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Date: 10月 15th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その72)

TL431を使った定電流回路よりも、さらに部品点数を減らしたものに三端子レギュレーターを使ったものがある。
定電圧回路の三端子レギュレーターだが、配線をかえることで定電流回路としても使える。
ラジオ技術での製作例としては新忠篤氏が以前発表されていたことがある。
すこしあいまない記憶だが、たしか三端子レギュレーターによる定電圧回路よりは、
ずっと音がよい、と書かれていたはず。

ステレオサウンドに、以前倉持公一氏がエッセイの連載を書かれていた。
そのなかで自作の300Bのシングルアンプについて書かれた文章の中に、
この三端子レギュレーターによる定電流回路と思われることが出てくる。
新氏の名前も一緒に出ていたから、ほぼ間違いないだろう。

そこには、新氏から定電圧回路より定電流回路のほうがいいという連絡があった。
けれど、その後、やっぱり交流点火のほうがいい、という連絡がはいった、ということだった。

三端子レギュレーターによる定電流回路は、試していなけれども、私は懐疑的だ。
三端子レギュレーターの性能からして、ノイズ対策をほどこさずにそのまま定電流回路にしてしまったら、
いい結果は期待できないはず。なぜ新氏は、定電流点火を試みるであれば、
同じラジオ技術に筆者である石塚氏のアイデアを採用されなかったのだろうか。

安易な方法に頼ることで、定電流点火の良さが発揮されなかった印象が、残ってしまう。残念なことだ。

Date: 10月 14th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その12)

16cmのフルレンジならば2kHzあたりぐらいまで、
20cmかそれよりも口径が大きくなると、1kHzよりもすこし上の周波数まで、ということになる。

それより上の帯域に、瀬川先生はJBLの175DLHを選択されている。
ただし175DLHでは中低音域とのつながりには問題はないものの、最高音域がそれほどのびていない。
その足りないところ(8kHz以上)を、スーパートゥイーターに受け持たせる。

瀬川先生の4ウェイ・システムを簡単に説明すると、こんなところになる。
実際にこの構想による4ウェイ・システムを使われていた(試されていた)時期がある。

スピーカーユニット、各帯域でいろいろ試されたようで、
ウーファーはパイオニアのPW38A、JBLのLE15A、
ミッドバスには、ダイヤトーンのP610A、ナショナル8PW1(のちのテクニクス20PW09)、
フォスター103Σ、ジョーダンワッツのA12(モジュールを収めたシステム)の二段積重ね使用、など。

ミッドハイは175DLHで固定、スーパートゥイーターにはテクニクスの5HH45、ゴトーユニット、
デッカ・ケリーのリボン型、JBLの075などだ。

ただ当時は、スピーカーユニットの数はそれほど多くなかったこともあり、
瀬川先生の構想にぴったりと合致するものが少なかったのが関係して、
どうしても各メーカー、各国のユニットの混成部隊になり、音のバランスではうまくいっても、
音色のつながりでうまくいかず、結局、ワイドレンジということでは多少の不満を感じながらも、
総体的な音のまとまりの良さで、JBL指定の3ウェイ(LE15A、375+537-500、075の組合せ)にされている。

私が、この瀬川先生の構想を読んだのは、High Technic シリーズのVol. 1だから、1978年。
このころ単売されているスピーカーユニットの数は多かった。
瀬川先生も、適したユニットが増えている、と書かれている。
だからこそ、もういちど、この構想について書かれたのだろう。

Date: 10月 14th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その71)

TL431は、テキサス・インスツルメンツで製造している部品で、
“ADJUSTABLE PRECISION SHUNT REGULATORS” とデータシートには表記してある。
回路図上の記号は、3本足のツェナーダイオードといったもので、
ANODE、CATHODEのほかにREFという端子がある。

詳細についてはデータシートをダウンロードしていただくとして、
ラジオ技術に発表された石塚氏の定電流回路はTL431とダーリントン接続のトランジスター、それに抵抗2本、
これだけの部品点数で定電流回路を構成している。

電流値を決めるのは、トランジスターのエミッターとTL431のREF端子に接続されている抵抗(1本)だけである。
しかもREFの電圧を抵抗値で割った値が、電流値である。
つまり抵抗の精度と温度係数の良さによって、安定度はほぼ決定される。

この回路だったら、実用的である。
それでも実際にアンプに組み込もうとしたら、いくつか解決しなければならないことはあるけれど、
やろうと思えば、出力管のヒーターも定電流点火が現実的なものとしてくれる。

