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Date: 11月 10th, 2013
Cate: ショウ雑感, 瀬川冬樹

2013年ショウ雑感(瀬川冬樹氏のこと)

今日は瀬川先生の三十三回忌法要に行ってきた。

ほんとうに近しい人たちだけの、ということで、私が行っていいものなのか、と思いもしていた。
瀬川先生が熊本のオーディオ店に来られることはかかさず通っていた。
いわばおっかけである。

私がステレオサウンドで働くようになったのは1982年1月から。
瀬川先生が亡くなられた後のことだ。
そういう者がはたして行っていいものか、とは思いながらも、
来てください、といわれていたので、行ってきた。

行ってよかった、とおもっている。
なぜ、よかった、とおもっているのかについては、いずれ書いていくかもしれない。
書かないかもしれない。

いまのところ、ひとつだけ書いておきたい。
ショウに関することだからだ。

瀬川先生がメーカーのショールームで、
定例プログラムを行われていたことは、この時代にオーディオに興味を持っていた方ならば、
多くの方がご存知だし、楽しみにしていた方も多かったはず。

瀬川先生の回は、どのメーカーのショールームでも人が多く集まっていた、ときく。
瀬川先生は、来る人拒まず、の姿勢だった、ときいた。
そして重要なのは、一人として最後まで誰も帰さない。
そういう覚悟で毎回行われていた、ということだった。

インターナショナルオーディオショウでもそうだが、
オーディオ評論家と呼ばれる人が講演という名の音出しをやっていても、
瀬川先生と同じ覚悟でやっている人は何人いるのだろうか。

Date: 11月 10th, 2013
Cate: アナログディスク再生, ショウ雑感

2013年ショウ雑感(アナログディスク再生・その6)

カンターテ・ドミノは、スウェーデンのマイナーレーベルといっていいプロプリウスを有名にした一枚である。

プロプリウスは1960年代末にスタート。カンターテ・ドミノは1976年の録音。
教会でのワンポイント録音、テープデッキはルボックスのA77だった、ときいている。

1979年にスウェーデンのレコード賞を得て、
ヨーロッパのAESのコンヴェンションやオーディオショウでデモンストレーションのレコードと使われることが増え、
注目されるようになっていく。

1981年秋に来日したJBLのジョン・アーグルも、
この時の新製品、4435、4430のセミナーにおいて、カンターテ・ドミノを使っていた、とのこと。

このころになると日本でも話題になっていて、
1982年にマークレビンソンやSAEの輸入元でもあったRFエンタープライゼスが輸入を行うようになった。
日本で広くカンターテ・ドミノが知られるようになり、売れるようになったのは、このころからだろう。

カンターテ・ドミノのディスクは持っていないという人はいるだろうが、
一度も聴いたことがない、という人は少ないように思う。
どこかで耳にしていることが、きっとあるはず。

これほど有名なディスクにも関わらず、
日本人には教会ときくと、石造りのイメージがあるためか、
カンターテ・ドミノの録音が行われた教会もまた石造りだと思っている人がいる。

すでに何度か書いているように、カンターテ・ドミノで使われた教会は石造りではない。
だからカンターテ・ドミノで聴くことができる残響・反響は木の響きをイメージさせるものでなくてはならない。

テクダスのAir Force Oneで鳴ったカンターテ・ドミノは、
木の教会の響きを、実に自然な感じで再現してくれた。

Date: 11月 10th, 2013
Cate: アナログディスク再生, ショウ雑感

2013年ショウ雑感(アナログディスク再生・その5)

エルプのレーザーターンテーブルのスクラッチノイズの出方が特徴的なのに対し、
テクダスのAir Force Oneでは、いわゆる一般的なアナログプレーヤーの出方なのだが、
ノイズは出ていても、あまり耳につかない。ノイズが尾を引かない。
ノイズの音そのものも低く抑えられている印象である。
つまりいいノイズの出方だった。

