけいにSX8000II + Series V + SPU-Goldの音は、より克明に記憶に刻まれているのだ、と思う。

Date: 12月 4th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その16)

マイクロのSZ1について、その細部についてあれこれ書くことは出来るけれど、
書いていて気持のいいものではないし、読まれる方はもっとそうだろうから、
細々としたことは書かない。

私は、ただSZ1でアナログディスクをかける気が全くしないわけだが、
同じマイクロのSX8000IIに対しては、違う感情・感想をもっている。

おそらくSZ1を担当した人とSX8000IIを担当した人は違うのだと思う。
だからといってSX8000IIのデザインが、
アナログプレーヤーシステムとしてひじょうに優れたものとは思っていない。

細部には注文をつけたくなるところがいくつもあり、
全体的なことでもいいたいことがないわけではない。
でも、SX8000IIは自家用のプレーヤーシステムとして使いたい、と思わせるプレーヤーになっている。

SZ1もSX8000II、どちらも金属の塊である。かなりの重量の金属の塊であるのだが、
目の前においたときの印象はずいぶんと違う。
音も、SZ1の音はまったく印象に残っていないと書いているが、
SX8000IIをはじめて聴いた時のことは憶えている。
もっと強く印象に残って、はっきりと思い出せるのは、SMEのSeries Vと組み合わせたSX8000IIの音だ。

私の耳にいまも、おそらく死ぬまでずっと残っているアナログプレーヤーの音は、
EMTの927Dst、トーレンスのリファレンス(この2機種はどちらもEMTのTSD15での音)、
そしてSX8000II + Series V + SPU-Goldの音である。

RX5000から始まった、このシリーズはSZ1でどか違うところにいってしまうのではないか、と思ったりもしたが、
SX8000IIで、かなりのところまで完成度を高めている。

だから927Dst、リファレンスとともに、私の耳にいつまでものこる音を出したのだろうし、
SX8000IIが日本のプレーヤーであることは、やはり嬉しくおもう。