石塚氏の発表された回路は、たびたびラジオ技術に掲載されているし、
’80年代のおわりごろには、山岡という別のペンネームで、無線と実験でも発表されている。

TL431のデータシートに、石塚氏の発表されたものと同じ定電流回路が載っている。
ただし、こちらは制御トランジスターをがダーリントン接続ではない。

Date: 10月 13th, 2010
Cate: 真空管アンプ
2 msgs

真空管アンプの存在(その70)

スタックスのCA-Xのスーパーシャント電源のことがすでに頭になかにあったので、
スーパーマニアの小川氏の話を読んですぐに、スタックスのスーパーシャント電源に使われた定電流回路を、
真空管それぞれに用意すればいいわけだ、そう、かなり短絡的に思った。

だが、実際にやろうと考えてすこし真剣に検討すればわかることだが、かなり大変なことだとわかる。

たとえばマランツの#7、マッキントッシュのC22に使われているECC83(12AX7)のヒーターの定格は、
6.3V / 300mA、12.6V / 150mAである。
#7もC22もECC83を6本使っている。これらを定電流点火しようとしたら、
真空管一本したりに専用の定電流回路を用意しなければならず、
12.6Vで点火したとしても6つの定電流回路が、6.3Vならば12個の定電流回路が必要になる。

スタックスのCA-Xの定電流回路は、トランジスター数石を必要とする。発熱もそれなりにある。
放熱対策をしっかりしながら、シャーシー内に組み込もうとすれば、意外にたいへんな作業となる。

やってやれないことはないだろうが、相当に困難なことだとわかった。

定電流回路は他にもある。
たとえばDCアンプの初段は、ほぼすべてアンプで差動回路になっていて、そこには定電流回路が使われている。
こちらは電流値が小さいこともあって、FET一石というものもあったし、
さらには定電流ダイオードというものも登場してきた。10mAくらいまでなら、こんなに簡単なのに、
真空管のヒーター、それも出力管ではなく電圧増幅管になっただけで、難しさは極端に増していく。

1980年代なかばごろ、ラジオ技術誌に真空管のヒーター用の定電流回路が掲載された。
発表されたのは石塚峻氏(いっておくが石原俊氏ではない)。

こんなに簡単にできる? と拍子抜けするくらい、シンプルな回路図が載っていた。
それをみて、TL431なる部品が存在していることも知った。

Date: 10月 13th, 2010
Cate: 4343, JBL
2 msgs

4343とB310(その11)

High Technic シリーズは、数あるステレオサウンドの別冊のなかで、
発行されるのが、とにかく待遠しくいちばん楽しみにしていた本だ。

4冊出ている。
Vol. 1がマルチアンプの特集、Vol. 2がMC型カートリッジについて長島先生が一冊まるごと書かれたもの、
Vol. 3はトゥイーターの、Vol. 4はフルレンジの特集号である。

Vol. 5、Vol. 6……とつづいていっていたら、ウーファーの特集号もあっただろうし、
マルチアンプの続編となる号も出ていたことだろう。
High Technic シリーズだけは、瀬川先生がいきておられたあいだは、つづけて発行してほしかった。

Vol. 4で、菅野、岡両氏との座談会の中で、フルレンジの魅力について瀬川先生は語られている。
     *
一つのユニットで音楽再生に必要な帯域をカバーしようというからには、スピーカーユニットの構造としての基本であるスピーカーコーンを、あまり重く作れないわけですから、反応の早い明るい音が得られると思います。特にその持ち味が、音楽再生で重要な中低域に発揮され、人の声までを含む広いファンダメンタル領域がしっかり、きれいに再生されるのが、ある意味ではフルレンジの最大の特徴であり、魅力ではないかと思います。
     *
いうまでもないことだけど、重要な中低域は、音楽においての「メロディの音域」のこと。
大口径のウーファーユニットが苦手としはじめる帯域こそが、
フルレンジユニットにとっての得意の帯域となっている。
つまり15インチ(38cm)の大口径のウーファーと、16cmから20cmぐらいのフルレンジを、
200〜300Hzを境にして組み合わせる。

フルレンジユニットも、ウーファーと同じコーン型ゆえに、
やはり口径からくる指向性の劣化が生じはじめる周波数がある。

どんなに高性能で理想的な新素材を振動板に採用しても、
コーン型の形状をとるかぎり指向性の劣化はさけられない。16cmのフルレンジでも、2kHzぐらいまでだ。

Date: 10月 12th, 2010
Cate: ベートーヴェン

ベートーヴェン(動的平衡・その2)

