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Date: 8月 4th, 2018
Cate: Wilhelm Furtwängler

フルトヴェングラーのことば(その1)

フルトヴェングラーの「音と言葉」。
「アントン・ブルックナーについて」という章で、こう書いてある。
     *
もう二十年以上も前になりますが、あらゆる世界の国々の全音楽文献をあさって、最も偉大な作品は何かという問合せが音楽会全般に発せられたことがありました。この質問は国際協会(グレミウム)によって丹念に調査されたうえ、回答されました。人々の一致した答えは、──『マタイ受難曲』でもなければ、『第九シンフォニー』でも、『マイスタージンガー』でもなく、オペラ『カルメン』ということに決定されました。こういう結果が出たのも決して偶然ではありません。もう小粋(エレガンス)だとか、「申し分のない出来」とか、たとえば「よくまとまっている」とかいうことが第一級の問題として取り上げられるときは、『カルメン』は例外的な高い地位を要求するに値するからです。しかしそこにはまた我々ドイツ人にとってもっとふさわしい、もっとぴったりする基準もあるはずです。
(新潮文庫・芳賀檀 訳より)
     *
「アントン・ブルックナーについて」は1939年だから、20年前というと1919年以前。
ニイチェが亡くなったのが1900年。
ニイチェの「ワーグナーの場合」のこと。

そんなことも考えながら、もっとふさわしい基準、もっとぴったりする基準、
名曲はオーディオの名器にも置き換えられる。

いろんなことにつながっていき、いろんなことを考えさせられる。

Date: 8月 4th, 2018
Cate: 再生音, 背景論

「背景」との曖昧な境界線(その2)

「ミッション:インポッシブル」のアクションシーンを、
どんなに説明してもCGだ、といいはる人が面白いのは、
ジャッキー・チェンは凄い、というところにもある。

ジャッキー・チェンはCGを使わずにアクションシーンをこなしている。
そういって褒める。

ならば「ミッション:インポッシブル」のトム・クルーズもそうであるのに、
こちらは何度もいうように、CGだ、と彼の頭の中ではそうなっていて、
例えCGではないシーンがあっても、それはスタントマンが演じている、とまでいう。

私も20代のころ(つまり1980年代)は、ジャッキー・チェンの映画はよく観ていた。
ジャッキー・チェンはよくやっている、と感心するのは、
エンディングでのNGシーンが映し出されるからでもある。

本編では一度でうまくやっているシーンでも、実際はそうではない。
何度も何度も同じシーンをくり返して、やっとうまくいくのを観ている。
おそらく、「ミッション:インポッシブル」をすべてCGといいはる人も、そうなのだろう。

1980年代は、いまのようなCGの技術はなかった。
生身のアクションシーンであった。
だから、みんな、凄いと素直に信じる。

ところがいまは違ってきている。
ジャッキー・チェンは、いまもアクションシーンをやっているようだが、
仮にCGでアクションシーンをつくっていたとしても、
「ミッション:インポッシブル」はCGといいはる人には、CGは使っていない、ということになる。

彼の判断基準は、ジャッキー・チェンのNGシーンと、
いくらなんでもそんなシーンは実際にはやっていないはず、という彼の思い込み、
それに想像力のそこまで及んでいないことによってつくられているといえそうだ。

Date: 8月 4th, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管バッファーという附録(その9)

真空管をいくつか交換してみてまず気づくのは、S/N比の変化である。
物理的なS/N比は、使用真空管によって違ってくる。

それに真空管ハーモナイザーを使うということは、使わない状態よりもS/N比的には不利である。
S/N比が向上する、ということはない。

その劣化をわずかでも抑えるために、よりノイズの少ない真空管を選別するという方法もあれば、
シールドケースを使う、という方法もある。

シールドケースは効果的に思っている人もいるようだが、
構造的にはむしろ使わない方がいいことが多い。

一般的なシールドケースは、真空管の頭をスプリングで押さえつける。
このスプリングが共鳴の元で、鳴っているし、
スプリングを使っているシールドケースは外側の金属ケースも、
指で弾くと安っぽい音がしがちだ。

