Archive for 1月, 2015

Date: 1月 22nd, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その10)

ノイズ対策を徹底化することは、現代オーディオ機器の必須条件ともいえる。
内部、外部両方からのノイズに対して、どう対処するのか。

完全にノイズを遮断することは、オーディオ機器だけでは不可能である。
ゆえにノイズを遮断しながらも、それでも混入してくるノイズを除去するとともに、
あるレベルではノイズとうまく共存していく方法をさぐっていく必要もある。

Wadia 790の筐体内にある五基のトランスは、
ステレオサウンド 133号の三浦孝仁氏の解説が正しければ、
コントロール系、D/Aコンバーターのデジタル部、D/Aコンバーターのアナログ部、
ドライバー段、出力段で電源トランスは独立していて、八基のチョークコイルも採用されている。

三浦孝仁氏の解説では、チョークインプットコイルとなっている。
これは技術的にはおかしな表現である。
チョークコイルを採用した電源方式には、
コンデンサーインプットとチョークインプットのふたつがある。

チョークインプットコイルと書いてしまうと、
部品の名称と平滑方式の名称をいっしょくたにしてしまっている。

それから三浦孝仁氏は「PA85というAPHEX社製のディバイス」と書かれているが、
APHEXではなくAPEXである。

おそらくワディアの当時の輸入元であったアクシスからの資料をそのまま引用されたためであろう。
話がそれてしまうが、ステレオサウンド 133号の奥付をみると、
編集長、編集デスクをふくめて、編集者は五人いる。
誰も、この間違いに気がつかなかったのだろうか。
輸入元の資料だから、と鵜呑みにしてしまったいたのだろうか。

APHEXかAPEXかは、調べればすぐにわかることである。
133号は1999年12月発行で、いまほどインターネットが普及していないとはいえ、
技術に多少なりとも詳しい人が編集部にひとりいれば、わかったことである。

ステレオサウンドは100号で、Wadia 5の見出しに、
ワディアが放つエポックメイキングな新カテゴリー、
と書いている。

ステレオサウンドのワディアのPower DACへの監視の高さは、133号の記事でもうかがえる。
だから十分なページ数を確保しての記事となっているにも関わらず、細部の詰めがあまさがどうしても気になる。

Date: 1月 21st, 2015
Cate: オーディオの「美」

オーディオの「美」(美の淵)

絶望の淵とか死の淵などという。
絶望の淵に追いやられる、死の淵に立たされる、ともいう。

幸いなことに、私はまだ死の淵、絶望の淵に立たされたり追いつめられてはいない。

オーディオは美の淵なのだろうか、とふと思った。

よくオーディオは泥沼だ、といわれる。
いまもそうなのかはよく知らないが、昔はよくいわれていたし書かれてもいた。
その泥沼に喜んで身を沈めていくのがオーディオマニアである、とも。

この項へのコメントを、川崎先生からfacebookにいただいた。
「オーディオの美ではなく、オーディオはすでに美であるべき!」とあった。

オーディオは美であるべきなのに、それを泥沼とも表現する。
泥沼は泥沼である。もがけばもがくなど深みにはまっていく。そして抜け出せなくなる。

けれど、この泥沼はオーディオマニアと自認する人、まわりからそう呼ばれる人にとっては、
案外と居心地のよいところもあるのかもしれない。

でも、それでも泥沼は泥沼である……。

こんなことを考えていた。
そして、この泥沼の淵は美の淵なのだろうか、とも考えた。

いまのところは、美の淵という言葉を思いついただけである。
この美の淵に、オーディオは聴き手を導いてくれるのか。

なにもはっきりとしたことは、まだ書けずにいる。
それでも、美の淵について考えていこう、と思っている。

Date: 1月 21st, 2015
Cate: 公理

オーディオの公理(その4)

ラックスのLX38はプリメインアンプということもあって、外側から真空管は見えない。
よく真空管のヒーターの灯っているのがあたたかみを感じさせてくれる、というが、
SQ38FD/II、LX38にはそのことはあてはまらない。

何も知らない人にとっては、SQ38FD/IIもLX38も真空管アンプとは見えないといえる。
同じように、このころのラックスのコントロールアンプCL32は、
当時としては真空管アンプとは思えない薄さ(7.7cm)だった。

