Date: 1月 3rd, 2013
Cate: CN191, VITAVOX, Wilhelm Backhaus

バックハウス「最後の演奏会」(続々・VITAVOXの復活)

ステレオサウンド別冊として1979年に出た「続コンポーネントステレオのすすめ」のなかで、
ヴァイタヴォックスのCN191はこう紹介されている。
     *
ヴァイタヴォックスというメーカーを、最近のイギリスの若い世代はもはや知らないとさえ、いわれる。実際、この〝クリプッシュホーン〟の名で呼ばれるCN191という大型スピーカーは、こんにち、その製品のほとんどが、日本からの注文で作り続けられている。いまから十年近く前、もはや製造中止の噂の流れていたこのスピーカーを、日本のある愛好家が注文で取り寄せた一組がきっかけを作って、その独特の魅力が口伝えのように広まって、いまなお注文してから一年近く待たされるという状態が続いている。
(瀬川先生の文章である)
     *
日本のある愛好家こそがH氏(原田勲氏)である。
横浜港に着いたCN191を、輸入元の今井商事に持ち込むことなく、
そのまま原田氏の自宅へ運びこまれた、という話を、原田氏ご本人からきいている。

今井商事としては一度会社に持ち帰りチェックをした上で納品するつもりだったのだが、
イギリスからの空気もCN191とともに届いているからこそ、
そのイギリスの空気ごと、できるだけ損なわずにリスニングルームに一刻も早く運びたかった、
というのが、その理由である。

だからといって、最初からいい音で鳴ってくれたわけではないことは、
ステレオサウンド 51号掲載の「続オーディオ巡礼」を読まれた方ならば知っていよう。
     *
もっともH氏に言わせると一朝一夕でこの音になったのではないらしい。
「十年かかりましたよ」
と本人は言う。そうだろうとおもう。
H氏はクリプッシュホーンを最初に日本へ取りよせた人だろうとおもうが、十年前、かなり彼とは親しい付き合いなので、取り寄せたと聞いて早速わたしは聴きに行った。しかし期待に反し、音像が貧弱で、中音域にホーンのいわゆる《音啼き》があり、拙宅のオートグラフと聴き比べると定位もぼけ、とうてい推奨するようなスピーカーではなかった。
     *
五味先生がタンノイのオートグラフを取り寄せられるきっかけをなったイギリスのHiFi year Book(1963年)に、
CN191はオートグラフと同じ165ポンドで出ている。

Date: 1月 3rd, 2013
Cate: CN191, VITAVOX, Wilhelm Backhaus

バックハウス「最後の演奏会」(続・VITAVOXの復活)

ヴァイタヴォックスの名を知ったのは、これもまた私の場合、「五味オーディオ教室」であった。
     *
H氏は、私のオーディオ仲間の一人で、たがいに気心の知れている、にくまれ口のひとつも言い合える仲であり、時にはワイフの知らぬ彼の情事を知っていて、ワイフの前では呆けねばならぬ仲でもあるが、そのH氏が英ヴァイタボックスのクリプッシ・ホーンを購入したときのことだ。
     *
五味先生は、この文章に続けて、スピーカーの馴らしについて書かれている。
そして、次のように結ばれている。
     *
しかし、〝音〟のクロウトでない、〝音楽〟を楽しもうとしている私たちにとって、スピーカーが鳴っているのか、スピーカーが空気を鳴らしているのか、言いかえれば、スピーカーが音を出しているのか、音を響かせているのか、を気にするのは、むしろ当然のことだと思うのである。
     *
このときから、オートグラフほどではないにしても、ヴァイタヴォックスの名は気になっていたものの、
ヴァイタヴォックスのスピーカーを聴く機会には、当時はまったく縁がなかった。

そのヴァイタヴォックスのスピーカーが、
それも五味先生が「五味オーディオ教室」に書かれたH氏とともにステレオサウンドに登場したのが、
51号掲載の「続・オーディオ巡礼」においてである。