この手のシールドケースを真空管にかぶせると、
中高域にイヤなキャラクターがのる。
あきらかに聴感上のS/N比が悪くなる。

実測すれば、シールドケースがきちんとシールドとして機能しているならば、
物理的なS/N比は若干向上しようが、機械的な雑共振のせいで、
聴感上のS/N比は、くり返すが確実に悪くなる。

探せばスプリングを使っていないシールドケースというモノもある。
以前、それについて書いているので、ここでは省略する。

この聴感上のS/N比の点からすれば、真空管ハーモナイザーに疑問がある。
なぜプリント基板の上に真空管が乗っているのか、と。

Date: 8月 3rd, 2018
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(中心周波数・その3)

グラフィックイコライザーの評価は、バンド数とその中心周波数だけで決るわけではない。
同じバンド数と同じ中心周波数であっても、
回路構成、その他によって音は違ってくるし、
イコライザーはなにより使いこなしが、非常に重要なオーディオ機器である。

使いこなしに長けていれば、
中心周波数の設定にそれほど細かくこだわる必要はないのかもしれない。
ただ、同条件での比較が難しいから、なんともいえない。

私が知る範囲では、ビクターのSEA7070だけが、中心周波数の違いがどう影響するのかを、
まったく同条件で比較できる。

SEA7070は1977年に登場した11バンドのグラフィックイコライザーである。
価格は135,000円。

中心周波数は31.5Hz、63Hz、125Hz、250Hz、500Hz、1kHz、2kHz、4kHz、8kHz、16kHz。
これもテクニクスと同じ、他の多くのグラフィックイコライザーと同じで、
もうひとつの中心周波数は1kHzと考えていい製品だ。

SEA7070は、それぞれの中心周波数を1/3オクターヴずつ上にも下にも変えられる。
つまり31.5Hzは25Hzと40Hzに、63Hzは50Hzと80Hzに、125Hzは100Hzと160Hzに、
250Hzは200Hzと315Hzに、500Hzは400Hzと630Hzに、1kHzは800Hzと1.25kHzに、
2kHzは1.6kHzと2.5kHzに、4kHzは3.15kHzと5kHzに、8kHzは6.3kHzと10kHzに、16kHzは12.5kHzと20kHz、
というふうに変えられる。

つまりSAEのMark 27と同じ二つ目の中心周波数のグラフィックイコライザーにもなる。
実際は630Hzと640Hzというスペック上の違いはあるが、
40万の平方根の632.455Hzの近似値であるのは同じだ。

SEA7070のようなグラフィックイコライザーは、他になかった、と記憶している。
SEA7070は使ったことがない。
だから、SEA7070が優れたグラフィックイコライザーなのかどうかは、私には判断できないが、
少なくとも中心周波数のもつ意味を徹底的に探ろうとするのであれば、
SEA7070に代るモノはない。

Date: 8月 3rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管バッファーという附録(その8)

真空管ハーモナイザーは、ネジを締めるだけとは半完成品である。
半完成品としたことで、これを購入した人は、
完成品を買うよりも、内部をあれこれいじってみよう、という気持になるであろう。

買った人のどのくらいなのかはわからないが、
真空管を交換してみよう、と思った人はけっこうな数ではないだろうか。

実際に交換した人はそこからは減るだろうが、それでも少なくはないだろう。
なにしろ真空管は一本だけだ。

これが三本も四本も使ったモノならば、話は違ってこようが、一本である。
しかもポピュラーな真空管である。

真空管の専門店に行けば、いくつかのブランドのECC82が売っている。
予算に余裕があれば、真空管全盛時代の未使用品も購入できる。

もっとも昔のテレフンケン、シーメンスのECC82として売っていても、
偽物も、残念ながら存在する。
よくいわれているダイヤマークにしても、1980年代から偽造されていた。