CL32はその外観からもわかるように、懐古趣味的な真空管アンプとしてではなく、
新しい時代のラックスの真空管アンプとして開発されたものであった。

そのCL32の音については、どう評価されていたのか。
私のもうひとつのブログ、the re:View (in the past)をお読みいただきたい。

井上先生、菅野先生、岩崎先生、瀬川先生の評価が読めるわけだが、
みなCL32の音に真空管アンプならではの音の特徴を認められているのがわかる。

CL32はLX38よりも、もっと真空管アンプであることを視覚的な印象からは感じさせないにも関わらず、
しかもLX38はSQ38シリーズの最新モデルという、ある種のしがらみのようなものは、CL32にはなく、
まったくの新製品であるにも関わらず、よくいわれる真空管アンプの良さを持っている(残している)。

LX38の次に私が聴いた真空管アンプは、マイケルソン&オースチンのパワーアンプTVA1である。

Date: 1月 21st, 2015
Cate: 公理

オーディオの公理(その3)

私が初めて聴いた真空管アンプも、ラックスのアンプだった。
SQ38FD/IIの次期モデルであったLX38で、
瀬川先生が定期的に来られていた熊本のオーディオ店でのイベントにおいてである。

他にはトランジスターアンプがあった。
何機種あったのかはもうおぼえていないけれど、LX38だけが真空管アンプだった。

トランジスターか真空管という違いよりも、
アンプメーカーによる音の違いが大きいといえばそうなるし、
真空管アンプすべてに共通する音の特質はあるようでいてないような、
そんなはっきりとしないことがあるのはわかっていても、
LX38の音はSQ38FD/IIの後継機であることもあってか、
やはりあたたかい、とか、やわらかい、といわれる類の音ではあった。

この時、瀬川先生が聴きたいモノのリクエストはありませんか、といわれたので、
スペンドールのBCIIとLX38、それにカートリッジはピカリングのXUV/4500Qの組合せで鳴らしてもらった。

この時の音については以前書いているけれど、
われながら、いい組合せだったと思う。
瀬川先生からも「これは玄人の組合せだ」といわれて、嬉しくなったことははっりきと憶えている。

私がお願いしたレコードをかけ終って、「これはいいなぁ」といわれて、
自分で聴きたいレコードをかけられたほどだった。

スペンドールのBCIIの音にもどこかピントの甘いところがある。
LX38の音にもそういうところがある。
だからBCIIの良さをLX38は、うまく抽き出してくれたのだが、
カートリッジにまで同じようにピントの甘い音のものをもってきたら、
おそらく聴くにたえなかった、と思う。

XUV/4500Qには、そういうところはなかった。

これが私にとっての初めての真空管アンプのアンプということなのだから、ことさら印象に残っている。
たしかにLX38の音は、一般的にいわれているような真空管アンプらしい音であった。

Date: 1月 21st, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その9)

アルパイン・ラックスマンのD/Aコンバーター内蔵のプリメインアンプLV109が登場した時、
D/Aコンバーターを内装することのメリットよりもデメリットを問題にする人が多かったように憶えている。

CDプレーヤーが世に現れて、わりとすぐにCDプレーヤーが発生源であるノイズが問題になってきた。
すこしでもその影響を取り除くために、CDプレーヤーの電源は、
アンプとは違うコンセントから取ることがオーディオ雑誌にも載るようになっていった。

アンプにD/Aコンバーターが内蔵されることは、ノイズ発生源をアンプの中につくることでもある。
当然、その影響は別筐体のCDプレーヤーよりも大きくなる、ともいえる。

メーカーもデメリットはわかっているから、
ノイズ対策を施していることをカタログに謳う。
それでも完璧なノイズ対策は不可能である。

結局はメリットとデメリットを測りにかけて……、ということになり、
その判断はメーカーによって違ってもくる。

ステレオサウンド 100号で紹介されたWadia 5の電源トランスは、
円筒型の筐体の底に大型のトロイダルトランスが一基、その上に平滑コンデンサー、
この上部にも小型のトロイダルトランスがある。

ステレオサウンド 133号紹介のWasia 390 + Wadia 790では、
コントローラー部のWadia 390に一基、本体のWadia 790に五基と驚くほど増えている。
すべてトロイダル型である。