このへんは自分で操作しての印象ではないから断定まではてきないけれど、
おそらくノイズの出方の印象に関しては大きく変ってくることはないはず。

このノイズの出方を聴いていると、安心してアナログディスクが聴ける、という感じがしてくる。

ローズマリー・クルーニーの次はバリー・ベラフォンテだった。
その次はエリー・アメリングがかけられた。
このとのアメリングが、私の中にあるアメリングの印象よりもすこしばかり細めに聴こえて、
おやっ、と思うところもあったが、
アンプもスピーカーシステムも初めて聴くものばかりだから、
どこにそう聴こえる要因があるのかははっきりとはしない。

四枚目がプロプリウスのカンターテ・ドミノだった。
カンターテ・ドミノはCDもアナログディスクも何度となく聴いている。
自分のシステムでもかなりの回数聴いてきた。

このディスクの鳴り方で、ほぼおおよそのことは判断できる、ともいえる。

歌が始まる。
この瞬間で、Air Force Oneの実力の高さを確信できた。

Date: 11月 8th, 2013
Cate: ショウ雑感

2013年ショウ雑感(その10)

インターナショナルオーディオショウの今年の講演スケジュール表をすみずみまでみていたわけではなかった。
なんとなく眺めて、今年はこんな感じか、という程度の眺め方だったから、
各ブースの各講演はすべて一時間だと思い込んでいた。

ステラの柳沢功力氏のときも三時すこしすぎてから入った。
四時までだな、とするともうひとつどこかのブースに行けるな(最終日は五時終了)と思っていた。

次々にアナログディスクをかけられる。
テンポもいい。
ふと時計をみると四時近くになっていた。
そろそろかなと思っていても、少しも終る気配が感じられなかった。

四時をまわってもまったく時間を気にすることなく進んでいく。
もしかすると、二時間なのか、とやっと気がついた。
つまりステラのブースに最後までいると、終了の時間になってしまう。
他のブースにはもういけない。

しかもずっと立ちっぱなし。
人も多い。

それでも結局最後までいたのは、くり返すが、柳沢氏のオーディオの楽しみ方が伝わってきたのが大きい。
柳沢氏との対比で書いた人のブースには、がまんにがまんを重ねても、30分はいられなかった。
会場に着いてからそれほど時間は経っていなかったから、
別にしんどかったわけでもない。
それでも、もうこれ以上、ここにいたくないとおもい、ブースの外に出た。

各ブースのメーカー、輸入商社の人たちは、
講演を依頼する人をどうやって決めているのだろうか。

なぜ、この人にしたんだろう? そうおもってしまうことが今年に限らず必ずある。

Date: 11月 7th, 2013
Cate: アナログディスク再生, ショウ雑感

2013年ショウ雑感(アナログディスク再生・その4)

スクラッチノイズの出方で、今回のインターナショナルオーディオショウで印象に残っているのは、
タイムロードのブースに鳴っていた、いわゆるレーザーターンテーブルである。

カートリッジという機械式のピックアップではなく、
レーザー光を使った、非接触型のピックアップによるアナログディスク再生を可能にした、
エルプのプレーヤーのことだ。

ちょうどタイムロードのブースにはいったときに、
エルプのレーザーターンテーブルによる音出しだった。
入った瞬間、不思議な質感の音だな、と思って正面をみれば、
アナログディスクのジャケットが、いまかけているディスクとして置いてあった。

しかもスクラッチノイズの出方も、聴きなれた感じとは違う。
どのアナログプレーヤーが鳴っているのか確認してみれば、エルプのレーザーターンテーブルだった。

ダイアモンドの針先が音溝と接触している、これまでのカートリッジによる再生と、
光学式では、トーンアームの振動の問題も含めて、
アナログディスク再生といても、条件はそうとうに異る面・要素をもつ。

そのためなのかどうかは、タイムロードでの短い時間で聴いただけでははっきりしたことはいえないのだが、
それでもノイズが皆無なのではなく、その出方が、これまでとははっきりと違っている。

これだけノイズの出方が違っているということは、
音に関してもそうとうに違う質感で鳴ってきても不思議ではない。

ここでも比較対象となるアナログプレーヤーの音が聴けなかったので、
これ以上音について触れるのはやめておくが、
アナログディスクの音について考えていく上で、決して無視できない存在である。