これだけでホンモノだ、と簡単に信用しない方が賢明だ。
結局、見分けるには、ホンモノを見て記憶するしかない。
もしくは、見分けられる人に頼むぐらいしかない。

それでも真空管はトランジスターと違い、差し替えが簡単である。
それに真空管のピン、ソケットといった接点のクリーニングも効果的である。
いろいろ試してみると、それだけで楽しくなる。

最初は一本だけだったECC82が、二本、三本……、と増えていくかもしれない。
もっといいECC82があるはず、と思うからだ。

気づくと、真空管ハーモナイザーの価格よりもずっと注ぎ込んでしまっていた……、
そういうことになった人もいよう。

Date: 8月 3rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(KT88プッシュプルとタンノイ・その2)

タンノイのスピーカーにはKT88のプッシュプルアンプ。
これには異論がある、という人は多いかもしれない。

私だって、乱暴な書き方なのはわかっていても、
ジャディスのJA80で鳴らしたGRFメモリーの音は、
もう聴く機会はない、と諦めていたグラドのSignature IIの音を、
もう一度聴くことが叶った、と思わせてくれた。

この音が、私にとって、タンノイにはKT88プッシュプルという組合せを、
決定づけてしまった。

もっと長い時間聴いていたい、と思わせる音ほど、
短い時間しか聴けなかったりする。
このときのタンノイとジャディスの音もそうだった。

もっと聴きたい、と思っていただけに、よけいに印象深い音として記憶されているのだろう。

マッキントッシュのMC275、マイケルソン&オースチンのTVA1、
ウエスギ・アンプのU·BROS3、ジャディスのJA80、
こうやって書き並べていくと、
アメリカ、イギリス、日本、フランスと国がバラバラなのに気づく。

ジャディスだけがモノーラルで、あとはステレオ機。
トランスと真空管のレイアウトも、それぞれ違う。
MC275とU·BROS3は似ていると思われるかもしれないが、
トランスの順序、内部配線の仕方を比較すると、違いは大きい。
それにTVA1とJA80はプリント基板による配線である。

この四機種を同時比較したことはない。
タンノイのスピーカーで比較試聴すれば、それぞれの違いははっきりする。
そうなると、これら四機種のKT88プッシュプルに共通して感じている良さは、
あくまでも個人的に感じている良さではあるが、それは否定されてしまうかもしれない。

それでも、あえて書けば、意外にもこれらのアンプのフレキシビリティは高い、と感じている。

Date: 8月 3rd, 2018
Cate: 再生音, 背景論

「背景」との曖昧な境界線(その1)

ミッション:インポッシブル」(Mission: Impossible)の最新作、
「フォールアウト」が今日から公開されている。

「ミッション:インポッシブル」は私ぐらいの世代、私より上の世代にとっては、
「スパイ大作戦」を思い出させる。

「スパイ大作戦」の好きな方のなかには、
「ミッション:インポッシブル」を認めていない人がいるのも知っているけれど、
「ミッション:インポッシブル」は「ミッション:インポッシブル」で楽しめばいい、と思う。

私も一作目からずっと観てきている。
今回の「フォールアウト」も、トム・クルーズのアクションが撮影時から話題になっていた。

先日、仕事関係の人と「ミッション:インポッシブル」のことが話題になった。
前作「ローグ・ネイション」の冒頭の離陸する飛行機に、
トム・クルーズ扮するイーサン・ハントがしがみつくシーンがある。

このシーンを、話していた人は、
「あれ、CGだよ。トム・クルーズが実際にやっているわけないでしょ」と断言していた。

メイキングビデオを見れば、実際にやっているのがわかる、といっても、
そのメイキングビデオすらも、CGで作った、と言い張る。
あんな危険なこと、やるわけないでしょ、がその人の主張するところだった。