おそらくWadia 5でも巻線はデジタル/アナログで独立していたと思われる。
それでもノイズ対策の徹底化を図るには電源トランスから分離した方がより確実で効果的である。

Wadia 5の開発で、ノイズの問題をどう処理するのか。
その答がWasia 390 + Wadia 790の六基の電源トランスといえる。

徹底するにはここまでやるしかないわけだが、
同時にPower DACという形態をとる必要性の希薄化を生じさせているのではないか。

Date: 1月 21st, 2015
Cate: 素材

素材考(ジャーマン・フィジックスのDDD型ユニット)

昨年秋、ヨネックスがロードバイクのフレームを発表した。
もちろんカーボンを採用したフレームである。
発表された資料に、ゴムメタルという表記があった。

ゴムメタル
ゴムのような金属という意味なのか、と思い、検索してみると、
チタン合金の一種で、ゴムのような性質をもつものだとわかる。

柔らかく、しなやかで、高強度で腰が強い。
どんなに変形させても硬くならず、無限のプレス加工性を有している、ともある。

ジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットはベンディング型であるため、
振動板は合成ではなくしなやかさが要求される。
チタンの薄膜を採用し、その後カーボン版も出ている。

カーボンは高剛性の高剛性の素材だと思っている人が多いようだが、
カーボン繊維はしなやかな素材である。
だからこそDDD型ユニットの振動板の素材としてカーボンもあり、といえる。

そのDDD型ユニットの振動板の素材として、ゴムメタルは最適の素材ではないだろうか。
現在採用されているチタンがどういうものなのか詳細はわからないが、
ゴムメタルの資料を読むかぎりは、より適しているように思える。

現在ジャーマン・フィジックスの輸入代理店は日本には正式にはない。
それが残念である。

ゴムメタルのDDD型ユニットの登場。
実現してほしい。

Date: 1月 21st, 2015
Cate: オーディオ評論

江川三郎氏のこと(その5)

岩崎先生が鳴らされるパラゴンの音は、聴きたかった。
いまでも聴きたい、とさえ思っている。

江川三郎氏のパラゴンの音は、私にとってどうか。
聴いてみたい、といえば好奇心から、そうだ、となる。
でも岩崎先生のパラゴンを聴きたかった、とは違う意味での聴いてみたいである。

それでも聴いてみたいと思っているのは、
江川三郎氏とパラゴンとの関係について考える上で、がその理由である。

おそらく二月発売のオーディオアクセサリーにはなんらかの記事が載るであろうし、
インターネットでも、いろんな人が江川三郎氏について書いていくであろう。

私は先に書いているように、1990年代以降はあまり読まなくなっていた。
そういう者に書けることは、それほど多くはない。
もっと多くのことを書ける人が大勢いることだと思う。

その人たちに私が期待しているのは、
江川三郎氏とパラゴンとの関係についてである。
江川三郎氏のパラゴンの音を聴いている人も、その中にはいるはず。

私がなんとなく感じているのは、江川三郎氏はオーディオ評論家だったのか、である。
オーディオ評論家だった時期はたしかにある。
けれど、それはパラゴンを手放された以降、徐々に変っていったようにも思う。

といっても江川三郎氏の熱心な読み手ではなかった私は、
このへんの事実関係をしっかり調べているわけではない。なんとなくの記憶から書いているにすぎない。

オーディオ機器の紹介記事を書いたり、
試聴をしたりするのがオーディオ評論家ではないことはないことはことわったうえで、
江川三郎氏はオーディオ評論家でありつづけたのか。

あといくつか江川三郎氏について書けることはあるけれど、
このへんにしておこう、と思っている。

Date: 1月 20th, 2015
Cate: オーディオ評論

江川三郎氏のこと(その4)

江川三郎氏は、逆オルソンをどこから発想されたのだろうか。
ある日、ふと頭に浮んだのだろうか。記憶にはない。

逆オルソンのことが載っている当時のオーディオ雑誌には、
そのへんのことが載っていただろうか。

もしかすると……、とおもうことがひとつある。
前述したように、逆オルソンのころはパラゴンを鳴らされていた時期でもある。
ウーファーのバックチェンバーの裏板を外されていたことも前述した通り。