Date: 11月 7th, 2013
Cate: アナログディスク再生

アナログディスクならではの音(その3)

フィードバックといっても、
位相が逆相であればいわゆるアンプでいうところのネガティヴフィードバック(NFB)に、
同相であればポジティヴフィードバック(PFB)ということになる。
同相か逆相、位相関係がはっきりとこのふたつにわかれるのであればことは簡単なのだが、
実際にはそうはいかずさまざまな位相関係が生じている、とみるべきである。

空気中を伝搬してくる振動に関してはスピーカーからの直接音もあれば、
床や壁に反射(一度の反射もあれば二度三度の反射もある)した音もある。
つまりそれらの位相は互いに干渉しあって複雑なものとなっていることだろう。

床を伝わってくる振動に関しても最短距離で伝わってくる新道もあれば、
そうでない振動もある。
それにプレーヤーはたいていなにがしかの台に置かれていて、
その台を伝わって振動はアナログプレーヤーに到達してくる。

アナログプレーヤーが受けている振動の実際を正確に把握することは無理であろう、
と思えるくらい、外部からの振動の絡みあいにさらされている。

床からの振動は台の重量、材質、構造、設置場所などによってある程度コントロールすることはできる。
それでもある程度である。
それにプレーヤーにもサスペンション機構が備わっている。
これがきちんとしたものであれば、使い手の工夫次第であるところまでは抑えられよう。

けれど空気中を伝わってくる音という振動に関しては、
その影響を逃れるには(小さくするには)、音量を下げるくらいしか手はない。

このことを徹底すれば、
スピーカーから音を出さずにヘッドフォンで聴けばいい、ということになる。

Date: 11月 7th, 2013
Cate: ショウ雑感

2013年ショウ雑感(その9)

今回は会場にいた時間はそれほどながくはなかったので、
聴きたいブースの音のためには、時間に余裕がある時ならば、
あまり関心の持てない人の話をきかずにすむのだが、今回はそうはいかなかった。

そのブースを音を聴くには、オーディオ評論家と呼ばれている人の時間帯にあたってしまった。
それでも、どういう話を、どういう話し方でする人なのだろう、という関心はあった。

話が始まった。
五分もきいていたら、いいかげん音を聴かせて欲しい、と思っていた。
でも話は続く。
しびれがきれる寸前で、やっと音を鳴らすことになったのだが、
ここでもまた少し話があって、それこそ、やっと音が鳴った。

一曲終り、また話が始まる。
そして二曲目、話、三曲目……。

話と音楽が交互にくるのは、どの人でも同じである。
同じであるからこそ、話の内容、かける音楽の違いが、より鮮明になってくる。

今回のショウで最終日の最後にステラのブースで柳沢功力氏によるテクダスのAir Force Oneをきいていた。
きいていて、上に書いた人とは正反対で、こちらがしびれをきらすようなことはほとんどなかった。
話もきいていて面白い。
話の内容すべてに同意できるわけではないし、疑問があるところもないわけではないけれど、
それでも、柳沢氏の話をきいていて感じていたことは、
話の巧拙ではなく、ああ、この人はプライベートでは、こういうオーディオの楽しみ方をしているんだ、
そういうことが話をきいて想像できるから、おもしろかったし、退屈することがなかった。

そこで感じられた楽しみ方が、自分の楽しみ方と完全に一致する必要はない。
とにかく、その人がどういう楽しみ方、オーディオと音楽との接し方をしているのかが、
きちんと伝わってくれば、話をしている人と私とのあいだに、いろいろな違いがあっても、
そんなことは問題にはならない。

上に書いた人の場合、私にはその人のオーディオの楽しみ方が伝わってこなかった。
話をきいていて、この人は、オーディオで音楽を聴くことを楽しんでいるのだろうか……、とさえ思っていた。