そういえば数年前も同じことを経験している。
サントリーの燃焼系アミノ式というスポーツドリンクのCMがそうだった。
このとき話していたのは、私よりも若い人だった。

彼は、CMでやっている運動を、すべてCGによるものだ、といっていた。
私は、違う、といったけれど、これも平行線のまま。

「ミッション:インポッシブル」について話していた人は、もう60代なかばの人。
世代は関係ないのだろう。

難度の高いアクションシーンを実際にやっての撮影と、
ブルーバックを使っての撮影にCGによる映像を合成したもの、
すべてを見分けられるかといえば、まず無理である。

CG合成の例を見ていると、
ふだんの何気ないシーンがCGであったりして驚くことがある。

そういう時代の映画を、われわれはいま観ている。

Date: 8月 3rd, 2018
Cate: オーディオ評論

「商品」としてのオーディオ評論・考(その9)

その5)から少しそれてしまったが、本題に戻ろう。

その4)の最後に、
出版社が直接関係しない試聴が、オーディオ評論家にはある、と書いた。

オーディオ評論家は、オーディオ雑誌の試聴室でしか試聴しないわけではない。
メーカー、輸入元の試聴室ですることもあれば、
自身のリスニングルームで試聴することもある。

オーディオ雑誌の編集部からの依頼で、そういうところでの試聴もあれば、
そうでない場合もある。

これが悪いこととは考えない。
オーディオ評論家の仕事は、何もオーディオ雑誌に原稿を書くだけではない。

ただ考えたいのは、ここでも試聴料という名の対価を得ていることに関係してくる。
対価を得ること自体が悪いことではない。
その金額が高いとか、そんなことも問題にはしない。

そこでの試聴が、そのオーディオ評論家が書くものに関係してきた場合を考えたいだけである。
その2)で、オーディオ評論家という書き手の商取引の相手は、誰かというと出版社である、と書いた。
読み手ではない。

オーディオ評論家と出版社との商取引のあいだに、
メーカー、輸入元との商取引が関係してくることになる。

その3)で、
季刊誌ステレオサウンドという商品は、読み手とのあいだの商取引、
広告主とのあいだの商取引、このふたつの商取引をもつ。
これが雑誌という商品の特徴でもある、と書いた。

オーディオ評論という商品も、雑誌という商品と同じで、
ここではふたつの商取引をもつ。

Date: 8月 3rd, 2018
Cate: 「オーディオ」考

時代の軽量化(その7)

一年前「毎日書くということ(続・引用することの意味)」で、
積分的な聴き方、微分的な聴き方に付いて少しだけ触れた。

これは聴き方だけだろうか。
積分的な読み方、微分的な読み方もある、と、実感することが増えている。

もっといえば、微分的読み方をする読み手がいる、ということだ。

Date: 8月 3rd, 2018
Cate: 書く

毎日書くということ(文字だけというわがまま)

以前(といっても九年前)に書いているけれど、
先日も「どうして写真や図をいれないのか」と訊かれたので、もう一度書いておこう。

ブログを始めるあたって決めていたのは、毎日書くことと、
一万本、書くということ。

毎日書くというのは、たとえ一本であっても、日によっては大変だったりする。
いまでこそiPhoneがあるから、外出先からでもブログを書ける。
電車の中で書いたことも何度かあるし、
そんなところで書いていたの? といわれそうな場所でもある。

そういうときは、写真や図をいれるようにしておけば、
もう少し楽になるかも……、とそんなふうに思うことだってある。

でも一万本は、文字だけで行こう、と決めたことだから、それを守っているだけ。
内容によっては写真や図があれば、どんなに楽だろう、と思ったことは何度もある。

写真、図があれば、読む側にとってわかりやすくなるというのはわかっている。
それでも、文字だけにこだわりたいのは、私のわがままである。

Date: 8月 2nd, 2018
Cate: audio wednesday

第92回audio wednesdayのお知らせ(器材の借用)