パラゴンの、この部分の写真をみたことのある人ならすぐにわかる。
見たことのない人は、パラゴンで画像検索すれば内部構造図がすぐにみつかる。
二本のウーファーがどういうふうに(どういう角度で)取り付けられているのかわかる。

これが逆オルソンの発想のきっかけではなかったのか、そんなふうに思える。

パラゴンの上から身を乗り出して、この部分を覗き込む。
音を鳴らしている状態でこれをやれば、頭は下を向いている状態だから、
右チャンネルのウーファーの音は右耳に、左チャンネルのウーファーの音は左耳にはいる。

このときの音が意外とよかったのかもしれない、
何かを江川三郎氏に感じさせるものがあったのかもしれない。

私の勝手な想像である。
実際のところはわからない。

パラゴンの存在と逆オルソンがまったく無関係とは、それでも思えないのだ。

Date: 1月 20th, 2015
Cate: オーディオのプロフェッショナル

モノづくりとオーディオのプロフェッショナル(その2)

「スピーカーづくりなんて、簡単!」という人がいた。

彼はスピーカーユニットを買ってきて、
木材のカットは専門業者にまかせて、自分でスピーカーをつくっていた。
既製品のスピーカーシステムもいくつも使ってきていた。

彼は「こんなに安くて、これだけの音がすぐに出せる」ともいっていた。
そしてメーカーがやっていることを小馬鹿にしていた。

こんなアホなことをいっているのが若い人であれば何かをいう。
けれど私よりも年上でオーディオのキャリアも長く、
私よりもオーディオに使ってきた金額の多い人には、もう黙ってしまうしかない。
何をいっても無駄なのだから。

彼がやっているのは、あくまでも自分の部屋において、自分の好みの音が簡単に出せたから、でしかなかった。
それ以上ではなかった。
でも彼は気付いていなかった。
だからメーカーがやっていることを否定していた。

彼は測定器の類はなにも持っていなかった。
そんなものは必要とない、とまでいっていた。

私はもう黙ってしまっていたから、
彼がそのとき何を考えていたのか確かめはしなかった。

彼はネットワークを作らずマルチアンプ駆動で鳴らしていた。
ディヴァイディングネットワークでクロスオーバー周波数を調整してレベル調整、
それぞれのユニットにパワーアンプは直結され、グラフィックイコライザーも併用していた。

これならば、限られた環境において自分の好みの音は出しやすい。
でも、そんなスピーカーは製品にはなりえない。
けれど、彼はわかっていなかった。

Date: 1月 20th, 2015
Cate: 同軸型ウーファー

同軸型ウーファー(その1)

同軸型ユニットはウーファーとトゥイーターを一本のスピーカーユニットにしたモノであり、
一本のスピーカーユニットで再生音域を広くカバーするためである。

つまりは同軸型フルレンジといえる。
だからステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4にフルレンジユニットとして、
いくつかの同軸型ユニットが紹介され試聴されている。

いま私が考えているのは、同軸型ウーファーである。
タイトルを間違えているわけではない。
再生音域を拡げるための同軸型ではなく、
よりよい低音を得るためとしての同軸型ウーファーは、可能性としてありうるのか、である。

同軸型ウーファーについて考えるようになったきっかけは、
別項『「言葉」にとらわれて』の(その9)で書いている、ある扇風機である。

日本のメーカーであるバルミューダは、自然な風をつくり出せる扇風機を開発・販売している。
扇風機の風に長く当りすぎていると体調を崩す、と昔からいわれていた。

バルミューダの扇風機が登場する以前には、
少しでも自然な風に近づけるために1/fゆらぎを取り入れた製品もあった。
バルミューダの扇風機はまったく発想が異る。

この扇風機についての詳細はリンク先を見ていただくとして、
低音再生のウーファーにあてはめて考えるようになっていた。

もちろん扇風機とウーファーの問題点は違う。
だからバルミューダの扇風機の解決手法がそのままウーファーに取り入れて効果があるのかについては、
いまのところなんともいえない。

それでも直感として、同軸型ウーファーということが浮んだ。

Date: 1月 20th, 2015
Cate: オーディオのプロフェッショナル

モノづくりとオーディオのプロフェッショナル(その1)