Date: 11月 6th, 2013
Cate: アナログディスク再生

アナログディスク再生に必要なこと

[残心]
①不満や未練が残ること。未練。
②武道における心構え。一つの動作が終わってもなお緊張を解かないこと。剣道では打ち込んだあとの相手の反撃にそなえる心の構え、弓道では矢を射たあとその到達点を見極める心の構えをいう。

辞書(大辞林)には、残心について、こう書いてある。

アナログディスク再生に必要なことはいくつもある。
それらひとつひとつをここでは書かない。

オーディオ機器は音楽が鳴っている時、
つまりオーディオ機器が本来の動作をしているときには、聴き手の手からはなれている。
アナログディスクをかけるときもそうだ。

アナログディスクの上に針先を注意深く降ろしたら、
あとはボリュウムを上げるだけ、である。

だからこそ、この残心が求められる、と私は思っている。
ここでの残心は①の意味ではなく、②の意味であり、
その②の意味でも弓道の矢を射たあとの心構えが、
アナログディスクでの残心に近い。

Date: 11月 5th, 2013
Cate: アナログディスク再生

アナログディスクならではの音(その2)

スピーカーシステムとアナログプレーヤーは同一空間に置かれる。
このことがアナログディスクならではの音と深く関係しているのではないか。

少なくとも私は、音響的・振動的に完全に隔離された別々の部屋に、
それぞれスピーカーシステムとアナログプレーヤーを設置した音は聴いたことがない。
このときの音が、同一空間にスピーカーシステムとアナログプレーヤーを設置した音と共通する、
もしくは同じといえる音であるならば、このことは見当外れということになる。

少なくとも同一空間にスピーカーシステムとアナログプレーヤーがあった場合、
スピーカーシステムから空気を伝わってくる音という振動、
床や壁を伝わってくる振動が、アナログプレーヤーを揺さぶっている。

音が空気中を伝わる速度は約340m/secであるから、
スピーカーシステムとアナログプレーヤーとの距離が3.4mならば、
カートリッジが音溝をトレースして、その信号がスピーカーから出てから1/100秒後にはカートリッジを含めて、
アナログプレーヤー全体を揺さぶっている。

それとは別にスピーカーシステムが空気中に浮んでいないかぎり、
スピーカーユニットからの振動はエンクロージュアを伝わり、床を動かす。床からの振動は壁にも伝わる。
空気中を伝わる速度よりも、固体を伝わる速度のほうが速いから、
床を伝わってくる振動は音として伝わってくる振動よりも速くアナログプレーヤーを揺さぶっている。

これらは、いわゆる振動のフィードバックである。

Date: 11月 5th, 2013
Cate: アナログディスク再生

アナログディスクならではの音(その1)

世の中にはいろいろな方式がある。
入力機器となるアナログプレーヤー、CDプレーヤー、チューナー、テープデッキなど、
それぞれの方式の中で機器による音の違いがあるから、
たとえばアナログディスクならではの音、テープ特有の音ということを、
他の要素から切り離してどれだけ正確に認識できるかというと、あやしいところではなる。

けれどもオーディオも長年やっていて、それぞれの方式の、さまざまな音を聴いていると、
なんとなくではあっても、やはり方式固有の音が存在する、という感じが濃くなってくる。

アナログディスクにも、アナログディスク固有、アナログディスクならではの音がある。
それはテープからは出てこない音だし、CDから聴くことはできない。
その逆もまたいえることである。

もうこれは感覚論であって、技術的な裏付けはほんとうにてきるのだろうか、と思う。
それぞれの方式に固有の音があるのならば、それはその技術と密接に関係しての結果であり、
その技術とは科学の裏付けがあってのものだから、本来ならば技術的に説明できることのはず──、
そうなのだろうが、そういうことはメーカーの技術者、研究者におまかせしよう。

われわれ聴き手は、感覚的であっていい。
感覚的であることが嫌な人は、徹底的に究明するか、方式固有の音なんて存在しない、と否定すればいい。

アナログディスクならではの音は、いったいどういうことが関係しているのであろうか。

Date: 11月 5th, 2013
Cate: 3D Printing

アナログディスクと3D Printing(その4)