イコライザーだけでなく、マルチアンプドライブで、エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワークに、
デジタル信号処理のものを使っていたら、そこでのパラメーターをも、
やろうと思えば、音源ごとにこまかい設定の補整もできる。
最初こそめんどうだろうが、そこさえ厭わなければ、いちど設定してしまえば、パソコンに記憶させて、
あとは再生のたびに、自動的に呼び出すだけですむのだから。

ディスクごと(音源ごと)にイコライジングカーヴだけでなく、各スピーカユニットのカットオフ周波数、
スロープ特性、レベルなど、いじろうという意欲があれば、どこまでどこまでもキメこまかくできる。

デジタルプロセッサーが、1台のパソコンに接続され、それを一括してコントロールできるソフトウェアがあれば、
夢物語でもなんでもない。すぐに実現できる環境はほぼ整っている。

アナログだけの時代では、やろうという意欲はあってもできなかったことが、
リスニングポイントから動かずにできるのだから、
この種のことが好きな人にとっては、どこまでもどこまでも、キリがなくはまってゆくことだろう。
はまればはまるほど、「動的平衡」からどんどん遠ざかっていく。
「静的平衡」の徹底的な追求になってしまう。

機械の助け(デジタルゆえの助け)のおかげで、静的平衡をきわめることができる日がくるだろう。
そこで思うのは、果して音楽が鳴るのだろうか、
もっといえばベートーヴェンの音楽が鳴り響くのだろうか、という疑問である。

ここでもういちど冒頭に書いた福岡氏のことばをくりかえす。
「絶え間なく流れ、少しずつ変化しながらも、それでいて一定のバランス、つまり恒常性を保っているもの。」

Date: 10月 12th, 2010
Cate: ベートーヴェン

ベートーヴェン(動的平衡・その1)

「絶え間なく流れ、少しずつ変化しながらも、それでいて一定のバランス、つまり恒常性を保っているもの。」

オーディオにおけるすぐれたバランスのよさを、いいあらわしたかのように思えるこれは、
福岡伸一氏の「動的平衡」について語られたもの(「週刊文春」2月25日号より)。

けれど、これこそオーディオのバランスの、もっとも理想のかたち、と私は思う。
音のバランスは大切だ、とずっとずっと以前から、多くの人がいってきている。

だが、その音のバランスには、「動的平衡」と「静的平衡」があるのではなかろうか。

いまデジタル信号処理の発達とハードウェアの進歩により、
いくつものイコライジングカーヴをメモリーを記憶させておけば、
ボタンひとつ(いまやボタンなどなくてタッチひとつ、か)で、すぐに記憶させておいたカーヴを呼び出せる。

この手の機能は、これから先、もっと便利になっていくはず。
CDをリッピングしたり、配信からのタウンロードによって入手した音源を再生するとき、
いちどその音源向きにイコライジングカーヴをつくり出して設定しておけば、あとは再生時に自動的に読み込んで、
聴き手はなにもいじることなく、ひとつひとつの音源に、最適のカーヴで再生される。

これは、ほんとうに素晴らしいことなのだろうか。
じつは、それぞれのイコライジングカーヴは、「静的平衡」でしかない、そんな気がする。
「動的平衡」でなく「静的平衡」だから、ディスク(音源)が変れば、そのたびにいじらなければならない。

ときには再生している途中に、カーヴをいじる人もいる。

そんな行為をどう捉えるかは、人さまざまだろう。
これこそ音楽に対して誠実に、そしてアクティヴに聴いている(接している)という人がいてもいいけれど、
いつまでも、そんなことをやっていては、いつまでたっても「静的平衡」から抜け出すことはできない。

「静的平衡」を、あらゆる音源に対して実現するには、それこそこまめにいじる必要がある、
という皮肉さがここにあり、その皮肉さが使い手にここちよい嘘をついている。

Date: 10月 11th, 2010
Cate: 組合せ

妄想組合せの楽しみ(その29)

岩崎先生は、パイオニアのExclusive M4だった。

High Technic シリーズVol.1に、井上先生の記事がある。
既製スピーカーシステムのマルチアンプ化、
既製スピーカーシステムにユニットを加えてのマルチアンプ化、
スピーカーユニットから組み合わせるマルチアンプシステム、
これらについてさまざまな組合せを提案されている。
そのなかに、パラゴンの3ウェイ・マルチアンプドライブの組合せがある。