こう書かれていた。
     *
H氏のクリプッシュ・ホーンを聴いて痛感したのが、この、測定不可能な音楽の倫理性がじつに見事に鳴っていることだった。こればかりは凡百のスピーカーエンクロージァでは聴かれぬ音の格調の高さで、久しぶりに私は興奮し且つ感動した。
     *
H氏は、ステレオサウンドを創刊された原田勲氏である。

Date: 1月 3rd, 2013
Cate: VITAVOX, Wilhelm Backhaus

バックハウス「最後の演奏会」(VITAVOXの復活)

ヴァイタヴォックスのスピーカーが、また輸入されることになったのを昨夜知った。
以前の輸入元だった今井商事のサイトに、ヴァイタヴォックスのページができている。

そこには「再びお届け出来るようになりました」とあるから、
日本への輸入がある時期とまっていたのか、
それともヴァイタヴォックスがHi-Fi用のスピーカーから徹底していたのか、
もしかするとヴァイタヴォックスという会社そのものになにかあったのか、
そのへんの詳しいことはいまのところわからない。

けれど1990年代の後半以降、いつしかヴァイタヴォックスの名前を聞くことはなくなったし、
インターネットが普及して今井商事のサイトができたときには、
すでにヴァイタヴォックスの名前はなかったように記憶している。

ヴァイタヴォックスは1931年創立の、歴史の長いメーカーではあっても、
イギリス本国でもその著名度はそう高くはなかったようだ。

瀬川先生によるステレオサウンド 49号掲載のヴァイタヴォックスのCN191の文章の冒頭には、
次のようなことが書かれている。
     *
つい最近、面白い話を耳にした。ロンドン市内のある場所で、イギリスのオーディオ関係者が数人集まっている席上、ひとりの日本人がヴァイタヴォックスの名を口にしたところが、皆が首をかしげて、あい、そんなメーカーがあったか? と考え込んだ、というのである。しばらくして誰かが、そうだPA用のスピーカーを作っていた古い会社じゃなかったか? と言い出して、そうだそうだということになった──。どうも誇張されているような気がしてならないが、しかし興味深い話だ。
     *
ステレオサウンド 49号は1978年に発行されている。
つまり上の話が事実であるなら、1970年代の終りには、
イギリスのオーディオ関係者でも忘れかけられていたヴァイタヴォックスではあるけれど、
ことに日本においては注文して届くまで1年近く待たされるという状態が続いていたスピーカーでもあった。

Date: 1月 2nd, 2013
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その33)

オルトフォンのMC型カートリッジは、低インピーダンスである。

ステレオサウンド 74号のハーマンインターナショナルが出しているオルトフォンの広告には、こうある。
「必然の数値」。

3Ωという、低い内部インピーダンスこそが、その「必然の数値」ということを、
その広告は謳っている。

3Ωという数値はオルトフォンが「行き着くべくして行き着いたインピーダンスの値」とあり、
「もっとも効率よくいい音を引き出せるコイルの巻数」ともある。

オルトフォンの言い分では、3Ω以上のインピーダンスになれば、
さまざまな問題が発生してくる──、
「コイルの巻数が多いから、エネルギー・ロスが多い」、
「発熱によるサーマルノイズ(熱雑音)が発生する」、
「振動系全体が重くなり、トラッキングアビリティが悪くなる」、
「位相もズレる」
これらをオルトフォンは問題点として挙げている。

この広告のあとしばらくしてだったと記憶しているが、
オルトフォンは「オルトフェイズ」という造語を使っていた(はずだ)。

Date: 1月 1st, 2013
Cate: 老い

50という区切り

1963年の1月1日は火曜日だった。
2013年、今年の1月1日も火曜日だ。
今年50の誕生日を迎える人は、生れた曜日と同じ曜日に50歳になるわけだ。

50という年齢は、ひとつの大きな区切りのように感じていたし、思ってもいた。
そう思うようになったのは、
1989年に創刊されたサライ(小学館発行)に巻頭インタヴューに載っていた安岡章太郎氏の発言からだ。
このことは10ヵ月ほど前にも書いている。