DMMのように工程を省略するのであれば、
3D Printingによってスタンパーをつくり出す、ということも考えられる。
そうすればアナログディスクの量産にも問題はない。

だが私はおもうに、アナログディスクの音の魅力というのは、
やはりカッティングヘッドによって、
電気信号が機械的振動に変換されて溝が刻まれていくことにある、と。

これになんの根拠もない。
しかもラッカー盤というやわらかいものをカッティングするのと、
銅円盤という、金属としてはやわらかい銅とはいえ、ラッカーに比べれば硬い。
そういう硬いものをカッティングするのとでは、音に違いが出て当然である。

工程が省けるかどうかによる音の違いもあるから、
通常のスタンパーの製造過程とDMMによる製造過程の音の違いは論じにくい、ともいえる。

私がいま夢想しているのは、
これまで通りラッカー盤をカッティングする。
そのラッカーマスターを光学的にスキャンして得られたデータを、
3D Printingによってスタンパーとして出力する、ということだ。

これはもう夢物語ではない。
現実につくりあげる技術は揃っている。
あとは、それらの技術をどう構築していくか、である。

Date: 11月 5th, 2013
Cate: 3D Printing

アナログディスクと3D Printing(その3)

メタルマザーができた時点で検聴が行われる。
それまでの工程でミスがなかったどうかの確認のためである。

異常がなければメタルマザーにニッケルメッキを施しスタンパーをつくる。
これがアナログディスクのプレスにつかわれるスタンパーとなり、
ひとつのメタルマザーから複数枚のスタンパーがつくられる。

これがスタンパー工程である。

メタルマスターもスタンパーとして使用できるのだが、
メタルマスターをスタンパーとして使ってしまうと、
一枚のラッカーマスターから一枚のメタルマスターしかつくれないわけで、
つまりは一枚のラッカーマスターからは一枚のスタンパーしからつくれないことになり、
量産向きとはいえなくなる。

だからマザー工程を経てスタンパーをつくる。

ラッカーマスター、メタルマスター、メタルマザー、スタンパーというふうにつくられていくわけで、
ラッカーマスターの溝を忠実に反転したスタンパーをつくろうとしているわけだが、
これだけの工程を経ていると、どれだけラッカーマスターに忠実なのかは正直なんともいえない。

ならば少しでも工程を省いてしまえば、ずっとラッカーマスターの溝に忠実になるはず。
そういう発想から誕生したのが、テルデックが1982年ごろに開発したDMM(Direct Metal Mastering)である。

DMMは銅円盤に、高周波バイアスをあたえて直接カッティングする。
それによりメタルマザーがカッティング工程だけでできあがる。

Date: 11月 5th, 2013
Cate: 3D Printing

アナログディスクと3D Printing(その2)

スタンパーとはラッカー盤に刻まれた溝をそのまま反転して突出したものである。
アナログディスクに刻まれている溝を音溝というならば、スタンパーのは音山とでもいおうか。

しかもプレスに使うものだからスタンパーは硬いものでなければならない。
そのスタンパーをカッティングしたラッカー盤(ラッカーマスター)から直接つくれればそれにこしたことはない。

けれどそうもいかなくて、まずラッカーマスターの表面にごく薄い硝酸銀の膜を吹きつける。
こうすることで電気の不良導体であるラッカーマスターが電導体となる。
この処理のことを、銀鏡処理という。
つまりメッキするための下準備である。

銀鏡処理がすんだラッカーマスターにニッケルメッキを行う。
始めは電流を少なくして、ある程度ニッケル層ができ上がってきてからは電流を増していき、
ニッケル層を十分な厚みまで増していき、ラッカーマスターから剥離する。
これで厚さ約0.3mmのニッケル盤ができ上がる。