このブログは2008年9月から書いている。
audio wednesdayは、2011年2月が最初だ。

ブログを書き始めたとき、audio wednesdayのような会をやるとは考えていなかった。
書きたいことを書いてきた。

そうやって書いてきて2011年からの会のスタート。
最初は音出しはやりたいけれど、無理だと考えていた。
音をいまは毎月鳴らしている。

それでも無理だな、と考えているのは、
オーディオ機器の借用である。

書きたいことを書いてきたから、
メーカーや輸入元にお願いしても無理だな、と思っている。

これは決めつけてしまっていて、どこにもお願いしたことはない。
私が逆の立場だったら……、と考えれば、そのことに行き着く。

だからといって、これから書きたいことを書かずに──、ということはまったく考えていない。

それに貸し出す側にしてみれば、営業的メリットがあればまだしも、
そんなことはほとんど期待できないaudio wednesdayである。
これも自覚しているから、貸してください、とお願いするのは厚かましい、とわかっている。

それでも9月のaudio wednesdayでは、あるオーディオ機器を借りられる予定である。
どこから何を借りるのはまだ書かない。

よく貸してくれるな、と正直思っている。
それだけにありがたいと感謝している。

これまで、会社(メーカー、輸入元)と個人(私)の関係では、
オーディオ機器の借用は無理だ、と決めつけてしまっていた。
でも、結局は会社と個人ではなく、個人と個人の関係なのだということに気づく。

場所はいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。
19時開始です。

Date: 8月 2nd, 2018
Cate: オーディオの「美」

音の悪食(その9)

マッキントッシュのアンプは、寝起きが悪いと感じたことはない。
毎月鳴らしていて、むしろ寝起きが早い方かな、と感じていた。

アンプの寝起き(ウォームアップによる音の変化)が問題になったころ、
SAEのMark 2500やトリオのL07シリーズは、電源を入れているだけではだめで、
三時間以上鳴らしていないと本領発揮とならない、
ようするに寝起きの悪い(悪すぎる)アンプとして知られていた。

どんなアンプでも寝起きに時間は必要となる。
しかも寝起きが一回とは限らない。
十分鳴らしていても、あきらかに音が変ることは意外に多い。
それも承知していても、昨晩の音の変化ははっきりとしていた。

おそらく昨晩の音の変化はアンプだけが理由ではなく、
ネットワークにしても二ヵ月鳴らしていなかったわけで、
スピーカーも私が鳴らすのは二ヵ月ぶりだから、
それらが重なっての音の変化なのはわかっている。

わかっていて、こんなことを書いているのは、
20時ごろに帰った人がいたからだ。
人それぞれ事情があるのはわかっているし、彼は毎回早く帰る。

無理に引きとめたりはしない。
けれど、「トリスタンとイゾルデ」以降の音を聴かずに帰ってしまうのは、
もったいない、と思った。
毎回思うわけだが、特に昨晩はよけいそう思った。

こればかりは時間の短縮は無理である。
正味鳴らしている時間が、ある一定以上必要なのだから。

Date: 8月 2nd, 2018
Cate: オーディオの「美」

音の悪食(その8)

19時スタートで、あれこれディスクをかけていった。
21時をすぎたあたりに、カルロス・クライバーの「トリスタンとイゾルデ」をかける。
エソテリックから出たSACDだ。

前奏曲が終り、しばらく聴いたらフェードアウトしようと思っていた。
いい感じで鳴っているのが、途中からあきらかによく歌うような感じへと変っていった。

私だけかな、と思っていたが、そうではなかった。
結局一枚目の終りまで聴いていた。
時間があれば、全曲を聴き通したいくらいだった。

クライバーの「トリスタンとイゾルデ」のあとに、
ほぼ毎回かけているグラシェラ・スサーナの「仕方ないわ」をかける。
声の表情が、いままでにないほど濃やかになっている。

そのあとにアート・ブレイキーの「Moanin’」をかける。
実は19時前に鳴らしている。
これもあきらかに、一回目と違う鳴り方で、
何がはっきりと違っているかというと、音の伸びやかさである。

一回目の「Moanin’」も伸びやかに鳴っていた、と感じていたが、
二回目の「Moanin’」を聴くと、まだ何かによってわずかとはいえ押さえつけられていたのか、と感じる。