はじめて真空管アンプをつくろうとしている人がいる。
彼は何を用意すべきか。

アンプを作るためには工具が必要だ。
ハンダゴテは絶対に必要である。ドライバーもいる。
シャーシー加工すべてどこかに受註するのであればいいが、
穴開け加工を自分でやるのであれば、ドリル、ヤスリもいる。
この他にもさまざまな工具がいる。

工具の用意とともに、パーツを集めなければならない。
いまではインターネット通販があるから、
昔のように秋葉原まで何度も電車で通っては、
時には重たい部品を持って帰るということもやらなくてすむようになっている。

アンプの回路は、はじめて作るのであるから、定評のある回路と配線をそのまま採用する。

部品点数が少なくて、シャーシー加工にそれほど手間どらなければ、
それほど時間を必要とせずに真空管アンプは組み上る。

ここで必要となるのが、測定器である。

自分で創意工夫をした回路ではなく、昔からある回路で、
昔ながらのレイアウトで、NFBもかけない、もしくはごくわずかだけであれば、
配線の間違いがないことをしっかりと確認すれば、
テスターだけで各部の電圧をチェックするだけでもかまわない。

テスターも測定器であり、ここて必要となる測定器はテスターだけで足りる。

けれど、最初の真空管アンプ作りがうまくいったから、気を良くして、
今度は回路も自分で考えた凝ったものにして、NFBもそこそこかけて、
レイアウトも奇抜なものにしよう……、そんなことをやると測定器はテスターだけではもう無理である。

少なくとも発振していないかどうかを確かめるための測定器は必要となる。

Date: 1月 20th, 2015
Cate: D130, JBL

ミッドバスとしてのD130(その8)

「なんでこんな馬鹿げたことをしたんですか」には、
これを口にする人によって、違う意味をもつことになる。

黒田先生はステレオサウンド 38号の特集で八人のオーディオ評論家のリスニングルームを訪問され、
八人のオーディオ評論家それぞれに手紙を書かれている。
上杉先生への手紙は「今日は、まことに、痛快でした。」で始まっている。

黒田先生が感じた痛快さは、馬鹿げたことをする真剣さ、一途さゆえのものと書かれている。
自分にはできないことをさらりとやってくれる人に感じる痛快さがあり、
その痛快さを表現することばとして「なんでこんな馬鹿げたことをしたんですか」がある。

その一方で、部屋の大きさに見合ったサイズのスピーカーシステムこそが理に適ったことであり、
しかも大口径の振動板に対してのアレルギーをもつ人は、
おそらく軽蔑をこめて「なんでこんな馬鹿げたことをしたんですか」と口走る。

「なんでこんな馬鹿げたことをしたんですか」と思わず口走るのであれば、
痛快さをそこに感じてでありたい。

黒田先生の上杉先生への手紙には、こんなことを書いてある。
     *
 神戸っ子は、相手をせいいっぱいもてなす、つまりサーヴィス精神にとんでいると、よくいわれます。いかにも神戸っ子らしく、上杉さんは、あなたがたがせっかく東京からくるというもので、それに間にあわせようと思って、これをつくったんだと、巨大な、まさに巨大なスピーカーシステムを指さされておっしゃいました。当然、うかがった人間としても、その上杉さんの気持がわからぬではなく、食いしん坊が皿に山もりにつまれた饅頭を出されたようなもので、たらふくごちそうになりました。
     *
ステレオサウンドの取材班が東京から神戸に来るから、ということで、
これだけの規模のスピーカーを間に合わせた、とある。
もともと計画されていたことだったのだろうが、それでもすごい、と思う。

ちなみにこのスピーカーシステムの重量は、両チャンネルあわせて約780kg。

Date: 1月 19th, 2015
Cate: オーディオ評論

江川三郎氏のこと(その3)

なぜ私だけでなく、けっこう数の人が逆オルソンを試したのだろうか。
そして試した人がみな逆オルソンは採用していないのは、なぜか。

江川三郎氏による逆オルソンの記事には、ある図があった。
マイクロフォンとスピーカーの位置関係(相関関係)を示した図だった。

録音のときにマイクロフォンは、こう設置する、とあった。
再生ではマイクロフォンの位置と向きと同じになるようにスピーカーを設置するのが逆オルソンであり、
図はそのことを解説していた。