サライの創刊当時の巻頭記事で、安岡章太郎氏につづいて登場した人たちも、
口を揃えて「50をすぎてから面白くなった」と語っていた。

サライの、それらの記事を読んだころは、50のほぼ半分の26
歳だった。
まだまだ先のことだとも思っていたし、それでも50という年齢がどういうものなのか、
そして50になったとき、どんなふうに私自身、変っているのかを想像してみたこともあった。
(まったく想像できなかったし、こんなふうになっているとは思わなかった)

あと数週間で50になる。
やっと50になる。ひとつの大きな区切りを、生れた曜日と同じ曜日で迎えることになるのは、
些細なことではあるし、ほかの人にとっては取るに足らないことであるけれど、
なにか大きな環を一周してきたような感じさえ与えてくれる。

二周目をどのくらい廻れるのかなんて、わからない。
オーディオも、そして二周目にはいるのだろうか。

Date: 12月 31st, 2012
Cate: audio wednesday

第24回audio sharing例会のお知らせ

1月のaudio sharing例会は、1月2日(水曜日)です。

時間はいつもより1時間早めて夜6時、です。

場所もいつものとおり四谷三丁目の喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 12月 31st, 2012
Cate: 黒田恭一

黒田恭一氏のこと(「音楽への礼状」)

2012年、音楽の書籍、オーディオの書籍はどれだけ出版されたのか、
正確な数は知らない。すべてに目を通すこともできない。
出版されていることに気がつかずに、いい本との出合いを逃しているのかもしれない。

6月に黒田先生の著書「音楽への礼状」が復刊された。
マガジンハウスから出ていて「音楽への礼状」はながいこと絶版だった。
今回の復刊は小学館文庫として、である。

黒田先生の本の中で「音楽への礼状」が、私はいちばん好きである。
今回の復刊は、音楽の本、オーディオの本に関することで、私にとってはいちばんのうれしい出来事だった。

未読の方に、ぜひ! と押しつけがましいと思われようがつよく推めたい。
以前読んでいる方にも、もう一度手もとにある「音楽の礼状」を読み返してほしい、とも思う。

Date: 12月 31st, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(続・JBLのスピーカー端子のことで思ったこと)

私にスピーカー端子の交換についてきいてきたAさんは、
JBLの4300シリーズに惚れ込んでいる。おそらくこれから先も鳴らし続けられる、と私は勝手に思っている。

でもAさんは、あるところで聴いた音によって、すこし心が揺らいでいるように、傍からはみえる。
新しいスピーカーシステムに換えられることはたぶんないとおもうけれど、
4300シリーズが、いまのところ苦手とする音の良さを、
あるところで聴かれた音に感じとられての迷いであり、
そういうときに愛用のJBLのスピーカー端子がこわれた。

そんなのはたまたまであって、30年以上使ってきたスピーカーなんだから、端子の寿命が来ただけ。
事実としてはそうであっても、
Aさんの心に迷いが出た時に端子がこわれてしまったことに、
なにかJBLのスピーカーがAさんに訴えかけようとしているのではないか、と、
Aさんと別れた後、夜道をひとり歩きながらそんなことを思っていた。

4300シリーズに採用されているスピーカーユニットは、
いまみても良くできている。
もちろんまったく欠点がないわけではない。
それでもアメリカならではの物量を投入した、実にしっかりしたつくりで、
このスピーカーユニットならば信頼できる──、そう使い手に思い込ませる(信じ込ませる)だけの魅力をはなつ。

けれど4300シリーズにしても、スピーカーユニットの能力がフルに発揮されているかとなると、
そうとはいえないところが、やはりある。
4300シリーズのシステムそのものにもそういうところがいくつもあるし、
それだけでなくスピーカーユニットにも、バネ式の端子は使われていて、
若干なのではあろうが、JBLのプロ用ユニットの能力を抑える要因となっている。