パワーアンプは、やはりM4だ。
コントロールアンプは、クワドエイトのLM6200R。
エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワークは、JBLの5234。
お気付きのように、LM6200RとM4のは、岩崎先生の組合せそのものである。

井上先生は、この組合せのアンプの選択について、こう書かれている。
     *
パラゴンを巧みに鳴らすキーポイントは低音にあるが、特にパワーアンプが重要である。ここではかつて故岩崎千明氏が愛用され、とかくホーン型のキャラクターが出がちなパラゴンを見事にコントロールし、素晴らしい低音として響かせていた実例をベースとして、マルチアンプ化のプランとしている。このプランにより、パラゴンを時間をかけて調整し、追込んでいけば、独得の魅力をさらに一段と聴かせてくれるだろう。
     *
岩崎先生は、M4について、つぎのように書かれている。
     *
わが家には昔作られた、昔の価格で1000ドル級の海外製高級システムから、今日3000ドルもする超大型システムまで、いくつもの大型スピーカーシステムがある。こうした大型システムは中々いい音で鳴ってくれない。トーンコントロールをあれこれ動かしたり、スピーカーの位置を変えたり。ところが、不思議なのは本当に優れた良いアンプで鳴らすと、ぴたりと良くなる。この良いアンプの筆頭がパイオニアのM4だ。このアンプをつなぐと本当に生まれかわったように深々とした落ちつきと風格のある音で、どんなスピーカーも鳴ってくれる。その違いは、高級スピーカーほど著しくどうにも鳴らなかったのが俄然すばらしく鳴る。昔の管球式であるものは、こうした良いアンプだが、現代の製品で求めるとしたらM4だ。A級アンプがなぜ良いか判らないが、M4だけは確かにずばぬけて良い。
     *
岩崎先生の書かれている「大型システム」とは、JBLのハーツフィールドであり、パラゴンであり、
エレクトロボイスのパトリシアンのことである。

パラゴンとM4の組合せ──、想い出すのは、パラゴンではないけれども、菅野先生の組合せだ。

Date: 10月 11th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その10)

瀬川先生の、この構想のなかで具体的になっているのはウーファーについて、である。
大口径、つまり15インチ口径のウーファーということになる。
それも、f0の比較的高いウーファーではなくて、おそらく20Hz前後のf0のウーファーを想定されている、と思う。

つまり比較的重い振動板のウーファーとなる。
そういうウーファーに、低くても500Hz、高ければ1kHzという音域まで受け持たせることに疑問を抱かれている。
500Hzといかば、音楽の帯域でいえば、低音ではなく中音(メロディの音域)になる。
この大切な音域を、重い振動板のスピーカーユニットにはまかせたくない。

軽い振動板を使いながらも、グッドマンのAXIOM80のようにf0をさげることに成功したユニットがある。
AXIOM80は、外径9.5インチ(約24cm)というサイズにもかかわらず、その値は20Hzと、
軽めの振動板を採用したユニットとは思えないほど低い。
かりにそんなウーファーが存在していたとしても、やはり瀬川先生はウーファーに、1kHzまでは使われないはずだ。

軽い振動板を使い、高域特性もすなおに伸びていたとしても、15インチの口径のものであれば、
すでに指向性が劣化しはじめている。
くりかえすが、瀬川先生の構想には、指向性の広さも求められている。

それに、現実のところ、そのようなウーファーはない。
けれど、小口径から中口径(16cmから20cmぐらい)のフルレンジユニットが、存在している。

Date: 10月 11th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その9)

ステレオサウンド別冊のHigh Technic シリーズVol.1 には、
6畳というスペースに大型スピーカーシステムをあえて持ち込む理由について、次のように述べられている。

6畳という限られたスペースではどうしてもスピーカーとの距離を確保できない。近づいて聴くことになる。
そのため、音の歪、それに音のつながりがよくなかったり、エネルギー的にかけた帯域があれば、
広い空間(響きの豊かな空間)よりも、はるかに耳につきやすい。
音の豊かさは、低音域をいかに充実したエネルギー感で、豊かでそして自然にならすかにかかっている。
しかも6畳、それも和室となると、そのままでは低音が逃げていくばかりだから、
かなりしっかりしたウーファーをもってこないと、低音がの量感がとぼしくなり、
音全体の豊かさ、柔らかさ、深みを欠くことになる。