これにはうまくだまされた。
あえてだまされた、と書く。
完全に間違っているわけではないからだ。

確かに録音時のマイクロフォンは、その図にあるようにセッティングされることはある。
だがそれは純粋なワンポイント録音の時だけである。
それ以外の録音ではマイクロフォンの数はもっと多く、
その位置、向きもまた違っている。

ほとんどの録音はワンポイント録音ではない。
複数のマイクロフォンが使われる。

つまり逆オルソンの説明図にあったようなマイクロフォンとスピーカーの関係が実現できるのは、
ワンポイントマイクロフォンによる録音のみである。

高校生の時、そのことに気づかなかった。
気づいたとしてもワンポイント録音のレコードは、まだ持っていなかった。

これから先、逆オルソンをもう一度試すかどうかはなんともいえない。
もし試すことがあるとしたら、ワンポイント録音を用意して、である。

Date: 1月 19th, 2015
Cate: オーディオ評論

江川三郎氏のこと(その2)

江川三郎氏のことを昨夜知った時点で、江川氏について書こうとどうか迷った。
江川三郎ときいて私がまっさきに頭に浮かべることからもわかるように、
私が江川三郎氏の書かれたものを熱心に読んでいたのは1980年以前である。
1980年代もオーディオアクセサリーに書かれたものは読んでいた。
ヒントとなることがあったからだ。

1990年代にはいると、あまり読まなくなっていた。
この十年ほどはまったくといっていいほど読まなくなっていた。

そんな読み手でしかなかった私だから、江川三郎氏について何が書けるのだろうか、となる。
たいしたことは書けない。
それがわかっていても、いくつかのことは書いておこう、と思った。

まず書きたいのは、逆オルソンについてである。
私と同世代、少し上の世代のオーディオマニアの方だと、逆オルソンといえばすぐにわかってくれる。
そしてたいていの人が「やったことがある」と答えてくれる。
私も高校生のとき、逆オルソンはやってみた。

やっては元に戻し、また江川氏の記事を読んでは逆オルソンにしてみたり、
そんなことをくり返した。

逆オルソンとは、左右のスピーカーを中央にくっつかんばかりに寄せて、ハの字に向ける。
通常のスピーカーセッティングでは左右を離して、聴き手を向くように設置するが、
逆オルソンはスピーカーが聴き手ではなく壁に斜めを向くように置く。
そして左右のスピーカーのあいだに仕切り板を立てる。

最初逆オルソンを試した時、仕切り板がないままだった。
二回目は仕切り板を用意してやった。
けれど私は逆オルソンはとらなかった。

Date: 1月 19th, 2015
Cate: オーディオ評論, 訃報

江川三郎氏のこと(その1)

昨夜、facebookで江川三郎氏が亡くなられたことを知った。
オーディオフェア、ショウの会場ですれ違ったことが二回くらいあるだけだ。

私はステレオサウンドで丸七年働いていたけれど、
そのころは江川三郎氏はステレオサウンドとの関係はまったくなかった。
ご存知ない方もいまでは増えているようだが、
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」のアルテック号には、江川三郎氏が登場されている。
アルテックのユニットを使った自作スピーカー記事「アルテクラフト製作記」を担当されていた。
この記事は面白かった。

私にとって江川三郎氏ということで頭に浮ぶのは、
この「アルテクラフト製作記」に出て来た604-8Gを使用したアクロポリスがまずあり、
それからハイイナーシャプレーヤー、逆オルソン方式である。
あと思い出すのは、JBLのパラゴンを鳴らされていたことである。

パラゴンは1969年にはすでに鳴らされていた。
当時の山水電気の広告「私とJBL」にパラゴンをバックにした江川氏が登場されている。

たしかトリオの会長の中野氏が鳴らされていたパラゴンだったはずだ。
パラゴンといえば私の中では真っ先に岩崎先生が浮ぶ。
けれど江川氏が岩崎先生よりも早く、パラゴンを鳴らされていたことは忘れてはならないことだと思う。

パラゴンも最後のほうではウーファーの裏板を取り外して鳴らされていたはず。
1980年代以降の江川氏のイメージとパラゴンは結びつきにくい。
けれど山水電気の広告の写真をみていると、そんな感じはしない。

この写真を見ていると、あれこれおもってしまう。