次に「THE DIALOGUE」だ。
これも一回目の「Moanin’」のあとにかけている。
音量設定は一回目と同じ。

出だしの音からして、音量が違ってきこえる。
あきらかに音の伸びがいいから、最初の音は、このくらいの音で鳴ってくる、と予想していても、
鳴った瞬間に驚くほど、予想を超えていた。

昨晩は、ほんとうに何もしていない。
ただただ鳴らしていただけである。
18時30分くらいからアンプの電源をいれて、ずっと鳴らしていた。

Date: 8月 2nd, 2018
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(中心周波数・その2)

LNP2に3バンドのトーンコントロールがついていた。
機能を徹底的に省いたコントロールアンプもあれこれ夢想していた、
同時にコントロールアンプとしての機能を備えたモノも夢想していた。

トーンコントロールをどうするか。
最低でも3バンド、もっとバンド数を増すことも考えていた。
バンド数とともに、中心周波数をそれぞれどこに設定するのかも重要である。
その参考に、HI-FI STEREO GUIDE掲載の各社のイコライザーのスペックを比較していたわけだ。

たとえばラックスのSG12は型番が示すように12バンドのグラフィックイコライザーで、
中心周波数は14Hz、28Hz、55Hz、110Hz、220Hz、440Hz、880Hz、1.8kHz、3.5kHz、
7kHz、14kHz、28kHzとなっていた。

テクニクスのSH9090は、10Hz、30Hz、60Hz、125Hz、250Hz、500Hz、1kHz、2kHz、
4kHz、8kHz、16kHz、32kHzであった。
SAEのMark 27は、40Hz、80Hz、160Hz、320Hz、640Hz、1.28kHz、2.5kHz、
5kHz、10kHz、15kHz、20kHzである。

これらを比較して気づくのは、それぞれのバンドの中心周波数のほかに、
もうひとつの中心周波数がある、ということだ。

テクニクスのそれは1kHzと見ていい。
ラックスの440Hzであり、SAEは640Hzである。

これは全体の帯域の中心をどこに見ているのか、の表れだ。
1kHzを中心とするテクニクス、
A音を中心とするラックス、
可聴帯域の下限と上限をかけあわせた40万の平方根である632.455Hzに近い数値の640Hz、
ここを中心とするSAE。

バンド数が少ないからこそ、各社の考えがあらわれていた。

Date: 8月 2nd, 2018
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(中心周波数・その1)

1981年にテクニクスがSH8065を発表した。
33バンドのグラフィックイコライザーを、79,800円で出してきた。

そのころアルテックの1650Aは28バンドで、534,000円、729Aは24バンドで、622,000円、
クラークテクニークのDN27が27バンドで417,000円。
ただしこちらはモノーラルなので、ステレオだと80万円を超える。

そういう時代にSH8065の79,800円である。
テクニクスのグラフィックイコライザーで最上機種だったSH9090は、
12バンドで200,000円。こちらもモノーラルだからステレオでは40万円だった。

誰もが驚いた、と思う。
グラフィックイコライザーにほとんど関心のなかった人も驚いただろうし、
この値段だったら、と関心を持ち始めた人もいたはずだ。

一社とはいえ、10万円を切る価格で出してきて、それだけ注目をあびたことで、
少なくとも日本のメーカーは追従してくるのかと思っていたけれど、
33バンドのグラフィックイコライザーを、SH8065の同価格帯で出してくるのは困難だったようだ。

テクニクスは翌年上級機のSH8075も出してきた。
それだけ勢いがあった。

33バンドということは1/3オクターヴである。
このくらい細かい分割されると、興味を失うことがある。
中心周波数の設定である。

それまでは10バンド前後が多かった。
このくらいの分割だと、各社で中心周波数に違いが出てくる。

SH8065が出てくるまで、
HI-FI STEREO GUIDEをながめて、各社のイコライザーの中心周波数を比較していた。

中学、高校時代の私は、めぜさマークレビンソン、おいこせマークレビンソンだった。
LNP2以上のコントロールアンプを自作したい、と思っていた。