そして部屋の響きを助けがないということは、そこに指向性の狭い(鋭い)スピーカーをもってくると、
よけいに音が貧弱になりがちで、自然な響きがさらに得られにくくなる。
そのためにも全帯域にわたって均一の広い指向性を確保しなければならない。
そして音量についても、小音量だからこそ、できるだけ口径の大きなウーファーで、
できるだけ(部屋のスペースがゆるすかぎり)たっぷりの容積のエンクロージュアにおさめる。

これらの理由をあげられている。
いいかかれば、真のワイドレンジのスピーカーシステムを求められている、わけだ。
周波数帯域(振幅特性、位相特性ともに)、指向性、そしてダイナミックレンジ、
これらがバランスよく、どこにも欠落感がなく、十分に広くあること。

この構造を実現するために方法として、フルレンジユニットからスタートする4ウェイ・システムである。

Date: 10月 10th, 2010
Cate: 組合せ

妄想組合せの楽しみ(その28)

パラゴンに関心のある人ならば、いちどは夢想したであろうことは、
デジタル信号処理によって、3つの各ユニットの時間差を補整することだろう。

トゥイーターの075とミッドレンジの375はわりと近接した位置にあるが、
ウーファーのLE15Aだけは奥まったところにあり、しかもユニットそのものを外側から見ることは無理である。
井上先生は、パラゴンはへたに扱うと(下手なアンプと組み合わせると)、
八岐大蛇の声みたいなになる、と言われていた。

パラゴンの存在を頭から認めない人は、この構造、とくにウーファーの位置について、とやかく言う。
言われなくて、そんなことは、パラゴンに関心のある人はわかっている。
わかったうえで、パラゴンに対して、つよい関心をもち続けているのだから。

ウーファーの時間差だけ解消できれば、パラゴンの3つのスピーカーユニットの配置は、
仮想同軸型ともいえるわけで、そのメリットが存分に生きてくる……、誰しもそう考える。

昔は夢物語に近かったこのことも、いまではマルチアンプ駆動にして、
デジタルプロセッサーを導入すれば、実現できる、そういう時代にきている。
しかもそのための選択肢も、いくつかある。

でも、私の性格がアマノジャク的なところがあるのか、そうなるとあえて、そういうことはせずに、
内蔵ネットワークで、あえて鳴らしてみたい、と思うようになる。

パワーアンプ、1台でも、素晴らしい音で鳴る可能性をっているのがパラゴンなのだし、
瀬川先生が耳にされたパラゴンの素晴らしい音は、マルチアンプ駆動の音ではない、
岩崎先生もパイオニアのM4、1台で鳴らされていた。

なにかひとつのリファレンスとして、
パラゴンを上記のようにマルチアンプにして時間差を補整して鳴らすのは、ひじょうに興味がある。
いちどはぜひ聴きたい、とつよく思う。
けれども、自分のモノとしてパラゴンを鳴らすのであれば、この手段はとらない。

Date: 10月 10th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その69)

ヒーターを定電流回路で点火することが、じつはいちばんいいのかもしれない。
そんなふうに考えはじめる1年半ほど前に、スタックスからCA-Xというプリアンプが登場している。

国産のプリアンプには、当時としては珍しく外部電源方式を採用。しかもその電源の規模が、とにかく大きい。
数10W程度の出力のパワーアンプ程度のシャーシーに、
スーパーシャント電源と名づけられた定電圧回路がおさめられていた。

CA-Xの特徴は、なにもスーパーシャント電源だけでなく、銅をけずり出して作った空気コンデンサー、
徹底した左右独立シャーシー構造──ボリュウムも左右独立していて、
メカニカルクラッチで左右同時に調整することも、別個に調整も可能──など、
スタックスの意地を見せつけてくれる内容のプリアンプだった。

スーパーシャント電源は、特にラジオ技術誌で話題になっていた記憶がある。
このスーパーシャント電源を、パワーアンプに採用した自作記事も掲載されていたくらいだ。
いったいどれだけの発熱量だったのだろうか。

スーパーシャント電源は、一般的に使われることの多いシリーズ電源が、
制御トランジスターが電源ラインに直列におかれているのにたいし、並列におかれている。

これより前に私が読んでいた「安定化電源回路の設計」(著者:清水和男 CQ出版)には、
損失の大きさを理由は、わずか2ページほど、シリーズ型との比較があるだけで、
「以後の回路ではすべて直列制御式について述べることにします」とあった。

その並列制御式(シャント型)を、定電流回路と組み合わせて、ほぼ理想に近い電源と謳ったのが、
スタックスのCA-Xだった。

Date: 10月 10th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その68)