つまり、この時機に端子にこわれてしまったのは、
JBLのスピーカーがAさんに対して、細部をもう少しリファインしてくれれば、
Aさんの心を迷わせた音だってかなり出せる。それだけの実力はもっている。
そのためにもこことあそこをどうにかしてほしい──、
そう訴えるためである、と想像してしまう。

Date: 12月 31st, 2012
Cate: オリジナル

オリジナルとは(JBLのスピーカー端子のことで思ったこと)

「JBLのスピーカー端子がこわれたんですけど、宮﨑さんだったらどうします?」ときかれた。
きいてきた人が使っているのは4300シリーズのモニタースピーカーだから、
もう30年以上が経っている。

この時代のJBLのスピーカー端子は、いまのJBLに使われている端子ではなくバネ式の、
それほど太いケーブル、というより、細いケーブルしか受けつけないタイプのものである。
スピーカーユニットの他の部分にかけられている物量投入ぶりからすると、
なんとも貧弱な感じのスピーカー端子である。

けれど、これが、この時代のJBLのスピーカーユニット、スピーカーシステムに使われていた端子であり、
これをオリジナルとすれば、他の、もっと太いケーブルを確実に接続できる端子に変えることは、
オリジナルの姿を変更する、ということにもなる。

いまの状態でも音は出る。
それでも先のことを考えるとなんとかしなければならない。
もともとついているタイプの端子に交換するのか、
それとも別の、確実な端子に交換するのか、
悩むところだと思う。

このことにはついては、オリジナルをどう定義するかによって答は変ってくる。
でも、それについては、ここでは書かない。
ここで書きたいのは、なぜ、この時機に4300シリーズのスピーカー端子がこわれてしまったのか、
そのことについてどう考えるかについて書きたい。

Date: 12月 30th, 2012
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その21)

ステレオサウンド別冊「いまだからフルレンジ 1939-1997」の巻頭にある「フルレンジの魅力」は、
19ページにわたっている。
単にフルレンジ型ユニットの魅力について書かれているのではなく、
井上先生ならではの解説と使い方へのアドバイスもあり、
この記事を初心者向けのものととらえる人もいるだろうが、
読めばそうでないことは、キャリアのある人ほど実感できるはずである。

「フルレンジの魅力」の冒頭には、こう書かれている。
     *
フルレンジユニットの魅力は、まず第一に、音源が一点に絞られ、いわゆる点音源的になるために、音像定位のクリアーさや安定度の高さが、何といっても最大のポイントだ。また、シングルコーン型や、ダブルコーン型に代表される複合振動板採用のユニットでは、デヴァイディング・ネットワークが不要なため、これによる音の色づけや能率低下がないことも魅力だ。さらに、振動板材料の違いによる音質、音色の差もきわめて少ないため、音の均質性に優れ、何らかの違和感も生じることがなく、結果として反応が速く、鮮度感の高い生き生きとした躍動感のある音を楽しめる点が、かけがえのない魅力である。
     *
「いまだからフルレンジ 1939-1997」は誌名からわかるように1997年に出ている。
「いまだからフルレンジ 1939-1997」にこまかな不満がないわけではないが、
その程度の不満はどの本に対しても感じることであり、特にここで書こうとは思っていない。

でも、ひとつだけ不満というか注文をつけるとしたら、
本の最後に、筆者後記が欲しかった、と思う。

つまり、なぜ1997年にフルレンジ型ユニットの別冊を企画されたことの意図についての、
井上先生の文章が読みたかったからである。

でも、井上先生のことだから、あえて書かれなかったのだとも思っている。
1997年に、井上先生がフルレンジ型ユニットの本を監修されたのかは、
「いまだからフルレンジ 1939-1997」の読み手が、ひとりひとり考えることであり、
そのことを考えずに「いまだからフルレンジ 1939-1997」を読んだところで、
この本の面白さは半分も汲み取れないのではないだろうか。