このニッケル盤のことをメタルマスターと呼び、
ここまでの工程がマスター工程となる。

ラッカーマスターからメタルマスターを剥離する時に、
ラッカーマスターに吹きつけた銀はメタルマスター(ニッケル)側にすべてついてくる。

つまりラッカーマスターの音溝をもっとも忠実に転写しているのは、この銀の部分ということになる。
この銀膜は厚さ約0.08ミクロンから0.1ミクロンほどの薄さだ。

このメタルマスターにさらにニッケルメッキを施す。
それを剥離したものがメタルマザーと呼ばれるもので、
ラッカーマスターから転写を二回行っているから、メタルマザーはラッカーマスターと同じ溝のディスクであり、
もちろん、このメタルマザーはラッカーマスターと同じように再生することができる。

とはいえメタルマザーなので(材質の違いにより)、ラッカーマスターとは異る音だという。
しかもニッケルは磁性体なので、マグネットが強力なMC型カートリッジは引きつけられるため、
メタルマザーの検聴には向かない。

メタルマスターからメタルマザーをつくる過程を、マザー工程と呼ぶ。

Date: 11月 5th, 2013
Cate: 3D Printing

アナログディスクと3D Printing(その1)

3Dプリンターでアナログディスクを出力する──、
こんなことを試した人がいることを約一年前に紹介している。
Digital Integration(デジタル/アナログ変換・その2)をお読みいただきたい。

こういう発想は思いつかなかった。
アナログディスクの製造方法として少量生産ならばおもしろいだろうが、
あるまとまった数になると効率がいいとはいえない。
やはり、従来と同じようにプレスしていくのが効率的である。

プレスしていくためにはスタンパーが必要になり、
そのスタンパーをつくる工程としては、まずカッティングがある。

カッティングマシンによりラッカー盤への切削である。

ラッカー盤とは平坦なアルミ盤(厚さ約0.95mm)の両面に、
硝化綿(ニトロセルロース、別名ラッカー)をコーティングしたもの。
ラッカーのコーティング層の厚みは約0.185mm。

ラッカー盤の製造会社は、アナログディスク全盛時代には海外に三社あった。
ラッカー盤以前はロウ盤が使われていた。

ロウ盤でもレコードの製作は可能なのだが、
テストカッティングしたロウ盤は再生することができなかった。
ラッカー盤は基本的に一回の再生には耐えられる。
もちろん一度再生したラッカー盤はそのまま廃棄される。

カッティングされたラッカー盤はいわばアナログディスクの原型でもある。
これをベースにしてスタンパーがつくられるわけなのだが、
その過程はいくつかの工程にわけられる。

Date: 11月 5th, 2013
Cate: デザイン

オーディオ・システムのデザインの中心(LINN EXAKT)

インターナショナルオーディオショウに最終日にも行ってきたのは、
VOXATIVのAmpeggio Signatureをもう一度聴きたかったのがまず第一にあり、
初日に聴き忘れていたLINNの新システムEXAKT(イグザクト)を聴いておきたかったのも理由のひとつである。

EXKATの詳細についてはLINNのサイトを参照していただくとして、
この新システムを構成するコンポーネントは一組のスピーカーシステムKLIMAX EXAKT 350と、
入力機器にあたるEXAKT DSMだけである。
コントロールアンプもパワーアンプも要らない。

パワーアンプはスピーカーエンクロージュア内にフローティングされて搭載されている。
実にシンプルな構成のシステムである。
実際にはハードディスクも必要となるが、
EXKAT DSMを含めてこれらは目につかないところに隠して置くこともできる。

そうなると聴き手の視覚にはいってくるのはスピーカーシステムのKLIMAX EXAKT 350だけとなる。
他の仕上げがあるのかどうかは知らないが、LINNのブースにあったKLIMAX EXAKT 350は黒仕上げだった。
存在を目立たせないように黒を選んだようにも思えた。

LINNはシステムを消し去りたいのかもしれない──、
そんなことも思ってしまった。

LINNのEXAKTシステムで聴き手が操作のために触れるのは、
専用アプリをインストールしたiPadになる。
そうなると専用アプリのインターフェースのデザインこそが、
EXAKTシステムのデザインの中心となるのだろうか。

この項を書き進めていくにあたり、
このことを踏まえて考え直さなければならないかもしれない──、
そんなことを考えていた。