真空管のヒーターの点火は、まず交流点火と直流点火にわけられる。
直流点火は、非安定化電源による点火か安定化電源による点火にわけられる。
安定化電源も、またふたつに分けられる。

電圧の安定化をはかるのか、それとも電流の安定化をはかるのか、に分けられる。

電圧と電流──。

ステレオサウンド 56号の「スーパーマニア」に登場されている小川辰之氏が語られている。
     *
固定バイアスにしていても、そんなにゲインを上げなければ、過大振幅にならなくて、あまり寿命を心配しなくてもいいと思ってね、やっている。ただ今の人はね、セルフバイアスをやる人はそうなのかもしれないが、やたらバイアス電圧ばかり気にしているけれど、本来は電流値であわせるべきなんですよ。昔からやっている者にとっては、常識的なことですけどね。
     *
このときは、まだ真空管アンプをつくった経験はなかったけれど、
この小川氏のことばの、重要なことは直感的に受けとれた。

「電流値であわせるべき」──、ならばヒーターも同じであろう。

Date: 10月 10th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その67)

いちどでもヒーターの点火方法の違いによる音の差を聴いてしまうと、
三端子レギュレーターなんて、と全面否定したくなるところだが、
それでも安易な使用の三端子レギュレーターとしたのは、もうひとつ別の体験があるからだ。

もうずいぶん前のことだから書いてもいいだろう。
ステレオサウンドでEMTの管球式イコライザーアンプの製作記事を掲載していたときの話だ。
この記事を読まれた方は、カウンターポイントの協力によって、この企画は実現したことを知っておられるだろう。
このときプロトタイプのSA139stのヒーターは、いわゆる安易な三端子レギュレーターの使用だった。
それを長島先生が、カウンターポイントの主宰者マイケル・エリオットに電源に関しても、
じつに細かいアドヴァイスをされて、いくつかのノイズ対策処理をがおこなわれた電源でを聴くことができた。
三端子レギュレーターの使用をやめたわけでなく、小容量のコンデンサーをいくつか後付けを中心とした改良だった。

そこにかかった費用も手間もそれほどのものではない。でも、出てきた音は大きく変化していた。

もちろん長島先生による電源部の改良はヒーター回路だけでなく、高圧のB電源に対しても行なわれていたから、
その音の違いはヒーター回路の違いだけではない。それでも、ヒーター回路への改良がもたらした面も大きいはずだ。

SA139stの製品版の外付け電源の内部を見る機会はなかった。
だから、私が聴いたのと同じことが施されているはずだが、はっきりとしたことはわからない。

Date: 10月 9th, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その66)

ついつい非安定化電源よりも定電圧電源(安定化電源)のほうが、性能(安定度)の高さだけでなく、
使用部品点数も格段に多くなり、音質的にもメリットがあると思いたくなる。

増幅回路のヴァリエーションがじつに多彩なのと同じように、定電圧電源の回路にもいろいろある。
だから、すべての定電圧電源が非安定化電源よりも勝っているわけではないし、
十分に練り上げられた定電圧電源でも、音質面で非安定化電源よりも優れているとは、必ずしもいえない。
それこそじつにさまざまな要素が絡み合ってのことだから、
いまもって結論は出ていない……、私はそう受けとっている。

三端子レギュレーターは、もっとも手軽に定電圧電源がつくれる。
実験用としては便利な部品のひとつである。
けれど、便利だからといって、ただそのまま何の工夫もせずに使ってしまっては、
よりよい音を求めようとしたときには、いくつか問題がある。

要は使い方が大事なのだが、ヒーターなんて直流点火さえしておけば十分、
さらに定電圧化しておけば、もうなにも問題はない、
そんな発想からヒーターの点火回路に三端子レギュレーターを使っているアンプは、
ずいぶんと、真空管アンプの音の特質を損なっている、と私の試聴した経験からいえることだ。

三端子レギュレーターの安易な使用より、
非安定化電源(つまり整流ダイオードと平滑コンデンサー、それに抵抗を組み合わせたπ型フィルター)が、
すっきりとした、清々しい音を聴かせる。
それは、頭の中で、傍熱管であってもヒーターの点火方法は重要なことだとわかっていても、
実際に耳にする音の差には、多くの人が驚くと思う。

そして、誰しもが、直熱管のフィラメントだったら、
もっとこの違いはより大きくはっきりとするのか、と思うはず。