Date: 12月 29th, 2012
Cate: 複雑な幼稚性

「複雑な幼稚性」(その15)

大事なことを混同している人たちは、
自分たちの聴き方が新しくて、
JBLやタンノイといった、古くからあるメーカーのスピーカーを選択する人たちの聴き方をも古いとしてしまう。

音の聴き方に古いとか新しいといったことが、はたしていえるのだろうか。
自分の音の聴き方は新しい、という人の多くは、音場の再現こそが大事だという。

音場とは、音楽再生における場であることだから、
音場の再現は大切なことである、ということには反論はしないし、同意する。

聴感上のS/N比を重視するのも、この音楽の演奏される場を整えていくことであるからだ。

それでも音場の再現が音色の再現よりも上位だ、とか、
音色の再現よりも音場の再現を重視することこそが新しい音の聴き方である、
こんなことをいう人は、ほんとうに「音場」ということを認識しているのだろうか、と問いたくなる。

音場の再現と音色の再現(ここでいう音色とは楽器の音色のことである)は、
深く関わり合っていること、というよりも、同じことを違うことばで表していることに気づけば、
音場の再現がほんとうに良くなっていけば、楽器の音色の再現もそれにつれて良くなっていく。

もし楽器の音色の再現に、どこか不備があるのならば、
そこで鳴っている音場にも、どこか不備がある、といえる。
(ここでいう楽器とはアクースティック楽器のことであり、人の声のことである)

Date: 12月 28th, 2012
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(ジャズの再生の決め手)

またか、と思われようと、また引用するのが、
岩崎先生のジャズについて文章の一節である。
     *
アドリブを重視するジャズにおいて、一瞬一瞬の情報量という点で、ジャズほど情報量の多いものはない。一瞬の波形そのものが音楽性を意味し、その一瞬をくまなく再現することこそが、ジャズの再生の決め手となってくる。
     *
そろそろ暗誦できるほど読み返しているし、何度かここで引用もしている。

これも何度か書いていることだが、私が主に聴くのはクラシックであり、
ジャズを聴く、といっても、ジャズ好きの人からすれば、お前のジャズを聴く、なんてのは
ジャズを聴いているうちに入らない、といわれてもしかたないくらいの、
ジャズのディスクの枚数だし、聴いてきた時間もクラシックを聴いてきた時間と比較すれば、本当に短い。

そんな私でも、引用した岩崎先生の文章が、オーディオとジャズの本質をついていることは直感としてわかる。
だからこそ何度も読み返し、何度か引用してきた。
その都度、意味を考えてきた。

「その一瞬をくまなく再現することが、ジャズの再生の決め手となってくる」とある。
「その一瞬をくまなく再現すること」とは、いったいどういうことなのだろうか。
そのことを考えていたわけである。

「その一瞬をくまなく再現すること」とは、その一瞬を結晶化させることだ、と思えるようになってきた。
だから別項「ワイドレンジ考(ジャズにとって、クラシックにとって)」の(その1)、(その3)で、
ジャズを「いろ」、クラシックを「かたち」とした、
「いろ(ジャズ)」とは、この一瞬の結晶化による「いろ」なのかもしれないし、
その2)で岩崎先生の音を聴かれた菅野先生の表現、
「火花」も、また、この一瞬の結晶化なのではなかろうか。

一瞬の結晶化こそが、ジャズの再生の決め手だ、と、
クラシックばかりを聴いてきた私は、そうおもう。

Date: 12月 27th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その32)

BL積のBは磁束密度のことで、Lはボイスコイルの長さのことである。
Lは長さなので、技術書ではBL積ではなくBl積と表記されているが、
見難いのでBL積と、ここでは表記していく。

