オーディオと「ネットワーク」(その16)
ドラムスの収録を例にあげて、そこに分岐がある、と書いた。
けれど収録すべてが分岐というわけではないことも事実である。
ドラムスは「ひとつ」の楽器として見た場合にそこに分岐が生じるわけだが、
ほとんどの音楽の収録では複数の演奏者がいる。
つまりは「集中」させることも生じてくる。
2チャンネルにおいては、
必ずしも再生時の音像定位通りに収録時に演奏者がそのとおりに並んで演奏しているとは限らない。
そこでの音楽の種類や楽器編成の違いなどによってはマイクロフォンを中心に立て、
そのマイクロフォンを囲むように演奏者が位置し演奏が行われることもある。
だからといって、そうやって収録したものを再生したときに、
左右のスピーカーの中心を軸に演奏者が円をつくっているように聴こえるわけではない。
いわば、これはマイクロフォンに向って音を集めているわけだ。
ひとつひとつの音を鮮明に収録するために分岐する一方で、
音をそうやって意識して集めていくのも録音である。
オーケストラにしても小編成のものにしても、マイクロフォンをうまい位置をみつけそこに立てることで、
音を集め録音されたものを、われわれ聴き手は再生時に、それを展げていく。
録音系と再生系には、ネットワークとしてとらえたときに共通する要素がある一方で、
録音(集める)系と再生(展げる)系というところに、矛盾するようではあるが対称性を感じる。