BL積は、磁束密度が高くボイスコイル長が長いほど高くなるわけだ。

そして動電型(つまりダイナミック型)スピーカーにおける駆動力とは、
このBL積にボイスコイルに流れる電流値IをかけたBLIとなり、
磁束密度が同じ磁気回路のスピーカーユニットではボイスコイル長の長いほうが、
電流は少なくても同じ駆動力が得られることになる。

JBLの4インチ径ダイアフラムのコンプレッションドライバーでは、
8Ωよりも16Ωの方が聴感上の結果は良かったわけだが、
だからといって、どんなに場合にもBL積の値が高いほうが好ましい結果が得られるとは限らないだろう。

4インチ口径のコンプレッションドライバーでは高域が延びているといっても10数kHzまでだから、
16Ωの方が良かったのかもしれない。
スーパートゥイーターのように20kHz以上まで延びていると、結果は変ってくることも考えられる。

ボイスコイル長は同じで磁束密度を増してBL積を大きくするのであればいいのだが、
ボイスコイル長を長くした(16Ω仕様とした)場合、
ボイスコイルはその名の通りコイルであるためインダクタンスがその分増すことになる。
このことは高域のインピーダンスの上昇へとつながっていく。

これに関することで思い出すのは、オルトフォンのカートリッジのインピーダンスについてである。

Date: 12月 26th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その31)

いま挙げた例は、いわばスピーカーがアンプに寄り添っていったともいえることである。
たしかにトランジスターアンプで鳴らすのであれば、16Ωよりも8Ωのほうが効率がいい。
けれど効率がいいことが音の良さに必ずしもつながっていくわけではないことを、
オーディオマニアであれば体験上知っているはず。

もう4年ほど前のことだったか、
知人があるオーディオショップでJBLのコンプレッションドライバーの比較試聴を行う、と私に連絡してきた。
比較試聴といってもJBLのドライバーをいくつか用意して、ということではなく、
同一ユニットでインピーダンスの違いを聴き比べる、ということだった。
違いはダイアフラムだけである。

試聴条件はネットワークだと、
ドライバーのインピーダンスによってカットオフ周波数などが変化することを配慮して、
マルチアンプ駆動で行ったそうだ。

知人は連絡してきたときに、こういっていた。
「8Ωのダイアフラムの方がボイスコイルの巻数が少ない分、振動系の質量がわずかとはいえ軽量なので有利なはず」
それに対して私は「BL積が関係してくるから、16Ωの方がきっといいと思うよ」と答えておいた。

夜、もういちど知人から電話があった。
すこし興奮気味で「16Ωのほうが良かった」といっていた。

彼は8Ωのほうが軽量な分高域が伸びて、
大型コンプレッションドライバーを使った2ウェイのシステムを考えていただけに、
8Ω仕様に期待していたのが、実際には16Ωの方が、音が鳴りだした瞬間に、優っていたことを知らされた、と。

駆動力に直接関係するBL積は、
私がオーディオをやり始めたころはスピーカーユニットのスペックとして発表されることが多かった。
それがいつのまにか、それほど重要なスペックではない、ということになり、
スペック上から消えていっていた。

でも、私はどこかで、スピーカーの技術者による「BL積(BLファクター)は重要だ」、
という発言を読んでいた記憶がずっとあったため、
私自身は8Ωと16Ωのダイアフラムによる音の違いは実際には聴いたことはなかったけれども、
16Ωのほうが有利ではないか、という推測ができただけである。

Date: 12月 26th, 2012
Cate: audio wednesday

第24回audio sharing例会のお知らせ

次回のaudio sharing例会は、1月2日(水曜日)です。

何も、年明け早々にやることもないだろうと思いましたし、
来てくださる方も少ないだろうとおもっていますけど、1月2日に行います。

時間はこれまでと同じ、夜7時からを予定していますが、1時間早めて夜6時からにしようかな、とも思っています。
時間は前日か前々日に、またお知らせします。

場所もいつものとおり四谷三丁目の喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。